杀神(ころしがみ)

陽秀美

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第五話 一枚の絵

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長いトンネルを抜け一気に視界が広がったと思うと、あっという間に列車は駅のホームに滑り込んだ。
駅に降り、わずか二両ばかりの編成の列車を見送ると、シュウはたったひとりでホームに立ったまま改めて周囲を見回した。
自分の目線より高い位置を並行して走る二本の道路は長い橋脚に支えられ、それぞれがまるで宙に浮いているようだった。そしてその道路の足元の向こう側に、かすかに水平線が覗いている。
海の反対側にある駅舎に向かうためには、一度ホームから降りて線路の上を渡らなければならない。ほんの短い距離だが、シュウはなぜかその小さな踏み切りを渡るのにエラく緊張した。
駅舎の中には駅員はおろか自動改札機も無く、切符をどこに通せばイイのか分からないまま、シュウは駅舎から目の前の狭い道路へと出た。
道路の向こう側にはやや大きめの、周辺案内のイラストが描かれた看板が立っており、看板に向かって右側の方には道の駅やいくつかの観光名所があり、左側の方には何も無いことが分かった。シュウは左側の方に行くことにした。
車もほとんど通らない道路を少しずつ上りながら道なりに左にカーブして行くと、やがて先ほど駅のホームで見たひとつ目の高架道路の下をくぐって、向こう側を走るふたつ目の道路の前までやって来た。そこまで来てシュウはようやく最初にくぐってきた道路が高速道路だったと気付いた。目の前の道路は幅が広い幹線道路で乗用車やトラックがスピードを上げてひっきりなしに走っていた。
信号機のある横断歩道を渡って反対側に行くと、そこには遥かに見下ろす形で広大な海が広がっていた。
「うわぁ」突然の絶景にシュウは思わず声を上げた。美しい青空の下、早春の海はどこまでも澄み渡り穏やかな水面をたたえていた。遠くから時おり吹いてくる風はまだ少し冷たさを感じさせるものの、心地良さを残してシュウの頬を駆け抜けていった。
下の方を覗くと、海に向かって左手の方には浜辺が広がっており、ひとりの男性とおぼしき人物が手に細長い棒のようなものを持って歩いているのが見える。下を向いてしきりと何かを探しているようにも見えるがその目的は定かでない。浜辺の掃除でもしているのだろうか。シュウは首をかしげた。今自分が立っている道路から地面までは高さ十五mはあるだろうか。道路から浜辺まで降りられるような階段は無く、下まで降りていって尋ねることもできなかった。
海に向かって右手側は切り立った崖がどこまでも続いていた。途中まではコンクリートで補強されているものの、その上は一面緑の葉に覆われてうっそうとしている。遠くへ行くほどその高さは増していくようだった。今自分がいる道路はすぐにトンネルに吸い込まれており、その先がどうなっているのかは分からなかった。ふと見るとトンネルの横に細い脇道があり、崖に沿って歩いて行けるようだった。シュウがその脇道をしばらく進むと、その先は緑に覆われたコンクリート製の隧道となっており、薄暗い入り口が不気味そうに口を開けてシュウを待ち構えていた。
隧道の手前には工事用のフェンスが設置され立ち入り禁止の看板が掲げられているが、構わずに中に入っていくと、暗く湿っぽい隧道の中には道路工事用の資機材が脇に並べられている。恐らくこの道路は幹線道路ができる前の旧道跡で、今は使われることなく物置き代わりにされているのだろう。海側の壁は格子状になっており、格子の隙間からは光が差し込みわずかに外の景色が窺える。さらにその奥を進んでいくと、やがて隧道が途切れ、再び海を一望できる切り立った崖の上に出た。道路脇に立って下の方を見下ろすと、うっそうとした緑の草に囲まれた崖のさらにその下に、小さな入り江が美しく光を浴びてキラキラと輝いているのが見える。その青みがかって透き通るような水面はまるで見る者を吸い込む美しさがあり、水深が浅いせいか海底を転がるいくつもの石ころがはっきりと見えた。
シュウはもう一度顔を上げ眼下に広がる大きな海の向こうにある水平線の方を見た。波ひとつ無く穏やかに佇む海は、限りない愛情に満ちた母の深い懐を思わせた。
「母さん…」優しかった母の面影をその彼方に追い求めるようにしばらくじっとその場に佇んだ後、シュウはゆっくりと目を閉じて手すりの向こう側に体を預けようとした。
「こらボウズ! こんげな所で何してる!」
突然声を掛けられ驚いたシュウが振り返ると、そこには白髪の痩せこけた老人がこちらを睨んで立っていた。
「入り口の立ち入り禁止の看板が見えなかったんか。しかもそんげに身ぃ乗り出して危ねぇねっか」老人は声を荒げてこちらに近付きながら今にも襲い掛かりそうな雰囲気だった。シュウは手すりから離れ後ずさると、下を向いて謝った。
「ス…スミマセン」
老人は目の前に立ってしばらくシュウの顔をじっと見つめると、先ほどとはうって変わってゆっくりと落ち着いた声で言った。
「おめぇ、この辺のモンじゃねぇな。」
シュウは黙って下を向いたまま何も喋らずにいた。
「どこから来た? ひとりか?」
なおも続く質問に相変わらず押し黙っていると、老人は諦めたようにシュウの顔から視線を外して言った。
「フンッ。だんまりか」
そしてシュウの横に並び海を見下ろしながら、誰にともなく呟いた。
「昔この辺を旅するモンはこの崖下の波打ち際を歩いて行くことしかできんかった。今みたいな立派な道路は無かったすけ。随分命を落としたモンも多かったろうて。例え親子でもお互いの身ぃ案じてる余裕はねぇ。それでこの辺は「子不知」と呼ばれとる。「親の心子知らず」の「子不知」だ」
ふと横を向いて少年の顔を見ると、自分の言っていることの意味が分かっているのか分かっていないのか、じーっと黙って崖の下を見つめている。やがて老人はため息をひとつつくと、くるりと回ってシュウに背を向けながら言った。
「ついて来い」

老人の後について先ほど通ってきた道を戻り、再び横断歩道を渡って高速道路の下をくぐると、駅に向かう道の途中を左に曲がり老人は小さな集落のある方に向かった。
「この辺は「歌」と呼ばれとる。なぜそう呼ばれるのかはワシにも分かんねぇがな」
シュウは老人が自分を交番に突き出すのではないかと思いヒヤヒヤしたが、そのまま集落を行き過ぎ、小さな川に沿ってさらに奥の方に進んだ。しばらく川沿いに進み小さな工場らしきものを通り過ぎると、やがて廻りは青々とした木々に囲まれて家屋の姿も見えなくなった。いったいどこに連れて行かれるんだろうと不安になり始めた時、川のせせらぎの中にひっそりと佇むように、黒っぽい屋根に白いトタン板貼りの小屋が道の奥に見えてきた。
老人はさっさと小屋の中に入った後、入り口で躊躇しているシュウに向かって呼び掛けた。
「こら、何しとる。はよぅ入らんか」
言われるまま恐る恐る玄関から小屋の中に入ると、そこは意外に広く二間続きの手前にある居間の隅には台所が据え付けられていた。年寄りのひとり暮らしらしい殺風景な部屋だったが、ひとつだけ目を惹いたのは窓際に飾られた一枚の絵画だった。
その絵は小さめの額に飾られた抽象画で、さっきシュウが見たばかりの美しい海を思わせる深い青を中心に色とりどりの石ころの様な円がいくつも描かれ不思議な模様を形作っていた。
「おめぇは奥の部屋へ行け」その絵に思わず見とれていたシュウが我に返り老人に促されるまま奥の部屋に通されると、そこは小さな整理ダンスがふたつほどあるだけのガランとした六畳間で、床に敷かれたベージュ色のカーペットが寂しげに珍客を出迎えていた。
シュウは部屋の真ん中に腰を下ろし、窓の外の風景を見つめた。うっそうと生い茂る木々が風に揺られる様を黙って眺めていると、居間の方から老人がお茶と菓子を持ってやって来た。
「家出にしてはエラく身軽だな」そう言うと老人はシュウの目の前にそれを置いた。
「腹減ってんだろう。食いなせぇ」
そこで初めてシュウは自分がものすごく腹が減っていることに気付いた。昨夜から長い距離を歩き、延々と電車に揺られたが、その時は空腹を感じている余裕もなく、ただただ少しでも早く母のもとに行きたいという思いでいっぱいだった。
「あのぅ…」差し出された菓子に飛びつきそうになるのを堪えながら、シュウは老人に尋ねた。
「オレのこと、ケーサツに突き出そうとしてるんじゃないの?」
「ケーサツ?」一瞬きょとんとした顔を見せたかと思うと、老人はいきなり大声で笑い出した。
「ハッハッハ。ケーサツか。そりゃあ傑作だ」そして居間の方に戻りながらシュウに向かって言った。
「安心しろ。ケーサツはワシも嫌いだ」

