ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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ユリウス様はどう考えているのだろう。

ヒカリを抱っこして考える。光属性に闇属性。他の四属性。私とユリウス様という前例はあれど、六属性の全てを使えるのは現時点でこの子だけ。

私の光属性が世に出た時にも荒れた。

暗殺者なんて怖くない。幾重にも重ねた魔法陣がこの子を守ってくれる。怖いのは正式に殺害命令がおりること。

陛下にとっては孫だ。だけど他の貴族にとっては違う。王家の中でもイレギュラーな私とユリウス様の子供であるこの子は、ただでさえ一部の人間には疎まれていると言うのに。

どうか何事もなく平穏な生活を送って欲しい。

腕の中で眠る小さな命。なんとしてでも守り抜く覚悟は決まっている。たとえ誰を敵に回そうとも。

そう思ってふっと笑ってしまった。

この子が生まれてまだそう時間は経っていないと言うのに、もうすっかり母親になったな、と。

ガチャと部屋の扉が開いた。ノックもなしに入ってくるのは一人しかいない。そうでなかったら不審者だ。


「ちょうど良かった」


入ってきたユリウス様はヒカリを見てそう言った。どうやら私ではなくヒカリに用事だったよう。珍しい。


「どうされましたか?」


そう聞くと腕輪のようなものを差し出された。ヒカリをベッドへ置いて受け取る。よく見ると内側にいくつもの魔法陣が彫られていた。


「これはなんですか?」

「その子供の腕につけてみてくれるかい?」


ユリウス様はヒカリを名前で呼ばない。曰く、子供なんて7つになるまでは分からないものだから、と。

ヒカリの小さな小さな腕には大きすぎないか、と思いながらもはめてみると、不思議なことに腕輪はひゅっと縮んで、ぴったりサイズになった。

こんなのは物語の中でしか見たことがない。


「ま、魔法だ……」


思わずそう呟くとユリウス様は可笑しそうに笑いながら「そうだよ」と頷いた。


「ようやく完成したよ。これで魔力は完全に抑えられるはずだ」


ユリウス様がヒカリを覗き込む。

呆気に取られる私を置いて「大丈夫そうだね」と呟いた。


「……え?これ、ユリウス様が作られたのですか?」


魔力を完全に抑えるなんて聞いたことがない。見たことがあるのは魔力を吸う魔法陣だけだ。しかしあれは私も使用歴があるが、生命力まで吸われたので論外だった。


「僕とヘンドリックだよ。他に誰が作れるっていうの?」

「そ、それもそうですね」


ユリウス様とヘンドリックお兄様。最強の組み合わせ。できないことなんてないんじゃないかと思う。

納得。

しかしこの人は、人の懸念をすぐに解決する。あまりに優秀すぎて少し悔しいが、頼れる人だ。


「……ユリウス様、ヒカリが少し大きくなったらお城を出ましょうね」


突然の私の言葉にユリウス様は一瞬驚いたように私を見た。

生まれる前まではある程度育てるまではここにいようと思っていた。だけどこの子は特殊だ。


「君がそうしたいなら」


ただそれだけ。ユリウス様はそう言って頷いた。

カイの次の皇帝が誰になるかなど分からない。レイラ様かもしれないしヒカリかもしれない。それでも私はヒカリには世界を見せたい。

光属性の使い手としてこの国を支えるための現実を教えたい。それはきっと酷な道。

たくさんの人に期待され、崇められ、疎まれ、憎まれる。私がこれまでに歩いてきて、これから歩いていくのと同じ道。

まあ言うほど心配はしていない。王家に産まれた以上少なからず茨の道を歩くことにはなる。光属性は少しは救いになるだろう。……闇属性は知らないけど。

ヒカリの寝顔を見つめる。


「その子の未来が不安かい?」


ユリウス様の問いにすぐに首を横に振る。


「いいえ」


迷わない私にユリウス様はふふっと笑った。


「君の子だからね」

「ええ、わたくしとユリウス様の子です。きっと強い子になりますわ」


これから先、どんな未来が待ち受けようとも、この子は大丈夫。

無責任かもしれない。だけどそんな自信があった。

私はこの世界に来て、何もかも分からず、急に命を狙われたこともありましたが、それでも今こうしてここにいる。

まだ『人生』と言うほどの時間を歩いてはいないが、例えば今この人生が終わったとしても「いい人生だった」と言える。

それは決して私一人の力で勝ち取ったものじゃない。だから私はこの子のために全力でサポートするつもり。


「ユリウス様」


私の呼びかけにユリウス様は返事をせずにただ私を見た。

お金だとか権力だとか、そういうのではない。ただここに私がいて、大切な人がいて、穏やかな時を過ごす。


「幸せとはきっとこういうことを言うのでしょうね」


ユリウス様は「そうだね」と静かに微笑む。私は自然と笑みが溢れた。
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