杀神(ころしがみ)

陽秀美

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第二話 落としのヤス

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 狭い取調室の椅子に腕組みをして腰掛けながら、安井は持月が現れるのをじっと待っていた。
 目の前の事務机を挟んで、向こう側にはもうひとつのパイプ椅子があり、あとは部屋の隅に若い書記官が壁の方を向いて座っているだけだ。殺風景な壁の一面にだけ、やや大きめな四角い窓が付いているが、向こう側は真っ暗で何も見えない。
 その窓の向こう、薄暗い隣の部屋では、森本と青柳が、立ったまま腕組みをして部屋の中をマジックミラー越しにじっと睨みながら、同じように持月を待っていた。
 安井は目を閉じ、先ほど森本たちと確認した事柄をゆっくりと、ひとつひとつ整理するように思い出していた。
 昨日の鑑識と司法解剖の結果から、新たないくつかの事実が判明した。
 まず、三人の死因だが、古木は鑑識の初見通り、左目を貫通した刃物による脳の損傷。腹部の傷は大量の出血を伴ったものの、それ自体では命を奪うほどのものではなかったようだ。
 凶器は刃渡り十二㎝の果物ナイフで、柄からは幸恵と臭の指紋が検出された。恐らくこの家で使っていたものだろう。
 松岡の死因はやはり拳銃によるもので、発射された弾丸は見事に彼の心臓を貫通していたそうだ。恐らく即死だっただろう。
 幸恵の死因もまた拳銃によるもので出血性ショック死だった。ただしこちらはわずかに急所を外れており、撃たれた直後はまだ息があったものと思われる。
 拳銃には松岡を含む複数人の指紋が検出され、その中には発見当時拳銃を握りしめていた臭のものも当然含まれていた。
 そしてひとつ不可解なのは、拳銃を調べると弾丸は一発しか撃たれておらず、しかもその際弾詰まりを起こして拳銃は壊れていたということだ。
 自動式拳銃の場合、ごく稀にではあるが、発射された弾丸の薬莢がうまく排出されず弾倉内に残ってしまい、次の弾丸を撃てなくなってしまうことがある。これを弾詰まりや、”ジャミング”と呼んでいる。
 つまり、拳銃は一度しか使われていないのに、二人の人間が殺されたことになる。
 事実、弾丸は幸恵の体内から発見されたもののみで、部屋中どこを探しても他には見つからなかった。
 次に、部屋の中や玄関、台所を調べた限りでは、外部からの第三者の侵入を物語るような痕跡は見つからなかったということだ。
 玄関のドアノブからは、持月の家族以外で指紋が検出できたのは松岡のみで、他に部屋の中に転がっていた何本かの酒瓶やグラスから松岡と古木の指紋が検出された以外は、持月の家族以外の指紋は検出されなかった。
 また玄関から台所を通じて部屋の中に至るまで、土足で誰かが立ち入った跡もなく、わざわざ玄関で靴を脱ぐようなのんびりした犯人でもない限り、アパートへの侵入者はいなかったというのが鑑識の見解だ。
 そしてこれも司法解剖の結果分かったことだが、幸恵の体内からは複数人の精液が発見された。詳しい鑑定の結果はまだ出ていないが、恐らく松岡と古木のものだろう。幸恵が二人にレイプされていたことが、これで確実になった。
 松岡と古木の胃袋の中からは、大量のアルコールが検出された。これは先ほどの指紋と相まって二人がこの部屋で酒を飲んでから凶行に及んだことを意味する。おそらく相当酔っていたハズだ。
「こいつら…人間じゃない」
 報告資料に目を通す青柳の唇の色が見る見る青ざめていくのを見ながら、森本が諦めたように言った。
「まぁ、ヤクザなんて、こんなもんだ。ただ、それを小さい子供の見てる目の前でやるってのは、ちょっとひど過ぎるな。持月への尋問で、ヤツと山縣組の関係を追及しようとした時、ヤツは自分は組の手伝いのようなことをしてはいるが、正式に盃をもらってる訳でもないし、組事務所にも滅多に出入りさせてもらえないと言っていた。自分の家の住所も、ごく一部の人間しか知らないとも。恐らくこの二人は誰かから持月の住所を聞き出し、亭主がいないのをイイことに初めから幸恵を襲うつもりで機会を伺ってたんだろう。大方どこかで飲んだ勢いでヤツの家に行き、酒の勢いを借りて幸恵を犯したってところだな。サイテーなヤツらだ」
