ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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ユリウスの出発

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翌朝、私はいつもよりも早く目が覚めた。もう少し寝たい気はしたけど寝付けなくてベッドを出ると、外から人の気配がした。

足音は部屋の前を通って行く。

……今の足音、ユリウス殿下よね?確か部屋はこっちの方じゃなかったはず。この先に行くってことは、ラインハルトかな?

そっとドアを開けて外の様子を伺う。誰もいない。私はできるだけ物音を立てないようにラインハルトがいる部屋の方へ向かった。

中から微かに声が聞こえた。しかし何を話しているかは分からない。気配を消してドアに近付き、耳に魔力を集めた。

……うん?静かになったな。話終わったのかな?

なんて思っていると、急にドアが開いた。


「わぁ!」


驚いて飛び退く。ドアが内開きだったおかげで助かった。外開きだったら確実に当たっていただろう。

ほっと息をついて顔を上げると、笑顔のユリウス殿下が立っていた。えへ、と笑ってみせる。


「こんな朝早くから何をしているのかい?」

「ええ、少し早く目が覚めたので朝のお散歩を……」


まさかそれを信じるほどユリウス殿下は馬鹿じゃない。しかし殿下は「そうなんだ」と頷いた。言っても無駄だと知っているのだろう。


「殿下こそ、こんなに早い時間からフェルマー伯爵子息とお話を?」

「うん、何も話してくれなさそうだけど」


振り返ってラインハルトを見る殿下のその視線を追う。ラインハルトは目を閉じて俯いて座っていた。確かに何も話す気はなさそうだ。


「できるだけ平和に解決したいところですね」


この数年で分かったこと。ユリウス殿下はすぐに拷問しようとする。
情報が欲しい時はそれが手っ取り早いのだとか。確かに人を痛めつけるのは得意そうだ。

しかし拷問なんて聞くだけで恐ろしい。それが自分の周りで起こるなんて考えたくもない。

遠回しに拷問はしないでほしいと言う私を見て、ユリウス殿下は「分かっているよ」と笑った。


「数日留守にしてもいいかな?」

「ええ、こちらはご心配なさらずに」

「頼もしいね」


ユリウス殿下が言わなかったら私が言っていた。麻薬の存在がはっきりとした今、すぐにでも麻薬の出どころを突き止めておくべきだ。ラインハルトの住んでいる街で広まっていないかの確認も必要だ。

数日、と言ったってユリウス殿下のことだ。どうせ二、三日で戻って来るだろう。困ることはない。


「もうすぐ役人が来る。そしたら君は先に王都に帰るんだ。この件にはこれ以上首を突っ込んではいけないよ」


こういうふうに言われる時。それは決まって危険な時だ。


「いいえ、ここで殿下のお帰りを待ちますわ。殿下がそのように言われるなら尚更、役人が来たからと言って安心できませんもの」


私はもう決めたのだ。この村へ引き返したときに。選んだのだ。王都よりもこの村を。リリーよりも村人たちを。

そう思いながら握りしめた手が震えた。ユリウス殿下を見つめる。

私の恐怖を隠せているかは分からない。


「君を危険に晒したくないんだよ、エレナ」


その言葉ににっこりと笑う。


「この村の人たちを守りたいのです、殿下」


それに、


「麻薬ということは薬でしょう?それはわたくしの専門分野ですわ」


薬を作ることのできる光属性魔法。使い方によっては言葉通り、毒にも薬にもなる魔法の力。それは麻薬にも使うことができるんじゃないかと思う。


「お友達はいいの?」

「リリー様のことは心配ですわ。ですがあちらには殿下もお兄様も、魔法省のマルゴット様もついておられますもの。大丈夫ですわ」


本当に?

どこからかそう聞こえた気がした。

本当に大丈夫?何があっても対応できる?もし私が帰った時にリリーがもういなかったら?

そしたら私は誰を責める?帰らなかった自分?それとも、近くにいたのに何もできなかった人たち?

ウダウダと何かを言ってくる誰か。それは明らかに恐怖からくる幻聴だった。


「大丈夫!……ですわ」


うるさくて怖くて、つい叫んでしまった。それを誤魔化すように言葉を付け加えた。しかしそれもあまり意味をなさなかったようだ。


「……無理はしないように。僕たちは君の決めたことを尊重するよ」


ふわりと頭に手を置かれ、一瞬の後、すぐに離れた。


「じゃあ僕は行くよ。くれぐれも気を付けて」

「は、はい、いってらっしゃいませ……!」


かすかに触れた手の温かみが頭に残っているような気がする。右手でそこを意味もなく触った。

あれは私の好きなようにしろってことだよね……。

揺れかける心。ぱん、と音を立てて両手で頬を挟んだ。

私はここに残る。ユリウス殿下が帰ってくるまで。ぎゅっと胸の前で両手を組み、目を閉じた。

どうか、母子共に無事でありますように。リリーや赤ちゃんに加護を……。

すっと魔力が抜ける感覚がして、顔を上げる。気のせいだろうか。……いや、気のせいではないと思う。2人の無事を祈っただけなんだけど、もしかして魔法になったのかな?

もう何年も魔法のある生活をしているが、ぶっちゃけいまだによく分からない。意図せず魔法が発動することもしばしばある。今回もそれかもしれない。

祈りが魔法に。そしたらきっと2人守ってくれる。そうだったらいいなと思った。
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