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囚われたクリス
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馬小屋に行くとクルトお兄様は既にいた。
「おはようございます、エレナ様。準備は終わっております。すぐに発ちますか?」
「おはようございます、お兄様。はい、すぐに」
返事をして、宿屋の主人を見る。
「ではわたくしたちは行きます。本当は皆様に挨拶をしたかったのですが……どうぞよろしくお伝えください」
イレギュラーなことが起きすぎた。魔法が使えないなんて自分の身を守る手段もほとんどない状態。剣は使えるけど、魔力強化のない状態で、一度に相手ができるのはせいぜい二人までだ。ちょっと不安すぎる。
後ろでクリスとお兄様がこそこそと話をする気配がする。魔法が使えなくなったことを伝えてくれているのだろう。
「お世話になりました」
頭を下げて馬に乗り、私はさっさと走り出した。とても失礼な発ち方だけど、今度ちゃんと挨拶に来るから許してもらおう。
そんな風に考えて。
後ろからも蹄の音が聞こえるのを確認して、私はただ前だけを見て走った。
どれくらい走っただろうか。日がすっかり真上にきた頃だった。
「エレナ!止まって!」
急に呼ばれて反射的に馬を止める。その時だった。ドカドカとたくさんの蹄の音がして、急に囲まれた。
盗賊だろうか。身だしなみの整っていない男たち。ざっと見ても20人はいる。
男の一人が舌打ちをした。
「気付いたか。もう少し行ったら射ってやろうと思っていたのにな」
進行方向へ視線を向けると、草むらの影から何人もの男が出てくるのが見えた。皆弓持っている。
……こわ。あれ突っ込んでたら絶対射られてた。
なんて考えている場合じゃない。どうやってこの包囲網を突破するか。
「身分はそんなに高くなさそうだが、顔はまあまあだ。そこそこの値がつくぞ」
はい、盗賊じゃなくて人攫いでした。結構絶望的かもしれない。これは多分お金を出しても逃してはくれない。
心臓がバクバク言っている。やばい、人数が多すぎる。手が震え、まともに剣を振るうこともできそうにない。怖くてたまらない。
魔法が使えないだけで、途端に使い物にならなくなる自分を恨んだ。クリスが小さな声で言う。
「右側に穴を開けるから、二人はそこから逃げて」
「無理よ、逃げられない。馬だって疲れてるもの」
こんなんじゃ逃げたってすぐに追いつかれる。
「大丈夫、私が足止めするから」
「……え?」
一瞬言葉の意味が分からなかった。そうえばさっきクリスは『二人は』って言った。
「ダメよ、クリスも一緒に」
「無理だよ。全員捕まるだけだよ。今は二人が逃げて応援を呼んでくれるのが一番希望があるんだよ。大丈夫、エレナの作ってくれたお守りがいっぱいあるから」
確かにお守りはある。だけどそれは私の魔力を元に作った結界だ。私が魔法の使えない今、発動するかどうかも怪しい。
「クリス、くれぐれも無茶はしないようにしてね」
クルトお兄様の手は剣から離れている。戦う気などないようだ。
クリスをここに置いているなんて……そんなの無理だ。
「わたくしも一緒に残ります。逃げるならお兄様だけで……」
「エレナ、だめだよ」
「だめじゃないわ」
クリス一人を置いて行く方がよっぽどダメだ。そんなこと、絶対にできない!魔法さえ使えたら怖くなんてないのに……!