「事件のことは持月に話したのか?」安井の質問に、森本はバツが悪そうに右の頬の辺りを人差し指で掻きながら答えた。
「いや、まだだ。本来ならすぐに被害者の家族である持月に伝えるべきなんだが、報告書が上がってきたのが昨夜の夜遅くだったんで躊躇した。それに、可能性としてはかなり低いが、もし今回の一件が真龍会の報復によるものだったら、事件を知ることで持月はますます口を閉ざして、もう何も喋らなくなっちまう恐れがあったからな」
 安井は森本の苦しい言い訳を見抜いた。一つ目は本当かもしれないが、二つ目の理由は完全に後からつけ足したものだ。鑑識の報告書にあるとおり、外部からの侵入者があった可能性は限りなく零だ。それに、門倉殺しはまだ外部に公表しておらず、持月の名前もまだ公にはされていない。内部にリーク者でもいない限り、警察関係者以外の者が持月のことを知るのは無理だ。
 持月だって人間だ。自分の家族が惨殺されたことを知ればかなりショックを受けるだろう。知らせる方も気が滅入るし、できれば損な役回りはしたくないと思うのが人情だ。
「まぁ、イイさ」そもそも今回の事件を持ち込んだのはこちらだ。安井はその損な役目を引き受けることにすると、青柳に向かって話しかけた。
「なぁ青柳、今回の取り調べはオレひとりで行いたいんだが、イイか?」
「えっ?」当然自分も取り調べに同席するものと思い込んでいた青柳は、完全に虚を突かれる格好になり、思わず聞き返した。
「お前さんに言うのも釈迦に説法だが、二人での取り調べは、数で相手に威圧感を与えたり、脅し役となだめ役など役割分担を決めて、相手を動揺させて真実を聞き出す場合には有効だ。しかし今回の場合、肝心なことは話さないにせよ、持月は既に犯行を認めたいわゆる”半落ち”の状態だ。そんな開き直った相手に脅し透かしは通用しにくいだろう。ましてや、例えチンピラでも多少の修羅場はくぐって来てるだろうから、なおのことだ」
「それに…」安井は続けた。
「これはオレの勝手な希望だが、できればサシで持月と話しがしたい」
 安井のやや思い詰めたような提案の言葉に、青柳は渋々頷くしかなかった。
「分かりました。それが部長殿のご希望であれば、自分は従います」
「ハハハ。皮肉を言うなって。お前さんは隣の部屋から取り調べの様子を森本部長と一緒に見てもらいながら、これまでのヤツの供述と食い違っていたり、疑問に思うことがあったら知らせてくれ。なっ、マスター」
「おい、そのあだ名はもう勘弁してくれや」森本は照れくさそうに笑いながら青柳の方を見て言った。
「だがな若いの、ヤスさんが持月とサシで話したいってのは、きっと何か考えがあってのことだ。もしかすると、こいつは久しぶりに面白いものが見られるかもしれないぜ。”落としのヤス”のお手並み拝見だ」
 聞き慣れない安井の呼び名を耳にすると、青柳は感心したように尋ねた。
「”落としのヤス”? へぇ、ヤスさんて、色んな呼び名を持ってるんですね」
 すると、森本がお返しだとばかりに安井の胸に拳を軽くポンと当てながら言った。
「いや、今のはオレが考えた」

 やがて、取調室のドアの向こうから、コツコツと廊下を歩くふたつの足音が聞こえ、徐々に大きくなってきたと思うと、ドアの前でピタリと止まった。安井は組んでいた腕組みをほどき、ゆっくりと目を開けた。
 軽いノックの後、「失礼します」という声と共に、取調室のドアがガチャリと開いて、ドアの隙間から若い巡査の顔が覗いた。
「持月容疑者を連れて来ました」巡査が部屋の中に入った後、その後から少し小柄の痩せたスエットスーツ姿の男が姿を現した。
 男は安井の顔を見て、一瞬、「おやっ」という表情を見せたものの、そのまま巡査に促されて安井の反対側のパイプ椅子に座り、手錠を繋ぐ紐が椅子の脚に固定されるのをじっと眺め、巡査が再び、「失礼します」と言って出ていくのを見送ると、安井の存在などまるで気にしていない様子で、見慣れたハズの部屋の様子を眺め回していた。
「やっと会えたな」と言いそうになるのをこらえて、安井はまず型通りに持月に黙秘権があることを説明すると、相手の名前、年齢等について間違いがないことを確認した。
