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試験
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「次の者は前へ」
速見は大勢の人で溢れている募集兵の試験会場へ足を運んでいた。
死ぬかもしれない戦場へ行くというのにその数はとても多い。なぜなら報奨金が法外な値段だったからだ。
少しでも腕に覚えのあるものはプロアマ問わずにこぞってこの募集に申し込んだ。結果こういった試験が行われたという事だ。
試験内容は至ってシンプル。
国の正規兵と木剣を使って模擬戦を行い、一定のレベルに達していると見なされたら合格だ。(ちなみに攻撃魔術が使える者はそれだけで合格らしい)
遠目で観察している限り、報奨金の割に存外試験のレベルは緩いようだ。つまり国側としては人海戦術を行うつもりで資金の許す限り雇えるだけ人を雇いたいのだろうと速見は推測する。
「次の者前へ」
ついに速見の出番が来た。今回の試験ではもちろん遠距離で戦う者たちの為に的当ての試験も用意されている。
使用するのはもちろんクロスボウ。
愛用のそれを右手に持ち、速見は試験官の前へと進み出た。
「よく来たな。まずは名前と簡単な経歴、そして希望する試験の種類を聞こう」
速見を担当する試験官の男は上質な革の鎧を身につけた若い男だ。鋭い眼光とたくましいその体格が彼がすぐれた兵士である事を感じさせる。
「名前は速見純一。昔は冒険者をやっていたんだが今は引退して一人旅をしています。俺は狙撃手だから的当ての試験を希望したいんですが」
速見の言葉に試験管はじろりと速見の全身を眺め、右手に持ったクロスボウに目をとめた。
「・・・ほう、クロスボウか。珍しいものを使う。よろしい、では射的場に移ろう」
そう言って試験官の男は速見を射的場まで案内する。人と人の間を縫うように歩く目の前の試験管の体幹が全くぶれていないのを見て、速見はこの男がかなりの実力者であると確信した。
「さて、ここが射的場だが・・・距離はどの程度がいいかね? 一応最大で三百メートルほどの距離は取れるのだが」
三百メートル。
それはこの鉄製のクロスボウの射程ぎりぎりの距離だ。少し前の速見ならばライフル銃とのギャップに苦しんで正確な射撃はできなかっただろう。
「では三百メートルで」
少し驚いたような表情をした試験管を尻目に、速見は所定の位置につくとゆっくりとクロスボウを構える。
もうすっかりと手になじんだその重さを感じながら固定したスコープを覗き込んだ。
一つ、二つ深く呼吸をする。
酸素を静かに肺に送り込み、その呼吸のリズムを体に染みこませた。
一つ、二つ
引き金に指をかける。わずかに上下するクロスボウの動きを焦らずに押さえていき三百メートル先にある小さな的を覗き込む。
”今”
風、呼吸、心音。全ての状況が完璧に整った瞬間。雷鳴のごとき俊敏さで速見は引き金を引いた。
的に向けてやや上方向へ放たれた鉄の矢は緩やかな放射線を描きながら空気を切り裂き、見事三百メートル先の的、その中心へと突き刺さる。
「・・・お見事。大したものだな」
遠眼鏡で的を確認した試験管が速見に惜しみ無い賞賛を送った。
「おめでとうハヤミ。君は合格だ」
差し出された手を握り返す。
「ありがとうございます。期待に応えられるよう頑張ります」
そうは言ったものの速見にはこの戦に参加する気はさらさら無かった。これだけの大所帯だ、その全てを管理することは至難の業だろう。
現地についたら適当に参加するふりをして監視の目が緩んだ隙に逃げ出す。
現場からの脱走とはつまりヤマト国なんて辺境の地からこの国に帰ってこれなくなることを意味するのでそれを決行する者は普通いない。
だからこそ監視の目もそう厳しくは無いと速見は踏んでいた。
(報酬も後払いみたいだからな。そう必死こいて追ってくる事もないだろう)
