116 / 118
遺伝?
しおりを挟む
「……ええ、まあ、知っていたもの」
2人が驚きの表情で私を見た。ベアトリクスまでそんなに驚かなくても、と思う。
確かに私はこのことを誰にも言っていない。ユリウス様にさえ。
「子供のことよ。母であるわたくしが気が付かないわけがないでしょう?」
ベアトリクスとユリウス様。魔力に敏感な2人の様子がおかしいとなればそれ関係だとすぐに分かった。
しかし私に話す気がないのなら別にいいかとも思っていた。その時になれば話してくれるだろう、と。内緒にされて拗ねていたわけではない。決して。
「ベアトリクスはあの子の魔力が少し前から減っていることには気が付いているでしょう?」
「え?ええ……」
「あれはわたくしが薬を調合して定期的に飲ませているからよ」
妊娠中、暇さえあれば色々な本を読んだ。おかげで知識がつき、光魔法もあって大抵の薬は自分で作ることができるようになった。流石に産まれたての子供でも飲めるものを作るのは大変だったけど。
ちなみに魔力が見える薬も作れたので、自分で飲んで実際に見て確かめてもみた。ユリウス様には薬を作るのはほどほどに、と釘を刺されているので、そんな薬を作ったことは言っていない。知られたら怒られそうだから。
便利な薬だけど世に出していいものでない。
やけに静かだな、と思ったらベアトリクスとクリスは驚きに固まっていた。
そんな驚かなくても……。
「い、いつお気付きに?」
「前にあの子が一瞬だけいなくなった時より」
あの時、部屋で休んでいたら乳母が血相を変えて部屋に飛び込んできたのだ。ヒカリが急にいなくなった、と。部屋には誰も出入りしておらず、1人で動けるはずもない。それなのに少し目を離したらいなくなっていた、と。
あの時は何人もの人で必死に探していた。公にするわけにはいかないので、ひっそりと、だけど。
「あの時は結局エレナが見つけたんだよね?そういえばどこにいたのか聞いてないけど……」
そう、私が見つけた。いなくなるはずのない子供。私だって乳母に預けていても絶対に安全な部屋を使っている。魔法を何重もかけてある。信頼できない人は絶対に出入りできない。
「ヒカリは誰もいない部屋で寝ていたわ。自分のベッドで」
何度も何度も見たはずのその場所。見つかるわけがない。あの子は異空間にいたのだから。あの場にベアトリクスがいたらすぐに見つかっただろう。
「魔法を使えるはずのない赤子が、それも一般的でない魔法を使っていなくなっていた、なんて言えないわ」
二人は驚きながらも納得がいったという風に頷いていた。
「だから、あれ以降わたくしにできるだけヒカリ様のそばにいるように、とおっしゃったのですか」
「ええ、ヒカリが魔法を使ったとしても分かるでしょう?」
魔力が見えるというのは本当に便利。
「それならそうとおっしゃってくれたらよかったのに」
それはそうだ。別に話すのは良かった。それでもなぜ話さなかったのかというと……
「ユリウス様もベアトリクスもこそこそと話をしているようなのにわたくしには何も話してくれなかったじゃない。二人が話してくれるのを待っていたのよ」
重ねて言うが、決して拗ねていたわけではない。ただ少し面白くなかっただけ。
ベアトリクスは「申し訳ありません」と頭を下げた。別に責めているわけじゃない。ベアトリクスはベアトリクスなりに考えてくれていたのだろう。
ユリウス様は何を考えているのか分からないし、私が知っていたことにも気付いているかもしれないけど。
「それにしても、魔力も属性も遺伝するものじゃないんでしょう?どうしてヒカリが闇属性も光属性も持って産まれてきたのかしら?」
魔法のことに関してはいまだによく分かっていない部分も大きいと言う。それがその辺りだ。大きな魔力を持つ親から産まれてきても、ごくわずかな魔力しかなく、一切魔法が使えないと言っても過言ではない人もいれば、魔力のほとんどない親から、魔法の天才とも言われるような人が生まれることもある。
比較的多いのは母親と同じ属性を持つ、という例らしいが、何せ例外が多すぎてそれもはっきりとは言えないそうだ。
クリスが神妙な面持ちで頷いた。
「これって世に知られたら遺伝説を唱える人が増えるんじゃない?だってどう考えたってそれしかあり得ないでしょ」
確かに。光属性を持つ私と、闇属性を持つユリウス様。その間の子が両属性を持つとなれば遺伝だと考えるのが一番濃厚だ。
ベアトリクスも無言で頷いた。
考えだって仕方のないことだし、いつまでも隠しておくことはできないだろう。少なくとも陛下にくらいは報告しないといけない。
……そうなったらもう一人産んでみろとか言われそうで嫌なんだけどね。
なんて考えていると、クリスがぽん、と私の肩を叩いた。そしてにこっと笑う。
「とりあえずもう一人産んでみたらいいんじゃない?」
「嫌よ……!」
クリスが言うんかい!と思いつつも全力で拒否。いずれはまた産むかもしれないけど、当分はもういい。だって死ぬほど痛かったから。ほんとに死ぬかと思ったから。
クリスは「冗談だよ」と笑うが、絶対に冗談ではないと思う。軽い気持ちで言ったのだろう。私だって他人事だったらそう思うだろう。が、あの痛みを体験した後だったら話は別。
「……今はまだ陛下にも報告しないでおきましょう。ユリウス様と話してみるわ」
考えたって仕方のない問題を前に、二人は静かに頷いた。
