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盗賊との遭遇
「あー、明日には王都に帰るのか……」
クリスは馬から下りて伸びをするととても残念そうにそう言った。ここへ来て既に一か月ほどが経っている。すっかりここの生活に慣れてしまっている。まあ王都に帰れば普通にこれまで通りの生活を送れるんだろうけど。
「ブランに乗れるのも今日が最後ね」
私がそう言いながらブランを撫でると、ブランは気持ちよさそうに目を細める。
『エレナが帰って来るのを待っているわ』
とても嬉しい言葉だ。だけどそれはもったいない。ブランにまともに乗れるようになって知ったことだけど、ブランはとても体力があり、走るスピードが速い。私は意思疎通ができるから、とブランを選んだが、それを抜きにしてもとびっきりの速さを誇る馬だ。
「いいえ、わたくしを待つ必要はないわ。他の人をその背に乗せてあげてちょうだい。わたくしは次にいつここへ来られるか分からないから」
私の言葉にブランの目が変わる。穏やかだったその目がきっと私を睨んだ。
『私はエレナしか乗せないわ。来年、絶対にここへ帰って来なさい』
お、おぉ……なんだろう、怒らせちゃったかな。でも私しか乗せないのはもったいないと思うんだけどなー。なんかえらく気に入られてしまったようだ。
「分かったわ。頑張る」
来年のことなんて分からないので約束はできない。というか今年のことも怪しいのだ。だってこの旅行で明らかに勉強量減ってるし。もしこのままどんどん授業が難しくなるなら来年は分からない。
クルトお兄様曰く、一番大変なのは二年生の授業で、コツさえ掴めば三年生以降はそんなに苦労しないとか……。まああまり信じてはいないけど。これが楽になるなんて考えられないし。
ああ、それにしても楽しい、最高の休暇だった。
なんて思っていたのが昨日。どうして私は今動かない馬車の中でじっとしているのだろう。外から聞こえる馬の蹄の音と、品のない声。怯える御者の声。それなのにケロッとしているクリス。思わずため息が出た。
こんなことになったのはたった今。王都へと帰るために馬車に揺られながら思い出に浸っていると、馬車が急停止したのだ。
「あー、盗賊かなぁ?」
なんて平気な顔でそう言うクリス。盗賊って結構大変なことじゃないの? こんな落ち着いていられるものなの? 大体私達の一行って戦力ないんだよね。騎士なんて一人も連れてきてないし。
実はフロレンツの執事さんがすっごい強いとか?
そう思ってクリスに聞くと、クリスはとても可笑しそうに笑った。
「そんなわけないじゃん。あの人は普通の執事だよ」
「じゃあこの状況どうするのよ」
思いっきりやばいじゃないか。そう思って焦ったが、クリスは私を「何を言っているんだ」と言いたげな目で見た。
え、何? ……ん? もしかして……。
「はいはい、行くよ、エレナ」
クリスはそう言うと立ち上がって馬車の扉を開けた。私が止める間もなく、「ていっ!」と飛び降りる。
「おいおいおい、なんだ嬢ちゃん?」
「俺たちにかっさらって欲しいのか?」
盗賊たちが、がはがはと下品な笑い声を立てるのが聞こえる。ため息をつかずにはいられなかった。
なんで私がこんなこと、と思うが他の馬車にはカミラもフロレンツもいるのだ。クリス一人でも平気だとは思うけど、やっぱり心配ではある。あの子ちょっと間抜けなところがあるし。
私が立ち上がって外に出ると、盗賊たちは私の姿を見てさらに笑った。
「小娘が二人出てきやがった! その身と引き換えに見逃してくださいってか!?」
「お貴族様の考えることはよく分からねえな!」
何がそんなにおかしいのか分からない。この人たちは貴族が魔法を使えることを知らないのだろうか。なんでこんなにも余裕があるのかな。なんて思ったが疑問はすぐにとけた。
「魔法って言ったってどうせほとんど使えねえんだろ。ほら、怖い目に遭いたくなかったら金を出しな。まあ嬢ちゃん達が一緒に来るって言うならそれでもいいがな」
ああ、なるほど。盗賊のリーダーのような人の言葉に納得がいった。この人たちは魔法がそこまで便利ではないことを知っていて、私たちの魔法がほとんど役に立たないと思っているのだ。
私はクリスと顔を見合わせる。
殺したくはないけど、でも今やっつけただけではまた同じようなことをするだろう。殺さずに無力化する方法。
ああ、そうだ、私試してみたいのがあったんだ。
「クリス、ちょっとしてみたいことがあるから手を出さないでいてくれるかしら?」
「はーい」
呑気にそう返事をしてクリスは、私の後ろへと下がった。できるかどうは分からない。今からしようとしているのが何属性の魔法かも分からない。でもできたらきっとかなり強力な武器になる。
