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第二章
変わったものと変わらないものⅢ
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「三上さん、これもお願いできる?」
定時前に上司が追加の仕事を持って来た。
これは残業確定。しかも一時間や二時間で終わるとは思えない量だ。
「はい、大丈夫です」
だけど私には都合がよかった。
仕事が忙しいと余計なことを考えなくて済む。
別に早く帰らなくてもひろ君は自分でご飯を作れるし困らない。
私は何も考えずにただキーボードを叩いた。
結局全て終わったのは八時過ぎだった。
ひろ君に今から帰ることを伝えるメッセージを送って会社を出る。
そしていつも通り駅に向かおうとした時だった。
「麗奈ちゃん」
後ろから呼び止められた。
まさかいるとは思っておらず、思わず足が止まる。
どうして、どうしてまたここにいるの?
昨日、ひろ君にちゃんと向き合うように言われて頷いたはいいものの、どうしたらいいのか全然分からない。
「麗奈ちゃん、少し話をしたいんだけど」
「私は、話すことなんてないんですが」
振り返って弘介さんの顔を見る。
五年前と変わらない。あの時よりも少し髪が長いだけ。
そう思って変わったのは私の方なのだと気が付いた。
五年前より長い髪も、少し大人っぽくなった顔も、あの頃みたいに無邪気に笑えないことも、全部変わったのは私だ。
変わったのは私だけど、変えさせたのは弘介さんだ。
八つ当たりだっていうのは分かっている。
だけど、五年経った今も私はそこまで大人になれない。そこだけは変われないまま。
「朝賀さん」
わざと距離をとって呼ぶと弘介さんは少し悲しそうな顔をした。
そんな顔しないで。悪いのは弘介さんなんだよ。
十年前も、今も、全部弘介さんのせいだ。そんな目で私を見ないでよ。
唇を噛むとまた鉄の味がした。
顔を上げて弘介さんに笑ってみせる。
今の私は弘介さんの目にはどう映っているのだろうか。
どうでもいいと思いながらも少しだけ気になった。
「あれは、夏祭りの日でしたよね」
私の言葉に弘介さんの表情が変わった。
愕然とした表情で私を見てくるその目から逃げたくて、弘介さんに背を向けて走った。
嫌だ、これ以上弘介さんといたら私は何を言ってしまうか分からない。
怒りと悲しみで私が私じゃなくなりそうだった。
人目も気にせずにとりあえず走った。
気がつけば駅とは真反対の方向に来ていた。
この辺りは初めて来た。人影は見えない。
大きな川にかかる橋の上でしゃがみこむ。
息が上がって心臓がどきどきしていた。
その時、バッグの中で携帯が震えた。画面を見てほっとする。
「もしもし」
『麗奈、今どこ?』
携帯ごしに聞こえるひろ君の声に心が落ち着きを取り戻していく。
『会社まで迎えに来たんだけど』
「今……橋の上」
立ち上がってこの橋の名前を探す。
それを告げるとひろ君は「ああ」と言った。知っていたみたいだ。
『そこで待ってて。今から行くから』
「うん」
そう頷いた時だった。
定時前に上司が追加の仕事を持って来た。
これは残業確定。しかも一時間や二時間で終わるとは思えない量だ。
「はい、大丈夫です」
だけど私には都合がよかった。
仕事が忙しいと余計なことを考えなくて済む。
別に早く帰らなくてもひろ君は自分でご飯を作れるし困らない。
私は何も考えずにただキーボードを叩いた。
結局全て終わったのは八時過ぎだった。
ひろ君に今から帰ることを伝えるメッセージを送って会社を出る。
そしていつも通り駅に向かおうとした時だった。
「麗奈ちゃん」
後ろから呼び止められた。
まさかいるとは思っておらず、思わず足が止まる。
どうして、どうしてまたここにいるの?
昨日、ひろ君にちゃんと向き合うように言われて頷いたはいいものの、どうしたらいいのか全然分からない。
「麗奈ちゃん、少し話をしたいんだけど」
「私は、話すことなんてないんですが」
振り返って弘介さんの顔を見る。
五年前と変わらない。あの時よりも少し髪が長いだけ。
そう思って変わったのは私の方なのだと気が付いた。
五年前より長い髪も、少し大人っぽくなった顔も、あの頃みたいに無邪気に笑えないことも、全部変わったのは私だ。
変わったのは私だけど、変えさせたのは弘介さんだ。
八つ当たりだっていうのは分かっている。
だけど、五年経った今も私はそこまで大人になれない。そこだけは変われないまま。
「朝賀さん」
わざと距離をとって呼ぶと弘介さんは少し悲しそうな顔をした。
そんな顔しないで。悪いのは弘介さんなんだよ。
十年前も、今も、全部弘介さんのせいだ。そんな目で私を見ないでよ。
唇を噛むとまた鉄の味がした。
顔を上げて弘介さんに笑ってみせる。
今の私は弘介さんの目にはどう映っているのだろうか。
どうでもいいと思いながらも少しだけ気になった。
「あれは、夏祭りの日でしたよね」
私の言葉に弘介さんの表情が変わった。
愕然とした表情で私を見てくるその目から逃げたくて、弘介さんに背を向けて走った。
嫌だ、これ以上弘介さんといたら私は何を言ってしまうか分からない。
怒りと悲しみで私が私じゃなくなりそうだった。
人目も気にせずにとりあえず走った。
気がつけば駅とは真反対の方向に来ていた。
この辺りは初めて来た。人影は見えない。
大きな川にかかる橋の上でしゃがみこむ。
息が上がって心臓がどきどきしていた。
その時、バッグの中で携帯が震えた。画面を見てほっとする。
「もしもし」
『麗奈、今どこ?』
携帯ごしに聞こえるひろ君の声に心が落ち着きを取り戻していく。
『会社まで迎えに来たんだけど』
「今……橋の上」
立ち上がってこの橋の名前を探す。
それを告げるとひろ君は「ああ」と言った。知っていたみたいだ。
『そこで待ってて。今から行くから』
「うん」
そう頷いた時だった。
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