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刃
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喧嘩
喧嘩
喧嘩
幸か不幸か、相手が多勢だろうが強者だろうがポールが負けた事は一度として無く、故にその喧嘩の連鎖が終わることは無かった。
最近は両親と話すことも無くなった。
よく警察に補導される自分の事を疎ましく思っているのかもしれない。
血にまみれた人生を歩むことに対してはもう諦めている。だがその結果として母親と距離が空いてしまった事は寂しい。
『アナタは良い子ねポール』
もう母は自分を良い子とは呼んでくれないのだろう。
返り血のついた己の拳をゴシゴシとズボンに擦りつけて帰路につく。憂鬱な気持ちで家のドアを開けて「ただいま」と小さな声で言いながら視線を上げた。
そこには地獄絵図が広がっていた。
壁や床や天井に飛び散る鮮血。
ムッとするような生臭い臭いとかすかに聞こえる荒い息づかい。
床には愛する両親の血まみれの死体。
そして部屋の中央に見知らぬ男が、血のべっとりと付着した出刃包丁を持ってジッとこちらを見つめていた。
「・・・お前、運が悪かったな」
男はかすれた声でそう言うと、歪な笑みを浮かべてゆっくりと包丁を振りかぶる。奇声を発しながら突進してくる男に、ポールは一瞬反応が遅れてしまった。
振り下ろされる包丁。
左肩に刃が突きささり、その鋭い痛みにポールは顔をしかめながら反射的に男の腹を蹴りつける。
男はよろよろと後退し、ゆっくりと顔を上げた。
血走った焦点の合っていない目が、目の前の男が正気では無い事を悟らせる。
突然の出来事でポールの思考は麻痺していた。しかし一つだけはっきりしている事は、恐らく目の前の男を殺さなくては自分が殺されてしまうという事実・・・。
右拳を握り締める。
再び奇声を発しながら包丁を振り回して突進してくる男に、カウンターを合わせるように拳を振り抜いた。
ああ
その拳は
全てを傷つける刃に似ている・・・。
「・・・あ?」
男が間抜けな声を出して持っていた包丁を床に落とす。その腹部には深々と大ぶりの刃が突き刺さっている。
否、
刃に変容したポールの右手が突き刺さっていた。
「なんだ・・・これ?」
ポールは信じられないモノを見るかのように己の右手を見つめる。
ギラリと怪しい輝きを放つ肉厚の刃が、ポールに自分の中の何かが崩れ去っていく感覚を教えていた。
その後、近隣の住民の通報によるものか警察がやってきた。
ポールに腹を刺された男は死んでいたが、ポールが未成年である事と、正当防衛である事が認められて罪には問われ無さそうだった。
しかし事情聴取という形で警察署まで連行されるポール。
刑務所の小部屋。喧嘩でよく補導されていた顔見知りの警官と二人きりになる。
「・・・ポール、災難だったな」
いつも怒鳴り声を上げているその警官の、情けないような弱々しい声が少し意外で、ポールはわずかに目線を上げた。
警官は家に侵入した男がヤク中だったこと、前科があることなど今回の事件の事を色々と教えてくれたが、ポールは何も反応を返す事が出来なかった。
「・・・無理も無い。いくらヤンチャなお前とはいえ、ご両親が亡くなったんだもんな」
警官はポールに一杯のコーヒーを差し出すと、しばらく一人にしてやろうと思ったのか部屋から出て行った。
何もすることが無かったポールは、自動的にコーヒーの注がれたカップに手を伸ばす。
カップの暖かさを感じて、初めてポールは自分の手が震えていることに気がついたのだった。
自分は何に恐怖しているのだろうか? 両親が死んだこと? それとも今頃になってあの男の狂気が恐ろしくなったのか・・・・それとも・・・。
わからない。
何も
わからない。
コーヒーを一口飲むとインスタントの安い味が口中に広がる。その温かさが冷えた体に染みいるようだった。
その時静かなノックの音がして部屋の扉が開かれる。
入ってきたのは上等なスーツを身に付けた、すらりと背の高いオールバックの男。見知らぬその男は端正な造りの顔の右半分が醜く焼けただれていた。
「やあ初めまして。君がポールだね?」
喧嘩
喧嘩
幸か不幸か、相手が多勢だろうが強者だろうがポールが負けた事は一度として無く、故にその喧嘩の連鎖が終わることは無かった。
最近は両親と話すことも無くなった。
よく警察に補導される自分の事を疎ましく思っているのかもしれない。
血にまみれた人生を歩むことに対してはもう諦めている。だがその結果として母親と距離が空いてしまった事は寂しい。
『アナタは良い子ねポール』
もう母は自分を良い子とは呼んでくれないのだろう。
返り血のついた己の拳をゴシゴシとズボンに擦りつけて帰路につく。憂鬱な気持ちで家のドアを開けて「ただいま」と小さな声で言いながら視線を上げた。
そこには地獄絵図が広がっていた。
壁や床や天井に飛び散る鮮血。
ムッとするような生臭い臭いとかすかに聞こえる荒い息づかい。
床には愛する両親の血まみれの死体。
そして部屋の中央に見知らぬ男が、血のべっとりと付着した出刃包丁を持ってジッとこちらを見つめていた。
「・・・お前、運が悪かったな」
男はかすれた声でそう言うと、歪な笑みを浮かべてゆっくりと包丁を振りかぶる。奇声を発しながら突進してくる男に、ポールは一瞬反応が遅れてしまった。
振り下ろされる包丁。
左肩に刃が突きささり、その鋭い痛みにポールは顔をしかめながら反射的に男の腹を蹴りつける。
男はよろよろと後退し、ゆっくりと顔を上げた。
血走った焦点の合っていない目が、目の前の男が正気では無い事を悟らせる。
突然の出来事でポールの思考は麻痺していた。しかし一つだけはっきりしている事は、恐らく目の前の男を殺さなくては自分が殺されてしまうという事実・・・。
右拳を握り締める。
再び奇声を発しながら包丁を振り回して突進してくる男に、カウンターを合わせるように拳を振り抜いた。
ああ
その拳は
全てを傷つける刃に似ている・・・。
「・・・あ?」
男が間抜けな声を出して持っていた包丁を床に落とす。その腹部には深々と大ぶりの刃が突き刺さっている。
否、
刃に変容したポールの右手が突き刺さっていた。
「なんだ・・・これ?」
ポールは信じられないモノを見るかのように己の右手を見つめる。
ギラリと怪しい輝きを放つ肉厚の刃が、ポールに自分の中の何かが崩れ去っていく感覚を教えていた。
その後、近隣の住民の通報によるものか警察がやってきた。
ポールに腹を刺された男は死んでいたが、ポールが未成年である事と、正当防衛である事が認められて罪には問われ無さそうだった。
しかし事情聴取という形で警察署まで連行されるポール。
刑務所の小部屋。喧嘩でよく補導されていた顔見知りの警官と二人きりになる。
「・・・ポール、災難だったな」
いつも怒鳴り声を上げているその警官の、情けないような弱々しい声が少し意外で、ポールはわずかに目線を上げた。
警官は家に侵入した男がヤク中だったこと、前科があることなど今回の事件の事を色々と教えてくれたが、ポールは何も反応を返す事が出来なかった。
「・・・無理も無い。いくらヤンチャなお前とはいえ、ご両親が亡くなったんだもんな」
警官はポールに一杯のコーヒーを差し出すと、しばらく一人にしてやろうと思ったのか部屋から出て行った。
何もすることが無かったポールは、自動的にコーヒーの注がれたカップに手を伸ばす。
カップの暖かさを感じて、初めてポールは自分の手が震えていることに気がついたのだった。
自分は何に恐怖しているのだろうか? 両親が死んだこと? それとも今頃になってあの男の狂気が恐ろしくなったのか・・・・それとも・・・。
わからない。
何も
わからない。
コーヒーを一口飲むとインスタントの安い味が口中に広がる。その温かさが冷えた体に染みいるようだった。
その時静かなノックの音がして部屋の扉が開かれる。
入ってきたのは上等なスーツを身に付けた、すらりと背の高いオールバックの男。見知らぬその男は端正な造りの顔の右半分が醜く焼けただれていた。
「やあ初めまして。君がポールだね?」
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