盗賊たちはにやにやと笑いながら剣を抜くと、一斉に私達の方へと走り出した。
クリスは馬から下りて伸びをするととても残念そうにそう言った。ここへ来て既に一か月ほどが経っている。すっかりここの生活に慣れてしまっている。まあ王都に帰れば普通にこれまで通りの生活を送れるんだろうけど。
「ブランに乗れるのも今日が最後ね」
私がそう言いながらブランを撫でると、ブランは気持ちよさそうに目を細める。
『エレナが帰って来るのを待っているわ』
とても嬉しい言葉だ。だけどそれはもったいない。ブランにまともに乗れるようになって知ったことだけど、ブランはとても体力があり、走るスピードが速い。私は意思疎通ができるから、とブランを選んだが、それを抜きにしてもとびっきりの速さを誇る馬だ。
「いいえ、わたくしを待つ必要はないわ。他の人をその背に乗せてあげてちょうだい。わたくしは次にいつここへ来られるか分からないから」
私の言葉にブランの目が変わる。穏やかだったその目がきっと私を睨んだ。
『私はエレナしか乗せないわ。来年、絶対にここへ帰って来なさい』
お、おぉ……なんだろう、怒らせちゃったかな。でも私しか乗せないのはもったいないと思うんだけどなー。なんかえらく気に入られてしまったようだ。
「分かったわ。頑張る」
来年のことなんて分からないので約束はできない。というか今年のことも怪しいのだ。だってこの旅行で明らかに勉強量減ってるし。もしこのままどんどん授業が難しくなるなら来年は分からない。
クルトお兄様曰く、一番大変なのは二年生の授業で、コツさえ掴めば三年生以降はそんなに苦労しないとか……。まああまり信じてはいないけど。これが楽になるなんて考えられないし。
ああ、それにしても楽しい、最高の休暇だった。
なんて思っていたのが昨日。どうして私は今動かない馬車の中でじっとしているのだろう。外から聞こえる馬の蹄の音と、品のない声。怯える御者の声。それなのにケロッとしているクリス。思わずため息が出た。
こんなことになったのはたった今。王都へと帰るために馬車に揺られながら思い出に浸っていると、馬車が急停止したのだ。
「あー、盗賊かなぁ?」
なんて平気な顔でそう言うクリス。盗賊って結構大変なことじゃないの? こんな落ち着いていられるものなの? 大体私達の一行って戦力ないんだよね。騎士なんて一人も連れてきてないし。
実はフロレンツの執事さんがすっごい強いとか?
そう思ってクリスに聞くと、クリスはとても可笑しそうに笑った。
「そんなわけないじゃん。あの人は普通の執事だよ」
「じゃあこの状況どうするのよ」
思いっきりやばいじゃないか。そう思って焦ったが、クリスは私を「何を言っているんだ」と言いたげな目で見た。
え、何? ……ん? もしかして……。
「はいはい、行くよ、エレナ」
クリスはそう言うと立ち上がって馬車の扉を開けた。私が止める間もなく、「ていっ!」と飛び降りる。
「おいおいおい、なんだ嬢ちゃん?」
「俺たちにかっさらって欲しいのか?」
盗賊たちが、がはがはと下品な笑い声を立てるのが聞こえる。ため息をつかずにはいられなかった。
なんで私がこんなこと、と思うが他の馬車にはカミラもフロレンツもいるのだ。クリス一人でも平気だとは思うけど、やっぱり心配ではある。あの子ちょっと間抜けなところがあるし。
私が立ち上がって外に出ると、盗賊たちは私の姿を見てさらに笑った。
「小娘が二人出てきやがった! その身と引き換えに見逃してくださいってか!?」
「お貴族様の考えることはよく分からねえな!」
何がそんなにおかしいのか分からない。この人たちは貴族が魔法を使えることを知らないのだろうか。なんでこんなにも余裕があるのかな。なんて思ったが疑問はすぐにとけた。
「魔法って言ったってどうせほとんど使えねえんだろ。ほら、怖い目に遭いたくなかったら金を出しな。まあ嬢ちゃん達が一緒に来るって言うならそれでもいいがな」
ああ、なるほど。盗賊のリーダーのような人の言葉に納得がいった。この人たちは魔法がそこまで便利ではないことを知っていて、私たちの魔法がほとんど役に立たないと思っているのだ。
私はクリスと顔を見合わせる。
殺したくはないけど、でも今やっつけただけではまた同じようなことをするだろう。殺さずに無力化する方法。
ああ、そうだ、私試してみたいのがあったんだ。
「クリス、ちょっとしてみたいことがあるから手を出さないでいてくれるかしら?」
「はーい」
呑気にそう返事をしてクリスは、私の後ろへと下がった。できるかどうは分からない。今からしようとしているのが何属性の魔法かも分からない。でもできたらきっとかなり強力な武器になる。
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