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箱隠しの章
最終話 亀裂
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ゴールデンウィーク初日は楽しくなるはずだった。
昨日から降り続いた雨は、夜には豪雨となり、
空には時折、閃光(せんこう)が走っている。
風は音を鳴らして、窓をたたいていた。
クラスメイトたちは、嗚咽まじりに泣き、喪に服してた。
ただ、ただ、その事実を受けいられなかった。
関が死んだ。
良太は沈黙のまま、通夜に参加し、
焼香が終わると、父親と二人で家に帰った。
慎也の姿も笹川の姿も見当たらなかった。
事あるごとに、赤い箱の事が脳裏によぎった。
箱の中を見た事で、
こんな事が起きてしまったのではないかと、
自分の頭が、否が応でも赤い箱に結び付けようとしていた。
赤い箱の中身を見られると、効果がなくなるどころか、
呪いで死ぬのではないかと…
恐怖と悲嘆にくれた、良太の心は憔悴しきっていた。
それでも、なお昨日の事が頭から離れず、
走馬灯のように鮮明に思い出されていた。
5月2日はバスが来なかったことで、
10分ほどはバス停で待っていた。
バスが来ないことに、苛立ちを感じたサラリーマンが、
バス会社に何度も公衆電話から連絡していた。
だが、電話に出る気配がないのか、何度も受話器を置いては
また、掛けなおすを繰り返している。
「慎也、まだ、俺の親父が家にいるはずだから」
「車で送って行ってもらおう」
「あぁ、それが良さそうだな」
意見が一致した二人は、雨の中、小走りで
杉山家を引き返して行った。
「ただいま、お父さんまだいる?」
「いるけど、どうしたの?良太」
「バスが来なくて、学校に行けそうにないから」
「慎也と一緒に、乗せて行ってほしいんだけど」
話が聞こえたのか、父親が奥から顔出し、
「そうか、しょうがないなぁ」
「ちょっとまってろ、会社に連絡入れてから、送って行ってやるから」
「先に車に乗ってろ」
そう言うと、父親は会社に電話をかけ始めた。
良太と慎也は車の中で、父親が来るのを待っていた。
「良太の親父さんが、いてくれて助かったよ」
「うちの両親なんか朝早いから、家に帰っても誰もいないんだよね」
「けっこう、うちの親父のんびりだからね」
そんな、たわいもない話をしていると、父親が車に乗ってきた。
「なんだ、今日は雨か」
「おっ、慎也君久しぶり、元気にしてたか?」
「はい、良太と毎日登校できて、元気っすよ」
「そうか、そうか」
「じゃぁ、出発するか」
家でてから、しばらく沈黙が続いたが、
おしゃべりな父親が我慢できなくなり、話始めた。
「今日は1日雨かな、中に入る日じゃなくて良かったよ」
「あれ?良太の父さん何の仕事でしたっけ?」
「炭坑掘りの現場監督」
仕事の話になると、嬉しくて止まらなくなるから、
その話題には触れてほしくなかった。
「そうだ、山の中に入って、銀とか鉄鉱石とか掘り出してるんだ」
「へぇ~~ぇ」
「雨の日とかは、危ないから入りたくないんだけど」
「今日は、入らない日だからついてるよ」
「炭坑の事なら、良太もいっぱい知ってるぞ」
「あぁ、もぅ、聞きすぎて、耳にタコとイカが住み着いてるよ」
良太はぶっきらぼうに答える。
「そんなこと、言うなよ」
「もしかしたら、何かに役立つかもしれないぞ」
父親はあっけらかんとした態度で、良太をいさめたのだった。
「間違っても炭坑掘り何かならないから、入ることもないと思うけど」
負けじと良太は口答えをする。
高校に向かう途中、パトカーが数台すれ違った。
「今日はやけに多いな」
「どっかで事故でもあったのかな?」
「それのせいで、バスが来なかったのかな」
父親に真摯(しんし)に答える、慎也に良太は
この二人が、親子なのかもしれないと、あきれ気味に見ていた。
