ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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誕生日の思い出

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それは今年初めての雪が降った日だった。

朝、目を開けると殿下の綺麗な顔が見えた。


「おはよう」


微笑む殿下に挨拶を返す代わりに、その腕の中に潜り込む。あたたかい。


「寒いかい?」


殿下が私の背中に手を置いた。そこから熱が広がる。少し寒いけど冬らしくていい。きっと私が「寒い」って言えば殿下はすぐに魔法で室温の調整をするだろうから。


「いいえ」


そう言って、言葉が少なかったな、と思った。殿下は気を遣ってくれたというのに。


「少し寒い方が、口実になりますから」


寒いことを口実にこうしてくっつくことができる。これも存外悪くない。殿下はふふっと笑った。そして私の頭を撫でる。


「確かにね」


最近、私たちの距離感はいい感じだと思う。部屋から出れば今まで通りだけど、部屋で二人でいる時はこうして自然と甘えることもできるようになってきたのだ。夫婦関係は良好。


「ユリウス殿下、お誕生日おめでとうございます」


今日は殿下の誕生日。ケーキを作る予定だ。殿下は「ありがとう」と柔らかな声で言った。

少しの間、殿下の腕の中に留まる。再び眠くなってきた時だった。不意に思い出した。プレゼント渡さなきゃ。


「今年のプレゼントはペンダントにしてみました」


しかもただのペンダントじゃない。トップに魔力を格納できる機能付きだ。必要な時には取り出してそれを魔法に使うことができる。魔力の多い殿下にはそう必要になることはないだろうけど、きっと緊急時に役立つ。

引き出しにしまっていた箱を魔法で取り出し、差し出すと、殿下は何かを考える様な表情で受け取った。もしかすると気に入らないのだろうか。アクセサリーは嫌だっただろうか。

殿下の顔を見つめると「嬉しいよ」と微笑んだ。それから「でも」と続ける。


「君は毎年祝ってくれるけど、僕には何がめでたいのかよく分からないんだ」


この世界に誕生日を祝う習慣はない。だからケーキもプレゼントも「おめでとう」も馴染みがないらしい。それでも私は毎年殿下に贈っている。

去年までは何も言わずに微笑んで受け取ってくれた殿下。こうして思いを言ってくれるようになったのは少し嬉しい。

殿下から離れる。私にとっては「誕生日は祝うもの」という認識なので何がめでたいか、なんてのは考えたことがない。なんと言えばいいものか……。


「……生まれた日というのはおめでたい日だと思いませんか?」

「うん、でも僕が生まれたのは今日じゃないだろう?」


それはそうだ。実際に殿下が生まれたのは35年前の今日だし……え、殿下って35歳なんだ。よく考えるとその年齢に衝撃をうけてしまった。

じっと見つめると、殿下は「なに?」と首を傾げた。とても35歳には見えない……!せいぜい20代後半だ。若すぎる。訳わかんない。

いやいやいや、そんなこと今はどうでもいいし!


「えっとですね、これは私の勝手な考えですが、『生まれてきてくれてありがとう』とか、『出会ってくれてありがとう』とか、そういった想いを『おめでとう』という言葉で伝える日なのではないかな、と……」


自分で言っててよく分からなくなってきた。それなら『おめでとう』ではなく『ありがとう』と言うべきじゃない!?ああ、ダメだ無かったことにしてもらおう。そう思って口を開くと、先に殿下が笑った。


「それは、すごくいいね」


何かが伝わったようだ。よかったよかった。


「君の世界では皆が誕生日を祝われるのかい?」

「ええ、まあ100%というわけではありませんが……」


家庭の事情はそれぞれだし。


「わたくしは毎年お誕生日パーティーをしてもらっていましたわ」

「へぇ」


興味深そうに目を細める殿下。誕生日パーティー。思い出そうとしなくても思い出す。

お母さんの唐揚げ、ハンバーグ、オムライス。それから近所のケーキ屋さんで買ったチョコケーキ。全部私の大好物。小さい時から変わらない子供のようなメニュー。毎年同じものを作ってもらっていた。

お母さんは毎年「ケーキも作れるわよ」と笑っていた。でもそれだけのメニューを作るのも大変そうなのに、ケーキまでなんて頼めなかった。その代わりにケーキは別の日に作ってくれていた。

目を閉じれば浮かぶテーブルの上のご飯。お母さんの笑顔。鼻がツーンとした。

そう話すと殿下は微笑んで私を見た。いつにも増して優しい目。


「愛されていたんだね」


はっとした。そう、愛されていた。私は愛されていた。それなのに私は何も言わずにずっとここにいる。

いつの間にか涙が溢れていた。

会いたい。お母さんに会いたい……!

やばい、と思った。突然泣き出して、また殿下に迷惑をかけてしまう。しかし涙は拭っても拭っても止まらない。

帰りたい。帰ってお母さんに「ありがとう」と「愛してる」を伝えたい。

殿下は何も言わずにそっと抱きしめてくれた。
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