ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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誰のせい?

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魔法省へと入ると、相変わらず書類やよく分からない道具が床一面に散らかっていた。適当に魔法で一箇所に集めながら奥の部屋へと進むと、そこには包帯がぐるぐる巻きになったヘンドリックお兄様がいた。

服から出ていて見えるところ全てに包帯が巻かれてある。この様子だと服の下も酷い状態だろう。

少し動くたびに顔をしかめるところを見るとかなり痛いことが分かる。あのお兄様があんな怪我を……。

ヴェルナー様は怪我の痛みなど全く気にした様子がなかったので、いまいち実感がなかった。今目の前にいるお兄様の怪我。あれを私がしたのだと思うと、申し訳なさでいっぱいになった。


「なんだ」


顔を上げて私を見たお兄様は表情を全く変えずに言った。


「用事があるなら突っ立ってないで入れ」


とぼとぼと俯いてお兄様に寄る。私は無言でその怪我を治した。傷はもうない。痛みもないだろう。だけど痛かったことは消えない。


「申し訳ありませんでした」


ポツリと言うと、お兄様は何も言わずに包帯を解き始めた。すぐに立ち去ろうかと思ったが、クリスがそこにある椅子へと腰掛けた。仕方がないので私もその隣に座る。


「お前の魔法は便利だな」


そこには深い傷があったのだろうか。お兄様が自らの腕を見てそう言った。今は傷跡すらもない。

魔法は便利。知っていた。だけど便利なだけではないのだ。それも知っていたはずなのに。


「……わたくしは使い方を誤ってしまったようですね」


やっぱりあんな薬飲むんじゃなかった。作るんじゃなかった。後悔が押し寄せてきてじわっと涙が滲んだ。


「なぜお前がそんな顔をする」


え、なんでって、だって私が皆を怪我させたんだし。


「今回の件、誰が悪かったのかと言うと、間違いなく殿下だろう?」


うん?私じゃなくて?


「実験を始めたから、でしょうか?」


確かに言い出したのは殿下だけど。お兄様は「なんだ」と眉をひそめる。


「お前、覚えてないのか?」

「ええ、薬を飲んだあたりから記憶がなくて……」


お兄様がクリスへと視線を向けた。クリスは頷く。


「余計なことは言うなって言われてます」

「そうか、私は言われていない」


当然のようにそう言ったお兄様にクリスの顔がひきつった。


「そもそも最初にけしかけたのは殿下だ」

「え?わたくしではなく?」

「まあお前もやる気ではあったようだが、正気ではあった。殿下の攻撃を受けて正気を失ったように私には見えた」


うん?なんか雲行きが変わってきたぞ?

クリスを見るとクリスは目を逸らした。


「ごめん、私は何も言えない」


しかしそれはお兄様の話を真実だと言うようなものだ。


「あの戦いを誰よりも楽しんでいたのは殿下だったな」


なんだか思った展開と違いすぎて言葉が出ない。


「ほ、ほんとですか……?」

「ああ、私の怪我も半分ほどは殿下のせいだ」


な、なんだって?クルトお兄様が言っていた私だけのせいじゃないってそういうことか……。なんか力が抜ける。

「皆を治してくれる?」と殿下の言葉を思い出す。他の人を気にかけるなんて珍しいな、と思ったのだ。あれは少なからず悪いと思っているからか。納得。


「あーあ、怒られますよ」


クリスがぼそっと言った。


「知らぬ」


なんかイライラしてるな。そりゃそうだよね。大怪我したんだもん。


「やはりわたくしの責任でもあるようですね。痛い思いをさせてしまってすみませんでした」

「何度も謝るな。それは別に大した問題ではない」


はい、すみません。でもそれなら何が気に入らないのだろうか。聞く勇気はなかった。


「それに怪我と言うなら殿下が一番重い」

「え……?」


さっき「少し」って言っていたけど。首を傾げるとお兄様は「なんだ、聞いてないのか?」と。


「本気で殺す気でお前にした攻撃を殿下が受けた。直前に割り込んできたんだ。腹に穴が空いているはずだ」


なんだって!?さっき普通の顔してたけど!?普通に歩いてどっか行ったけど!?お腹に穴が……?想像してくらっとした。


「まあ殿下のことだから大丈夫だろう。皆のところへは?」


大丈夫?いや、まあ大丈夫かもしれない。あのユリウス殿下なのだから。


「……先程ヴェルナー様とお兄様のところへ行って参りました」

「そうか。ヨハンも城のどこかにいる。魔力に余裕があるなら治してやれ」

「はい」


立ち上がると、お兄様はもう私を見ていなかった。傍の書類を真剣な表情で見ている。


「では、失礼します」

「ああ、暇があればまた来い。検証したいことがたまっている」


お兄様は書類から目を離さずそう言った。私の魔力が目的だろうけど、「また来い」と言われたことになんだか心が温かくなった。

クリスが「私は何も言ってないからね」と独り言のように言う。よほど殿下が怖いのだろう。

確かにクリスからは何も聞いていない。殿下が何かを言ったら庇ってあげよう。そう思った。
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