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朝のひと時
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「エレナ!おはよう!」
その声で意識が浮上した。
「え、あ、あれ……ごめん!!」
バタン!とすごい音を立てて扉が閉まった。
え、なに?……今のクリスよね。なんで?
ぼーっとしたまま不思議に思う。時計はもう七時半を指していた。
朝ご飯の時間か。ああ、寝過ぎてしまった。夜寝た時間がだいぶ遅かったのだ。今日くらい許して欲しい。
もう一度寝ようと目を閉じる。どうしてクリスはあんなに焦っているようだったのか。
そして私は飛び起きた。慌ててベッドからおりて、走って扉を開けた。ユリウス殿下はくすくすと笑っていた。
「クリス……!誤解よ!」
クリスは扉から少し離れたところで頭を抱えて座り込んでいた。
「え、エレナ、ごめん。私昨日あんなに焚き付けておきながら……」
「誤解よ、大丈夫、何もないから。一緒に寝ただけだから」
クリスは焦りすぎて私の言葉など耳に入っていない様子だ。
「とりあえず部屋に戻りましょう」
焦った表情で謝るクリスの手を引いて部屋へと戻る。さすがに外では人目もあるし、私まだ寝衣だし。
「ほんとにごめん……」
「だから、大丈夫なの!何もないの!」
もう一度強く言うと、クリスはポカンとして私を見た。
「……え?」
「一緒に寝ただけ。クリスが考えてるようなことなんて何もないから!」
視線はベッドに腰掛けているユリウス殿下へ。ユリウス殿下は頷いた。
「残念ながら」
「……はあぁ!?」
クリスが驚きの声を上げて私の肩を掴んだ。
「うそでしょ!昨日あんなに言ったのに!一緒に寝ただけで何もない!?それが一番問題だよ!」
え、そんなに言われるの?
「ちゃんと同意は得たわよ」
「殿下がエレナの言うことにだめって言うわけないじゃん!なんでそんな可哀想なことするの!生殺しだよ!」
ユリウス殿下を見ると、殿下は困った顔で笑っていた。クリスは突然ハッとした表情で殿下を見た。
「殿下、健康面は大丈夫です?何か問題があるようならお医者さんに見てもらったほうがいいんじゃないですか?」
はあ?殿下の健康?そんな、私と一晩一緒に寝ただけで悪くなるわけないでしょ。いや、待って、私と一緒に寝たことのあるクリスが言うのだ。実は私すごくいびきかいてるとか!?
バッと殿下の顔を見る。しかし寝不足な感じは見当たらなかった。
「いたって正常。だけど僕は何年でも待つつもりだよ」
「ええー……」
殿下の言葉にクリスは信じられないというような顔をした。今のやり取りはちょっとよく分からなかった。
「まあ殿下がいいならいいんですけどね」
口を尖らせてそう言ったクリスは、私の方を見てそれはそれは深いため息をついた。……なんだか罪悪感。
「ああ、やっと知ったんだ」
朝ご飯を食べながら、クリスが女の子じゃないって話をする。ユリウス殿下はそう言うと、少し嬉しそうに私を見た。
「これからはどうするの?使用人交代?」
「いいえ、特に変わりなく今まで通りですわ」
納得がいがなさそうな殿下。
「男は側に置かないって約束したじゃないか」
「申し訳ありませんが、わたくしの中で、クリスはまだ女の子枠なんです」
だって私が知ったからって言って、クリスが男の人の格好をするわけではない。変に気にして気まずくもならない。
「男女関係なく、クリスはクリスなのですから」
今更着替えを見られようと、抱きつかれようとなんとも思わない。どんな話でもできる。
ずっとクリスの存在が気に入らなかった殿下としては、これを機に遠のいて欲しいのだろうけど。残念ながら、クリスは私の一番の友達だし、他に代われる人などいない。
とても不満そうな殿下に笑いかける。
「大丈夫ですわ。クリスは友達ですもの。どう頑張っても恋愛対象にはなりませんわ」
「そうですよ。私だってエレナをそう言う目で見れませんもん。問題ありません」
ユリウス殿下は何も言わないが、だめとも言わない。仕方がない。少し頑張ってみるか。
目をできるだけうるうるさせて、上目遣い。唇をキュッと結んで殿下を見る。
「だめですか?ユリウス殿下」
クリスがぶっと吹き出した。面白かったのだろう。私だって馬鹿げていると思う。でもちょっと試してみようと思ったのだ。
「……もういいよ。君の好きにしな」
「ありがとうございます!」