 持月はさも面白くないという風に、「ハイ。ハイ」と答えながら、相変わらず安井の顔を見ずに机の上辺りを眺めている。
 前置きが済み、「さて」と安井が話を切り出そうとすると、いきなり持月は安井の方を見て、まるで相手を挑発するかのように言った。
「おたく、いつもの刑事さんじゃないね。どうしたの? いつものハンサムな刑事さんの知り合い?」
 安井は思わず怒鳴りつけそうになるのを堪えながら、努めて冷静に相手の質問に答えた。
「あぁ、そうだったな。これは失礼。自己紹介が先だったな。自分は刑事部捜査一課の安井というものだ。ちょっと訳あって、組対の森本部長に代わってお前さんに話を聞かせてもらいに来た」
「捜査一課?」持月の狡猾そうな、それでいてどこかに臆病さを感じさせる細長い目が、さらに細くなった。
「捜査一課の刑事さんがいったいオレに何の用だ? 門倉を殺した以外、オレは何もやっちゃいないぜ」
 安井は持月の気をわざと逸らすように、少し間を置いてから言った。
「まぁ、その話はいずれ追い追い話すとして…」
 安井は少し前のめりになって持月に尋ねた。
「アンタ、いったい何で自分の息子に”シュウ”なんて名付けた?」
 一瞬、持月は自分が何のことを尋ねられたのか分からない様子だったが、話題が自分の息子に移ったことに気付くと、改めて部屋の中を眺め回しながら言った。
「何で? って言われても…」
 そして、しばらく考えた後で、おもむろに気付いたようにパンと手を叩いた。
「そうだ! 面白いからだ!」
「面白い?」安井が持月の口から出た言葉を呑み込めないでいると、持月が続けた。
「だって、面白いじゃんかよ。名前に臭い字が付くなんて。自己紹介の時に、「”くさい”のシュウです」何て言ったら、みんな大笑いするに決まってるじゃねぇか。きっとクラスの人気者になって、友達もいっぱいできるぜ」
「フンッ」隣の部屋で森本がつまらなさそうに話を鳴らすのを、横にいる青柳は同じ思いで聞いていた。
「フウッ」ひとつ大きなため息をつくと、安井は改めて持月に尋ねた。
「なぁ持月。お前にとっては軽い冗談くらいのつもりだったんだろうが、そんな名前を付けられてシュウ君が苦しむとは思わなかったのか?」
「苦しむ? 何でだ?」持月は安井の言葉が全く理解できていない様子だった。
「自分の大事な名前をそんな笑えもしない冗談にされて、あの子が将来つらい思いをして一生過ごさなければならなくなるとは思わなかったのか? シュウ君はきっとずっとつらい思いをしてきた。そしてきっと今も苦しんでるんだ」
 シュウが不登校でほぼ毎日家にいたことは、昨日の付近への聞き込みの結果から安井にも分かっていた。恐らく名前のこともその原因のひとつだろう。しかし、そんな安井の声にも大して心動かされる様子もなく、持月は困ったような顔をしながら言い訳をし始めた。
「そりゃあ、たまには変なヤツにいじめられることもあるかもしれねぇけど、そんなヤツはよぅ、一発ブン殴ってやりゃすぐおとなしくなるってもんよ。オレも今までずっとそうやってきた。やられたらやり返す。これが鉄則だ」
 持月が訳の分からないことを言ってるのをよそに、安井はシュウの母親についても尋ねた。
「アンタの奥さんは、シュウ君の名前について反対はしなかったのか?」
「幸恵? アイツがオレの言うことに反対する訳はねぇ。アイツはホステスをやっていた頃にオレが拾ってやった女で、オレがいなかったらどうなってたか分からねぇような女だ。オレの言うことに逆らうなんて、絶対ありえ得ねえよ。自慢じゃないが、素直でビックリするくれぇ綺麗なイイ女だぜ」
 安井は昨日見た捜査資料に貼ってあった幸恵の顔写真を思い出した。確かにそこら辺の女優なら見劣りしてしまうほどの美貌の持ち主だ。色白の肌に肩まで伸びたややウエーブのかかった黒髪がよく似合う。二枚目の森本と並べたら、そのままドラマや映画が一本作れてしまいそうだ。
「奥さんとは、どんなきっかけで知り合ったんだ?」安井は半分は職務で、半分は個人的な興味で持月に尋ねた。
