あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第二章

五年前Ⅲ

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「僕は麗奈ちゃんを好きになれない」


弘介さんのその言葉は、私には「紗苗さん以外を好きになれない」と言っているように聞こえた。

嬉しかった。すごく嬉しくて頬が緩んだ。

弘介さんはまだ紗苗さんを忘れていない。紗苗さんのことが好きだ。

そう思うと本当に本当に嬉しかった。


この時私は紗苗さんの死を弘介さんのせいだと思っていたところがあった。

頭では弘介さんに責がないことを分かっていたのに、どうしても「あの時弘介さんが遅れなかったら」と思う気持ちがあったことを否定できない。

だけど弘介さんがこの先もずっと紗苗さんのことを好きでいるのなら、きっと許せるんだと思った。

だから私はわざと弘介さんのことを好きだと何度も言ったし態度にも出した。


別れの近付いたある雪の日、弘介さんは言った。


「僕が紗苗さんを殺したんだ」


そして紗苗さんのお葬式の日の話をしてくれた。

そして私が弾かせてもらっていたあのギターが紗苗さんの残したものだと知った。

知らなかった。私はそんな大事な物を弾かせてもらっていたのかと驚愕した。

だけどそういうところも弘介さんらしいなと思った。

その日、弘介さんと別れた後、一人で歩きながら紗苗さんのお葬式の日のことを思い出した。

私もあの日あの場にいて、多分弘介さんの後に紗苗さんの部屋に入った。


紗苗さんのお父さんは私になんでも持って帰っていいと言ってくれた。

弘介君はもう持って帰ったから、と。

私はこう君が持って帰ったのがなんだったのか気にしながら、机の上に一冊だけ置かれた本を何気なく手に取った。

私が紗苗さんに薦めた本だった。その本は一瞬であるページを開く。

そこに何かが挟まっていたのだ。二つ折りにされた紙を開く。

そこには紗苗さんの文字でこう君に宛てた言葉があった。

私はそれをそっと閉じると、本の間に挟み、それをもらった。

紗苗さんのお父さんに言おうかとも思ったけど、そうしたらどうせこう君の手に渡るだろう。

私はそれを自分の手でこう君に渡したかった。


今でもその手紙は本に挟まっている。

渡そうとは思っているけど渡せない。理由は私にも分からない。

先ほどまで二人でいた河原に戻ってきた。

並んだ小さな雪だるまはもう溶けかかっている。

弘介だるまと紗苗だるまが仲良く寄り添っている。

ここに私は要らない。私は麗奈だるまとあずだるまを少し離れたところに置いた。
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