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新魔王
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「ほらご主人様よ。お望み通り新しい魔王候補持ってきたぜ」
速見はそう言って、自宅のベッドでごろごろしていたクレアに声をかけた。重い石棺をわざわざ持ってきたのでその顔は非常に疲れ切っている。
「おーご苦労さん。さて、じゃあ新入りの顔を拝見しましょうかね」
気の抜けた声でそう言うと、クレアはひょいとベッドから降りて速見の引きずってきた石棺の蓋を蹴り飛ばす。
石で作られた重い蓋が勢いよく飛んでいき、壁にぶち当たって飾られていた高そうな壺が破壊されるがクレアにそれを気にする様子は無い。
「どれどれー? おぉ、これはこれは・・・ゴルゴンだねえ」
石棺に横たわっていた死体は、蛇の下半身に人間の女性の上半身。髪の毛はよく見ると一本一本が細い蛇であり、その種族がゴルゴンと呼ばれる魔族である事を悟らせる。
「ゴルゴン・・・ゴルゴンか。確かに石化の魔眼は協力だけど、魔王カプリコーンの後釜と考えると少し物足りないかもねー」
少し残念そうな様子のクレアに速見は尋ねる。
「それほどの奴だったのか? 魔王カプリコーンは」
「そうだね。カプリコーンの戦闘力は歴代魔王最強と言われている。近接戦闘で奴に勝てる魔王なんていないんじゃないかな? そう考えれば魔眼持ちのゴルゴンはまた違ったアプローチが出来て良いのかな? 下手に劣化カプリコーンみたいな脳筋連れてこられるよりは大分マシか」
途中から独り言をぶつぶつと呟いて、クレアは本棚から本を二、三冊抜き取ると小脇に挟む。地下室への扉を開けながら速見に向き直った。
「これからソイツ蘇らせるからお前はその死体担いで地下室まで来て」
そして速見の返事も聞かず、地下室へと降りていった。
「・・・はあ、面倒くさ」
懐からタバコを取りだそうとして考え直す。今から地下室に行くのにタバコを吸うのはどうかと思ったのだ。
深いため息を吐いて石棺から死体を担ぎ上げる。
どうやらミイラのような状態になっているらしく、身体の水分が抜けており思っていたほど重くは無かった。
「ああ、やっと来たか下僕。とりあえずそこの水槽に死体を置いてくれる?」
クレアが指さしたのは地面に彫り込まれた複雑な魔方陣の上にポンと置かれた巨大な水槽。速見が担いでいたゴルゴンの死体を水槽に寝かせると、何故か彼女に合わせて作られたかのようにサイズがぴったりだった。
「本当はこの術は秘中の秘なんだけどね。今回は哀れな下僕に特別に見せてあげよう」
そう軽口を叩きながら、クレアは水槽の中に何やら棚から取り出したフラスコに入った溶液をドバドバと注ぐ。
赤黒いその溶液は、見方によっては血液のようにも見えた。
「水分が必要なんだ。この死体は今カッサカサだからね。何はともあれまず大量の水分が必要なのさ」
説明しながら手元のフラスコが空になると、戸棚から別のフラスコを持ってきて水槽に中身をぶちまける。
今度の液体は薄青色で、魔法の知識に乏しい速見には彼女が何をやっているのか皆目見当もつかなかった(まあ、そんな彼だからこそこの儀式の見学を許されたのかもしれないが)。
「ほうら口を開けて・・・良い子だ、全部飲み干しな」
今度はまた別のフラスコを持ってくると死体の口を無理矢理こじ開け、中の液体を体内に注ぐ。それらの作業を終えると小脇に挟んでいた本のページを開いて何やら詠唱を始めた。
その言葉は速見の知るどの言語とも異なり、正確に聞き取ることが出来ない。しかし床に刻まれた魔方陣はクレアの言葉に呼応するかのように光り輝き始めた。
魔方陣の上に置かれた水槽がわずかに振動を始める。
水槽の中に満たされた何かわからぬ液体がぽちゃぽちゃと周囲に飛び散った。
不意にクレアは開いていた本の一ページを破り取ると宙に放り投げた。それはひらひらを宙を舞い、水槽の真上に来た瞬間に紫色の炎に包まれる。
床の魔方陣がその輝きを増してゆく。
その光りが部屋中に広がり、もはや視界は光りに埋め尽くされた。
何も見えない。
ただ光だけがそこにある。
やがて硝子の砕ける甲高い音が響き渡り、光りは徐々に消えていった。
「終わった・・・のか?」
ズキズキと痛む眼をこすり部屋を見回すと、魔方陣の上、割れた硝子の破片に塗れた一匹の魔族がクレアにひれ伏していた。
「名前は?」
