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十年後
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魔法省で新しい魔法具の開発をしていると、パタパタと軽い足音が近づいて来た。
「……また来たか」
ヘンドリックお兄様がため息をついた。しかし私は知っている。決して嫌がっているわけではないこと。
「こちらはお任せくださいませ」
「お前はこっちよりもあっちをどうにかしろ」
そう文句を言いながらも私に魔法陣を手渡してくるあたり、口だけなのだと分かる。ヘンドリックお兄様は例え相手が誰でも嫌なことは嫌だとはっきり言う人だ。
「叔父様!今日も森へ行きましょう!」
明るい声が飛び込んできて、ヘンドリックお兄様はもう一つため息を落として立ち上がった。
「あ、お母様、叔父様をお借りしてもよろしいですか?」
私へと向けた声に笑いながら返す。
「駄目だと言っても連れて行ってしまうのでしょう?危ないことはしないのよ」
「はーい!」
8歳になる私の娘、アカリ。ヒカリを産んだ二年後に産まれた子だ。アカリもヒカリと同じく魔法属性はコンプリートしているが、まだその魔力は抑えてあるので使うことはできない。
まあヘンドリックお兄様がついているから大丈夫だろうけど。
アカリはなぜか私のお兄様達に懐いている。特にヘンドリックお兄様に。数日に一度はこうして強引にヘンドリックお兄様を連れ出している。
それまで魔法省に一日中篭って研究に没頭していたお兄様にとっては健康的なので私は止めない。むしろばんばん外に連れ出して太陽の光を浴びさせて欲しい。
「危ないことはしないのよ、って、エレナよく言うよね」
くすくすとクリスが笑った。
どう言う意味よ、と言いたいが、クリスの言いたいことも分からなくはないので文句は言わない。
「親としては言わないわけにはいかないのよ」
ふーん、とクリスは頷いた。十年経っても未だ女性にしか見えないクリス。その変わらなさに事情を知っている人たちは皆驚いている。
「それよりクリスは大丈夫なの?」
「何が?」
私の質問に首を傾げるクリス。
まだ気付いていないのか。先ほどからもう一つ足音が近づいて来ていることに。
「ヒカリが来るわよ」
そう言うと「ゲッ!」っと嫌そうな顔をするクリス。すぐに立ち上がり、逃げ場を探している。が、残念。もうすぐそこまで来ている。
「ねえ、いつになったら私が男だって教えるの!?」
「いいじゃない。まだ10歳よ。夢くらい見させてあげて」
「そりゃエレナはそれでいいかもしれないけど!」
なんてやり取りをしているうちに、魔法省に落ち着いた足音が入って来た。
「あああ、もう来た……!」
どこかに隠れられないかと見回すクリス。
「お疲れ、クリス。今日はいい素材を持って来たよ」
顔を出したヒカリはユリウス様譲りの爽やかな笑顔を浮かべていた。その手にはかなり強い魔獣の角が握られている。まだ血がついているところを見る限り、たった今とってきたばかりのようだ。
「いい、いらない……!血がついてるし!そんなのほしくない……!」
クリスがかなり引き気味に拒否する。受け取るのすら嫌な様子だ。顔が引き攣っている。
ヒカリは昔からクリスのことが好きなようで、しょっちゅうこうしてアピールしているが、あまりクリスの心には刺さっていないよう。
それはクリスが男性であると言うことを抜きにしてもヒカリのアピールの方法に問題があると私は思っている。
嫌がるクリスを気にすることなく「はい」と差し出しているヒカリ。どこかで育て方を間違ってしまったのだろうか。ため息が出た。
「ヒカリ、クリスは嫌がっているわよ。せめてクリスの喜ぶようなものを持って来なさい」
横からそう口を出すと、クリスはブンブンと首を縦に振り、ヒカリは手に持った角を眺め、「嬉しくないのか」と呟いた。
「じゃあこれは叔父様にでもあげよう」
そういって机の上にゴトン、とかなりゴツめの音を立てて置いた。
……確かにヘンドリックお兄様は喜ぶかもしれない。
「ご、ごめん、エレナ、私用事思い出したから……!」
そう言うとクリスは逃げるように魔法省を出て行った。残されたのは私とヒカリ。