その日の晩、老人はシュウに晩メシを作ってくれた。晩メシと言っても大きな椀に魚の切り身と葱が入っただけの素っ気ない味噌汁のようなものと、茶碗飯に漬物といったあっさりとしたもので、ご馳走になる身としては申し訳ないが、シュウは正直ガッカリした。しかし椀に口をつけてみると、これが意外と美味かった。白身の大ぶりの切り身にはダシと味噌の塩味がほど良く染み込み、ご飯と一緒に頬張るといくらでも口に入った。やや小骨が多いのは難点だがシュウは夢中になって小骨を吐き出しながらあっという間に平らげた。
「どうだ。うんめぇか。お代わりもあるすけ」シュウは素直にその言葉に従った。二杯目の椀をすすりながらシュウは尋ねた。
「この魚、何ですか?」
すると老人は珍しくも何ともないといった顔で答えた。
「タラだ。この辺じゃ腐るほど採れる。タラ汁食うのは初めてか?」
シュウは黙って頷いた。
「ハハハ。そうか。こんげなモンで良ければ毎日でも食わしてやる」
そして、シュウが寂しげに下を向いているのを見ると、そっと語りかけた。
「なぁボウズ。おめぇどこにも行く所がねぇなら、しばらくここでゆっくりしてけや。ワシはほとんど近所づき合いもねぇし、ここには滅多に人が尋ねて来ることもねぇすけ」
シュウは老人のその言葉を聞いたとたん、急に激しい眠気に襲われた。思えば昨夜からほとんど眠っていない。列車の中ではいくらでも眠る時間があったが、その時は気が張り詰めていたせいか、眠気を感じることもなかった。
椀を手に持ったま瞼が落ちかけるシュウを見て老人は慌てて言った。
「こらこら。危ねぇすけ今日はもう食うのはやめて寝ろ。明日になったらまた腹いっぱい食わしてやるすけ」
そんな老人の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、シュウは食べかけの椀を置いたまま目を閉じて深い眠りに落ちていった。

気が付くと、シュウはいつの間にか布団の中に寝かされていた。窓の外は既に明るくなっており、自分が随分と長い時間眠りに落ちていたことが分かった。シュウは布団から這い出すと恐る恐る居間に通じる襖を開けて、わずかな隙間から中を覗き込んだ。しかしそこには老人の姿は無く、誰もいない部屋の真ん中に用意しかけの食卓が並べられていた。シュウは急に不安に駆られ居間を抜けると玄関から外に飛び出した。しばらく辺りを見回した後、老人が川上の方から小さなビニール袋を下げて歩いて来るのが目に入ると、シュウは何とも言えない安堵感に包まれた。
「おう、起きたか」老人はビニール袋を掲げてこちらに近付くと、「ちいっと朝飯が寂しかったすけ、山菜採ってきた」と言って小屋の中に入った。
シュウが老人の後を追って入ると、老人はさっき手にしていたビニール袋の中から、何やら緑色のぐるぐると渦を巻いた木の芽のようなものを取り出すと水で洗い始めた。そしてその木の芽をさっと湯がくと、ゴマで和えた。
「これ、何て言うの?」シュウが老人の背中越しに尋ねると、老人はできあがった物を皿に移しながら言った。
「これは「こごみ」って言うんだ。今じぶんちいっと川を遡ればいっぺごと生えとる」
「へぇ」シュウはその不思議な植物を物珍しそうに見ながら、いったいどんな味がするのだろうと期待に胸を膨らませた。すると、老人はそんなシュウの顔を見て言った。
「面白いボウズだな。成りはいっちょ前のくせして、中身はまるで十歳そこそこの子供みてぇだ。見るもの全てが珍しいって顔してやがる」
老人の率直な言葉にシュウはややバツが悪そうに下を向いた。七年前のあの時からほんの半年前まで、何も感じることなく空っぽのまま時間を過ごしてきたのだから、確かに今の自分はあの時の幼い子供のままなのかもしれない。
「おい、朝メシの支度ができたぞ。こっち来い」ふと顔を上げるといつの間にか老人が膳の前に座っている。シュウは気を取り直して老人に言われるがままに食卓に向かった。
朝食は昨夜同様タラ汁とご飯に漬物、それと今目の前で調理されたこごみのゴマ和え。シュウは早速その不思議な植物を口にしてみた。
「うんめぇか?」老人の問いにシュウはもぐもぐと口を動かしながら味わってみたが、香ばしいゴマの香りはするものの正直味はよく分からなかった。ただ、新芽らしいシャキシャキとした歯ごたえは春の息吹を感じさせ何とも心地良い。
「ちいっと前はふきのとう、今はこいつだがもう少しすっとゼンマイやワラビ、タラの芽なんかが出てくる。子供の口には合わんかもしれんが年取るとこんげな素朴な味わいが好きになってくる。不思議なモンだ」
そんなものかと思いながら、シュウは昨夜お代わりを食べ損ねたタラ汁に再び手をつけた。

