ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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入れ替わり

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夜中に目が覚めた。あまり動いてはユリウス殿下を起こしてしまう。殿下はいつもすぐに起きるから。もう一度目を閉じて違和感を覚えた。

なんか布団の肌触りが違う気がする……。

空気も違う。目を開けてみるが暗くて何も見えない。いや、窓の外に灯りが見えた。やっぱりおかしい。外に灯りなんてなかったはず。半身を起こしてちゃんと見る。

あの光を私は知っている。そう、あれはまるで電灯の光……。目が暗闇に少し慣れて、そして私はそこが自分の部屋ではないことに気がついた。隣に寝ているこの人は殿下じゃない。向こうにはベビーベッドのようなものも見える。

違う、これは私じゃない……!

途端、心臓が跳ねた。どうして?殿下はどこ?ここは違う。私の世界じゃない。


「殿下、ユリウス殿下……!」


小さな声でそう呼んだ時、目の前の景色が一変した。私の知っている空気。私の知っている部屋。私の知っている人。戻ってきた、と思った。

……いや、寝ぼけていた?

バクバクする心臓を押さえていると、左手が引っ張られた。私はあっという間に殿下の腕の中へ。


「どうしたの?」


どうしたのかなんて私が聞きたい。今のはなんだったのだろう。


「……いえ、なんでも」


そう言って目を閉じる。

あっちの世界、ベビーベッド、知らない男の人。あれはもしかして愛玲奈の生活なのではないか。というかそう考えるのが一番しっくりくる。

布団の感触がまだ残っている。

……寝ぼけただけだと思いたいところだけど、あまりにもリアリティがありすぎだよね。

だけどあれが本当に愛玲奈なら、あっちの世界なら、私はもう一度お母さんに会えるのだろうか。少しだけ、そう思った。


朝起きるといつもの部屋だった。ユリウス殿下が「昨夜はどうしたの?」と聞いてきた。それは私にもよく分からない。

さあ、と首を傾げる私。昨日のあれが夢じゃないなら、私と愛玲奈が入れ替わったと思うのが一番あり得る。

だけどどうして?どうやって?

その理由が全く分からないのだ。よく分からないことを言って殿下を振り回したくない。その日の夜、眠りにつく時は少し緊張していた。


そして朝、私はよく知った部屋で目を覚ました。隣にユリウス殿下はいない。どころか、誰もいない。ベビーベッドもない。それは間違いなく、私が愛玲奈として過ごしたあの部屋だった。

私の乙女ゲームコレクションはない。大好きだった転生系の漫画もない。グッズもない。それでも確信が持てた。

こっちの世界に戻ってきちゃった?……今までのが夢だったとかはないよね?枕元に手鏡が置いてあった。それを覗き込む。

私だ。成長しているけど、確かに私。

息を潜めてそっとドアを開ける。私の家。それでは昨夜のあの部屋はどこだったのだろう。いや、考えるまでもないだろう。あれが今の愛玲奈の家で、今ここにいることの方が不思議だ。

ダイニングのドアを開けると、キッチンにお母さんが立っていた。最後に私が会った日から14年。歳をとっている。


「おはよう、愛玲奈」


だけど変わらない笑顔。言葉は何も出ず、涙だけが溢れた。

お母さん……変わってない。

私を見てぎょっとするお母さんが見える。そりゃそうだ。娘がいきなり泣き出したのだ。


「ごめん、ちょっと寝ぼけてて……」


涙を拭って精一杯明るい声を出した。お母さんは「大丈夫?」と私を見る。


「朝ご飯出来てるわよ。着替えてらっしゃい」

「あ、うん」


自分がパジャマだったことを忘れていた。頷いて部屋に引き返そうとした時、誰かが洗面所の方から歩いてきた。男の人。


「おはよう」


もしかしてこれがエレナの言っていたお父さんだろうか。思わず頭を下げて横をすり抜ける。不自然だったかな、と思ったが、急にお父さんに会ったってどうしたらいいか分からない。エレナがどういう風に接していたかも分からないし。

クローゼットに掛けられている服を適当に出して着替える。数着しかないことを見ると、エレナがここに泊まっているだけだということを確信した。

ダイニングで何度も泣きそうになりながらお母さんの作った朝ご飯を食べた。お母さんは「今日の愛玲奈は変ね」と言っていた。お父さんはにこやかな笑みを浮かべて私を見るだけだった。


「ちょっと出てきますね。夕方には戻ります。夕ご飯は唐揚げが食べたいわ」


出来るだけ愛玲奈の口調を心がけようと思っても意識せず出てくるのはエレナの言葉。不思議そうな顔をするお母さんに誤魔化すように笑って家を出た。

ダメだ、怪しまれる。今更愛玲奈のふりなんて普通に無理……!でも、お母さんに会えたのは嬉しかった。さりげなく晩ごはんのリクエストまでしちゃったし。

一人でふふっと笑った時だった。


「愛玲奈」


名前を呼ばれて振り返る。そこにはお父さんが立っていた。この場合はなんと返事をしたらいいものか。「うん」は普通におかしいし、「はい」だとちょっと他人行儀。


「な、なに?」


つっかえながら返事をするとお父さんは笑った。


「君は本物の愛玲奈だね」


一瞬なんのことか分からなかった。はっとして言葉を探す。しかし何も出てこない。


「あっちの生活はどうだい?」


思い出した。

ああ、そういえばあのゲームはお父さんが作ったって言っていたな。
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