ぶりっ子ポーズってちゃんと効くんだ。アホらしいって一蹴されるかと思ったんだけど。でももう次は使えないだろう。別の手を考えておかないとな。
「殿下って、エレナのことになると甘いですよね」
クリスが言う。ユリウス殿下は真顔でクリスを見て言った。
「撤回して欲しいのかい?」
「いいえ、それは結構です。その甘さをほんの少しだけでもこちらにまわしていただけると嬉しいのですが」
「それは無理な話だね」
「ああ、そうですか」
そんなやり取りを眺めながら、二人って仲良いなー、と思う。六年前には考えられなかったほどだ。
クリスと殿下が話をするのボーッと見るのが好き。殿下に対してここまで遠慮なく言えるのはクリスだけだと思うし、殿下だって、他の人に言われたら絶対に怒るようなことを言われても怒らない。
もぐもぐと口を動かしながら二人を眺める。突然、殿下が私を見た。
「……数日後に、一年で魔力が最も満ちる日が来る。もう既に世界の魔力量はかなり増えているんだ」
「そういえばそろそろですね」
一年に一度、あっちの世界の愛玲奈と電話が繋がる夜がある。それがその日だ。旅に出ている間は携帯を持って行くのをすっかり忘れていたので、一度も電話はしていないが、帰ることが決まってからは月の様子を気にしている。おそらくそれは、四、五日後。
だけどそれがどうしたんだろうか。
「今は魔力が不安定になる時期なんだよ」
「ああ、なんか魔法が使いにくいなって思うことがありましたが、それなんですね」
クリスが頷く。魔法が使いにくい?そんなこと思ったことないけど。
不思議に思い首を傾げると、殿下は「僕や君にはあまり関係ないね」と笑った。それならなぜ今その話なのだろう。
「もしかすると君の魔法も、この時期が終われば元に戻るかもしれないね」
「本当ですか……!?」
なんという朗報!そういうことなら昨日教えてくれればよかったのに!
「あまり確かではないから言いたくなかったんだけど、君の心が少しでも晴れるなら、と思ってね」
私は落ち込んだ表情をしていたのだろうか。確かに心のどこかにはつっかえていたが、顔には出さないように気を付けていたはずだ。殿下にはバレバレだったのかもしれない。
「不確かだとしても希望が持てます。ありがとうございます」
確かではないと言ったが、ユリウス殿下がこうして口にすることだ。ほぼ確かだと思っても大丈夫。
意識せず、微笑みが溢れた。
その声で意識が浮上した。
「え、あ、あれ……ごめん!!」
バタン!とすごい音を立てて扉が閉まった。
え、なに?……今のクリスよね。なんで?
ぼーっとしたまま不思議に思う。時計はもう七時半を指していた。
朝ご飯の時間か。ああ、寝過ぎてしまった。夜寝た時間がだいぶ遅かったのだ。今日くらい許して欲しい。
もう一度寝ようと目を閉じる。どうしてクリスはあんなに焦っているようだったのか。
そして私は飛び起きた。慌ててベッドからおりて、走って扉を開けた。ユリウス殿下はくすくすと笑っていた。
「クリス……!誤解よ!」
クリスは扉から少し離れたところで頭を抱えて座り込んでいた。
「え、エレナ、ごめん。私昨日あんなに焚き付けておきながら……」
「誤解よ、大丈夫、何もないから。一緒に寝ただけだから」
クリスは焦りすぎて私の言葉など耳に入っていない様子だ。
「とりあえず部屋に戻りましょう」
焦った表情で謝るクリスの手を引いて部屋へと戻る。さすがに外では人目もあるし、私まだ寝衣だし。
「ほんとにごめん……」
「だから、大丈夫なの!何もないの!」
もう一度強く言うと、クリスはポカンとして私を見た。
「……え?」
「一緒に寝ただけ。クリスが考えてるようなことなんて何もないから!」
視線はベッドに腰掛けているユリウス殿下へ。ユリウス殿下は頷いた。
「残念ながら」
「……はあぁ!?」
クリスが驚きの声を上げて私の肩を掴んだ。
「うそでしょ!昨日あんなに言ったのに!一緒に寝ただけで何もない!?それが一番問題だよ!」
え、そんなに言われるの?
「ちゃんと同意は得たわよ」
「殿下がエレナの言うことにだめって言うわけないじゃん!なんでそんな可哀想なことするの!生殺しだよ!」
ユリウス殿下を見ると、殿下は困った顔で笑っていた。クリスは突然ハッとした表情で殿下を見た。
「殿下、健康面は大丈夫です?何か問題があるようならお医者さんに見てもらったほうがいいんじゃないですか?」
はあ?殿下の健康?そんな、私と一晩一緒に寝ただけで悪くなるわけないでしょ。いや、待って、私と一緒に寝たことのあるクリスが言うのだ。実は私すごくいびきかいてるとか!?