その日老人はどこへも行かず居間で横になってテレビを見ていたり、時々こちらに来て探しものをするように整理ダンスを覗いたりのんびりと過ごしていた。シュウは奥の部屋で座ったまま相変わらず窓の外を眺めながら、こども園で過ごした空白の六年間のことを思い出していた。
あの頃の自分はすっかり魂の抜けた空っぽな器のようなもので、何を見ても何を聞いても何を口にしてもそれが心の中に入ってくることはなかった。時折ふと我に返り自分が生きているのを確かめるように手のひらを眺めたりもしたが、それが分かったところで別にどうということもなく、すぐさま再び深い闇の中に落ちていった。
「おいボウズ。ひとりで部屋の中にいても退屈だろが。こっち来て一緒にテレビでも見ねぇか」
老人の言葉にシュウは心の中で呟いた。そう。退屈なんてものはあの頃の自分には無かった。ただただ絶望の淵に沈み時間の流れに身を任せるまま、いやそもそも時間など感じていなかったのかもしれないが、このまま死が訪れてくれるのを、そして母のもとに行けるのを待ち望んでいたような気がする。
そんな自分が再び意識を取り戻すきっかけになったのが、あの父の声だ。あの時部屋のベッドの上でふと父の忌まわしい声が聞こえたような気がして話し掛けようと口を動かしていると、急に大きな顔が目の前に迫ってきて自分の口元に耳を近付けた。とっさに昔父から受けた虐待の記憶が蘇り、反射的にその耳に噛みついてしまった。気が付くと父が耳に手を当てて自分に向かって何かをわめき散らしながら女の人に連れられて部屋を出て行こうとしている。そしてそこで初めて自分がもう何年もベッドの上で寝たきりの生活をしていたことに気付いたのだった。
それと同時に突然激しい空腹に襲われ、思わず目の前のテーブルに置かれたパンとスープを夢中で腹に詰め込んだ。すぐに強烈な吐き気に襲われ、口にした物をすぐにほとんど吐き出してしまったが、後にはあの自分と母を見捨てた父への激しい憎悪だけが残った。
「絶対にあのオヤジだけは殺してやる」
その強い信念だけが自分に生きる力を与え、自分をこの世に繋ぎとめてくれるものと思い、半年間の苦しいリハビリにも耐えてようやくこども園を出ることができたのだ。
父を刺し殺した時の感触は今でもはっきりと手の中に残っている。あの晩途中まで父は激しく抵抗していたが、急に分かったと言って大人しくなると自分に好きなようにしてイイと言ったまま目をつぶって動かなくなった。なぜ父がそうしたのは分からない。ただその時父の口元に笑みがこぼれたような気がして、自分が馬鹿にされているのかと思うと無性に腹が立ち、そのまま怒りに任せて父の胸を夢中で何度も何度も刺した。
血だらけになって横たわる父をその場に残し、包丁を投げ捨てると浴室に向かった。そこでシャワーを浴びながら、昔母が喋っていた故郷の話を思い出していた。母は日本海の近くで生まれ高校を出るまでそこで過ごしたと言っていた。その場所を尋ねると、母は新潟という所だと教えてくれた。さらに詳しい場所を尋ねると、母は困ったような顔をして、あなたが知ってるかどうか分からないけど近くには有名な観光名所があって、「オヤシラズ」というと教えてくれた。オヤシラズという観光名所は当然知らなかったが、奥歯のさらに奥に生える歯の名前と一緒だったので、その名前だけは覚えていた。シャワーで血を洗い流し着替えると、外に出て新幹線に乗るため保護司の大久保に聞いた駅を目指した。父を殺した後は母の故郷へ行ってその面影を追いながら死のうと心に決めていた。そんな自分がどういう訳か見ず知らずの老人に拾われて今こうしてこの部屋の中にいる…
そこまで考えたシュウはなぜか自分の中の死にたいと思っていた気持ちが少し和らいでいることに気付いた。これからいったいどうなるのかは分からないが、昨日から初めて目にする美しい風景や珍しい食べ物、そして何よりこの不思議な老人にそれまで空っぽのまま抱えていた心の中が何かに満たされていくような気がして、シュウは死ぬのは後回しにしてもう少しだけここにいてもいいかなと思い始めていた。
その日の夕食時に、シュウは老人に気になっていたことを尋ねた。
「そう言えば昨日海を見た時、浜辺で誰かがゴミ拾いみたいなことをしてたんだけど、あれはいったい何?」
すると老人はさも当たり前だというような顔をしてシュウに説明した。
「あれはヒスイのかけらを拾ってんだ。昔はちいっと山の方へ行くと川原で結構な大きさのヒスイが採れたそうだが、今は数も少なくなり許可無く採ることもできねぇ。ただ大雨の後なんかは川からヒスイのかけらが水と一緒に流されて来て、この辺の浜辺で拾うことができる。そいつを加工業者に売りゃ多少の小遣い稼ぎくらいにはなる。おめぇヒスイは見たことあるか?」
シュウが首を横に振ると、老人はよっこらしょと立ち上がり奥の部屋へ行くと、「えぇ~と、あったかな?」と言いながら整理ダンスの引き出しをガサゴソとあさり始めた。
「あった。これだ」と言って戻った老人の手には小さな豆粒くらいの大きさの石が乗っていた。
「これがヒスイだ」そう言われてシュウが受け取ると、その石は薄い青みがかっった光沢のある緑色の表面をしており、何とも深みのある不思議な美しさを内に秘めていた。
シュウはその石をじっと眺めているうちに、だんだんと自分がその物静かな佇まいの中に引き込まれていくような気がした。その色は昨日崖の上から見たあの小さな入り江の水の色に似ていた。あまりに真剣に石を覗き込むシュウに向かって老人は不思議そうな顔をしながら言った。
「何だ、珍しいか。そんげ気に入ったんならくれてやってもいいぞ」老人の声にシュウは思わず顔を上げた。
「えっ? いいの?」
「ああ。どうせそれも拾ったモンだ。持って帰って自分で磨いてみたら意外といい色が出たすけ取っといたんだ。欲しけりゃくれてやる。ただし本物かどうかは分かんねぇがな」
「ありがとう。おじいさん」思いがけず手に入れた宝物にシュウが礼を言うと、老人は気にもとめず食べかけの食事を前にして言った。
「さすけねぇ。ほれ飯が冷めるぞ。早ぅ食え」
「うん、おじいさん」シュウが再び食事に手をつけようとすると老人はやや面白くない面持ちで言った。
「じじはじじだが、ワシにもちゃんと名前はある。これからは名前で呼べ」そして自分の顔を見つめるシュウに向かって老人は言った。
「ワシの名前は保だ。佐藤 保」

県警本部に戻ると、安井は着ていたスーツの上着を自分のデスクの上に放り投げ、疲れ果てた様子でドカッと椅子に腰を下ろした。
「全く、これだけ何も出てこないとさすがに疲れますねぇ」
隣の席に腰を下ろした青柳の顔にもさすがに疲れの色が出ている。
警視庁でシュウの行き先が新潟だということを突き止め、母親の幸恵がその土地に何か関係しているらしいと踏んだ安井と青柳は、幸恵がかつてホステスをしていたという大宮で聞き込みを開始した。しかし幸恵が働いていたのは今からもう十七年以上も前で、勤めてから間もなく持月に誘われて店を逃げ出したため、幸恵のことを知る者はなかなか見つからず、既に聞き込みを開始してから三日目になっていた。
唯一、幸恵と一緒に働いていたことのある当時のホステスが、今は別の小さなスナックでママをやっていて話を聞くことができたが、あまりにも昔のことでほとんど幸恵のことは記憶にないという。
「そうねぇ。確かに綺麗な子だった気がするけど、あまり喋らず影の薄い感じの子だったから、よく覚えてないわねぇ」
幸恵の写真を見せても、「う~ん、こんな子だったかしら」と首をかしげ頼りない様子だった。
ただ、当時店長をしていた市ノ瀬という男が自分で幸恵をスカウトしてきたと嬉しそうに廻りの女の子たちに自慢していたのは記憶に残っていた。
「あの頃店長はお店を流行らせるために色々なことを…正直刑事さんたちにあまり言えないようなこともやってましたけど、この時は久しぶりにモノになりそうな子を捕まえてきたって、エラく上機嫌だったのを覚えてるわね」
「それで当時働いていた店は?」青柳の質問にママは手に持っていたタバコを軽くふかしながら答えた。
「東口の「ナイトメア」って店だけど、とっくに潰れちゃったわよ」
「その店長は今、どこに?」
「さぁねぇ。私もしばらくして店を辞めちゃったし、店が潰れた後店長は借金を抱えてどっかに逃げたとか、別の店を始めたとか…」
結局幸恵と新潟の繋がりを示すものは何も掴めなかった。
安井が椅子に座ったまま目頭を揉んでいると、執務室の隅に置かれているテレビの前で同僚たちが集まり何か騒ぎ始めている。やがて捜査一課長の大林が安井の方を向いて叫んだ。
「おい、ヤス!大変だぞ。こっちへ来い」
安井がテレビの前に行くと、午後のニュースで浜田山のアパートでの殺人事件のことが報じられていた。
「犯人は死亡した持月さんの息子の十六歳の少年とみられ、現在警察はこの少年の行方を追っています。繰り返します。おとといの未明、杉並区浜田山のアパートで…」
「何てこった」慌てた安井はデスクに戻りスーツの内ポケットから携帯電話を取り出すと警視庁の細田に連絡を取った。
「もしもし、埼玉県警の安井だ。今テレビを見た。どういうことだ!あれじゃほとんど実名で報道しているのと一緒じゃないか。何でうまくプレスを抑えられなかったんだ!」
「申し訳ありません。こちらも何とか抑えようとしたんですが、どこかの記者が事件の概要を捜査員のひとりから聞いたみたいで、他のマスコミ連中と一緒にどういうことなんだと詰め寄られて、やむなく捜査本部が今日の昼に緊急の会見を行うことに…」
電話口で苦しそうに言い訳する細田に舌打ちしながらも、安井はこれも想定の内だと諦めて電話を切ろうとした。その時細田がやや声をひそめて、「ここだけの話ですが」と続けた。
「はっきり言って、今回の件に関し捜査本部はあまり乗り気じゃないようです。持月の素性は既に調べて分かってますし、七年前の殺人事件で仮釈放中というのも知っています。ろくでもない親から子供の頃に受けた虐待の復讐とすれば、逃亡先でさらなる犯行を繰り返す可能性は低く、ましてやデリケートな少年犯罪ともなれば、捜査本部が二の足を踏むのも当然です。あわよくばマスコミの力を借りてシュウが自首するのを待つと考えるのも無理はありません」
携帯電話を切ると、安井は深くため息をついた。確かにあの事件だけを考えればさほど重大性は感じられないかもしれない。しかし安井は七年前の浦和のアパートの事件からシュウと関わっている。その時に抱いた強い疑念と持月から聞いたシュウの隠された残忍性、そして今回の事件の謎を考えると、もう二度とシュウが何事も起こさないという気にはどうしてもなれず、安井はどうしようもない胸騒ぎをおぼえるのだった。
「青柳、もう一回りするぞ。」
「え~、今からっすか~? 勘弁して下さいよ~」
泣き言を言う青柳に構わず安井は上着を持って立ち上がった。とにかく動いていないと頭がどうにかなりそうだと安井は思った。

