ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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ヒカリ

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どれだけ痛みに耐えただろう。

痛みと苦しさでいっぱいの中、気絶しそうになりながらも何も考えずにお医者さんの言葉だけに従った結果、ずるんと何かが出た気配がし、猛烈な痛みが急に遠ざかった。

と思った瞬間、か細い鳴き声が聞こえた。

は、と息を吐く。か細い声はだんだんと太くなっていった。


「産まれた……?」

「お疲れ様、エレナ!」


クリスの声に、喜びよりも何よりもやっと終わった、という思いが込み上げた。

男の人は皆外に出されている中、クリスは残ってずっと手を握っていてくれた。

お医者さんが「男の子ですよ」と連れてきてくれる。

小さな小さな赤ちゃん。どんなに可愛いのだろう、と思っていたが、正直、「こんなものか」と思った。

産まれたてだから仕方がないのだろうけど、猿みたいだ。

なんて考えていると赤ちゃんはすぐにどこかへ連れて行かれた。そして私はと言うと、まだ終わっておらず、泣きそうになりながらも残りの処置を耐えた。


全てが終わり少し眠り、目が覚めるといつものベッドで、横の椅子にはユリウス様がいた。


「お疲れ様」

「……会いましたか?」


ユリウス様は「うん」と頷く。


「君に似ていた」

「そうですか」


少し残念さが声に滲んでいたかもしれない。私はユリウス様に似て欲しかったのだ。だって顔面偏差値が圧倒的に高いから。

母に似てしまったか、ごめんよ。

ここにはいない赤ちゃんに心の中で謝る。しかしユリウス様は続けた。


「可愛かったよ」


思いがけない言葉に驚くとともに胸が温かくなった。

まあ確かにエレナの顔だって普通に綺麗だ。ただ周りの人たちの顔が良すぎるだけ。ユリウス様がそう言うならいいか。


「お腹が空いただろう。何か持ってくるよ」


ユリウス様はそう言うと立ち上がり、部屋を出ていった。

何かを隠している気がする。根拠はないがそう思った。



それは数週間後のことだった。


「今日はご機嫌みたいね」


ヒカリと名付けたこの子は、猿っぽさはなくなり、とても可愛い顔を見せてくれるようになった。


「ご機嫌だねぇ、ほんとにほんとに可愛いねぇ。ねぇ、ヒカリ」


すっかりメロメロになったクリスがヒカリの顔を覗き込む。

皆の、国民の光になれるように。ヒカリのこの先がどんな人生になろうとも、道の先に光があるように。単純だけど願いは込めた名前。

この世界では珍しい響きの名前らしいが、今ではすっかり皆慣れてそう呼んでくれる。

ノックの音が響いた。乳母さんがヒカリを迎えにきたのかな、と思ったが入ってきたのはベアトリクス。

クリスとは違って用事がないと来ないベアトリクス。その表情は少し暗かった。


「エレナ様、少しお話よろしいかしら?」

「ええ、もちろん」


ヒカリが生まれた直後からベアトリクスの様子は少しおかしかった。

ベルを鳴らすとアリアが来る。ヒカリを預け、私はベアトリクスへ向き直った。


「ヒカリ様のことです」


ベアトリクスが視線だけでクリスを見た。この部屋の中は今は三人だけ。クリスにすら聞かせることを躊躇う話なのだろうか。

何も言わずに頷く。どんな話であれ、クリスに隠す必要はない。

ベアトリクスも頷いて頭を下げた。


「まずは、これまで話さなくてごめんなさい。勘違いだと思いたくて……」

「いいえ、大丈夫よ」


ベアトリクスは意を決したような強い瞳で私を見る。


「ヒカリ様は生まれた直後から魔力をお持ちです」


クリスが息を呑む気配がした。

それもそのはず。基本的に魔力というのは、魔法薬を飲まないとないはずだ。産まれた赤ちゃんが魔力を持っているはずがない。

ベアトリクスはさらに続ける。


「しかもおそらく全ての属性を持ち、既に魔法を使える状態でございます」


その『全て』には光属性も闇属性も含まれる。


「ベアトリクス様の見間違えじゃないですか?」


クリスがおろおろしながらそう言った。そんなわけがない。普通の人ならそう思うだろう。

しかしベアトリクスは首を横に振った。


「決して見間違いではありません。生まれた直後からつい今まで、その魔力が少なくなることはあれど、なくなりはしてませんもの」


ベアトリクスは唯一魔力を見ることができる。それは間違いなく事実。

クリスが私を見た。

「エレナ何かしたの?」と聞いてくる。私も首を振った。


「わたくしは何もしてないわよ。するとしたらユリウス様くらいでしょうけど……」

「確認済みです。殿下は何もされてないそうです」


ベアトリクスがすぐにそう答えた。そりゃそうだろうな、と思う。ユリウス様が隠していたこともこのことだろう。


「エレナはなんでそんなに落ち着いてるの?びっくりしないの?」


クリスの問いになんと答えようかと考えたが、いい答えは見つからなかった。
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