しかし私の意に反して魔法は全く発動する気配を見せない。
よりにもよってこんな時に……。
「エレナは行って。女の子が捕まったらどんな目に遭うか分からないから」
「それなら……!」
私の言葉を待たずに突風が吹いた。右側の男たちが風に押しのけられるようにたたらをふみ、道が空いた。
「大丈夫、私、男だから」
クリスの声が聞こえて、馬が風に押されるように走りだした。
「ちょっと、ちょっと待って!クリス!だめ!」
どんなに叫んでも手綱を引いても馬は止まらなかった。止まったのはかなり離れたところだった。
馬もパニックになっていたのかもしれない。そんな中で振り落とされなかったのは幸運だった。いや、振り落とされていた方が良かったのかもしれない。
急いで戻ろうとする私の腕をクルトお兄様が掴んだ。
「いけません、エレナ様。戻って何ができると言うのです?数が多すぎます」
「じゃあ、じゃあどうしたらいいのよ……!クリスを一人置いてきて、どうするって言うのです!?」
腹が立った。お兄様にではない。クリスを一人置いて逃げることしか出来なかった自分に。魔法がないと友達一人守れない自分に。
「とにかく王都へ。魔法の使えない私たちにできることはありません。殿下でしたらきっと助けてくれます」
涙が止まらなかった。これから王都に向かって着くのは何時間後か。その間、クリスは……。
「他に道はございません」
きっぱりと言い切られ、私は何も言わずに馬を走らせた。王都へ向かって。ユリウス殿下のもとへ。今の私には、それしかできなかったから。
「おはようございます、エレナ様。準備は終わっております。すぐに発ちますか?」
「おはようございます、お兄様。はい、すぐに」
返事をして、宿屋の主人を見る。
「ではわたくしたちは行きます。本当は皆様に挨拶をしたかったのですが……どうぞよろしくお伝えください」
イレギュラーなことが起きすぎた。魔法が使えないなんて自分の身を守る手段もほとんどない状態。剣は使えるけど、魔力強化のない状態で、一度に相手ができるのはせいぜい二人までだ。ちょっと不安すぎる。
後ろでクリスとお兄様がこそこそと話をする気配がする。魔法が使えなくなったことを伝えてくれているのだろう。
「お世話になりました」
頭を下げて馬に乗り、私はさっさと走り出した。とても失礼な発ち方だけど、今度ちゃんと挨拶に来るから許してもらおう。
そんな風に考えて。
後ろからも蹄の音が聞こえるのを確認して、私はただ前だけを見て走った。
どれくらい走っただろうか。日がすっかり真上にきた頃だった。
「エレナ!止まって!」
急に呼ばれて反射的に馬を止める。その時だった。ドカドカとたくさんの蹄の音がして、急に囲まれた。
盗賊だろうか。身だしなみの整っていない男たち。ざっと見ても20人はいる。
男の一人が舌打ちをした。
「気付いたか。もう少し行ったら射ってやろうと思っていたのにな」
進行方向へ視線を向けると、草むらの影から何人もの男が出てくるのが見えた。皆弓持っている。
……こわ。あれ突っ込んでたら絶対射られてた。
なんて考えている場合じゃない。どうやってこの包囲網を突破するか。
「身分はそんなに高くなさそうだが、顔はまあまあだ。そこそこの値がつくぞ」
はい、盗賊じゃなくて人攫いでした。結構絶望的かもしれない。これは多分お金を出しても逃してはくれない。
心臓がバクバク言っている。やばい、人数が多すぎる。手が震え、まともに剣を振るうこともできそうにない。怖くてたまらない。
魔法が使えないだけで、途端に使い物にならなくなる自分を恨んだ。クリスが小さな声で言う。
「右側に穴を開けるから、二人はそこから逃げて」
「無理よ、逃げられない。馬だって疲れてるもの」
こんなんじゃ逃げたってすぐに追いつかれる。
「大丈夫、私が足止めするから」
「……え?」
一瞬言葉の意味が分からなかった。そうえばさっきクリスは『二人は』って言った。
「ダメよ、クリスも一緒に」
「無理だよ。全員捕まるだけだよ。今は二人が逃げて応援を呼んでくれるのが一番希望があるんだよ。大丈夫、エレナの作ってくれたお守りがいっぱいあるから」
確かにお守りはある。だけどそれは私の魔力を元に作った結界だ。私が魔法の使えない今、発動するかどうかも怪しい。
「クリス、くれぐれも無茶はしないようにしてね」
クルトお兄様の手は剣から離れている。戦う気などないようだ。
クリスをここに置いているなんて……そんなの無理だ。
「わたくしも一緒に残ります。逃げるならお兄様だけで……」
「エレナ、だめだよ」
「だめじゃないわ」
クリス一人を置いて行く方がよっぽどダメだ。そんなこと、絶対にできない!魔法さえ使えたら怖くなんてないのに……!
しかし私の意に反して魔法は全く発動する気配を見せない。
よりにもよってこんな時に……。
「エレナは行って。女の子が捕まったらどんな目に遭うか分からないから」
「それなら……!」
私の言葉を待たずに突風が吹いた。右側の男たちが風に押しのけられるようにたたらをふみ、道が空いた。
「大丈夫、私、男だから」
クリスの声が聞こえて、馬が風に押されるように走りだした。
「ちょっと、ちょっと待って!クリス!だめ!」
どんなに叫んでも手綱を引いても馬は止まらなかった。止まったのはかなり離れたところだった。
馬もパニックになっていたのかもしれない。そんな中で振り落とされなかったのは幸運だった。いや、振り落とされていた方が良かったのかもしれない。
急いで戻ろうとする私の腕をクルトお兄様が掴んだ。
「いけません、エレナ様。戻って何ができると言うのです?数が多すぎます」
「じゃあ、じゃあどうしたらいいのよ……!クリスを一人置いてきて、どうするって言うのです!?」
腹が立った。お兄様にではない。クリスを一人置いて逃げることしか出来なかった自分に。魔法がないと友達一人守れない自分に。
「とにかく王都へ。魔法の使えない私たちにできることはありません。殿下でしたらきっと助けてくれます」
涙が止まらなかった。これから王都に向かって着くのは何時間後か。その間、クリスは……。
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