シュウが事件のニュースをテレビで見たのは、その日の晩だった。
夕食を食べながら保と一緒に何気なくテレビを見ていると、突然あのアパートの映像が出てきてアナウンサーが抑揚の無い声で話し始めた。
「おととい、四月五日の未明、東京都杉並区浜田山のアパートで男性の刺殺体が発見されました。死亡していたのはこのアパートに住む持月 治雄さん三九歳で、犯人は持月さんの息子の十六歳の少年とみられ、警察はこの少年の行方を追っています」
そのニュースを見てシュウは思わず箸を落としそうになったが、自分の名前や顔が画面に映っていなかったことから辛うじて平静を保てた。保は全く気にする様子もなく目の前の煮物をつついていた。
夕食後、奥の部屋に戻ろうとするシュウに向かい保が聞いた。
「なぁ、わりぃけど明日ここの留守番頼まれてくんねぇか? そろそろ買い物に行かんと食い物がねえなっちまう」
「うん、イイけど」シュウはなにげなく答えたが、内心穏やかではなかった。まさか保が先ほどのニュースで自分に疑いを持ち警察に話しに行くのではないか。もしかすると警察の人間をここまで連れて来るかも知れない。しかしそんな疑念を保に聞くこともできず、シュウはその晩をまんじりともせず過ごした。
次の日、保が言った通り昼過ぎに出掛けて行くと、シュウはここから逃げだそうかどうか迷った。しかしよくよく考えてみると自分はここに死にに来たのだから、わざわざ逃げ出すこともないと考えて、このままいることにした。もし警察が乗り込んで来たら目の前でこの首をかき切って死んでやる。
しかしそんなシュウの杞憂をよそに、保は夕方には戻って来て「今日はいい鯛が手に入ったぞ。今刺身にするすけ、待ってろ」と言ってさっさと台所に向かってしまった。シュウは拍子抜けするとともに、心配した分急に腹が減ってきて保のさばく鯛の刺身を楽しそうに待っていた。
しかし、そんな穏やかな日々も長くは続かなかった。

翌日、保の小屋を珍しく客が訪ねて来た。保はシュウに向かって窓のカーテンと部屋の襖を閉めるように言うと、何食わぬ顔で玄関のドアを開けた。
「はいはい。どちらさんで?」
見るとドアの前にはグレーのスーツ姿に眼鏡を掛けたひとりの女性が立っており、保に名刺を差し出すと自分が保護司であることを告げ、新潟保護観察所を通じてある家出少年の捜索の依頼があり、県内全域で捜索を行っているところで、自分がこの辺りを担当しているため色々と聞いて回っているという。
「数日前に、あなたが依頼のあった少年と年恰好が似ている子を連れて歩いていたと、歌の集落に住む方から話しが聞けたため、念のためお宅を訪問させていただきました」
保は名刺に書かれた「戸塚」という苗字を目を細めて見ながら答えた。
「あぁ、そんなら確か道に迷って駅に行くことができねぇと言ってた子供がいたすけ、駅まで連れて行ったことがある。恐らくその人はその様子を見てたんだろう」
「そうですか。でもおかしいですねぇ。その方は少年を連れてあなたがこのお宅の方に向かったと言っていましたが」
保は一瞬言葉に詰まったが、しばらく思い出すように上を向いた後でつけ足した。
「あぁ思い出した。確かその時子供が喉が渇いたって言ったすけ、ここまで連れて来て茶を飲ませた。どうも年取ると忘れっぽくなっていかん」
戸塚は話を聞いた後もしばらく保の顔をじっと見ていたが、ふと視線を部屋の奥に移すと襖が閉じられているのに気付き尋ねた。
「奥の部屋には誰かいらっしゃるんですか?」
すると保はまたしばらく黙り込んだ後で慌ててかぶりを振るように言った。
「いやぁ、誰もいねぇよ。ちいっとばかし散らかってるすけ隠してあんだ。年寄りの寝床なんて若ぇ女の人が見るもんじゃねぇよ」
戸塚は眼鏡の奥からしばらく襖の向こうを覗うようにじーっと目を細めていたが、ようやく諦めたように、「分かりました。どうもお邪魔しました」と言って立ち去って行った。
戸塚の姿が見えなくなると、保は全身の力が抜けたように部屋の真ん中に座り込んだ。
「ふぅ~、寿命が縮まるかと思ったわ」
シュウは奥の部屋から出て来るとすまなそうに頭を下げた。
「ごめんなさい。保さん」
「なぁに、さすけねぇ。しかしさっきの保護司さんとやらが探してるのがおめぇさんかどうか分かんねぇが、たかが家出少年のために新潟中を調べるとは、いったいその子は何しでかしたっていうんだ」
シュウは黙ったまま何も答えることはなかった。ただ心の中で保にこれ以上迷惑を掛けることはできない。そろそろここを離れないといけないと考え始めていた。

