ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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進展?した二人

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ベッドに仰向けになる。ユリウス殿下は、ベッドの縁に腰掛けていた。少し手を伸ばせば届く距離。間違いない。世界一安全な場所だ。

殿下に作ってもらった、冷たいタオルを目にかぶせ、安心している私とは違い、隣からは深いため息が聞こえた。

側にいてくれるって言うからお願いしたんだもん。殿下が言ったんだもん。

ひんやりとしたタオルが気持ちいい。眠気は全くなかった。殿下もまだ横になっていないし、寝る気はないのだろう。


「……今日、クリスやベンドリックお兄様、ヨハン様に怒られました」


いや、怒られたって言うと語弊があるか?でもあれは確かに私を責めるような感じだった。


「結婚して六年も一緒にいてまだ何もないのか、と」


殿下は何も言わない。私は続ける。


「このままでは殿下は外で他の女の人と遊んでくるって……」


いや、もう遅いかもしれない。嫌だ。嫌だけど……。


「私、すごく嫌です。だけど、それが必要なら、どうか私の知らないところにして欲しいのです」


仕方ないことなら仕方がない。だけどそれを知りたくはない。せめて私の知らないところで、気付かないようにして欲しい。


「勝手なお願いで申し訳ないのですが……」


ベッドが揺れた。殿下が動いたのだろうか。タオルを少しずらし、殿下を見る。と、殿下の顔はすぐ近くにあった。

ちょ、ちょ、ちょ、何この体勢……!

殿下の手は私の顔の横に。上から覆いかぶさるような体勢に。その距離、わずか30センチほど。

な、なんか、怒ってる?

タオルがぽと、とベッドに落ちた。


「あの、ユリウス殿下……?」


この体勢はちょっとまずいのでは?と冷静に思う。


「……僕が、君以外の女の子を欲しがるとでも思ってるの?」


静かな、だけど怒気を含んだ声だった。えっと、地雷を踏んでしまった?


「殿方とはそのようなものなのでしょう?」


男の人と付き合ったことも、深い関係になったこともない。それでも聞いたことくらいはある。

男の人にとって恋と性欲は別物だと。好きじゃない人とも寝れる。むしろ定期的に発散しないといけないのだと。男の人とはそういうものなのだと。

正直理解はできないけど、そういうふうに言われれば、受け入れるしかない。


「誰にそんなこと聞いたの?」


誰に聞いたと言うか……なんて言ったらいいんだろう。ネットだなんて言ったって殿下には分からないだろうし。


「私のいた世界ではインターネットというものがありまして、知りたいことを入力して検索をかけると、その情報がパッと出てくるんですよ。それでたまたま目にしただけですわ」


はい、ごめんなさい、嘘つきました。漫画です。大好きなゲームの、二次創作です。それも、成人向けの。

いやでもネットっていうのは嘘じゃないもん。たまたま目にしたという点でも、まあ嘘じゃない。その情報について検索をかけたわけじゃないし。うん、私嘘ついてない。

心の中でタラタラと言い訳をして、自分を正当化する。

だってそんなこと言えるわけないし!


「……ふーん」


私が本物のエレナではないことを知っているユリウス殿下は、それについては何も突っ込んでこなかった。


「君はそれでいいの?」


いや、よくはないよ。嫌だよ。嫌だけどさ……。


「仕方のないことなのでしょう?」

「いいの?って聞いてるんだよ」

「……よくないです」


好きな人が他の人と寝るなんて嫌だよ。嫌だけど譲歩してるんだよ!もうこの話いいじゃん!終わろうよ!

ユリウス殿下が微笑んだ。少し機嫌は治ったようだ。


「君が嫌なら僕はしないよ。他の女の子になんて興味ないし」

「でも、私、何年待たせてしまうか分かりませんよ?」


もう既に六年が経っているのだ。好きだと思った今ですら、怖いし恥ずかしいし絶対に無理!って感じなのだ。


「いいよ、何年でも。一番欲しいものは手に入ったし」


一番欲しいもの?

首を傾げると、殿下は右手の人差し指で私の胸の辺りをさした。


「君の心」


一瞬ポカンとしてしまった。


「十年以上かけて手に入れたんだ。これからだって、何年でも待てるよ」


とろけるような笑みでそう言う殿下。普通に超かっこよくて、キュンキュンする。なんて可愛らしい表現ではない。心臓がギュンギュンする。

私の好きになった人はとても強くて、かっこよくて、素敵な人だ。

体が勝手に動いた。右手でユリウス殿下の首の後ろをぐいっと引き寄せる。目を閉じ、そのまま唇が触れる。

一瞬ののち、殿下が離れていく。目を開けると、そこには明らかに狼狽えている殿下の顔が。

あれ、珍しい。

殿下が体を起こし、座り直す。右手は顔を隠している。顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。


「君さぁ、人が必死に我慢してるっていうのに……誘惑するのはやめてほしいんだけど。しかもベッドの上で」


その声にいつもの余裕はなかった。

いや、あの、誘惑したつもりはないんだけど……。

殿下がずいと近づいて来る。また距離が近くなった。


「何年でも待てるって言ったの撤回してもいい?」


黒い笑顔だった。少し怒ってるような。

やばい、やらかした!それは困る!


「ご、ごめんなさいいぃぃぃ!」


ファーストキスは喜ばれるどころか、怒られて終わった。
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