「十一年ほど前にアイツと出会った頃、アイツはまだ田舎から出たてで、大宮の小さなキャバレーでホステスをしていた。オレはアイツに一目惚れしちまって何度もその店に通い詰めたんだが、何ともうまく行かねぇ。しばらくして、オレはその店が陰で”ウリ”をしてるってことを聞きつけて、幸恵に店を辞めてオレと一緒に暮らさないかって誘いをかけたんだ」
 ”ウリ”とは売春のことで、当時はまだ表向きは健全な営業をしながら、裏で売春や麻薬の密売などを行っている店が少なくなかった。
「あいつは最後まで渋っていたが、オレが半ば強引にアイツを連れ出して、浦和のアパートで一緒に住み始めたんだ。それからすぐにシュウが生まれて、オレたちは正式に夫婦になった。オレは今でも良かったと思ってるよ。もしあのまま店にいればきっとアイツも他の女たちと同じように、体で稼がされてシャブ漬けにされて、最後は使いものにならなくなっちまうのがオチだ」
「なるほど」安井は持月のアパートで見た、幸恵の変わり果てた無惨な姿を思い出しながら、つい真実を告げようとはやる心を抑えて尋問を続けた。
「ところでまた息子のシュウ君の話に戻るが、彼が興味を持っていたこととか、何か好きそうなものとかはなかったか?」
 なぜ家族のことばかり尋ねるのだろうと不思議に思いながら、それでも持月は天井の辺りをボンヤリと見つめながら答えた。
「さあな…アイツはちっちゃい時からおとなしくてあんまり喋んなかったし、正直オヤジのオレでさえ何を考えているのか分からねぇところがある子供だから。好きなモンって言われても…」
 持月はしばらく考え込んでから、「そういやあ」と思い出したように安井の方を見て続けた。
「興味があるっていうのとは違うかもしれねぇが、アイツは時々何か変なモンに取り憑かれたようにおかしなことをする時があったな。例えば三歳くらいの頃だったか、アイツを珍しく公園に連れて行ってやった時、アイツが公園の隅っこの方で何か踊ってるような、足踏みしてるような格好をしてるから、そばに行って、「何してるんだ?」って尋ねると、足元に蟻の巣があって、そこから次から次へと湧き出てくるアリンコを足で何度も何度も踏み潰してやがるんだ。オレが何でそんなことするんだって聞いたら、「気持ち悪いから」ってひとこと言ったきり、また繰り返し繰り返し踏み潰しやがる。まだ分別もつかねぇガキのすることだと思いながらも、正直その時のオレは少しゾッとしたよ。それからアイツが五歳くらいの頃だったかな。近所のガキの親から突然連絡がきて、「オタクのお子さんがウチの子の鼻を嚙んだ」って言うんだよ。それで幸恵と一緒にそのガキの家へすっ飛んで行ったら、そのガキの顔の真ん中に大きな絆創膏が貼ってあって、たった今病院から帰ってきたばかりだって言うんだ。何でもシュウとそのガキが近所で遊んでいて、にらめっこをしていたら急にシュウがそのガキの鼻に噛みついたらしい。絆創膏を剥がして傷跡を見せてもらったら、さすがに食いちぎられてはいなかったが、そのガキの鼻にシュウの歯形がくっきりと付いてやがった。オレは帰ってからシュウのやろうをどやしつけて、「何であんなことしやがったんだ!」って聞いたら、シュウは悪びれた様子もなく、「だってトモくんのお鼻をじ~っと見ているうちに、何だかとっても気持ち悪くなっちゃったんだもん」と抜かしやがる。確かに日頃から喧嘩には負けるなって言ってきたが、今回のは話が別だ。オレはシュウに何もしない相手の鼻を嚙むのはダメだって教えてやったんだが、どうにも分かったんだか分からなかったんだかハッキリしねぇ顔をしてやがったな」
 持月から思いがけないシュウの過去について聞かされると、安井は思わず左手の指で目頭を押さえた。まさか、シュウにそんな残酷な一面があったとは。
(子供ってのは、時々大人が考えもつかねぇようなことをやりやがる)
昨日の森本の言葉が思い出された。
 まさかと思って一度は打ち消そうとした安井の悪い予感だったが、その可能性が現実味を帯びてきた。散々悪事を働いてきた持月が言うのも白々しいが、確かに幼い頃のシュウの行動には何か得体の知れない恐ろしさを感じさせるものがある。目の前で母親が犯されてまともな精神状態ではなかった上に、幼少期に見せた命というものの尊さに対する致命的な欠如が加わり、何か特殊な条件が揃えば、あるいは…