クレアはニヤリと笑いながらその魔族に尋ねる。
「ヴァルゴ・・・魔王ヴァルゴでございます」
◇
速見はそう言って、自宅のベッドでごろごろしていたクレアに声をかけた。重い石棺をわざわざ持ってきたのでその顔は非常に疲れ切っている。
「おーご苦労さん。さて、じゃあ新入りの顔を拝見しましょうかね」
気の抜けた声でそう言うと、クレアはひょいとベッドから降りて速見の引きずってきた石棺の蓋を蹴り飛ばす。
石で作られた重い蓋が勢いよく飛んでいき、壁にぶち当たって飾られていた高そうな壺が破壊されるがクレアにそれを気にする様子は無い。
「どれどれー? おぉ、これはこれは・・・ゴルゴンだねえ」
石棺に横たわっていた死体は、蛇の下半身に人間の女性の上半身。髪の毛はよく見ると一本一本が細い蛇であり、その種族がゴルゴンと呼ばれる魔族である事を悟らせる。
「ゴルゴン・・・ゴルゴンか。確かに石化の魔眼は協力だけど、魔王カプリコーンの後釜と考えると少し物足りないかもねー」
少し残念そうな様子のクレアに速見は尋ねる。
「それほどの奴だったのか? 魔王カプリコーンは」
「そうだね。カプリコーンの戦闘力は歴代魔王最強と言われている。近接戦闘で奴に勝てる魔王なんていないんじゃないかな? そう考えれば魔眼持ちのゴルゴンはまた違ったアプローチが出来て良いのかな? 下手に劣化カプリコーンみたいな脳筋連れてこられるよりは大分マシか」
途中から独り言をぶつぶつと呟いて、クレアは本棚から本を二、三冊抜き取ると小脇に挟む。地下室への扉を開けながら速見に向き直った。
「これからソイツ蘇らせるからお前はその死体担いで地下室まで来て」
そして速見の返事も聞かず、地下室へと降りていった。
「・・・はあ、面倒くさ」
懐からタバコを取りだそうとして考え直す。今から地下室に行くのにタバコを吸うのはどうかと思ったのだ。
深いため息を吐いて石棺から死体を担ぎ上げる。
どうやらミイラのような状態になっているらしく、身体の水分が抜けており思っていたほど重くは無かった。
「ああ、やっと来たか下僕。とりあえずそこの水槽に死体を置いてくれる?」
クレアが指さしたのは地面に彫り込まれた複雑な魔方陣の上にポンと置かれた巨大な水槽。速見が担いでいたゴルゴンの死体を水槽に寝かせると、何故か彼女に合わせて作られたかのようにサイズがぴったりだった。
「本当はこの術は秘中の秘なんだけどね。今回は哀れな下僕に特別に見せてあげよう」
そう軽口を叩きながら、クレアは水槽の中に何やら棚から取り出したフラスコに入った溶液をドバドバと注ぐ。
赤黒いその溶液は、見方によっては血液のようにも見えた。
「水分が必要なんだ。この死体は今カッサカサだからね。何はともあれまず大量の水分が必要なのさ」
説明しながら手元のフラスコが空になると、戸棚から別のフラスコを持ってきて水槽に中身をぶちまける。
今度の液体は薄青色で、魔法の知識に乏しい速見には彼女が何をやっているのか皆目見当もつかなかった(まあ、そんな彼だからこそこの儀式の見学を許されたのかもしれないが)。
「ほうら口を開けて・・・良い子だ、全部飲み干しな」
今度はまた別のフラスコを持ってくると死体の口を無理矢理こじ開け、中の液体を体内に注ぐ。それらの作業を終えると小脇に挟んでいた本のページを開いて何やら詠唱を始めた。
その言葉は速見の知るどの言語とも異なり、正確に聞き取ることが出来ない。しかし床に刻まれた魔方陣はクレアの言葉に呼応するかのように光り輝き始めた。
魔方陣の上に置かれた水槽がわずかに振動を始める。
水槽の中に満たされた何かわからぬ液体がぽちゃぽちゃと周囲に飛び散った。
不意にクレアは開いていた本の一ページを破り取ると宙に放り投げた。それはひらひらを宙を舞い、水槽の真上に来た瞬間に紫色の炎に包まれる。
床の魔方陣がその輝きを増してゆく。
その光りが部屋中に広がり、もはや視界は光りに埋め尽くされた。
何も見えない。
ただ光だけがそこにある。
やがて硝子の砕ける甲高い音が響き渡り、光りは徐々に消えていった。
「終わった・・・のか?」
ズキズキと痛む眼をこすり部屋を見回すと、魔方陣の上、割れた硝子の破片に塗れた一匹の魔族がクレアにひれ伏していた。
「名前は?」
クレアはニヤリと笑いながらその魔族に尋ねる。
「ヴァルゴ・・・魔王ヴァルゴでございます」
◇
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