「母上、私の気持ちはクリスには迷惑なのでしょうか?」
平然とそう聞かれ、私は言葉を失った。迷惑しているようにしか見えないが、ヒカリは違うのだろうか。
「……クリスはもう結婚しているのよ。迷惑じゃないわけないでしょう?」
「ですが叔父様とクリスはそう仲睦まじい様子ではありません」
……そういうところはよく見ているのね。
「大人には色々と事情があるのよ」
こんな言葉で誤魔化すのは良くないと思いつつも、なんと言ったらいいのか分からない。ヒカリは納得していない様子で「そうですか」と頷いた。
「……次は美味しいお菓子でも持って来ます」
「ええ、そうね。それだったらクリスもきっと喜ぶわ」
そう言うとヒカリは頭を下げて魔法省を出て行った。
少しズレた子だ。しかしまあ素直な子ではある。ユリウス様の腹黒さが受け継がれていないだけ私は嬉しい。
静かになった部屋の中で目を閉じる。
窓の外から爽やかな風が入って来て、髪が揺れた。
「休憩中かな?」
目を開けずに「ええ」と答える。
「つい先程まで子供達がいましたのよ」
「うん、見ていたよ」
見ていたなら入ってくればいいのに、と思う。目を開けるとユリウス様は微笑んだ。
「君と二人きりの時間が過ごしたくてね」
相変わらず、恥ずかしい台詞を平然と言う人だ。
「そろそろ発ちますか?」
旅に出て王都で過ごしてを繰り返している私たち。今回は結構長く滞在した。
「次は二人で出ようか」
「それは無理でしょう」
クリスには文句を言われるだろうし、クルトお兄様には怒られるだろう。それに子供達を含め、四人でどうせ後から追いかけてくる。
ああ、違うな。ヒカリはもうすぐ入学だ。次は置いて行かないといけない。
ユリウス様は「分かっているよ」と笑う。
次はどこに行こうか、と考える。まだまだ国の発展は途中だ。行きたいところや見たいものはたくさんある。
「エレナ」
「はい?」
名前を呼ばれ顔を見るとユリウス様は微笑んだ。
「愛しているよ。どこまでも一緒に行こう」
とても優しく甘い声だった。今更言われなくとも知っている。だけど私もそれに応えた。
「ええ、私も愛しています」
もうすぐ春になる。爽やかな風が二人の間を吹き抜けていった。
「……また来たか」
ヘンドリックお兄様がため息をついた。しかし私は知っている。決して嫌がっているわけではないこと。
「こちらはお任せくださいませ」
「お前はこっちよりもあっちをどうにかしろ」
そう文句を言いながらも私に魔法陣を手渡してくるあたり、口だけなのだと分かる。ヘンドリックお兄様は例え相手が誰でも嫌なことは嫌だとはっきり言う人だ。
「叔父様!今日も森へ行きましょう!」
明るい声が飛び込んできて、ヘンドリックお兄様はもう一つため息を落として立ち上がった。
「あ、お母様、叔父様をお借りしてもよろしいですか?」
私へと向けた声に笑いながら返す。
「駄目だと言っても連れて行ってしまうのでしょう?危ないことはしないのよ」
「はーい!」
8歳になる私の娘、アカリ。ヒカリを産んだ二年後に産まれた子だ。アカリもヒカリと同じく魔法属性はコンプリートしているが、まだその魔力は抑えてあるので使うことはできない。
まあヘンドリックお兄様がついているから大丈夫だろうけど。
アカリはなぜか私のお兄様達に懐いている。特にヘンドリックお兄様に。数日に一度はこうして強引にヘンドリックお兄様を連れ出している。
それまで魔法省に一日中篭って研究に没頭していたお兄様にとっては健康的なので私は止めない。むしろばんばん外に連れ出して太陽の光を浴びさせて欲しい。
「危ないことはしないのよ、って、エレナよく言うよね」
くすくすとクリスが笑った。
どう言う意味よ、と言いたいが、クリスの言いたいことも分からなくはないので文句は言わない。
「親としては言わないわけにはいかないのよ」
ふーん、とクリスは頷いた。十年経っても未だ女性にしか見えないクリス。その変わらなさに事情を知っている人たちは皆驚いている。
「それよりクリスは大丈夫なの?」
「何が?」
私の質問に首を傾げるクリス。
まだ気付いていないのか。先ほどからもう一つ足音が近づいて来ていることに。
「ヒカリが来るわよ」