 安井は次から次に湧き上がってくる自分の恐ろしい考えに、辛うじて耐えるのが精一杯だった。
「ところで…」そんな考えをいったん振り払うかのように、安井は別の質問を持月にぶつけた。
「門倉を殺したのが、七月十三日だったのは何か理由があったのか?」
 事件のことを聞かれると、とたんに持月は不機嫌な顔になった。
「またその話かよ。その話ならもう何度も刑事さんに話したぜ。何も意味なんてねぇよ。た・ま・た・ま。たまたまだ」持月はうんざりした様子で続けた。
「門倉のヤツを殺ってやろうと決めてから、オレはヤツの後をこっそりつけ回して、ヤツを殺す機会を伺ってたんだ。そしたらつけ始めてから三日目の晩に、ヤツがちょうどひとりで店に入っていったんで、これはチャンスだとばかりに少し待ってからその店に入ったら、ヤツが背中を向けてカウンターでひとり飲んでやがる。オレはやるなら今しかねぇと思って、黙ってヤツの後ろに近付き、鉛弾を三発ほどブチ込んでから、そのまま何食わぬ顔で店を出ていったんだ」
「本当にそうなのか?」すかさず安井が口を挟んだ。
「悪いがこの取り調べの前に今までのお前さんの供述調書を読ませてもらった。確かにあの日門倉を殺害したのは偶然だったと言ってるが、オレにはどうもそうは思えないな」
「フンッ。ヤスさんめ、オレたちと同じことを考えてやがる」隣の部屋で腕組みをしたまま、森本がかすかに口元を緩めた。
「いくらつきっきりで尾行していたとはいえ、真龍会の若頭を務める門倉がひとりになるタイミングに、持月がそうそううまく出くわすとは考えられねぇ。オレたちは真龍会の連中に門倉の日頃の様子を聞いてみたが、さすがに組の幹部だけあって、ヤツがひとりになることはほとんど無かったそうだ」
 隣にいる青柳に語って聞かせるように森本は続けた。
「だが、本当にわずか、月に一遍くらいヤツがひとりになる瞬間があり、それがあの西川口の「愛夢」って店だった。ハッキリした日は決まってなかったらしいが、その日になるとヤツは組の者に店まで送らせて、三時間くらい飲んだ後また迎えに来させて帰って来たらしい」
「お前は門倉を殺すに当たり、前もってヤツがあの店に立ち寄るおおよそのタイミングを、誰かに教えてもらってたんじゃないのか?」安井は詰め寄ったが、持月は少しも動じること無く、まるで子供相手に諭すような口振りで答えた。
「だぁ~かぁ~らぁ~。そんなの知らねぇって何度も言ってるんだよ、オレは。本当に偶然なんだから。ヤツがお供の者に連れられて車で組事務所から出て行くから、オレはまた何かの集まりにでも出掛けるのかと思って、用意していた車で後をつけていったら、たまたまアイツがひとりで車から降りたんだ。きっとオレにツキがあったんだよ。オレ様も大したモンだぜ」
 おどけて見せる持月に、安井は疑惑の眼差しを向けながらも、次の質問に移った。
「もうひとつ聞くが、門倉を殺した拳銃はどこで手に入れた?」
安井の分かりきった質問に、門倉は勘弁してくれよとばかりに横を向いた。
「刑事さん、アンタもオレの供述調書読んでるんなら分かるでしょ。あれは知り合いの売人からヤミで仕入れたものだって。オレは何度も説明したハズだよ」
「ならば聞くが、その調書にはお前がいつ、誰からその拳銃を仕入れたかが一切書かれていない。まさか忘れた訳じゃあるまいな」
「あのね刑事さん。アンタもベテラン刑事さんみたいだから分かると思うけど、オレたちの世界は信用が第一なの。オレがハジキの入手ルートを喋っちまったら、当然そいつらはしょっぴかれて仕事ができなくなる。そうなれば、逆に困るのはこのオレだ。連中の仲間にはサツの内部に繋がりを持ったモンもいる。そいつらが誰が喋ったかを知れば、二度とそいつらはオレを相手にしてくれなくなるし、そうなれば組にだって迷惑をかけることになる」
「チッ」森本が軽く舌打ちをした。
「アンタらはオレが組からハジキを渡されたんじゃないかって疑ってるようだが、オレみたいな下っ端の下っ端が組からハジキを譲ってもらえねえことくらい、百も承知のハズだ。仮に万が一そうだったとしても、オレが死んでもそんなこと喋れる訳がねぇことぐらい、アンタたちにも分かるだろう?」
