ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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雪の降った日

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翌朝は外の騒がしさで目が覚めた。騒がしさと言っても、分厚い扉の向こうなので、かすかに足音が聞こえる程度なのだが、何人もの人があっちへ行ったりこっちへ行ったり。あきらかにいつもと様子が違った。

……うまくいったみたいね。


「クリス、クリス、起きて」


まだ寝ているクリスを揺さぶり起こすと、クリスはまだ眠たそうな目で私を見た。


「……なんでエレナがここにいるんだっけ?」


一緒に寝たのよ、と言おうとすると、その前にクリスの目開き、明るい表情へと変わった。


「そうだった。外はどうなってるの?」


いそいそとベッドから降りて窓へと張り付くクリス。私のやその隣に立って外を覗いた。

窓の外は真っ白だった。ちゃんと雪が積もっている。多過ぎず少なすぎず。お城の門の向こうには雪はうっすらとしかない。


「お城の周りだけに積もるようにしたのだけど、結構上手くいったようね」

「うん、いい感じだね」


時計はまだ五時。だけど今頃この部屋の外では大騒ぎだろう。


「じゃあ朝ごはんを食べて行きましょうか。服を貸してくれる?」

「うん。着替えたら厨房に行ってパンでももらおう」

「そうね」


私の仕業だと言うことは完全にバレているだろうし、部屋はもう張られていると考えられる。捕まったら面倒だ。

私が夜に部屋を出たことはユリウス殿下から皆に伝わっているかもしれない。陛下は流石に私が異性のクリスと一緒に夜を明かしたとは考えないだろうけど、ここも時間の問題だろう。

怒っている皆の顔が浮かぶ。陛下、殿下、お父様、その他貴族たち。そしてアリア。


「……正直に言うと、アリアが一番怖いのよね」


小さな声でそう言うと、クリスは神妙な顔で頷いた。



厨房でこっそり取ったパンをかじりながら、人を避けて、私たちは沢山ある裏口の一つから外に出た。まだ足あとが一つもついていない綺麗な雪が広がっている。

ここに足あとをつけるのはもったいないな。

なんて考えている私をよそに、クリスはザクザクと雪へと踏み入った。

あまりの衝撃に「はあぁぁぁ!」とよく分からない声が出た。クリスが「何?」と振り返った。

……いや、いいよ、別に。どうせ遊ぶならこの辺だろうし。

何も言わずに首を振って私も雪へと踏み入った。

お城の正面へまわると、そこはもう既に雪かきが終わっていた。綺麗に道の雪だけがなくなっている。これを手でしたとは考えにくい。それに、微かにユリウス殿下の魔力が残っている。


「ユリウス殿下がもう動いてられるわ。気を付けましょう」


クリスが頷くのを確認して、私は空を見上げた。灰色の雲が空を覆っている。雪はまだ降りそう。

同時に雪が降り始めた。魔力が減った気がするので、私がやったのだろう。しかしここまで大きな魔法となるとコントロールが難しい。降らせすぎないように気を付けないと。

あちこちから人の声が聞こえ、騎士団の人たちがパトロールをしている。こんなにも賑やかなお城は私がここへ住んでから初めてだ。

少しの間、あちこちを見て周り、異常がないかを確認した。ところどころで殿下の魔力を感じたが、道の雪が溶かされている程度で、それ以上のことはされていない。ということは、この雪全てを溶かすつもりがないのか、できないのか。

あっちからの接触もないし、まあいっか。


「じゃあ、そろそろかしらね?」


朝八時。いつもだったら皆起きて仕事を始めている頃。今日、そのいつも通りの行動をするかは分からないけど。

クリスと顔を見合わせて頷きあい、言う。


「ではわたくしは殿下とリリー様のところへ」

「じゃあ私はベアトリクス様と、あと騎士団に行って来るよ。レオンとクルト様を探してくるね」

「ええ、マクシミリアンとレオン様は殿下たちとご一緒かもしれないわ。わたくしも会ったら声をかけておくわね」

「フロレンツと兄様は魔法で呼び出して……あ、あとヘンドリック様だね」

「ヘンドリックお兄様はわたくしが。クリスはアリアを呼んでくれるかしら?」

「ええっ!?アリア呼ぶの?怒られない?」

「大丈夫よ。お願いね」


さささっと話し合い、私たちは二手に分かれた。人目も気にせずお城の中を走る。どんなにはしたないと言われようとも、今日だけは許してもらおう。

積もった雪を見て、私はすっかり童心にかえっていた。どうせ他の人たちだって雪でそれどころではない。

廊下を走っていると使用人や貴族たちの視線を感じたが気にならなかった。そんなことは後からどうにでもなる。

カイの執務室の前で止まり、ノックをする。返事があり、扉を開けるとそこにはいつも通り机について仕事をするカイの姿が。レオンとマクシミリアン、リリーもいる。


「ああ、エレナ。あの雪はどうしたんだい?」


ちらりと私を見て顔色ひとつ変えずに言ったカイに、にっこりと笑顔を向ける。


「皆さま、最近はお仕事ばかりでお疲れでしょう?本日は雪遊びなどいかがですか?」


最近のカイはいつも難しい顔をしている。忙しいのにこうして誘うのは迷惑かもしれないとは思ったが、息抜きはしなければならない。


「殿下、遊びましょう」


ポカンとして私を見る殿下に微笑む。


「16年前の、あの日のように」
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