そう言うと「ゲッ!」っと嫌そうな顔をするクリス。すぐに立ち上がり、逃げ場を探している。が、残念。もうすぐそこまで来ている。
「ねえ、いつになったら私が男だって教えるの!?」
「いいじゃない。まだ10歳よ。夢くらい見させてあげて」
「そりゃエレナはそれでいいかもしれないけど!」
なんてやり取りをしているうちに、魔法省に落ち着いた足音が入って来た。
「あああ、もう来た……!」
どこかに隠れられないかと見回すクリス。
「お疲れ、クリス。今日はいい素材を持って来たよ」
顔を出したヒカリはユリウス様譲りの爽やかな笑顔を浮かべていた。その手にはかなり強い魔獣の角が握られている。まだ血がついているところを見る限り、たった今とってきたばかりのようだ。
「いい、いらない……!血がついてるし!そんなのほしくない……!」
クリスがかなり引き気味に拒否する。受け取るのすら嫌な様子だ。顔が引き攣っている。
ヒカリは昔からクリスのことが好きなようで、しょっちゅうこうしてアピールしているが、あまりクリスの心には刺さっていないよう。
それはクリスが男性であると言うことを抜きにしてもヒカリのアピールの方法に問題があると私は思っている。
嫌がるクリスを気にすることなく「はい」と差し出しているヒカリ。どこかで育て方を間違ってしまったのだろうか。ため息が出た。
「ヒカリ、クリスは嫌がっているわよ。せめてクリスの喜ぶようなものを持って来なさい」
横からそう口を出すと、クリスはブンブンと首を縦に振り、ヒカリは手に持った角を眺め、「嬉しくないのか」と呟いた。
「じゃあこれは叔父様にでもあげよう」
そういって机の上にゴトン、とかなりゴツめの音を立てて置いた。
……確かにヘンドリックお兄様は喜ぶかもしれない。
「ご、ごめん、エレナ、私用事思い出したから……!」
そう言うとクリスは逃げるように魔法省を出て行った。残されたのは私とヒカリ。
「母上、私の気持ちはクリスには迷惑なのでしょうか?」
平然とそう聞かれ、私は言葉を失った。迷惑しているようにしか見えないが、ヒカリは違うのだろうか。
「……クリスはもう結婚しているのよ。迷惑じゃないわけないでしょう?」
「ですが叔父様とクリスはそう仲睦まじい様子ではありません」
……そういうところはよく見ているのね。
「大人には色々と事情があるのよ」
こんな言葉で誤魔化すのは良くないと思いつつも、なんと言ったらいいのか分からない。ヒカリは納得していない様子で「そうですか」と頷いた。
「……次は美味しいお菓子でも持って来ます」
「ええ、そうね。それだったらクリスもきっと喜ぶわ」
そう言うとヒカリは頭を下げて魔法省を出て行った。
少しズレた子だ。しかしまあ素直な子ではある。ユリウス様の腹黒さが受け継がれていないだけ私は嬉しい。
静かになった部屋の中で目を閉じる。
窓の外から爽やかな風が入って来て、髪が揺れた。
「休憩中かな?」
目を開けずに「ええ」と答える。
「つい先程まで子供達がいましたのよ」
「うん、見ていたよ」
見ていたなら入ってくればいいのに、と思う。目を開けるとユリウス様は微笑んだ。
「君と二人きりの時間が過ごしたくてね」
相変わらず、恥ずかしい台詞を平然と言う人だ。
「そろそろ発ちますか?」
旅に出て王都で過ごしてを繰り返している私たち。今回は結構長く滞在した。
「次は二人で出ようか」
「それは無理でしょう」
クリスには文句を言われるだろうし、クルトお兄様には怒られるだろう。それに子供達を含め、四人でどうせ後から追いかけてくる。
ああ、違うな。ヒカリはもうすぐ入学だ。次は置いて行かないといけない。
ユリウス様は「分かっているよ」と笑う。
次はどこに行こうか、と考える。まだまだ国の発展は途中だ。行きたいところや見たいものはたくさんある。
「エレナ」
「はい?」
名前を呼ばれ顔を見るとユリウス様は微笑んだ。
「愛しているよ。どこまでも一緒に行こう」
とても優しく甘い声だった。今更言われなくとも知っている。だけど私もそれに応えた。
「ええ、私も愛しています」
もうすぐ春になる。爽やかな風が二人の間を吹き抜けていった。
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