「ふっ」安井はわずかにほくそ笑むと、壁の四角い窓の方を見上げ、その向こう側にいる安井たちに確認するように軽く頷いた。今持月が言ったことは、どれもこれまでの供述通りだった。これ以上ヤツを焦らしても何も得るものは無いだろう。安井は再び持月の方を向き直って言った。
「悪かった。本当はこんな話をするためにここに来たんじゃないんだ。さて、話をまたお前の女房に戻すが…七月十七日に幸恵さんがここで取り調べを受けたのは、知ってるな?」
安井は持月の勝ち誇ったような表情がわずかに歪むのを見逃さなかった。
「幸恵さんがさっきオレが質問した内容について、お前が話した以外の何かを握っている可能性は高い。当然のことながら、そう思った組対の森本部長はあくまでも任意で幸恵さんに来てもらい、今の件も含めて色々と話を聞かせてもらってる。オレはその時の調書も読ませてもらったが、どうだ持月、お前その内容が気にならないか?」
「来たな」隣の部屋にいる森本が、思わず組んでいた腕をほどいて拳を握りしめた。
 先ほどまで見せていた余裕はどこかに陰をひそめ、落ち着かない様子で辺りを見回している持月に対し、安井はさらに揺さぶりをかけた。
「ここだけの話だが、お前が望むならオレはその話をしてやってもイイと思ってるよ。森本部長は怒るかもしれないが、オレは別に組対のメンバーでもないし、逆にその話を聞いてお前がどう反応するか、この目で見てみたい気もする」
「なるほど。ヤスさんがひとりで尋問をしたいと言った理由が分かったぜ」森本はしたり顔で隣の青柳に説明した。
「持月が一番恐れているのは、妻の幸恵が組からの殺人依頼について喋っちまうことだ。実際幸恵はほとんど何も喋らなかったから、調書には特別書かれていることも無いんだが、ヤスさんはその持月の弱点と、自分が捜査一課の人間であるという立場を利用してヤツに内緒話をもちかけた。確かにこれは横に誰か他のメンバーがいたらできない芸当だ」
 持月はしばらく首をうなだれて何かを思案している様子だったが、おもむろに肩を揺らし始めるとやがて天井を見上げて大笑いを始めた。
「ハッハッハ、冗談言ってもらっちゃ困るよ刑事さん。アンタそうやってオレを脅して何かボロが出るのを狙ってるのかもしれないが、悪いがその手には乗らねぇよ。さっきも言ったとおり、幸恵はオレに対して恩義を感じてるんだ。オレが困るようなことをアイツが喋る訳がねぇ。いくら突っついたって、アイツが何も喋らねぇのは、オレが一番分かってるよ」
すると、そんな持月の笑い声につられるように目の前の安井も笑い出し、「そうかぁ、やっぱり甘かったかぁ」と、しばらく二人の場違いな笑い声が取調室の中に響いた。
「確かに、お前の奥さんは何も喋らなかったよ。自分はあの人が外で何をやっているのかはよく知らない。ただ息子のシュウと一緒にアパートであの人の帰りを待つだけだって言ってたらしい。もしそれが本当ならお前の奥さんは綺麗な顔に似合わず大した度胸の持ち主だ」
話題がシュウのことに触れると、持月の顔から笑顔が消えて一瞬だけだが父親らしい表情が浮かんだ。
「お前の言うとおり、幸恵さんはきっとお前が昔自分を救い出してくれたことに感謝をしてたんだろう。お前が今回しでかしたことにどんな裁きが下されるかは知らんが、いつかお前がきっちりと務めを終えてまたシャバに戻る日が来れば、もう一度三人で仲良く暮らすこともできたかもしれないが…」
やや神妙な面持ちで話を聞いていた持月が、安井の言葉が奇妙な形で途切れたことに怪訝そうな顔をすると、安井はフッと一息ついた後で唐突に切り出した。
「実はおとといの夜、幸恵さんがアパートで殺害された」
「はっ…?」持月の顔から一瞬にして全ての表情が抜け落ちた。
「山縣組の松岡と古木は知ってるだろう。何しろお前の兄貴分らしいからな。その二人によって幸恵さんはアパートで強姦され、そのまま殺されていた。だが幸恵さんを殺したのが誰かはまだ分からない。なぜならその二人も幸恵さんと一緒に同じアパートで遺体となって発見されたんだからな」
いったい何を言ってるんだか訳が分からないといった顔で安井の言葉を呆然と聞いている持月に対し、安井は事件の概要を説明した。
