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箱災の章
刹那
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朝のグランドは、身体に痛みを覚えさせるぐらい寒かった。
制服の上に、何か羽織る物を身に付けてくればよかったと、
良太は身震いをさせ、鳥肌が立つを腕をさすりながら、
思っていた。
旧校舎の方を見ると、工事用の大きな壁が出来上がっており、
大きな文字で『(株)中澤鉄工産業』と書かれていた。
先生の話では、修学旅行中に旧校舎を解体すると言っていたが、
解体の話を知っていたら、窓を割ってでも、中に入り、
赤い箱を回収しておくべきだったと、
今さながら後悔をして、唇を強くかみしめていた。
諦めの悪い性格ではあるが、修学旅行をドタキャンしても、
人に見つからず、中に入るには夜中になるだろうし、
工事の作業が終わると、あの、
大きな壁の入り口は厳重に施錠されるだろうと、
入り口に目を向けながら、空中で右往左往している鎖を見つめていた。
それでも、旧校舎を完全に撤去するには一週間以上かかるだろう。
それならば、修学旅行から帰ってきた時にでも回収するチャンスは、
まだ残っているはず、と考えながら
「はぁ……」
と、深く溜め息を付いた時に、同じ方向を見ている視線に気づいた。
誰が見ているのか、気になった良太はさりげなく、
その方向に目を向けると、そこには慎也が、ぼうぜんと立っていた。
一年の時に、一緒に探検した場所が取り壊されるのは確かに
慎也にとっても、つらいだろう。
そんな事を思いながら、慎也に話しかけてみる。
「おはよう、どうした?ぼー、として」
「あっ、おはよう、旧校舎どうしたのかなって?思ってさ」
「あぁ、解体されるらしいぞ、さっき、先生から聞いたよ」
「そ、そうなのか……」
どこか動揺した返事をする慎也、周りを見ても、
旧校舎の壁に興味を示す人は、良太と慎也を除いて他にはいなかった。
微かに頭によぎったのは、もう一つの赤い箱の存在である。
もし、あれが、慎也の物だったらとしたら、
今、こうして旧校舎に釘付けになっているのにも、
十分にうなずけた。
だが、真正面から赤い箱の話をするにもいかず、
変化球を投げて様子を伺うことしかできなかった。
「やっぱ、思い出の場所がなくなるのは、つらいよな」
「あぁ、そうだな……老朽化してて危なかったから」
「しょうがないと言えば、しょうがないけど……」
慎也の言葉には納得できるような、納得できないような
もどかしさしか残らなかった。
バスが校門の前に到着して、先生が点呼を取り始める、
各組、ひとりひとり名前を呼ばれていくが、
三年生は四クラス百二十名弱しかいない。
そんなに時間もかからず、点呼は終わりを告げた。
各クラス、一台ずつのバスに自分の荷物を入れて、
バスガイドにあいさつをして乗車をはじめる。
座席指定もないものだから、良太は慎也と一緒に座れた。
この位置からだと、笹川の頭しか見えないと気づいた時には、
少しだけ後悔をしていた。
バスにはクラス関係者の他に、
生活指導の鬼頭先生と数学の日下先生が乗車していた。
全員の乗車を確認すると、
バスは神鳴高校を後にし、まずは神鳴町へと向かって行った。
神鳴高校では進学クラスと就職クラスの二つがあり、
良太が在籍しているクラスは進学クラスであった。
そして、修学旅行はそれぞれクラスによって、
見学する場所が違っており、
合流するのは三重の伊勢神宮と決まっていた。
修学旅行一日目の予定は、進学クラスは山を迂回(うかい)して、
名古屋方面へと向かう。逆に、就職クラスは静岡へと向かって行く。
町中でバスは二手に分かれ、それぞれの目的地に向けて進んで行った。
山の中腹まで進むと、だんだんと霧が深くなり、
パラパラと小雨が降り注いできた。
曇り空の中、紅く染まった雑木林を眺めていると、
