赤箱

夢幻成人

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プロローグ

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この物語は1990年初頭、長野県と山梨県の県境にある
平凡には程遠い、田舎町の神鳴町(じんめいちょう)で起きた出来事である。

まだ、桜が咲き始めて間もない頃、神鳴高校に通う男子生徒の一人、
杉山 良太(すぎやま りょうた)は4月8日に18歳の誕生日を迎えていたが、
本人としては、何も変わらない日常にひどく不満が募る一方だった。

いつもと変わらない町、いつもと変わらない通学、
いつもと変わらない学校生活、いつもと変わらない授業、
いつもと変わらない放課後、いつもと変わらない家庭

時刻は19時をまわったところ、良太は自室で机に足を投げ出し
・・・「何か面白いことないかな・・・」
天井を見ながらぼやいていた。

(俺にも彼女が入れば、少なくとも残り楽しい高校生活が満喫できるかも・・・)
(いや、俺は笹川が好きなのに告白する勇気も無くて今のままじゃないか)
(あぁ・・・でも付き合いたいな・・・笹川と・・・)
物思いに耽っていると、1階から母親の声がした。

「良太、ご飯出来たわよ。早く降りてらっしゃい」
「はーい」
と気の抜けた返事を母親に返し、良太は居間へと足を進めた。

翌朝
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、ちゃんと授業聞いて真面目に勉強するのよ」
「後、行き帰りは事故に遭わないように気をつけるのよ」
「わかってるよ、母さんも仕事頑張ってね」

母親との日常的なやり取りが終わって、良太はバス停へと向かう途中
「おっす、良太」
「おぉ、おはよう、慎也」

上田 慎也(うえだ しんや)は
良太と幼稚園からの幼馴染で絡まない日が無いくらい、いつも一緒にいる友人だ。
もぅ、親友と言っても過言ではないが良太には照れくさい部分があり、
いつも友人と紹介している。

「慎也、最近鍛えてるのか?」
良太は唐突に聞いてしまったが、
日に日に慎也の腕が引き締まっていくのを見ると聞かずには入られなかった。

「あぁ、ほら、俺たち帰宅部じゃん」
「鬼のしごきを受けるような部活動はやりたくないけど・・・」
「デブにはなりたくないしな・・・だから家に帰った後に筋トレしてるんだよ」
「そして、やっぱ、モテたいじゃん!!」

「おぃ、結局目的は女子にモテるのが目当てかよ」

「馬鹿だな、お前だって太っていたら笹川と付き合いたいと思うか?」

「いや・・・確かに可愛くても太っていたら恋心は生まれなかったな・・・」

「だろ!!って事はだよ。筋肉を鍛えれば自ずと・・・・慎也カッコイイってなるだろ!!」

「いや、それは無い!!」
慎也のポジティブな思考にも半ば呆れがかってるが
正論を言われると妙に納得してしまったのである。
だけど、良太はあえて肯定はせず慎也はどう頑張ってモテないとギリギリの抵抗をしてみせた。

「おぃっ、やばいぞ、バスが出ちまう!!」
「やばい!!、やばい!!、やばい!!」

発射直前のバスを止めて二人とも大急ぎでバスに駆け込み、
息を整えようとした矢先

「他のお客さんに迷惑なので余裕を持ってきてくださいね」
バスの運転手が低い声と眼力で睨みをきかせた。

「ハァハァ・・・・すみません・・・・」
二人は息を整える暇も無く小声で謝ると、一番奥の席へとそそくさと向かった。

「おっ、おはよう」
「じいさんに怒られたな」

二人がバスの運転手に怒られてたのを遠目から見てたのは、
一つ前のバス停から乗っている。
関 和冨(せき かずとみ)
学校でつるんでるグループの一人である。
グループ内でも空気を読むのが上手く、ムードメーカ的存在だ。
同時に顔、身体もそこそこの割には、未だに彼女が出来てないという悲しい存在でもある。

「あの爺、キれるの早いんだよ」
「絶対、カルシウム不足だ!!」
慎也が小声で囁く。

「俺達、若者より早くキれてどうするんだよ」
と良太も後に続く。

「まぁ、遅れたほうも悪いんだから、朝からそんな不機嫌になるなって」
和冨は二人をなだめる様に掌を顔の前で上下させてる。

「次は神・・・・」

「ピンポーン」

「次、停まります」

静かにガッツポーズを決めている良太。
悔しがる二人を目の前にして、今日の勝者は自分である。
と言わんばかりに満面の笑みを浮かべている。

「うわーっ・・・くそっ、今日は俺が押せると思ったのに・・・」
ボタン早押し選手権3連敗中の慎也は悔しそうに良太を見ている。

いつから始まったのかわからない遊びとともにバスは神鳴高校に停車した。
勝者の優越感か、それとも教室にいる笹川に会える喜びか、
どちらかわからないが良太は意気揚々と教室へと向かうのであった。

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