ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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罪のありか

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翌日も、翌々日もユリウス殿下は戻って来なかった。そして私はと言うと、朝一でラインハルトのところへ行き、それから村の見回り。昼食を食べたらまたラインハルトの部屋だ。

とにかくラインハルトと話をしていた。理由はいくつかある。

もちろん、麻薬の出所や種類、どのような作用があるかなどを知りたいこと。

それから、思った以上にラインハルトと話をするのが楽しかったこと。

部屋から出ることのできないラインハルトは暇で仕方がないだろうから、その話し相手になってあげたこと。

一つ目が主な目的だが、早い話、私も暇だったのだ。ラインハルトは私の周りにいる誰とも違ったタイプで、とても心優しい人。話をしていると平和を感じることができた。

まあ目の前にいる穏やかな表情のこの人がたくさん人を殺したことは忘れてないけど。

四日目の朝だった。いつものように部屋へ行くと、ラインハルトはポツリと言った。


「僕はどのような罪に問われるのでしょうか?」


どのような罪?

麻薬を使い、平民を何人も殺した。それは私の元いた世界とは違い、罰せられる対象ではない。今のところ。


「……はっきり申しますと、麻薬を使用した方、民を殺害した方がなんらかの罪に問われたことはございません」


ラインハルトは表情を変えない。


「ラインハルト様が人を殺めたのは麻薬の使用によるものであって、ラインハルト様本人が悪いわけではありません」


あくまでも原因は麻薬。しかしラインハルトに罪がないかと言うとそうではないと思う。


「しかし、麻薬の使用はいけないことだと思いませんでしたか?」


私の言葉にラインハルトは静かに頷いた。


「僕は昔から気弱なんです。だから父に言われていました。貴族に向いていない、と」


なんとなく分からないこともない。領地を持つ貴族はその領民を治めないといけない。それにはある程度威厳が求められる。


「僕だって家を継ぎたいなんて思ったことはなかったし、父を見ていると自分が向いていないことも分かりました。だから別にそれについてはなんとも思わなかったんです」


ラインハルトはただ花や木を慈しんで穏やかに暮らしたかっただけだと言った。気持ちはとてもわかる。


「それでも他に跡継ぎがいないので、僕が継ぐしかない。だから父は用意したのです。服用すると性格が変わると言われている、悪夢のようなものを」


……それが麻薬。だとしたら出どころはフェルマー伯爵ってこと?


「僕は何も知りませんでした。アルノーはただの薬だと言ったのです。アルノー自身、父に言われただけだったのでしょうから、当時はそれが何か分かっていなかったのでしょう」

「アルノーとは?」

「僕の従者です。あの日も一緒にいたのですが……」


ああ、あの人か。私たちに食ってかかってきたあの人。ユリウス殿下を前にしてかなり無礼な態度だったと思う。

なんと言ったらいいのか考えていると、私が口を開く前にラインハルトは続けた。


「初めてあの薬を服用した時、僕は僕じゃなくなりました。心の底から凶暴性が湧き出てきて、我に返った時に、目の前にはいくつもの死体がありました」


私は思わず顔をしかめた。想像してしまった。最悪の気分だ。


「そして僕は再び薬を口にしました。頭の中では警鐘がなってしました。それでもその悲惨な現実から逃れたかったのです」


はあ、と息をつく。なんともいえない気持ちだ。怒りと悲しみとやるせなさ。


「よく聞いた話です。その依存性は決して逆らえるものではなく、一度使用したら最後。抜け出すことは難しいそうです」


中学生だった時から何度も何度も受けてきた薬物乱用防止教室。知識として知っているだけだけど、あの再現DVDは深く私の記憶に残っている。

それが何かも知らずに口にし、抜け出せなくなってしまったラインハルトは被害者なのかもしれない。

それでも、それでも……。


「先程、これまで同じことで罪に問われた方がいないと言いましたが、今回も同じかは分かりません。麻薬の使用はこれまでに前例がございません。陛下がなんとおっしゃるかはわたくしには分かりません」


ラインハルトが真っ直ぐ私を見る。私もその目を見返し、はっきりと言った。


「しかしわたくしは、陛下がなんとおっしゃろうと、ラインハルト様を無罪放免なんてことはいたしません。麻薬が悪いものだと知りながら、何度も何度も手を出したのはラインハルト様です。その結果、たくさんの命が失われました。あなたの弱さが、いくつもの命を奪ったのです!」


ラインハルトは一切表情を変えなかった。まるでもうすでに知っている、というように。


「わたくしはそれを許すことはできません」


最後の言葉は声が震えた。怒りと悲しみ。その両方から。


「……はい、おっしゃる通りです。僕の弱さが、僕が、何人もの命を奪いました。許しなど到底いただけるものではありません。命を賭して罪を償わせていただきます」


ラインハルトは私に向かって頭を下げた。私はそれ以上何も言えなかった。
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