池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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フロレンツの悩み

さて、今日は何をしようか。

静かな部屋の中で、私は一人、腕を組んだ。ここ最近では珍しく一人である。クリスはというと、叔父様と一緒に遠乗りに出かけた。初めての遠乗りに昨日から楽しみにしていたのだ。

今日は朝ごはんを食べ終わるとさっさと着替えて出て行った。私はまだ遠乗りに出るほど乗馬の腕に自信がないのでお留守番だ。

それにしても静かである。ここへ来てから、というか学校でもほとんど一緒にいたクリスがいないだけで私の周りはこんなにも静かになるのか、と感心する。と同時に少し寂しい。

アリアと一緒に町にでも行こうかな。

そう思った時、ノックの音が聞こえた。アリアだろう。ナイスタイミングだ。


「どうぞ」


私の言葉に扉が開く。入って来たのはアリアではなかった。


「エレナちゃん、今日はクリスがいないって聞いたけど、もしよかったら一緒に町に行かない?」

「あら、フロレンツ!」


フロレンツとその執事さんだった。願ってもいない申し出だ。


「ええ、ちょうどわたくしも町へ行こうかと考えていたところなの。ぜひご一緒させてちょうだい」


最近は私とクリス、フロレンツとカミラで行動することが多かった。乗馬をする組とそうでない組。年上組と年下組。だけど今日はカミラはいないのだろうか。そう考えて、昨日カミラが言っていたことを思い出した。

今日の午前中はおばあ様とお茶をするって言っていたな。なるほど、フロレンツも暇なのか。


アリアを呼んで四人で町へ行くと、町はいつも通り賑わっていた。フロレンツはその様子を見ながらゆっくりと歩く。その表情はとても穏やかで、楽しそうで、この場所を心の底から愛していることが分かる。

確かフィリップ叔父様は独身よね。子供もいないし……。


「もしかしてフィリップ叔父様の跡継ぎはフロレンツなのかしら?」


それだったらフロレンツが毎年のようにここへ来ているのも頷ける。一人で納得した私だったが、フロレンツは静かに首を横に振った。


「それはないよ。僕はうちを継がないといけないから。ここの跡継ぎはエレナちゃん達四人の誰かだよ」


ああ、そうか。フロレンツは一人っ子だった。でもうちの誰かって……。まあヘンドリックお兄様はうちを継ぐとして、クルトお兄様あたりかな。でもヘンドリックお兄様が家を継ぐなんて面倒なことをするとは思えない。逆の方がいいかも。ヘンドリックお兄様が悪いことをしない内に田舎に閉じ込めてしまった方が……。

なんてとても失礼なことを考えていると、フロレンツが言った。


「僕はできればエレナちゃんに継いで欲しいと思っているよ。エレナちゃんならきっとここをもっといい場所にできそうだから」

「買いかぶりすぎよ」


私は家を継ぐ気なんてない。例えどこの家だろうと。普通に就職して、雇われの身で生きていきたい。だってそれが一番楽しそうだし。人の為になることはしたいとは思っているけど。

この話題は止めよう。


「ところでフロレンツ、もう十歳になったんでしょう? 魔法は何属性だったの?」


まあゲームで知っているけど。来年で魔法学校に入学するフロレンツ。この春で十歳になっているはずだ。何気なく聞いたことだった。だけどフロレンツの表情が曇った。

どうしたんだろう。もしかして欲しかった属性と違ったとか? だけどどの属性でもそれなりに使い道はあるし、そこまで凹むことはないでしょ。


「僕は土属性だったよ」


フロレンツは目に見えてしょんぼりしてそう言った。土属性、いいじゃないか。何もないところから物を作り出せるあれはとても便利だ。私だって使えるものなら使いたい。だけど私が土属性を使えることを知っているのはほんの数人だから使えない。


「嫌なの?」

「土属性って地味じゃないか」


口をとがらせてそう言ったフロレンツ。年相応のその表情がとても可愛くて、私は思わず笑ってしまった。するとフロレンツは私を見てさらに口をとがらせる。


「エレナちゃんは水属性なんでしょ。地味な土属性の僕の気持ちは分からないよ」


まあ私は全部使えるけど……なんて言えない。私がなんて言おうかと考えていると、フロレンツは更に言った。


「僕は何やっても皆に追いつけないし、ずっと皆でお城で過ごしてきたのに皆学校に行って一人になっちゃうし……。エレナちゃんに僕の気持ちは分からないよ。どうせカイたちと楽しい学校生活を送ってるんでしょ」


す、拗ねてる……! 正直可愛い。なんてそんなこと口に出したら怒るだろうけど。

まあ土属性云々の前に、自分だけ年下で皆に置いていかれるのが嫌なんだろうな。それがコンプレックスで、そこに自分の望んだ属性じゃなかったことがプラスされていじけているんだろうと思う。

町の様子は相変わらずにぎやかだ。後ろへと視線を向けると執事さんが何か言いたそうな顔をしていた。おそらくフロレンツは家でも同じようなことを言っているに違いない。

私はため息を吐いて口を開いた。

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