聞き込み開始から五日目の四月九日、安井のもとに例の聞き取りをしたママから連絡があった。
「刑事さん、この間話してた店長の居場所が分かったわよ。昨夜来た常連さんがたまたま知ってて教えてくれたの」
ママの話によると、元店長の市ノ瀬は大宮の店をたたんだ後、川崎で小さなキャバクラを経営しているらしい。早速安井は青柳と共に川崎へ向かった。
川崎駅東口の繁華街にある小さなキャバクラ「CLUB M」を訪ねると、そこには開店前の準備をする市ノ瀬 真人の姿があった。
安井があらかじめ連絡していた埼玉県警の者だと伝えると、市ノ瀬は二人を店のフロアの一角にあるソファに座らせ、自分はテーブルを挟んで反対側に座った。
「開店前で忙しいんで、手短に頼みますよ」
招かれざる客であるのは承知の上で、安井は青柳に指示をして幸恵の写真を市ノ瀬に見せると、早速本題に入った。
「この写真の女性に心当たりはありますかね。名前は持月 幸恵。この写真は最近撮られたものですが、十七年ほど前にあなたが大宮で経営していたキャバレー「ナイトメア」で働いていたハズなんですが」
市ノ瀬は青柳が手に持っている写真をひと目見ると、すぐに思い出したようにうっすら笑みを浮かべながら答えた。
「あぁ、よく覚えてるよ。苗字は確か違ったと思うが、間違いなく昔ウチで働いていた子だ」
「そうですか。実はある事件にこの幸恵さんが巻き込まれて、今色々と捜査をしてるんですが、幸恵さんが店で働く前のことをご存知ありませんか」
すると市ノ瀬は顎の辺りをさすりながら昔を思い出すように語り始めた。
「あれは確か大宮駅のコンコースを歩いていた時だった。南口の改札の辺りで不安そうに廻りをキョロキョロする大きな荷物を持った娘がいたもんだから、これは何か訳ありかなと思って声を掛けて見たんだ。そしたら自分は高校を卒業して新潟から出て来たばっかりで、これからここで暮らしながら演劇の勉強をしたいんだけどどこに行ったらいいか分からず困ってるという。見るとなかなかの美人でまだ田舎臭さが残ってるもののこれは磨けばイイ玉になるなと思って、それならオレが住む所やら何やら色々世話してやるって言ってその娘を店に連れてったんだ」
市ノ瀬の言葉に半ば呆れるように青柳が言った。
「お前、まさか未成年を店にスカウトしたのか?」
「アルバイトですよ。アルバイト。何を置いても先立つものは必要だし、店でちょっとした小遣い稼ぎをしながら自分の好きな夢を追えばいいって、人助けのつもりでやったことですから。それに今から十七年も前のことですから、時効ですよ」
全く悪びれる様子のない市ノ瀬に安井が尋ねた。
「それで幸恵さんが上京した経緯は?」
「そう。何でも自分は新潟の糸魚川という所で生まれ両親とずっとそこで暮らしていたが、小さい頃から演劇に興味があって高校を卒業したら上京して本格的に役者の勉強をしたいと思ってたって。ただ両親にそのことを相談したらエラく反対されて、ケンカしたあげくほとんど家出同然で出て来たらしい」
「糸魚川…」安井はその馴染みのない地名を思い浮かべながら、ふと警視庁で保護司の大久保が言っていた言葉を思い出した。
(何か随分よそよそしい感じの地名だったような…「他人事」みたいな?)
「そうか、親不知だ!」突然の安井の叫びに市ノ瀬と青柳は思わず顔を見合わせた。
「シュウは幼い頃母の故郷について尋ねた時、恐らく地名として記憶に残りやすい親不知の方を教えられたんだろう。親不知と糸魚川は厳密には多少離れているが、シュウは親不知を母の故郷だと思って訪ねて行った可能性が高い」
そこで改めて大久保が言っていたもうひとつの言葉が思い出された。
(新潟に行けばお母さんに会えるって…)
「まずいな…」安井は思わず舌打ちした。
「もしかするとシュウは新潟に死にに行ったのかもしれん」
シュウが意図して行ったかどうかは分からないが、親不知は海にせり出した断崖絶壁で有名な難所だ。母の後を追おうとしてシュウが親不知を訪ねたのであれば恐らく格好の死に場所になるに違いない。
「ねぇ刑事さん、用が済んだならそろそろ帰ってくれねぇかな。店の準備続けたいし」
安井の緊迫した様子などお構いなしに市ノ瀬は招かれざる客に退出を求めた。
「あぁ…そうだな」安井はソファから立ち上がると、しかし出口の方には向かわずにそのままの姿勢で市ノ瀬の方を見下ろしながら、今度はドスの効いた声で話し掛けた。
「そう言えば、お前昔は随分と悪どいことをやってたらしいな」
すると市ノ瀬はおでこに手を当てて困った顔をしながら答えた。
「だから勘弁してくださいよ。もう時効なんだから~」
「店の女の子に”ウリ”をやらせてたってのは本当か?」安井はテーブルに手をついて顔を近付けた。
「そりゃあの頃はまだオレも若くて店を流行らせるために色々やったけど、あくまでも本人の希望があってのことですよ。嫌がる娘には決してやらせませんでしたよ」
「幸恵にも”ウリ“をやらせたのか?」
「いや、あの娘にはそこまで店に貢献してもらう前に逃げられちまった。思い出したぜ。その持月って苗字、店に幸恵目当てでしつこく入り浸ってた男のモンだ。ちくしょう、やっぱりあのヤロウが幸恵をかっさらいやがったのか。結婚しやがったのかこいつら。だがまぁイイや。オレも研修と称して幸恵には随分とイイ思いさせてもらったからな。ヒヒヒ…」
市ノ瀬の下卑た笑いに拳を振り上げそうになるのを我慢しながら、安井はもう一度市ノ瀬に顔を近付けてゆっくりと言った。
「いいか、ひとつ教えといてやるが本人にその意思があろうと無かろうと買春は立派な犯罪だ。ましてや未成年ともなれば児童買春で罪はさらに重くなる。今度同じようなマネをしたら川崎だろうがどこだろうがこのオレが飛んで行ってすぐさましょっ引いてやるからな!」
それだけ言い残すと呆れ顔の市ノ瀬を残して安井は店を後にした。

帰りの車の中で青柳はハンドルを握りながら安井に言った。
「ヤスさん、いくら何でもあれはやり過ぎですよ。市ノ瀬の言うとおり昔の話ですし、管轄権を侵害してると神奈川県警に苦情にでも行かれたら面倒です」
「フンッ、今だって何をしてるか分かったもんか。それにオレはもうすぐ定年だ。辞めちまえば管轄権もクソもねぇ」安井は窓の外を見ながら不機嫌そうに頬杖をついている。
「だからぁ…辞めた警察官は逮捕できないでしょ…」青柳が呟いた時、安井の携帯電話が鳴った。
「もしもし…はい、そうですか。やっぱり… こっちもやっと今手掛かりが掴めたところです。なるべく早く現地に向かいます。はい、ありがとうございました」
安井は携帯電話を切ると今の電話が大久保からのもので、今日糸魚川地区を管轄している保護司から、親不知で少年をかくまっているかもしれない老人がいると連絡があったことを説明した。
「これで確実ですね」青柳がハンドルを握る手に力を込めて言った。
「よし。明日にでも課長の許可を貰い、新潟県警に話を通してもらって親不知に向かうぞ」
今日の時点でシュウがまだ早まったことをしていないらしいと安堵するとともに、安井は先日から芽生えた胸騒ぎが少しずつ大きくなっていくのを感じ始めていた。