父親は遅刻だったが、二人はギリギリセーフで、
正門をくぐり抜けた。
何とか遅刻にはならずに入れたことで、
二人は安堵(あんど)しながら教室へと向かう。
教室に入ると、関と鈴木がいない事に気づいた。
「関、来てないな」
「遅れてくるんだろう」
そんな会話をして二人とも席に着いた。
本当は、朝は笹川と話したかったが、昼休みか放課後がしかないな…
良太は朝会が始まるまで、笹川の方を見ながらそんなことを考えていた。
異変が起きたのは10時頃だった。
男子の一人が騒ぎ出したのだ。
「なぁ、関と鈴木が事故にあったらしいぜ」
「えっ?うそでしょ」
「マジマジ、さっき、俺、職員室で先生たちが」
「話してるの聞いちまったんだよ」
クラス全体にうわさ話が浸透していく。
「慎也、本当かな?」
「もし、本当なら、大騒ぎになるだろ」
「そうだよな」
そんな事を話していたら、
渡邊先生が教室に入ってきた。
青ざめた顔で、目が若干赤くなっている。
「皆さん、これから、全校集会になるのだが…」
「その前に、伝えておきたいことがあります」
「皆さん、落ち着いて聞くように…」
そういうと、
「関 和富君ですが、今朝、交通事故に合い…」
「残念ながら、亡くなりました」
「幸いなことに鈴木さんも、その事故に巻き込まれましたが」
「命に別状はないという事です」
クラス全体がざわつき、慎也と良太は事実を受け居られなかった。
その後の事は、頭が真っ白になってよく覚えていない…
昼からは高校が休校になって、
慎也と一緒に帰って、家についてショックで寝込んだはずだ。
慎也が、凄く青ざめた顔になっていたのは、印象に残ってる。
夜に笹川との、休日デートの返上を連絡したんだった。
そう、そして今日、関の通夜に行き、今こうして
いろいろ、思い出していた。
せっかくの楽しい連休になるはずが、
友の死で、なくなってしまったことに、
良太の心中は、ひどく複雑な感情に揺さぶられていた。
これから、どうすればいいのか。
部屋から見た空は、稲光と豪雨で、
良太の心を表しているようだった。
昨日から降り続いた雨は、夜には豪雨となり、
空には時折、閃光(せんこう)が走っている。
風は音を鳴らして、窓をたたいていた。
クラスメイトたちは、嗚咽まじりに泣き、喪に服してた。
ただ、ただ、その事実を受けいられなかった。
関が死んだ。
良太は沈黙のまま、通夜に参加し、
焼香が終わると、父親と二人で家に帰った。
慎也の姿も笹川の姿も見当たらなかった。
事あるごとに、赤い箱の事が脳裏によぎった。
箱の中を見た事で、
こんな事が起きてしまったのではないかと、
自分の頭が、否が応でも赤い箱に結び付けようとしていた。
赤い箱の中身を見られると、効果がなくなるどころか、
呪いで死ぬのではないかと…
恐怖と悲嘆にくれた、良太の心は憔悴しきっていた。
それでも、なお昨日の事が頭から離れず、
走馬灯のように鮮明に思い出されていた。
5月2日はバスが来なかったことで、
10分ほどはバス停で待っていた。
バスが来ないことに、苛立ちを感じたサラリーマンが、
バス会社に何度も公衆電話から連絡していた。
だが、電話に出る気配がないのか、何度も受話器を置いては
また、掛けなおすを繰り返している。
「慎也、まだ、俺の親父が家にいるはずだから」
「車で送って行ってもらおう」
「あぁ、それが良さそうだな」
意見が一致した二人は、雨の中、小走りで
杉山家を引き返して行った。
「ただいま、お父さんまだいる?」
「いるけど、どうしたの?良太」
「バスが来なくて、学校に行けそうにないから」
「慎也と一緒に、乗せて行ってほしいんだけど」
話が聞こえたのか、父親が奥から顔出し、
「そうか、しょうがないなぁ」
「ちょっとまってろ、会社に連絡入れてから、送って行ってやるから」
「先に車に乗ってろ」
そう言うと、父親は会社に電話をかけ始めた。
良太と慎也は車の中で、父親が来るのを待っていた。