一段落したのか、バスガイドの自己紹介が始まった。
「神鳴高校の皆さん、こんにちは」
「こんにちは」
元気よくあいさつする、クラスメイト。
「皆さん、朝早いのに元気がいいですね」
「今日から、皆さん一緒に旅をさせてもらう」
「バスガイドの佐藤 春(さとう はる)です、よろしくお願いします」
「そして、運転手の斎藤 清(さいとう きよし)さんです」
「よろしくっ」
バスガイドと運転手があいさつを終えると、
バスガイドからお願いがされた。
「今、山の中を走っておりますが、急カーブが多いので」
「皆さんシートベルトを着用してくださいね」
「はーい」
クラス全員がシートベルトをカチャカチャ音を立てながら、
装着していた。
その作業中に今度は、学校側の紹介の番になった。
「シートベルトはいいですか?」
「はーい」
「それじゃぁ、自己紹介をしてもらいたいのですが……」
「まずは先生から良いですか?」
マイクを差し出された渡邊先生は、
今付けたばかりのシートベルトを外し、自分の席のところでたつと
「クラス担任の渡邊です」
「かわいい、バスガイドさんと旅ができて幸せです」
「先生、浮気!!」
「えっ、先生、ご結婚されてるのですか?」
「はい、ちょうど昨日が結婚一周年でした」
と、幸せ一杯な顔で返事をする。
「先生、子供は?」
「子供はまだ作る予定がありません」
「子供作ったら、クラス六十人みないといけないでしょ!!」
と生徒からの質問にのりにのって返していた。
「新婚旅行は?」
「はい、今日が、その新婚旅行にですね」
もぅ、そろそろいいですか?と言わんばかりに
バスガイドにマイクを返そうとする先生。
それを受け取ろうとした直後に、ありえない光景が目に入ってきた。
一瞬の出来事だった。
目の前を走っていたバスに落石が直撃したのは、
横に揺れ、スピードが一瞬で落ちた。
運転手がそれに気づいて急ブレーキを踏むが、
バスは間に合わず、目の前のバスに追突する。
大きく揺られる車内に、追突の衝撃で割れたガラスが
空を舞っていた。
制服の上に、何か羽織る物を身に付けてくればよかったと、
良太は身震いをさせ、鳥肌が立つを腕をさすりながら、
思っていた。
旧校舎の方を見ると、工事用の大きな壁が出来上がっており、
大きな文字で『(株)中澤鉄工産業』と書かれていた。
先生の話では、修学旅行中に旧校舎を解体すると言っていたが、
解体の話を知っていたら、窓を割ってでも、中に入り、
赤い箱を回収しておくべきだったと、
今さながら後悔をして、唇を強くかみしめていた。
諦めの悪い性格ではあるが、修学旅行をドタキャンしても、
人に見つからず、中に入るには夜中になるだろうし、
工事の作業が終わると、あの、
大きな壁の入り口は厳重に施錠されるだろうと、
入り口に目を向けながら、空中で右往左往している鎖を見つめていた。
それでも、旧校舎を完全に撤去するには一週間以上かかるだろう。
それならば、修学旅行から帰ってきた時にでも回収するチャンスは、
まだ残っているはず、と考えながら
「はぁ……」
と、深く溜め息を付いた時に、同じ方向を見ている視線に気づいた。
誰が見ているのか、気になった良太はさりげなく、
その方向に目を向けると、そこには慎也が、ぼうぜんと立っていた。
一年の時に、一緒に探検した場所が取り壊されるのは確かに
慎也にとっても、つらいだろう。
そんな事を思いながら、慎也に話しかけてみる。
「おはよう、どうした?ぼー、として」
「あっ、おはよう、旧校舎どうしたのかなって?思ってさ」
「あぁ、解体されるらしいぞ、さっき、先生から聞いたよ」
「そ、そうなのか……」
どこか動揺した返事をする慎也、周りを見ても、
旧校舎の壁に興味を示す人は、良太と慎也を除いて他にはいなかった。
微かに頭によぎったのは、もう一つの赤い箱の存在である。
もし、あれが、慎也の物だったらとしたら、
今、こうして旧校舎に釘付けになっているのにも、