「肝心のお前の姿が見えないんで、オレが何とか息子のシュウ君に話を聞こうとしていたところに、お前が門倉殺しの容疑で県警本部に勾留されているという連絡が入って、オレと部下はさすがに驚いたよ。灯台下暗しとはまさにこのことだ」
説明を続けているうちに持月の顔が見る見る青ざめていくのが、ガラス窓越しに森本の目にもはっきりと見て取れた。無理もない。たった今褒められたばかりの自慢の女房が殺されたと告げられたのだから。持月の体はショックと徐々に湧き上がってくる激しい怒りで、小刻みに震え始めていた。
「なぁ持月、オレは何としても犯人を見つけ出したい。幸恵さんを殺し、シュウ君をあんな目に遭わせた犯人をこの手で見つけ出して、その罪を償わせたい。そのためには犯人に繋がる情報がどうしても必要なんだ。もしかしたらお前が知っていることで何かが掴めるかもしれない。お願いだから本当のことを話してくれないか」
「何で…だ。」
「はっ?」持月の低く呟くような声に安井は思わず彼の顔を見つめた。
「何でアイツらがオレの家を知ってるんだ!」やがて持月の用心深さを伺わせる細長い目が大きくなっていき、血走っていった。
「オレは普段から幸恵のことにはとりわけ用心してきたんだ! あれだけの器量の女がアイツらの目に留まれば当然タダで済むハズがねぇ。だから幸恵には組のことはほとんど話さなかったし、組の連中もオレのアパートに近付けないようにして、幸恵を組から遠ざけてきたつもりだ。それが何で…何でアイツらがオレのアパートに行ってオレの女房を手込めにしなきゃならないんだ!」
先ほどまで憎らしいくらい狡猾に振る舞っていた持月が明らかに落ち着きを失っていく様を見て、隣室の森本は風向きが変わりつつあるのを感じていた。
「ふふっ、本当にそうなのか?」軽くほくそ笑むと、そんな持月に安井はさらに追い打ちをかけるように言った。
「昨日行った山縣組と幸恵さんが勤めていたスーパーへの聞き込みによると、お前さん随分と女房のことを吹聴していたそうじゃないか。オレの女房は日本一だとか、こんな女と結婚できてオレは最高の幸せ者だとか。」
「亭主が女房の自慢をして何が悪い! それに、だからってアイツらがオレのアパートを探し出せることにはならねぇよ。例え誰かに…」そこまで言った時、一瞬持月の顔にハッと何かを思い出したような表情が浮かんだのを安井は見逃さなかった。
「誰かに…誰に聞いたと思ってるんだ。何か思い当たる相手でもいるのか?」
「いや、あり得ねぇ。あり得ねぇよ…」持月の表情には明らかに狼狽の色が見えた。
「お前、本当は松岡と古木に門倉殺しを頼まれたんじゃないのか?」安井がわざととぼけて見せると、持月は苛立ちを隠せない様子でまくし立てた。
「だからあいつらは関係ねぇって言ってるだろうが! アイツらは組の中でも下っ端の方だ。そんな連中がオレとねぇさん…」そこまで言った時、持月は初めて自分が安井の罠に引っ掛かったことに気付き、しまったといった表情で安井の顔を見つめた。
「掛かった!」隣室の森本が思わず青柳と顔を見合わせた。
「ねぇさん? 誰のことだ?」
「いや…だから、ねぇさんって言ったら決まってるだろうが。オレの姉貴だ」
「ふざけるなっ!」そこで初めて安井は大きな声で一喝し、机を手でバンッと叩くと立ち上がった。
「お前に姉がいないことなどとっくに調べがついてるんだ。とぼけてないでさっさと本当のことを言え! ねぇさんってのは組の人間か!」
「山縣 綾子…」安井の質問に代わりに森本が答えた。
「殺された山縣組の若頭の女房だ。オレはどうもこいつが怪しいと思って睨んでたんだ。亭主を殺されて、組の中で真龍会に一番恨みを持っているのは綾子だし、持月に門倉殺しを依頼できるほどの幹部クラスともなるとそうはいねぇ。オレたちは何とか綾子を引っ張ろうとして色々と探ったんだが、なかなかこれだという確証が得られずに往生してたところだ。それにしても、オレたちが何日も締め上げても一言も喋らなかった持月の口をたった数十分の尋問で割らせちまうとは、お前の上司は大したモンだぜ」
森本の褒め言葉に青柳はまるで自分のことのように鼻の辺りを掻いて照れくさそうにしながら、しかし次の瞬間には真顔になって応えた。
「でも、肝心のアパートでの事件のことは何も分かりませんでしたね」
