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本当の性格
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さて、と。ユリウス殿下が帰ってくるまでにこっちもできるだけ片付けておくか。
ラインハルトの方を見ると目があった。昨日のうつろさはなくなっている。
薬は完全に抜けたのだろうか。顔つきが昨日とは随分変わっていた。
……昨日は怖かったけど、今日は気弱な目。むしろ優しそうに見える。
まあとりあえず治癒魔法でもかけておいてあげよう。薬が抜けたのなら問題はないし、体の不調があるならこれで治るだろう。
しかしユリウス殿下のあの感じを見るに、ラインハルトは何も話さなかったのだろう。ユリウス殿下が聞き出せなかったことを私が聞けるのだろうか。……まず無理だな!
色々と聞きたいことはある。だけど私は早々に諦めた。
「わたくし、エレナと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ラインハルトは何を考えているんだ、とでも言いたそうな表情で私を見て、小さな声で言った。
「……知っているのでは?」
「ええ、まあ。知ってはおりますが、あなたのことはあなたの口から聞きたいのです」
信頼関係を築きたいわけではない。ただ知りたいだけ。この人がどういう人で、どうして薬を使ったのか。
「ラインハルト・フェルマーです」
「わたくし達のことはご存じですか?」
「ユリウス・アルベルト殿下。名前だけは知ってます。あなたは……妹君ですか?」
はい?何言ってんのこの人。どう見たって似てないでしょ。それに仮にも貴族だって人が皇家の家族構成も知らないの?
「ユリウス殿下に弟はいても妹はおりません。ああ、いえ、カイ殿下の奥方は妹にあたりますね。失礼しました」
危うく間違ったことを教えそうになってしまった。だってユリウス殿下とリリーの絡みなんて全くと言っていいほど見たことがないし、兄妹って感じないんだもん。っと、そんなことはどうでもいい。
「わたくし、ユリウス殿下の妻ですの」
一応ね。書類上だけだけど。
心の中で付け加えておく。ラインハルトは驚きを隠さずに私を見た。
「夫婦に見えませんよね」
自分でも分かっている。ユリウス殿下は私のことを好いてくれているし、とても大事にしてくれている。結婚を望んだのも、殿下本人だ。……あとは私に鎖をつけたがっていた周りの保護者達。
しかし私はそうではない。結婚を決めたのだって都合がいいと思ったからで、決してユリウス殿下を愛しているとかそういうのではないのだ。好きかどうかで言えば好きだ。だけど恋人や夫婦のそれかと聞かれるとすぐに頷くことはできない。それは殿下も分かっていることで、私に夫婦らしさを求めることはない。
「わたくしも殿下のことは夫というより兄に近いものを感じますの。よくお兄様と同じような小言を言われますし」
ふふっと笑うと、ラインハルトも「そう見えます」とかすかに笑みを浮かべた。
「フェルマー伯爵子息は御兄弟はいらっしゃいますの?」
なんとなく一人っ子だろうなと思ったが、他に話題もないので聞いてみると、ラインハルトは言った。
「いいえ、兄弟も姉妹もおりません。昔から兄という存在には憧れたものです」
普通に会話が成り立つ。昨日のことがあったのでかなり身構えていたが、やはりあれは薬のせいだったのだろう。
優しい、穏やかな青年。今私の目の前に立っているのは間違いなくそんな人だった。
「お好きなものはなんですか?」
「……木や草、道端に咲く花、自然が好きです。いいえ、好きでした。最近では失ってしまったものですが」
寂しそうに笑うラインハルト。この人は絶対に悪い人ではない。嘘もついていない。確信が持てた。
その時だった。コンコン、とノックが聞こえ、「エレナいる?」とクリスの声。
「ええ」
答えるとすぐに扉が開いた。
「役人が来たよ。それから、殿下からの伝言。『ラインハルト・フェルマーには関わらないように』だって」
「ありがとう。役人さん達にはあちらをお願いしようかしら。いつまでも騎士や兵士がたくさんいたら村の人たちが怖がるもの。とりあえず引き取ってもらってちょうだい」
殿下の伝言には触れずにそう言うと、クリスは何か言いたそうな顔をしたが、「分かったよ」と頷くとすぐに扉を閉めて行った。
「申し訳ありません。お話の続きをしましょう」
「え?」
私の言葉にラインハルトは驚きの表現を浮かべた。
「え?」
私も同じ言葉を返す。何か驚くようなことがあったのだろうか。
「僕には関わらないようにって伝言なのでは……?」
「ああ、そうみたいですね。ですがわたくしはもう少しあなたとお話がしたいのです。フェルマー伯爵子息」
ユリウス殿下だって、私が本当にその言葉通りにするとは思っていないだろう。そうでなければ、直接、面と向かって言われただろうから。
ラインハルトは驚きに目をみはり、そして微笑んだ。
「ラインハルトで大丈夫です」
「はい、ではラインハルト様。あなたのことを教えてくださいませ」
ラインハルトの方を見ると目があった。昨日のうつろさはなくなっている。
薬は完全に抜けたのだろうか。顔つきが昨日とは随分変わっていた。
……昨日は怖かったけど、今日は気弱な目。むしろ優しそうに見える。
まあとりあえず治癒魔法でもかけておいてあげよう。薬が抜けたのなら問題はないし、体の不調があるならこれで治るだろう。
しかしユリウス殿下のあの感じを見るに、ラインハルトは何も話さなかったのだろう。ユリウス殿下が聞き出せなかったことを私が聞けるのだろうか。……まず無理だな!