その日の夕食はこれまでと違い何となく重苦しい雰囲気だった。
保もシュウもお互いに何かを話そうとするが、話のきっかけが掴めずにただ黙々と食事を口に運ぶ様は、さながら久しぶりに田舎に遊びに来た孫と祖父といった感じだった。
「おぉ、そうらった」保はいきなり立ち上がると、台所の方へ行き流しの下の戸棚をゴソゴソと探ると、一升瓶とコップをひとつ持って戻って来た。
「昨日買い物に行った時、つい目に入ったすけ」そう言うと一升瓶の蓋を開けそのままコップに酒を注ぎ始めた。
「保さん、お酒飲むんだ」シュウが意外そうな顔をすると保は注ぎ終わった酒を口の方へ持っていきながら言った。
「もうしばらく飲まんかったが、久しぶりに飲みたくなった」
そしてコップ半分ほどを一気に飲むと、「くぅ~、やっぱ効くの~」と唸った。
シュウがイヤな物でも見るように目を細めてじっと見るのもお構い無しに、保は残りのコップ酒を一気にあおった。
「保さん、あんまりいっぺんに飲むと体に毒だよ」シュウは父親の酒癖の悪さを思い出しながら、目の前の年寄りがいきなり暴れ出さないか不安になった。
「なぁに、こんげなじじいつくたばってもさすけねぇろ。おめぇも大人になればたまには酒が飲みたい時くらいあるわね」
保は早くも酔いが回ってきた様子で、わずかに顔を赤らめながら二杯目の酒をコップに注ぎ始めた。
そのまましばらくはまた沈黙が続き、保はちびりちびりとコップ酒を飲み、シュウはそろそろ食事を終えようとした時、おもむろに保が口を開いた。
「おめぇ、あん時死のうとしてたんか」
「えっ?」
「始めておめぇと会った時、おめぇさん手すりから身ぃ乗り出して下向いてたろ。そのまま飛び降りるつもりらったんか?」
突然の保の質問に、シュウは黙ったまま下を向いた。
「答えたくねぇなら構わねぇよ。ただ、あん時おめぇの眼ぇ見たらちいっとばかし昔を思い出したもんでな」保はまたコップ酒をちびりと飲んで続けた。
「昔、ワシはおめぇさんとおんなじ眼をした子供らをいっペごと見てきた。大事なモンをどっかで無くしちまった眼だ。そん子らの中には何とか立ち直ろうとした子もいれば、よけい深みにはまっていっちまった子もいた。ただ、どの子もその自分が無くしちまったモンを取り戻そうと必死だった。必死で幼かった分、よけい傷付いてた。おめぇを見てるとあん時の子供らを思い出す」
なおも黙り続けているシュウの顔を見てから、保はさらに続けた。
「実を言うとな。あん時ワシも死のうとしてた」
「えっ?」シュウが顔を上げると保は照れくさそうに笑った。
「いや、はっきりとそのつもりではねかったが、何となくあの辺をフラフラ歩いとったら、おめぇさんが立ち入り禁止のフェンスを越えて中に入ってく。そんでワシはコッソリ後をつけてって、あの崖で声を掛けたんだ」
保に後をつけられていたとは全然気付かなかった。シュウは急に恥ずかしくなって思わず顔を赤らめた。
「ハハハ。死ぬつもりがまさか人助けをしちまうとわな。とんだ笑い話だ」
そしてひとしきり笑った後、急に真面目な顔になって尋ねた。
「もうひとつ聞くが、おとといテレビのニュースでやってた東京の殺人事件で追われとる少年とは、おめぇのことか?」
シュウは一瞬心臓が止まりそうになった。
「昨日突然ここを訪ねて来た保護司の戸塚いう女の人も、家出少年と言ってたが本当は警察に頼まれておめぇのことを探してたんでねぇか?」
何も答えられないでいるシュウに向かって保はさらにたたみ掛けた。
「おめぇ、東京で父親殺して来たんか?」
「…」
長い沈黙が二人の間を通り過ぎていった。やがて保は遠くを見るような目でひとり語り始めた。
「おめぇとオヤジさんの間に何があったのかはワシには分かんねぇ。だが相手が父親であれ、ひとりの人間を殺すっちゅうのはよっぽど覚悟があってのことらったんろう。なぜここに死にに来たのかは知らんが、おめぇの背負っちまってるモンの重みはワシも少しは分かるつもりだ」
そしてひと口酒をすすると、おもむろに切り出した。
「なぁ、これは決して戯れ言でも何でもねぇんだが…頼むすけワシのこと殺してくんねぇか?」
「えっ?」シュウが驚いた顔を上げると保は相変わらず遠い目をしたまま呟いた。
「ここまで色んなことがあって、それなりに頑張ってきたけども、正直ワシも疲れた。体は年々エラくなってくるし、いつまでここに居られるかも分かんねぇ。そろそろ潮時かと思ってたところだ」
「…」
「それに、おめぇは怒るかもしんねぇが、あの崖の上で初めておめぇの眼を見た時、もしかしたらコイツならワシのことを殺してくれるかもしんねぇって思ったんだ。何て言ったらいいか分かんねぇが、おめぇの眼には不思議な力がある。見る者を引き込むっちゅうか、あの崖下の入り江みてぇに無理矢理人を引っ張り込むような恐ろしさっちゅうか…あぁ、気ぃ悪くしねえでくんなせや」
シュウは初めてここに来た時に見たあの入り江の青みがかった、ヒスイの石にも似た美しい水の色を思い出していた。
すると、保は立ち上がり奥の部屋の整理ダンスから何かを取り出してきて、シュウの目の前に置いた。見るとそれは薄茶色の小さな封筒だった。
「どうせここを出てもどこも行く所がねぇんだろう。この封筒ん中にはワシのちいっとした知り合いの名前と住所が書いてある。ワシを殺したらその人を訪ねて行け。きっと悪ぃようにはしねぇから。わずかながらゼニも入ってる。電車賃くらいにはなるろ」
シュウはその封筒を保に突き返しながら言った。
「そんなことできる訳ないだろう」
「なじらね。こんげなじじひとり殺したところで何も気に病むことはねぇ。むしろイイ人助けをしたくらいに思うてればええて。ワシはもう少し飲んだら勝手に寝るすけ、気分よぅ寝てる隙に煮るなり焼くなり好きにしてくれ。あぁ、ただしタコ殴りってヤツは勘弁してくれ。痛ぅて目ぇ覚ますすけな。ハッハッハッ」
シュウはそんな保の冗談とも本気ともつかない言葉を無視して、さっさと奥の部屋に引き揚げようとしたが、「あぁそれと」と保に引き留められた。
「まだおめぇの名前聞いてねかったな」
シュウはしばらく躊躇したが、やがて聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。
「シュウ…」
「何? 聞こえねぇ。」
「だから…シュウ!」
保はその名前を何度か呟いた後で、笑顔を見せながら言った。
「そうか…いい名前らな」

その晩遅く、シュウは部屋を片付けると保を起こさぬようにそっと襖を開けて、保が眠る布団の横を通り抜けて玄関に出ようとした。
「行くのか?」
突然声を掛けられて驚いて見ると、保は向こうを向いたままこちらに顔を見せずに言った。
「ワシの頼みを聞かんで行くのか」
シュウは保の白髪頭に向かって喋った。
「そんなの無理に決まってるだろう。保さんには色々お世話になったし、それにいくらオヤジを殺ったって、そんな簡単に他のひとも殺せるなんて思わないでよ」
「どうかな…おめぇのその眼は人殺しの眼だ」
シュウは一瞬頭に血が上るのを感じた。
「おめぇが父親以外の人間を誰も殺してねぇなんて保証はねぇ。他の連中はだませてもこのワシには通用しねぇよ」
シュウの背中に冷たいものが走った。
「ボウズ、ワシゃ気が変わった。明日あの戸塚いう保護司におめぇの事連絡する。オレをこのまま生かして行ったら面倒なことになるぞ」
「勝手にすればイイ。警察に捕まればその場で死んでやるだけだ」
「ふん、威勢がイイな。だがそううまくいくかな?」
シュウが玄関に向かおうとして前を見ると、ふと窓際に飾られている抽象画が目に入った。深々とした青色を取り巻くようにぐるぐると描かれたいくつもの色鮮やかな円を見ているうちに、シュウの心の奥底から何やらザワザワとしたものが這い出てくるのを感じた。
「なぁシュウよ」保が初めて自分の名を呼んだ。
「おめぇのオヤジさんがどんなヤツだったかはワシには分かんねぇ。だが例えどんな酷い親でも、子供のことを考えねぇ親はいねぇハズだ。世の中には例え一緒にいたくてもそれができねぇ親子がいっぺごといる。こないだおめぇに子不知の話をしたろ。ここにはもうひとつ親不知っちゅうもっときつい難所がある。おめぇのオヤジさんは心のどっかでおめぇのことを知ろうとしてたんでねぇか? そのオヤジさんの気持ちを、おめぇは考えたことがあんのか?」
「うるさい!」突然シュウは叫ぶとともに保の上に覆い被った。
「アンタなんかに、アンタなんかにオレの気持ちが分かってたまるか!」
「あぁ、分かんねぇ。ワシはおめぇの人生を見てきた訳ではねぇからな」シュウに馬乗りにされながら、保は何食わぬ顔で言った。
(あぁ、分からないさ。オレはその場にいた訳じゃないからな。)
保の言葉はあの晩父親が言った言葉を思い出させた。気が付くとシュウは保の首に手を掛けていた。
「ふっ、やっとその気になったか」保は逆らうこともなく、シュウの激しい怒りと悲しみを全身で受け止めようとしていた。
「アンタなんかに、アンタなんかにオレの…オレと母さんの気持ちが…」そう言いながらシュウは自分の眼に涙が溢れてくるのを感じていた。すると保は全てを悟ったような顔で言った。
「そうか。おめぇのその心の中から溢れ出てくる悲しさは、おめぇだけのモンでねかったんだな」
やがてシュウの眼から涙がこぼれ、保の首に掛けた手の上にポトリと落ちた。
「これから人殺すのに泣くヤツがあるか」保はしゃがれた声でなおも続けた。
「いいか、おめぇはこの先どんなことがあっても生きろ。例え誰かの屍を越えてでも、絶対に生き延びろ。それがおめぇの運命だ。シュウ」
保は震える手で枕元に置いてある茶封筒を掴み、それをシュウの方に向かって差し出すと同時に口元に小さな笑みを浮かべた。その笑みはあの晩に見た父の最期の表情と重なり、シュウの中に残っていた理性を跡形もなく吹っ飛ばした。
「うわぁ~!」シュウは雄叫びを上げるとともに、保の首を絞める手に力を込めた。