出航は二日後、それまでにこの街で物資を買いそろえて置くことにしよう。
◇
速見は大勢の人で溢れている募集兵の試験会場へ足を運んでいた。
死ぬかもしれない戦場へ行くというのにその数はとても多い。なぜなら報奨金が法外な値段だったからだ。
少しでも腕に覚えのあるものはプロアマ問わずにこぞってこの募集に申し込んだ。結果こういった試験が行われたという事だ。
試験内容は至ってシンプル。
国の正規兵と木剣を使って模擬戦を行い、一定のレベルに達していると見なされたら合格だ。(ちなみに攻撃魔術が使える者はそれだけで合格らしい)
遠目で観察している限り、報奨金の割に存外試験のレベルは緩いようだ。つまり国側としては人海戦術を行うつもりで資金の許す限り雇えるだけ人を雇いたいのだろうと速見は推測する。
「次の者前へ」
ついに速見の出番が来た。今回の試験ではもちろん遠距離で戦う者たちの為に的当ての試験も用意されている。
使用するのはもちろんクロスボウ。
愛用のそれを右手に持ち、速見は試験官の前へと進み出た。
「よく来たな。まずは名前と簡単な経歴、そして希望する試験の種類を聞こう」
速見を担当する試験官の男は上質な革の鎧を身につけた若い男だ。鋭い眼光とたくましいその体格が彼がすぐれた兵士である事を感じさせる。
「名前は速見純一。昔は冒険者をやっていたんだが今は引退して一人旅をしています。俺は狙撃手だから的当ての試験を希望したいんですが」
速見の言葉に試験管はじろりと速見の全身を眺め、右手に持ったクロスボウに目をとめた。
「・・・ほう、クロスボウか。珍しいものを使う。よろしい、では射的場に移ろう」
そう言って試験官の男は速見を射的場まで案内する。人と人の間を縫うように歩く目の前の試験管の体幹が全くぶれていないのを見て、速見はこの男がかなりの実力者であると確信した。
「さて、ここが射的場だが・・・距離はどの程度がいいかね? 一応最大で三百メートルほどの距離は取れるのだが」
三百メートル。
それはこの鉄製のクロスボウの射程ぎりぎりの距離だ。少し前の速見ならばライフル銃とのギャップに苦しんで正確な射撃はできなかっただろう。
「では三百メートルで」
少し驚いたような表情をした試験管を尻目に、速見は所定の位置につくとゆっくりとクロスボウを構える。
もうすっかりと手になじんだその重さを感じながら固定したスコープを覗き込んだ。
一つ、二つ深く呼吸をする。
酸素を静かに肺に送り込み、その呼吸のリズムを体に染みこませた。
一つ、二つ
引き金に指をかける。わずかに上下するクロスボウの動きを焦らずに押さえていき三百メートル先にある小さな的を覗き込む。
”今”
風、呼吸、心音。全ての状況が完璧に整った瞬間。雷鳴のごとき俊敏さで速見は引き金を引いた。
的に向けてやや上方向へ放たれた鉄の矢は緩やかな放射線を描きながら空気を切り裂き、見事三百メートル先の的、その中心へと突き刺さる。
「・・・お見事。大したものだな」
遠眼鏡で的を確認した試験管が速見に惜しみ無い賞賛を送った。
「おめでとうハヤミ。君は合格だ」
差し出された手を握り返す。
「ありがとうございます。期待に応えられるよう頑張ります」
そうは言ったものの速見にはこの戦に参加する気はさらさら無かった。これだけの大所帯だ、その全てを管理することは至難の業だろう。
現地についたら適当に参加するふりをして監視の目が緩んだ隙に逃げ出す。
現場からの脱走とはつまりヤマト国なんて辺境の地からこの国に帰ってこれなくなることを意味するのでそれを決行する者は普通いない。
だからこそ監視の目もそう厳しくは無いと速見は踏んでいた。
(報酬も後払いみたいだからな。そう必死こいて追ってくる事もないだろう)
出航は二日後、それまでにこの街で物資を買いそろえて置くことにしよう。
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