赤箱

夢幻成人

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箱災の章

転校

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 昨日はひどい夢だった。

最近は、三日、四日に一回は、悪夢で目が覚めてしまう。

気のせいか、だんだんと、やつれてきてるようなする。

良太は洗面台で、自分の顔をまじまじと眺めている。

目の下には青黒いクマが、日に日に濃くなってきていた。

いつになったら、この悪夢から解放されるのか……

そんな事を悩みながら、朝食を胃袋にかきこむと、

急いで着替えをし、家を出て行ったのであった。



 「おはよう」

「おぉ、おはよう」

お互いに元気のない、あいさつを交わすと、

後は学校まで、無言の状態となる。

関が亡くなってからは、何が原因かわからないが、

距離をおかれてしまった。

友人といるのに、無言を貫くのもつらいが、

慎也の顔を見ていると、とても話す気分になれない。

いつも、どこか遠くを見ているが、まるで生気を感じられない目になっている。

関の死が、これほど、いろいろなとこに響くとは思ってもいなかった。



 教室に入ると

「おっはよう!!」

いつも通りのあいさつをしている。

「おはよう、杉山」

クラスのみんなも、ポツリ、ポツリと返事をするだけで、

この半年近くで、変わってしまった。

あんなに急接近していた笹川とも、ゴールデンウィークのデートを返上してからは、

疎遠状態になっている。

それでも、無理に笹川に声をかけるようにしている。

「おはよう、笹川」

「おはよう、杉山君」

笹川にあいさつするが、あいさつが終わると、その後は終始無言になる。

誰が、悪いわけでもないが、この不満をどこにぶつければいいのか……

良太はやるせない気持ちを押し殺して、今日も学校生活を続ける。



 キーン・コーン・カーン・コーン

朝会が始まる、チャイムが鳴り響く、

渡邊先生が教室に入ってくる。

「おはよう」

「今日の朝会は、いつもと違って、話したいことがあります」

良太はとっさに構えてしまった。

一瞬、夢を見ているのではないかと……

「小森君、前に出てきてください」

先生がそう伝えると、良太の緊張は急になくなった。

ただ、夢と違って、全身が熱くなるような感覚と、

手ににじみ出た汗は現実だということを教えてくれた。

小森が教壇の前に立つと、先生が説明をし始めた。

「小森君は昨年の二月に転校してきましたが、残念なことに」

「今回、親御さんの都合で引っ越すことになってしまいました」

「そこで今日は、小森君にあいさつをしてもらいたいと思います」

「では、小森君お願いします」

先生が、そう言い終わると、小森が皆を見渡しながら口を開いた。

「皆さん、この度、転校する事になりました」

「二月から神鳴高校に通い始めましたが」

「最初は、クラスになじめませんでしたが……」

「皆さんが率先して、話などをしてくれたことで」

「僕はこうして、今日まで楽しく高校生活ができました」

「みなさんと離ればなれになってしまう事は悲しい事ですが」

「もし、機会がありましたら、今度、引っ越す先は東京ですので」

「ぜひ、遊びに来てください」

「今まで、ありがとうございました」

……

パチパチパチパチパチパチパチパチ

どこからともなく、拍手が沸き起こった。

クラスの皆はそれに続き拍手をし始める。

良太もみんなに合わせて手をたたく。

「小森、遊びに行く時は、よろしくな」

「小森君、向こうでも頑張ってね」

クラス中から声援が小森に送られる。

小森は、何だか、照れくさそうな笑みをこぼしながら、

軽い会釈をしている。

「はい、ということで、今日の朝会は終わります」

先生はそういうと

「小森、向こうでも頑張ってな」

と、伝えると教室を後にした。



 変わってしまった友人の態度、変わってしまったクラスメイトの反応、

変わってしまった笹川との距離、変わってしまった俺の日常、

多分、周りからは、

関が、いなくなったことだけの話にも見える。

だが、良太の中では、関の死がきっかけで、

元に戻れない日常に、投げ込まれたような感覚でいた。



 関が亡くなってから、一度だけ、倉庫に赤い箱を確認しにいった。

倉庫はきれいになっており、赤い箱は、なくなっていた。

確かに机に放り込んだはずなのに、跡形もなく存在していなかった。

関の名前が入った、赤い箱の話を耳にすることもなかったので、

先生が処分したのだと思った。

自分の赤い箱は、確認すらしていなかった。

関が亡くなったことで、学校中の危ない場所や、立ち入り禁止の場所は、

厳重に施錠されたのだ。

何とかはいれないか、潜入場所を探すために、

旧校舎の横にある焼却炉に、ゴミを捨てるふりをして、

足しげく通ったが、全ての窓が施錠されていた。

窓から中をのぞいてみたが、掃除された形跡はなかったことから、

少し安心していた。

ただ、気になったのは旧校舎の近くに、社があった事だった。

今まで気づかないくらい、ひっそりと建っていたが、

安全対策の一環なのか、社のまわりにフェンスがされたことで、

逆にその存在に気づいた。

高校の敷地に社とは似つかわしくないな、と感じたが、

旧校舎の周りで目立った行動が、できないことから、

社の確認はしないでおいた。

赤い箱の中身を見られていたら、多分、俺はこの世にいない。

良太は、まだ、自分が死んでいないことで箱が見られていないと、

確信が持てることだけが、今は、唯一の救いであった。



「おぃ、杉山、杉山聞いてるのか?」

体がびくっと反応した。

眠気と、自分の考えが交互に襲ってくる。

授業に集中できなかったが、

「すみません、考えことしていました…」

「あぁ…そうか…もぅ少、し真面目に聞け」

「はい」

日下先生は関が亡くなってから、

そんなに強く当たらなくなった。

このクラスの生徒に配慮しているのだろう。

良太はそんなことを考えながら、また、自分の世界へと入って行った。

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