池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
237 / 300

本題

しおりを挟む
話はもう終わりでいいんだよね?

そう思って立ち上がろうとすると、カイは私を見て言った。


「それで、相談なのだが……」


え、まさかの本題はこれから!? 相談したいことってベアトリクスの一件じゃなかったの!?

何気ない顔で浮かしかけた腰を再び椅子に沈める。にっこりと笑って「なんでしょう」と言うとカイは少しだけ表情を曇らせて言った。


「私達の婚約は実際、実現すると思うかい?」


……いや、そんなこと私に聞かれたって分かんないし。決めるのは私ではなく大人たちだ。だけどカイは真剣と不安の入り混じった表情だ。こんな顔されたら真面目に考えて答えるしかない。

ゲーム内では婚約できていた、とは言え、状況はかなり違うんじゃないかと思う。

まあ邪魔なのは私の存在だよね。


「わたくしとリリー様の立場はお城ではどうなのでしょうか?」

「多分エレナの考えている通りだよ。貴族の間ではエレナ派とリリー派に分かれている。というか、宰相派か反宰相派だね」


やっぱりそうなるよね。娘が皇族に入るなんて親や家にとってはかなり力のつくことだ。これ以上お父様に力を付けて欲しくない貴族たちにとって私がカイの婚約者になるなんて論外だろう。

宰相の娘の私か、元平民のリリー。どちらがマシかという話だ。


「ちなみに婚約者候補はリリー様以外には上がっていないのですか?」

「いや、数人いるにはいる。が、やはり光属性の使い手であるエレナとリリーが最有力候補だ」


意外と今のベアトリクスとかいいと思うけど、それは言わないでおく。それこそ陛下はクラッセン公爵家にいい感情を持っていないようだし。


「一応わたくしには既に婚約者がいるのですけどね……」


なんで勝手にそんな話になっているのか。私は一言もカイの婚約者になりたいなんて言っていないし、お父様も言っていないだろう。

まあボヤいたって仕方がない。


「エレナとラルフの婚約は既に破棄されているものだと思っている貴族が半数。残りはすぐに破棄されると思っている者か、破棄させて私の婚約者にさせようと考えている者だ」


あ、なるほど。誰も私とラルフがこのまま結婚すると思っていないようで。まあ私もそんなつもりさらさらないけど。でもカイと結婚するくらいならラルフの方がマシ。すんごい嫌だけど。皇后にだけはなるつもりはない。

カイが更に詳しく教えてくれる。曰く、

私を婚約者に、と押している人たちの言い分は、全属性+光属性持ちの私の方が皇后に相応しい。魔法学校に入学したとはいえ平民を皇族になど論外だ。

リリーを婚約者に、と押している人たちの言い分は、私には既に婚約者がいる。成績も申し分なく、心優しいリリーはカイの婚約者に相応しい。

とのことらしい。やっぱり私に婚約者がいるというのがギリギリのラインを保っているようだ。初めてラルフに感謝している。

私はにっこりと笑顔を浮かべてカイとリリーを見た。


「大丈夫ですわ。お二人はとてもお似合いですもの。皆様きっと分かってくださいます」


私の言葉にカイの表情が少し和らかくなった気がした。


「お二人の婚約は実現します。わたくしが保証しますわ」


根拠のない保証だけど、実際に二人が結ばれた世界を知っているのだ。不可能ではないだろう。


「もし殿下がお望みでしたらお父様と少しお話をしてみますが? お父様がわたくしと殿下の婚約を望んでいないと分かれば声を少し小さくする方もいらっしゃるのでは?」


人望に厚いお父様だ。お父様の一言で少し私を押す声も弱まるかもしれない。

カイは首を横に振った。真っすぐの瞳で。

想像通りだ。カイが頷くなんて思っていない。


「いや、宰相とは私が話すよ。これ以上エレナに迷惑をかけるわけにはいかないからね」

「いいえ、迷惑だなんて思ったことはありませんわ。わたくしにできることがあればいつでもおっしゃってくださいませ。わたくしはお二人の味方ですから」


迷惑だと思ったことはない。面倒だと思ったことはあるけど。心の中で付け加える。

だけど私にも無関係ではないから。カイとリリーの婚約の手助けなら喜んでするよ。


「ありがとう。エレナが大丈夫と言うのならきっと大丈夫だ」


カイはそう言うと立ち上がり、ドアへと向かう。リリーもその後ろをついて行き、部屋を出る前にカイは振り返って私を見た。


「二人で精一杯頑張ってみるよ」

「はい、頑張ってくださいませ」


笑顔を浮かべてそう言うと、二人は部屋から出て行った。私は伸ばしていた背筋を少しゆるめ、クリスを見た。


「わたくし、大したことは何も言っていないのだけど、あれで良かったのかしら?」


クリスは「いいと思うよ」と頷く。


「多分エレナに背中を押してもらいたかっただけなんじゃない? ほら、これから大変だろうから」

「それだけの為に呼び出されたの? ……分からないわ」


私が背中を押したところで何かが変わるわけではないだろうに。


「いいんだよ」


クリスはそう言うと勢いよく立ち上がった。


「エレナの望み通りになりそうだね」

「ええ、そうね。一安心だわ」


だけどまだ婚約が決まったわけではない。しばらく私は影を薄くして過ごそう。そう心に決め、椅子から立ちあがった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...