川崎での聞き取りの翌日、安井と青柳は早速親不知に向かった。前日に課長の大林が段取りを済ませておいてくれたお陰で安井たちは昼前には長岡駅に着くことができた。
新幹線を降りて、親不知に向かう在来線を待つ間に軽く昼食を済まそうと思った時、大久保から電話が入った。
「先ほど糸魚川の戸塚さんから連絡があって、今朝シュウ君らしき少年をかくまってる可能性のある老人の家に行ったところ、家の中で老人が殺されているのを発見したそうです」
安井たちは昼食もそこそこに親不知に向かった。
親不知に着くと駅には戸塚と新潟県警の磯貝という捜査員が出迎えていた。
「わざわざ遠方からご苦労様です」
磯貝に案内されて保の小屋に向かう道すがら、戸塚が今朝の状況を説明した。
「今日刑事さんたちが来られると聞いて、私は念のためもう一度佐藤さんの家を訪ねてみようと思ったんです。それで玄関で声を掛けたんですけど返事が無くて、心配になって窓から中を覗いてみたら、横になっている佐藤さんの姿が見えたんですけど何だか様子がおかしくて。もう一度玄関に回ってドアに手を掛けたら鍵が掛かってなかったので思い切って中に入ってみたら、佐藤さんはもう既に息をしてなくて…」
戸塚はその時の光景を思い出したのか、急に顔色を悪くすると手で口を押さえた。
「それで、佐藤さんの死因は?」安井の質問に磯貝が答えた。
「恐らくですが首を絞められたことによる窒息死です。部屋の中は特に荒らされた様子はないため、物盗りの線は薄いでしょう。とにかく五年ほど前にここに越して来てから、ほとんど近所付き合いもねぇ変わり者の爺さんで、得体が知れねぇって誰も近寄らんかったみたいで…」
「そう言えば、昨日聞いた感じだと確かにこっちの言葉ではなかったわね。どっちかと言うと下越訛りっぽかったような…」磯貝の言葉に戸塚が応じた。
「下越って?」青柳が質問すると戸塚が説明した。
「新潟県は縦に細長くて、北の方から下越、中越、上越と三つのエリアに分かれてて、それぞれのエリアで言葉遣いや文化が微妙に違います。この辺りは上越エリアになります。多分あの言葉の感じだと新潟市近辺の出身じゃないかしら」
「あぁ着きました。ここです」安井達が小屋に着くと、そこには立ち入り禁止の黄色い規制線のテープが張られているものの、鑑識作業が終わった後でほとんど人はいなかった。戸塚を残し小屋の中に入ると、既に保の死体は運び出された後で寝ていた布団がそのまま残されていた。磯貝は鑑識官が撮影した保の写真を見せながら説明した。
「ガイシャはこの布団に仰向けに寝たまま死んでいました。着衣にほとんど乱れは無く、争った跡も見られなかったとのことです」
保の亡骸はとても首を絞めて殺されたとは思えないほど穏やかで、まるで眠ったまた安らかに息を引き取ったかのようだった。そしてその死に顔にはわずかに微笑みの跡さえ見える。
(シュウの父親の時と同じだ…)安井は思った。
「戸塚さんが発見した時は部屋には誰もおらず、奥の部屋やトイレ、風呂なども探しましたが犯人の遺留品とおぼしきものは見つかりませんでした」
安井は奥に進むとほとんど何も置かれていないガランとした部屋を見回し、そこにシュウの痕跡を示すような物が残されていないかと思ったが、結局何も見つからなかった。
諦めて部屋を出ようとした時、磯貝の携帯が鳴り、会話をしている磯貝の顔に緊張の色が浮かんだ。
「はい、そうですか。分かりました」電話を切ると磯貝は安井に向かって言った。
「今捜査本部から連絡があって、ガイシャの頸部から持月 臭の指紋が検出されたそうです」
安井は思わず天を仰いだ。長岡で事件の連絡を受けた後で、念のためシュウの指紋データを埼玉県警から新潟県警に送っておいてもらうように頼んでおいたのだが、まさかそれが本当に出てくるとは。
「安井さん、こうなった以上、我々もそのシュウという少年について詳しく知る必要がある。遠くから来られたばかりで申し訳ないが、一緒に署に来て捜査本部に説明をしてくれまいか」
安井は今すぐにでもシュウの行方を追いたかったが、何も手掛かりの無いこの状況ではどこに行ったらイイかも分からない。やむを得ず周辺の捜索は県警の捜査員に任せて、安井たちは糸魚川署に向かうことにした。
小屋を出る時、ふと安井の目に一枚の絵画が止まった。その絵の意味するところは安井には理解できなかったが、何色もの円に囲まれて一際存在感を示す中心の深々とした青い色は、まるで幼い頃のシュウの、あの空っぽの眼を思わせるようで、安井はしばらくその場所を離れられないでいた。

捜査本部に着いて、磯貝を始めとする捜査員たちにこれまでのシュウが関わった事件の概要を説明すると、捜査員たちは一様に言葉を失った。
「とにかく、今こうしている間にもシュウはきっとどこかをさまよっているに違いない。自殺、逃亡両方の面から大規模な捜索を開始して、一刻も早くシュウを探し出さないといけない」
安井は捜査員たちにはっぱを掛けたつもりだったが、正直その反応は今ひとつだった。司法解剖の結果から、被害者の死因はやはり窒息死で死亡推定時刻は昨夜の十時から十二時頃だということが分かっていた。既に半日以上が経過しており、安井自身その足取りを追うのはさすがに困難だと思った。
それから三日間、安井と青柳は現地に残り、糸魚川署の捜査員たちと一緒に周囲の聞き込みや海辺の捜索を行い何とかシュウの行方に繋がる手掛かりを掴もうとしたが、結局何も掴むことはできなかった。近隣の警察署にも連絡して主要な駅や繁華街にも捜索の手を広げたが、まるで蒸発してしまったかのようにシュウの目撃に関する情報は出てこなかった。被害者の老人についても、佐藤 保という名前の他に、彼の過去の人間関係を明らかにするような物は発見できなかった。
「ヤスさん、そろそろ潮時かもしれませんね。シュウの水死体が上がらなかっただけでもせめてもの救いです」その日の捜査を終え、青柳が安井を慰めるようにして糸魚川署に戻ると、捜査員たちが一様に首をうなだれており、磯貝が悔しさを隠せない様子で安井に語り掛けた。
「たった今、県警と警視庁の上層部が打ち合わせを行い、シュウを全国指名手配することが決まったそうです」
その瞬間、安井は足下から力が抜けていくのを感じた。ついに、最も危惧していた事態に発展したのだ。それと同時にやむを得まいという気持ちも込み上げてきた。。今やシュウは連続殺人事件の被疑者なのだ。
「すまねぇ、安井さん。何とかおまんたの力んなろうと気張ったらども、堪忍してくんなせぇ」
磯貝がお国言葉丸出しで謝るのを前に、安井は笑顔でその肩を叩いた。
「イイってことさ。こっちこそ本当に世話になった。ありがとう」
思わず涙ぐむ磯貝に、安井は改まった顔で尋ねた。
「最後に、ひとつだけ頼みたいことがあるんだが」