「いや、オレはそうは思わねぇよ。ヤスさんは今回の尋問で、アパートでの殺しの謎を解く大きな手掛かりを掴んだハズだ。ただし、それをヤスさんがどう思ってるかはオレには分からないがな」
「ちくしょう。もう何もかもおしまいだ。いったいオレは何のためにやったんだ。幸恵が死んじまっちゃ元も子もねぇだろうが…」
机の上を見つめながらうわごとのように呟く持月の姿を見下ろしながら、安井はあのシュウの虚ろな眼の中に刻まれたであろう恐ろしい光景が、少しずつ具体的な形をもって迫ってくるのを感じ始めていた。

その後、持月は門倉殺しの全てについて自供した。七月六日に綾子が突然アパートを訪ねて来たこと、自分に門倉を殺害して欲しいと依頼され、門倉がひとりになりそうなタイミングを教えてもらったこと、その際持ってきた拳銃を渡されたこと、犯行が成功したら速やかに自首をして組との関係は一切語らずに、おとなしく罪を認めて裁きを受けて欲しいと言われたことを、持月は淡々と説明した。またこの話は組の誰にも話していないから、今後一切組員にも決して話さないで欲しいと言われ、無事刑期を終えて出所した暁には自分が責任を持って面倒をみると言われたとも語った。
持月への殺人教唆と銃刀法違反の容疑で逮捕された綾子の供述も、持月の供述を裏付けるものだった。なぜ持月に門倉殺しを依頼したのかという質問に対しては、もちろん組を守るためという理由もあったが、皮肉にも組のメンバーではないチンピラの持月が、一番安心して頼めそうな相手だったとのことだった。ただひとつだけ違っていたのは、犯行が行われた数日後に松岡と古木にだけ、いくら自分の復讐のためとはいえ家族のいる持月を刑務所送りにしてしまうのは心苦しい。せめて兄貴分のお前たちが持月の家族のことを面倒みてやって欲しいと、つい持月のアパートの住所を教えてしまったのが間違いだったと涙ながらに語ったことだった。

数ヶ月後、組対の執務室で自分の机に向かって何やら難しそうな顔で報告書に目を通している森本のもとを、青柳が訪ねた。
「ご苦労様です。森本巡査部長殿」おどけた様子で軽く敬礼する青柳に対して、森本は苦笑いで答えた。
「おいおい、勘弁してくれよ。あだ名も参っちまうが、そんな呼び方をされるとケツの穴が痒くなっちまう」
「ところで、持月の刑期、確定したそうですね」笑顔を返した後で、青柳が尋ねた。
「ああ。殺人罪と銃刀法違反で懲役八年。自首したことと殺人教唆の件がものを言って、大幅に減刑された。もしヤツが更生してムショの中で大人しくしてくれりゃ、もっと早くシャバに出て来れるだろうよ。そっちの状況はどうだ?」
森本がすかさず返した質問に、青柳はバツが悪そうに頭を掻きながら言った。
「いやぁ、こっちの方は全然です。犯人の手掛かりになるものはその後も見つかってないし、聞き込みの結果もサッパリです」
「ヤスさんはどうしてる?」
「はい。現場の遺留品を調べたり、シュウ君の所へ行ったりしてますが、相変わらずらちが明かない様子でさすがに疲れきってます」
「あの子は、やっぱりまだダメなのか」
「ええ。事件の後で警察病院に入院し、そこで色々と治療を試みているんですが、何を見せても何を言ってもとにかくほとんど反応が無くて、時々聞き取れないくらいの小さな声で何かをブツブツ呟いてみたり、自分の手のひらをじ~っと眺めてるだけだったり、とてもまともに話が聞けるような状態じゃありません」
「そうか…」森本は読みかけていた報告書を机に置き、左手で軽く目頭の辺りを揉みながら言った。
「実は、あれからオレもあの事件のことが気になってしかたないんだ。考えたくはないが、状況証拠だけからすると犯行はあの少年の手によって行われたと思うのが妥当だ。しかしいったいどうやったら十歳の子供が大の大人二人と、おまけに自分の母親まで殺しちまうことができるのか、いくら考えてもサッパリ分からねぇ。何か得体の知れない神様でもいない限りそんなことは無理だろう。なぁ青柳、本当にオレはますます知りたくなってきたぜ。いったいあの夜に、あの場所で何が起きたのか…」
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