2人が驚きの表情で私を見た。ベアトリクスまでそんなに驚かなくても、と思う。
確かに私はこのことを誰にも言っていない。ユリウス様にさえ。
「子供のことよ。母であるわたくしが気が付かないわけがないでしょう?」
ベアトリクスとユリウス様。魔力に敏感な2人の様子がおかしいとなればそれ関係だとすぐに分かった。
しかし私に話す気がないのなら別にいいかとも思っていた。その時になれば話してくれるだろう、と。内緒にされて拗ねていたわけではない。決して。
「ベアトリクスはあの子の魔力が少し前から減っていることには気が付いているでしょう?」
「え?ええ……」
「あれはわたくしが薬を調合して定期的に飲ませているからよ」
妊娠中、暇さえあれば色々な本を読んだ。おかげで知識がつき、光魔法もあって大抵の薬は自分で作ることができるようになった。流石に産まれたての子供でも飲めるものを作るのは大変だったけど。
ちなみに魔力が見える薬も作れたので、自分で飲んで実際に見て確かめてもみた。ユリウス様には薬を作るのはほどほどに、と釘を刺されているので、そんな薬を作ったことは言っていない。知られたら怒られそうだから。
便利な薬だけど世に出していいものでない。
やけに静かだな、と思ったらベアトリクスとクリスは驚きに固まっていた。
そんな驚かなくても……。
「い、いつお気付きに?」
「前にあの子が一瞬だけいなくなった時より」
あの時、部屋で休んでいたら乳母が血相を変えて部屋に飛び込んできたのだ。ヒカリが急にいなくなった、と。部屋には誰も出入りしておらず、1人で動けるはずもない。それなのに少し目を離したらいなくなっていた、と。
あの時は何人もの人で必死に探していた。公にするわけにはいかないので、ひっそりと、だけど。
「あの時は結局エレナが見つけたんだよね?そういえばどこにいたのか聞いてないけど……」
そう、私が見つけた。いなくなるはずのない子供。私だって乳母に預けていても絶対に安全な部屋を使っている。魔法を何重もかけてある。信頼できない人は絶対に出入りできない。
「ヒカリは誰もいない部屋で寝ていたわ。自分のベッドで」
何度も何度も見たはずのその場所。見つかるわけがない。あの子は異空間にいたのだから。あの場にベアトリクスがいたらすぐに見つかっただろう。
「魔法を使えるはずのない赤子が、それも一般的でない魔法を使っていなくなっていた、なんて言えないわ」
二人は驚きながらも納得がいったという風に頷いていた。
「だから、あれ以降わたくしにできるだけヒカリ様のそばにいるように、とおっしゃったのですか」
「ええ、ヒカリが魔法を使ったとしても分かるでしょう?」
魔力が見えるというのは本当に便利。
「それならそうとおっしゃってくれたらよかったのに」
それはそうだ。別に話すのは良かった。それでもなぜ話さなかったのかというと……
「ユリウス様もベアトリクスもこそこそと話をしているようなのにわたくしには何も話してくれなかったじゃない。二人が話してくれるのを待っていたのよ」
重ねて言うが、決して拗ねていたわけではない。ただ少し面白くなかっただけ。
ベアトリクスは「申し訳ありません」と頭を下げた。別に責めているわけじゃない。ベアトリクスはベアトリクスなりに考えてくれていたのだろう。
ユリウス様は何を考えているのか分からないし、私が知っていたことにも気付いているかもしれないけど。
「それにしても、魔力も属性も遺伝するものじゃないんでしょう?どうしてヒカリが闇属性も光属性も持って産まれてきたのかしら?」
魔法のことに関してはいまだによく分かっていない部分も大きいと言う。それがその辺りだ。大きな魔力を持つ親から産まれてきても、ごくわずかな魔力しかなく、一切魔法が使えないと言っても過言ではない人もいれば、魔力のほとんどない親から、魔法の天才とも言われるような人が生まれることもある。
比較的多いのは母親と同じ属性を持つ、という例らしいが、何せ例外が多すぎてそれもはっきりとは言えないそうだ。
クリスが神妙な面持ちで頷いた。
「これって世に知られたら遺伝説を唱える人が増えるんじゃない?だってどう考えたってそれしかあり得ないでしょ」
確かに。光属性を持つ私と、闇属性を持つユリウス様。その間の子が両属性を持つとなれば遺伝だと考えるのが一番濃厚だ。
ベアトリクスも無言で頷いた。
考えだって仕方のないことだし、いつまでも隠しておくことはできないだろう。少なくとも陛下にくらいは報告しないといけない。
……そうなったらもう一人産んでみろとか言われそうで嫌なんだけどね。
なんて考えていると、クリスがぽん、と私の肩を叩いた。そしてにこっと笑う。
「とりあえずもう一人産んでみたらいいんじゃない?」
「嫌よ……!」
クリスが言うんかい!と思いつつも全力で拒否。いずれはまた産むかもしれないけど、当分はもういい。だって死ぬほど痛かったから。ほんとに死ぬかと思ったから。
クリスは「冗談だよ」と笑うが、絶対に冗談ではないと思う。軽い気持ちで言ったのだろう。私だって他人事だったらそう思うだろう。が、あの痛みを体験した後だったら話は別。
「……今はまだ陛下にも報告しないでおきましょう。ユリウス様と話してみるわ」
考えたって仕方のない問題を前に、二人は静かに頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる