パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ

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 穏やかな日差しを全身に浴びながら、速見は船の上でのんびりと釣り竿を垂らしていた。隣では構って欲しそうな太郎が体をすり寄せてくるので時々片手で喉元を撫でてやる。




「クゥン」




 気持ちよさそうな顔をしている太郎を見て満足すると、再び水面に目を向ける。こんな移動中の船で素人の自分が魚釣りなんて実入りがあるはずも無いのだが、まあ単なる暇つぶしのようなものだ。




「良い天気ですな。釣れてますか?」




「全く釣れませんが・・・まあこちらとしても暇つぶしでやっているだけですからね」




 声をかけてきたのは健康的に日に焼けた老人。たまたまこの船で知り合い、こうしてたまにおしゃべりをする程度の仲である。




「食べるためじゃなく道楽としての釣りですか・・・良い物ですな。隣に座っても?」




 身振りで「どうぞ」と伝えると、老人はゆっくりとした動作で速見の隣に座りついでというように太郎の頭を撫でた。




「一献いかがかな? これは儂の持ってきた自慢の酒なんですが」




 そう言って老人が取り出したのは深緑色の酒瓶とコップが二つ。何のラベルも貼ってないということは手作りの酒なのだろうか。




「ありがたい。いただきます」




 速見の答えを聞くと老人は嬉しそうにコップに酒を注いだ。酒瓶から注がれたその液体は乳白色で、速見はこの世界でそんな色の酒を見たことがなかった。




「ささ、どうぞ」




 進められるままにコップを受け取り少し口に含む。




 ふんわりとした香りと口に残る独特のもったりとした甘み。どこか懐かしいようなその味に速見は驚愕した。




「・・・爺さん、この酒は?」




 驚いたような速見の顔を見て、老人はにっこりと笑う。




「アナタの顔を見て思ったのですが・・・たぶんアナタ東方の血を引いているでしょう? 私の古い友人に東方の地から来た奴がいましてね。この酒はその友人からもらったものなんですよ」




 東方の友人。

 そしてこの乳白色の酒・・・。




 この酒の味は日本酒のそれに似ているのだ。




「ええ、そうですね。まあ俺は東方の国に行った事はないのですが」




 高鳴る鼓動を押さえながら、何でも無いかのような顔をして速見は答えた。




「そうなんですか。儂も行ったことは無いのですがその友人によると素敵な場所みたいですよ」




「へえ、それは行ってみたいものですね。ちなみにその国の名前は?」




「確かその友人は”ヤマト”という名の国から来たといっていました」




 ”ヤマト”




 祖国たる大日本帝国の昔の呼称だ。




 恐らく偶然ではないだろうが、それについて考察するには材料が足りない。それに因果関係がわかったところで元の世界に帰れるわけでも無いのだろう。































 一週間ほどの船旅も終わり、速見は世界一の大きさを誇ると言われている港町”レキオ”にたどり着いた。




 ありとあらゆる物と人。




 レキオで揃わないものなんて無い。




 話には聞いていたが、実際に見てみると圧巻の一言だ。




「なあアンタ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」




 速見は船着き場で船の準備をしていた船乗りの一人に話しかける。




「東方にある”ヤマト”って名前の国に行きたいんだが・・・ここからその国まで移動する船はあるかい?」




 若い船乗りは少し考えた後に答える。




「ヤマト? すまんな東方の地には詳しくなくて。少なくともここから出る船でその国に行くもんは無いな」




 その言葉に速見は落胆するが、すぐ隣で作業をしていた年老いた船乗りが会話に割り込んできた。




「おうおう珍しいねお前さん。ヤマトに行きたいのか」




「ああ、実はそうなんだ」




「それなら最短の道は水路じゃねえ陸路だ。ヤマトってえ国は島国なんだが何しろ辺境の地でな、場所を知っている船乗りがとんと少ねえ。ここから陸路を使って”ドロア帝国”にいくんだ。ドロア帝国は昔ヤマトと貿易をしていたから場所を知っている船乗りが多いだろう」




 有益な情報をくれた年老いた船乗りに感謝の言葉を告げ、速見は船着き場を後にする。




 これからの旅の進路は決まった。




 だが、せっかく大きな町に来たのだ。少しくらい観光をしていっても罰はあたらないだろう。というか速見の年齢的に長時間の船旅がかなり体にダメージを与えていたので一刻も早く休みたいだけだったりもするのだが。




 ものすごい賑わいを見せている街中を、今夜の宿を求めて進む。




 何の食べ物かわからない良いにおいがする。そういえばお腹が減っていた。ここで何かつまんでいってもいいだろう。




「はいはいちょっとごめんよ!」




 そう言って走ってきた活発そうな茶髪の少女が速見にぶつかって、そのまま走り去っていった。その様子にふと不自然さを感じた速見はさっとポーチに手を突っ込んで確認をする。




「・・・やられた」




 あるはずの財布が無い。

 どうやら先ほどの少女はスリだったようだ。











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