十分にうなずけた。
だが、真正面から赤い箱の話をするにもいかず、
変化球を投げて様子を伺うことしかできなかった。
「やっぱ、思い出の場所がなくなるのは、つらいよな」
「あぁ、そうだな……老朽化してて危なかったから」
「しょうがないと言えば、しょうがないけど……」
慎也の言葉には納得できるような、納得できないような
もどかしさしか残らなかった。
バスが校門の前に到着して、先生が点呼を取り始める、
各組、ひとりひとり名前を呼ばれていくが、
三年生は四クラス百二十名弱しかいない。
そんなに時間もかからず、点呼は終わりを告げた。
各クラス、一台ずつのバスに自分の荷物を入れて、
バスガイドにあいさつをして乗車をはじめる。
座席指定もないものだから、良太は慎也と一緒に座れた。
この位置からだと、笹川の頭しか見えないと気づいた時には、
少しだけ後悔をしていた。
バスにはクラス関係者の他に、
生活指導の鬼頭先生と数学の日下先生が乗車していた。
全員の乗車を確認すると、
バスは神鳴高校を後にし、まずは神鳴町へと向かって行った。
神鳴高校では進学クラスと就職クラスの二つがあり、
良太が在籍しているクラスは進学クラスであった。
そして、修学旅行はそれぞれクラスによって、
見学する場所が違っており、
合流するのは三重の伊勢神宮と決まっていた。
修学旅行一日目の予定は、進学クラスは山を迂回(うかい)して、
名古屋方面へと向かう。逆に、就職クラスは静岡へと向かって行く。
町中でバスは二手に分かれ、それぞれの目的地に向けて進んで行った。
山の中腹まで進むと、だんだんと霧が深くなり、
パラパラと小雨が降り注いできた。
曇り空の中、紅く染まった雑木林を眺めていると、
一段落したのか、バスガイドの自己紹介が始まった。
「神鳴高校の皆さん、こんにちは」
「こんにちは」
元気よくあいさつする、クラスメイト。
「皆さん、朝早いのに元気がいいですね」
「今日から、皆さん一緒に旅をさせてもらう」
「バスガイドの佐藤 春(さとう はる)です、よろしくお願いします」
「そして、運転手の斎藤 清(さいとう きよし)さんです」
「よろしくっ」
バスガイドと運転手があいさつを終えると、
バスガイドからお願いがされた。
「今、山の中を走っておりますが、急カーブが多いので」
「皆さんシートベルトを着用してくださいね」
「はーい」
クラス全員がシートベルトをカチャカチャ音を立てながら、
装着していた。
その作業中に今度は、学校側の紹介の番になった。
「シートベルトはいいですか?」
「はーい」
「それじゃぁ、自己紹介をしてもらいたいのですが……」
「まずは先生から良いですか?」
マイクを差し出された渡邊先生は、
今付けたばかりのシートベルトを外し、自分の席のところでたつと
「クラス担任の渡邊です」
「かわいい、バスガイドさんと旅ができて幸せです」
「先生、浮気!!」
「えっ、先生、ご結婚されてるのですか?」
「はい、ちょうど昨日が結婚一周年でした」
と、幸せ一杯な顔で返事をする。
「先生、子供は?」
「子供はまだ作る予定がありません」
「子供作ったら、クラス六十人みないといけないでしょ!!」
と生徒からの質問にのりにのって返していた。
「新婚旅行は?」
「はい、今日が、その新婚旅行にですね」
もぅ、そろそろいいですか?と言わんばかりに
バスガイドにマイクを返そうとする先生。
それを受け取ろうとした直後に、ありえない光景が目に入ってきた。
一瞬の出来事だった。
目の前を走っていたバスに落石が直撃したのは、
横に揺れ、スピードが一瞬で落ちた。
運転手がそれに気づいて急ブレーキを踏むが、
バスは間に合わず、目の前のバスに追突する。
大きく揺られる車内に、追突の衝撃で割れたガラスが
空を舞っていた。
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