バッと殿下の顔を見る。しかし寝不足な感じは見当たらなかった。
「いたって正常。だけど僕は何年でも待つつもりだよ」
「ええー……」
殿下の言葉にクリスは信じられないというような顔をした。今のやり取りはちょっとよく分からなかった。
「まあ殿下がいいならいいんですけどね」
口を尖らせてそう言ったクリスは、私の方を見てそれはそれは深いため息をついた。……なんだか罪悪感。
「ああ、やっと知ったんだ」
朝ご飯を食べながら、クリスが女の子じゃないって話をする。ユリウス殿下はそう言うと、少し嬉しそうに私を見た。
「これからはどうするの?使用人交代?」
「いいえ、特に変わりなく今まで通りですわ」
納得がいがなさそうな殿下。
「男は側に置かないって約束したじゃないか」
「申し訳ありませんが、わたくしの中で、クリスはまだ女の子枠なんです」
だって私が知ったからって言って、クリスが男の人の格好をするわけではない。変に気にして気まずくもならない。
「男女関係なく、クリスはクリスなのですから」
今更着替えを見られようと、抱きつかれようとなんとも思わない。どんな話でもできる。
ずっとクリスの存在が気に入らなかった殿下としては、これを機に遠のいて欲しいのだろうけど。残念ながら、クリスは私の一番の友達だし、他に代われる人などいない。
とても不満そうな殿下に笑いかける。
「大丈夫ですわ。クリスは友達ですもの。どう頑張っても恋愛対象にはなりませんわ」
「そうですよ。私だってエレナをそう言う目で見れませんもん。問題ありません」
ユリウス殿下は何も言わないが、だめとも言わない。仕方がない。少し頑張ってみるか。
目をできるだけうるうるさせて、上目遣い。唇をキュッと結んで殿下を見る。
「だめですか?ユリウス殿下」
クリスがぶっと吹き出した。面白かったのだろう。私だって馬鹿げていると思う。でもちょっと試してみようと思ったのだ。
「……もういいよ。君の好きにしな」
「ありがとうございます!」
ぶりっ子ポーズってちゃんと効くんだ。アホらしいって一蹴されるかと思ったんだけど。でももう次は使えないだろう。別の手を考えておかないとな。
「殿下って、エレナのことになると甘いですよね」
クリスが言う。ユリウス殿下は真顔でクリスを見て言った。
「撤回して欲しいのかい?」
「いいえ、それは結構です。その甘さをほんの少しだけでもこちらにまわしていただけると嬉しいのですが」
「それは無理な話だね」
「ああ、そうですか」
そんなやり取りを眺めながら、二人って仲良いなー、と思う。六年前には考えられなかったほどだ。
クリスと殿下が話をするのボーッと見るのが好き。殿下に対してここまで遠慮なく言えるのはクリスだけだと思うし、殿下だって、他の人に言われたら絶対に怒るようなことを言われても怒らない。
もぐもぐと口を動かしながら二人を眺める。突然、殿下が私を見た。
「……数日後に、一年で魔力が最も満ちる日が来る。もう既に世界の魔力量はかなり増えているんだ」
「そういえばそろそろですね」
一年に一度、あっちの世界の愛玲奈と電話が繋がる夜がある。それがその日だ。旅に出ている間は携帯を持って行くのをすっかり忘れていたので、一度も電話はしていないが、帰ることが決まってからは月の様子を気にしている。おそらくそれは、四、五日後。
だけどそれがどうしたんだろうか。
「今は魔力が不安定になる時期なんだよ」
「ああ、なんか魔法が使いにくいなって思うことがありましたが、それなんですね」
クリスが頷く。魔法が使いにくい?そんなこと思ったことないけど。
不思議に思い首を傾げると、殿下は「僕や君にはあまり関係ないね」と笑った。それならなぜ今その話なのだろう。
「もしかすると君の魔法も、この時期が終われば元に戻るかもしれないね」
「本当ですか……!?」
なんという朗報!そういうことなら昨日教えてくれればよかったのに!
「あまり確かではないから言いたくなかったんだけど、君の心が少しでも晴れるなら、と思ってね」
私は落ち込んだ表情をしていたのだろうか。確かに心のどこかにはつっかえていたが、顔には出さないように気を付けていたはずだ。殿下にはバレバレだったのかもしれない。
「不確かだとしても希望が持てます。ありがとうございます」
確かではないと言ったが、ユリウス殿下がこうして口にすることだ。ほぼ確かだと思っても大丈夫。
意識せず、微笑みが溢れた。
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