「良太の親父さんが、いてくれて助かったよ」
「うちの両親なんか朝早いから、家に帰っても誰もいないんだよね」
「けっこう、うちの親父のんびりだからね」
そんな、たわいもない話をしていると、父親が車に乗ってきた。
「なんだ、今日は雨か」
「おっ、慎也君久しぶり、元気にしてたか?」
「はい、良太と毎日登校できて、元気っすよ」
「そうか、そうか」
「じゃぁ、出発するか」
家でてから、しばらく沈黙が続いたが、
おしゃべりな父親が我慢できなくなり、話始めた。
「今日は1日雨かな、中に入る日じゃなくて良かったよ」
「あれ?良太の父さん何の仕事でしたっけ?」
「炭坑掘りの現場監督」
仕事の話になると、嬉しくて止まらなくなるから、
その話題には触れてほしくなかった。
「そうだ、山の中に入って、銀とか鉄鉱石とか掘り出してるんだ」
「へぇ~~ぇ」
「雨の日とかは、危ないから入りたくないんだけど」
「今日は、入らない日だからついてるよ」
「炭坑の事なら、良太もいっぱい知ってるぞ」
「あぁ、もぅ、聞きすぎて、耳にタコとイカが住み着いてるよ」
良太はぶっきらぼうに答える。
「そんなこと、言うなよ」
「もしかしたら、何かに役立つかもしれないぞ」
父親はあっけらかんとした態度で、良太をいさめたのだった。
「間違っても炭坑掘り何かならないから、入ることもないと思うけど」
負けじと良太は口答えをする。
高校に向かう途中、パトカーが数台すれ違った。
「今日はやけに多いな」
「どっかで事故でもあったのかな?」
「それのせいで、バスが来なかったのかな」
父親に真摯(しんし)に答える、慎也に良太は
この二人が、親子なのかもしれないと、あきれ気味に見ていた。
父親は遅刻だったが、二人はギリギリセーフで、
正門をくぐり抜けた。
何とか遅刻にはならずに入れたことで、
二人は安堵(あんど)しながら教室へと向かう。
教室に入ると、関と鈴木がいない事に気づいた。
「関、来てないな」
「遅れてくるんだろう」
そんな会話をして二人とも席に着いた。
本当は、朝は笹川と話したかったが、昼休みか放課後がしかないな…
良太は朝会が始まるまで、笹川の方を見ながらそんなことを考えていた。
異変が起きたのは10時頃だった。
男子の一人が騒ぎ出したのだ。
「なぁ、関と鈴木が事故にあったらしいぜ」
「えっ?うそでしょ」
「マジマジ、さっき、俺、職員室で先生たちが」
「話してるの聞いちまったんだよ」
クラス全体にうわさ話が浸透していく。
「慎也、本当かな?」
「もし、本当なら、大騒ぎになるだろ」
「そうだよな」
そんな事を話していたら、
渡邊先生が教室に入ってきた。
青ざめた顔で、目が若干赤くなっている。
「皆さん、これから、全校集会になるのだが…」
「その前に、伝えておきたいことがあります」
「皆さん、落ち着いて聞くように…」
そういうと、
「関 和富君ですが、今朝、交通事故に合い…」
「残念ながら、亡くなりました」
「幸いなことに鈴木さんも、その事故に巻き込まれましたが」
「命に別状はないという事です」
クラス全体がざわつき、慎也と良太は事実を受け居られなかった。
その後の事は、頭が真っ白になってよく覚えていない…
昼からは高校が休校になって、
慎也と一緒に帰って、家についてショックで寝込んだはずだ。
慎也が、凄く青ざめた顔になっていたのは、印象に残ってる。
夜に笹川との、休日デートの返上を連絡したんだった。
そう、そして今日、関の通夜に行き、今こうして
いろいろ、思い出していた。
せっかくの楽しい連休になるはずが、
友の死で、なくなってしまったことに、
良太の心中は、ひどく複雑な感情に揺さぶられていた。
これから、どうすればいいのか。
部屋から見た空は、稲光と豪雨で、
良太の心を表しているようだった。
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