色々と聞きたいことはある。だけど私は早々に諦めた。
「わたくし、エレナと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ラインハルトは何を考えているんだ、とでも言いたそうな表情で私を見て、小さな声で言った。
「……知っているのでは?」
「ええ、まあ。知ってはおりますが、あなたのことはあなたの口から聞きたいのです」
信頼関係を築きたいわけではない。ただ知りたいだけ。この人がどういう人で、どうして薬を使ったのか。
「ラインハルト・フェルマーです」
「わたくし達のことはご存じですか?」
「ユリウス・アルベルト殿下。名前だけは知ってます。あなたは……妹君ですか?」
はい?何言ってんのこの人。どう見たって似てないでしょ。それに仮にも貴族だって人が皇家の家族構成も知らないの?
「ユリウス殿下に弟はいても妹はおりません。ああ、いえ、カイ殿下の奥方は妹にあたりますね。失礼しました」
危うく間違ったことを教えそうになってしまった。だってユリウス殿下とリリーの絡みなんて全くと言っていいほど見たことがないし、兄妹って感じないんだもん。っと、そんなことはどうでもいい。
「わたくし、ユリウス殿下の妻ですの」
一応ね。書類上だけだけど。
心の中で付け加えておく。ラインハルトは驚きを隠さずに私を見た。
「夫婦に見えませんよね」
自分でも分かっている。ユリウス殿下は私のことを好いてくれているし、とても大事にしてくれている。結婚を望んだのも、殿下本人だ。……あとは私に鎖をつけたがっていた周りの保護者達。
しかし私はそうではない。結婚を決めたのだって都合がいいと思ったからで、決してユリウス殿下を愛しているとかそういうのではないのだ。好きかどうかで言えば好きだ。だけど恋人や夫婦のそれかと聞かれるとすぐに頷くことはできない。それは殿下も分かっていることで、私に夫婦らしさを求めることはない。
「わたくしも殿下のことは夫というより兄に近いものを感じますの。よくお兄様と同じような小言を言われますし」
ふふっと笑うと、ラインハルトも「そう見えます」とかすかに笑みを浮かべた。
「フェルマー伯爵子息は御兄弟はいらっしゃいますの?」
なんとなく一人っ子だろうなと思ったが、他に話題もないので聞いてみると、ラインハルトは言った。
「いいえ、兄弟も姉妹もおりません。昔から兄という存在には憧れたものです」
普通に会話が成り立つ。昨日のことがあったのでかなり身構えていたが、やはりあれは薬のせいだったのだろう。
優しい、穏やかな青年。今私の目の前に立っているのは間違いなくそんな人だった。
「お好きなものはなんですか?」
「……木や草、道端に咲く花、自然が好きです。いいえ、好きでした。最近では失ってしまったものですが」
寂しそうに笑うラインハルト。この人は絶対に悪い人ではない。嘘もついていない。確信が持てた。
その時だった。コンコン、とノックが聞こえ、「エレナいる?」とクリスの声。
「ええ」
答えるとすぐに扉が開いた。
「役人が来たよ。それから、殿下からの伝言。『ラインハルト・フェルマーには関わらないように』だって」
「ありがとう。役人さん達にはあちらをお願いしようかしら。いつまでも騎士や兵士がたくさんいたら村の人たちが怖がるもの。とりあえず引き取ってもらってちょうだい」
殿下の伝言には触れずにそう言うと、クリスは何か言いたそうな顔をしたが、「分かったよ」と頷くとすぐに扉を閉めて行った。
「申し訳ありません。お話の続きをしましょう」
「え?」
私の言葉にラインハルトは驚きの表現を浮かべた。
「え?」
私も同じ言葉を返す。何か驚くようなことがあったのだろうか。
「僕には関わらないようにって伝言なのでは……?」
「ああ、そうみたいですね。ですがわたくしはもう少しあなたとお話がしたいのです。フェルマー伯爵子息」
ユリウス殿下だって、私が本当にその言葉通りにするとは思っていないだろう。そうでなければ、直接、面と向かって言われただろうから。
ラインハルトは驚きに目をみはり、そして微笑んだ。
「ラインハルトで大丈夫です」
「はい、ではラインハルト様。あなたのことを教えてくださいませ」
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