正義の方程式 ~ヒーローにあこがれた少年は気が付くと悪の親玉になっていた~

武田コウ

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悪の敵

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「ひぃっ!? お前は・・・なんで!?」




 セルジオは悲鳴にも近い叫び声をあげて腰を抜かした。




 ウルフの醜悪な獣の姿を見た瞬間にセルジオの脳内に廃工場でのトラウマが蘇る。通常であれば冷静な判断を下して加速能力を使い、この場所から離脱していただろう。




 しかしセルジオがウルフにトラウマを植え付けられたのはつい先日の事だ。頭では逃げるべきだと判断できていても腰が抜けてうまく動けない。




「・・・今回の標的はお前では無かったが・・・自分の幸運に感謝すべきだな」




 腰を抜かしたセルジオに向かって恐怖を煽るようにゆっくりと歩み寄るウルフ。右手を掲げ、その鋭い爪をギラリと光らせた。




「邪悪・・・滅ぶべし!」




 次の瞬間ウルフは獣の俊敏性でセルジオに襲いかかる。




 一本一本がナイフの切れ味を誇るその爪が腰を抜かして情けない顔をしているセルジオの喉元に伸び・・・横から割り込んできた何者かにウルフの身体は蹴り飛ばされた。




 それは凄まじい蹴りだった。




 決して軽くは無いウルフの巨体が水平に飛んでいき、壁にぶち当たるとその壁が砕かれて隣接した部屋に身が投げ出される。




「あらん、ここは関係者以外立ち入り禁止よん」




 現れたのは大柄のオカマ。手にはライフル銃、黒のノースリーブに迷彩柄のズボンを身につけている。

「た、助かったぜパワー」




 安堵の表情を見せるセルジオにパワーはパチリとウインクをした。




「ボスからの命令だからね。セルジオちゃんは逃げて良いわ、ここはアタシが受け持つから」




「・・・すまねえ」




 助っ人が来た事で少し冷静になったセルジオは立ち上がると加速能力を使ってその場から離脱した。




 パワーはコキリと首をならすとライフルを構えながらウルフが飛んでいった部屋へと足を踏み入れる。




 そこは会議室だろうか。




 会議用の長机を巻き込んでウルフが倒れている。




「その程度でやられないでしょ? アタシが相手よワンちゃん」




 ウルフはカッと目を見開くと身体のバネを使って跳ね起きた。二度も同じ悪を取り逃した事への苛立ちと制裁を邪魔された事による怒りでその目つきが鋭くなる。




 そんなウルフにパワーは開戦の合図とばかりにライフルを発砲した。




 至近距離で放たれる銃弾はウルフに回避することを許さずにその胸に着弾する。分厚い皮膚と強靱な筋肉により内蔵部までは達しないがその威力によってウルフは大きくのけぞった。着弾部からは肉の焦げる臭いがする。




 体勢を崩したウルフに詰めよるパワー。




 ライフルを持ち替え、銃身を握ると大きく振りかぶって鉄製の銃底でウルフの顔面を強かに殴りつける。




 硬いモノで肉を打つ湿った音が響く。




 パワーはさらに追撃を仕掛けんと銃を思い切り振り上げて無防備なその頭部に振り下ろす。恐ろしいスピードで振り下ろされたその一撃はウルフの爪によって迎撃された。




 攻撃に合わせるようにして一閃した獣の爪はパワーの持つライフル銃を一瞬で細切れにした。




 鉄を易々と切り裂くその切れ味。しかしパワーは一切の動揺を見せずにライフルの残骸を投げ捨てると一旦距離を取る。




「・・・ずるいわねその能力。せめて銃の効かない耐久力か鉄を切り裂く爪のどっちか一つにしてくれないかしら」




 軽口を叩くパワー。




 しかしウルフは一切その言葉に耳を傾けず、足をグッとたわませると一気に力を解放して疾風のごとく距離を詰めた。




 セルジオの ”加速” には及ばないモノのそれでも十分過ぎるほどのスピード。振るわれるは鉄をも切り裂く鋭い爪、ギラリと凶悪に光ったそれはパワーの首を目がけて飛んでいく。




 しかしその一撃は空を切った。




 その場でしゃがみ込んで攻撃を回避したパワーは拳を握り締めてウルフに向かって叫ぶ。




「舐めてんじゃ無いわよ!」




 下から突き上げるようにして放たれた右の拳はウルフの丈夫な腹筋を貫く。




 凄まじい衝撃。




 ウルフの身体は天井に叩きつけられ、無様に地面に落ちていった。




「いくら速いとはいえ、そんな単調な攻撃が通じる筈が無いでしょ?」




 そう言ってニヤリと笑ったパワーは床に転がったウルフの頭を掴むと怪力を発揮して片手でその身体を持ち上げる。




「遊びはこれで終わりよヒーロー気取りさん」
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