磯貝に教えられた住所を訪ねて行くと、そこは糸魚川駅のすぐ裏手にある坂を少し上った所にある古びた一軒家で、玄関のチャイムを鳴らすと入り口の引き戸が開いて、中からひとりの初老の女性が出て来た。
「おまんた、よういらした。まぁ入んなぃ」女性は安井たちを待ちかねていたように家の中に案内すると、応接間のソファに二人を座らせた。安井たちが今日ここを訪問することは、昨日磯貝から連絡を入れてもらっていた。高級そうな茶色の布張りのソファはやや時代遅れの感があるが、木目調のテーブルと相まってこの家の主の趣味の良さを物語っていた。
「ご主人はどちらに?」コーヒーを持ってきた女性に青柳が尋ねた。
「もうとっくに亡うなりました。今は私ひとりです」
「そ、それは失礼しました」恐縮する青柳に代わり、安井が女性に尋ねた。
「早速ですが、今日お邪魔したのは娘の幸恵さんのことをお尋ねしたくて。失礼ですが、娘さんが亡くなったことは…」
「はい。四日前に警察の方から聞きました」
実は市ノ瀬への聞き取りの後、安井は新潟県警に幸恵が家出した当時糸魚川で捜索願いが出ていなかったか照会をしていた。昨日磯貝に確認したところ、この家からそれが出されていたことが分かり、住所を聞いて訪ねて来たのだ。安井はお悔やみの言葉を述べると、事件の詳細には触れずに幸恵が不幸にもある事件の巻き添えを食って亡くなったことを説明した。
「それで、我々は捜査の過程で幸恵さんがこの糸魚川出身だということを聞いて、幸恵さんの過去についてお母さんからお話しを聞かせて頂ければと…」
「はい。もうだいぶ昔の話ですから、あんま自信はねぇですけど…」そう言うと、幸恵の母は昔を懐かしむように幸恵の過去を語り始めた。
幸恵はこの家で東京出身のサラリーマンの父と地元出身の母の間にひとり娘として生まれた。父は地元を代表する大きなセメント工場の役員を務めており、その生活は豊かで何不自由なく育てられた。
加えて幸恵は近所でも評判の美人で、友達からも、「将来はアイドルになりなよ」などともてはやされ、本人も、「アイドルは無理だけど、女優さんになれればイイな」と演劇に興味を持つようになり、高校卒業後は上京して本格的に演劇の勉強をしたいと思い始めたらしい。
しかし、堅物の父はそんな幸恵の夢を理解することもせず、「お前みたいな田舎娘が東京へ行ったって成功する訳がない。どうせ悪い連中に食いものにされるのがオチだ」と取り合ってもくれず、母も、「何夢みたいなこと言ってんだね。おまんは大人しくここにいて、いつかお嫁にでも行けばいいねっか」と諭すばかりで、誰も相手にしてくれなかった。
それでも幸恵は夢を諦めきれず、高校卒業と同時にケンカ同然で家を飛び出しそのまま帰って来なかったという。
「しかし、上京したいと言っていた幸恵さんは何故大宮駅の改札口の所にいたんでしょう」青柳が市ノ瀬から聞いた話を説明すると、安井は幸恵の母に尋ねた。
「お母さん、幸恵さんが家出したのは何年頃でしたか?」
「さぁて、あの娘が十八の時だから確か一九八四年頃かねぇ」
「そうか…」安井はその言葉で全てを理解した。
「幸恵さんが上京するのに使った上越新幹線は一九八二年開業だが、当時はまだ大宮止まりだった。上野駅に乗り入れるのは一九八五年。幸恵さんは新幹線の終点大宮駅が東京にあると勘違いして降りてしまったのかもしれない」
「ホント、お父さんの言うとおり田舎モンのあったかさぁだねぇ」
「あったかさぁ?」思わず青柳が尋ねた。
「おばかさんってことです」
「その後幸恵さんからは一切何の連絡も?」
すると、幸恵の母はソファから立ち上がり、やがて一枚の写真を持って戻って来た。
「これは幸恵が結婚したばかりの頃に送ってきたものです」
見ると、そこには若い頃の幸恵と持月が並んで写っており、幸恵の手にはまだ生まれて間もない赤ん坊のシュウが抱かれていた。写真の裏を見ると小さな文字で”元気です”とだけ書かれてある。
「住所も何も書かずその写真だけ送ってきて、後にも先にもそれっきりです」
安井はその若い母親のおぼつかない手に抱かれたシュウの姿を見ると、思わず胸に込み上げてくるものがあった。この子は悪魔でも何でもない。ちゃんと血の通ったひとりの人間なんだ。そんなシュウの運命を狂わせてしまったのは、いったい誰なんだ。
だが、安井の心の問いに答える者はなく、その問いはただ虚しく宙をさまようだけだった。

「幸恵のお母さんにシュウのこと話さなくて良かったんですかねぇ」
長岡に向かう列車の中で、青柳がボソリと呟いた。車窓からは砂浜の向こうに美しい日本海がどこまでも広がって見える。
「お前、あのお母さんにどうやってシュウのこと説明するつもりなんだ」その美しい景色を見ながら安井は青柳に問い掛けた。
「いや…やっぱ無理っすよねぇ」青柳は苦笑いをして、安井と一緒に海を眺めた。
幸恵の父は、娘が出て行ってしまった後すっかり気落ちして、あの時どうしてちゃんと話を聞いてやらなかったんだと自分を責め続けたという。そして幸恵から送られてきた写真を見て、幸恵が家族とともに達者でいることが分かると、ホッとしたせいか体調を崩してそれから間もなく病気で死んでしまった。
「結局幸恵のお父さんが正しかったんですかねぇ。大宮で市ノ瀬みたいな男に拾われて食いものにされて」
「だが持月に救われた。シュウという子供にも恵まれて…幸恵はそれなりに幸せだったのかもしれんな」安井が初めて持月を養護する発言をするのを聞いて、青柳は目をパチパチさせた。そう、きっとシュウもあのろくでもない父親に不満を抱えながら、それでも母と三人でそれなりに幸せな生活を送り、普通の若者に成長していたことだろう。あの忌まわしい事件さえ起こらなければ。
列車は海を離れ少しずつ山の方へ入っていく。シュウと自分を結ぶ糸はプツリと切れたままだ。
「シュウ…お前は今、いったいどこにいるんだ」
そんな安井の呟きは、トンネルに入った列車の走行音にかき消された。

地下鉄の駅から地上に出ると、そこはコンクリートと喧噪に包まれた大都会だった。
再開発に伴い突如出現した高層ビル群はまだ建設途中で、道路脇に立てられた白いフェンスには工事完成後の予想図と再開発がもたらす恩恵を示す文字が誇らしげに描かれていた。
そしてあちこちにアジアで初めてのサッカーワールドカップ開催を祝うポスターが貼られ、鮮やかなブルーが街の至る所を染めていた。
シュウは手に持った紙切れを頼りに、外苑東通りからすこし外れた雑居ビルが立ち並ぶ一角を抜け、細い坂を上りしばらく歩いた先にある五階建ての小さなマンションの前で足を止めた。
「グリーンハイツ六本木」そう描かれた看板を見て小さく頷くと、シュウはマンションの中に入りエレベーターで三階を目指した。
そして305号と書かれた部屋の前に着くと、小さく一呼吸してドアの横のインターホンを押した。しかし何の反応も無い。再びボタンを押したが目の前のインターホンは黙ったままだった。三度目にボタンを押したところで、ようやく、「間に合ってるよ」という面倒くさそうな声が聞こえた。
「あのぅ」と言い掛けたところでインターホンはブツッと切れてしまったので、もう一度ボタンを押して話し掛けようとすると、「だから間に合ってるって言ってんだろぅが! ガキ使って同情を誘ったって無駄なんだよ!」と怒鳴り声がしてまた切れそうになるので、慌ててシュウは、「保さんが!」と叫んだ。
すると、しばらくの沈黙の後にわずかにドアが開いて、隙間からボサボサ頭の髭面の男が顔を覗かせて、「保さんが…どうした?」と聞いた。
「保さん…に、ここを訪ねるように言われました」シュウは消え入りそうな声で俯きながら呟いた。
髭面の男はしばらくじっとシュウの顔を睨んだ後で、ゆっくりとドアを開けて、「入れ」と言った。
シュウを玄関に立たせたまま男はリビングの真ん中に置かれたテーブルに向かい、タバコの箱を持って戻りながら尋ねた。
「保さんがどうしてお前にここを教えたんだ?」
シュウはどう説明していいか分からず戸惑っていたが、ハッと気付いたようにポケットから薄茶色の封筒を取り出すとそれを男に渡した。
「何だ、こりゃぁ?」
男が封筒の中を覗くと、そこには折り畳まれた一枚の便箋が入っていた。その便箋を開いて見ると、そこには大きな文字で「慎治様」と書かれた後にこう記されていた。
(この子は訳あって人前に姿を見せることができません。ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、ワシの代わりにこの子を守ってもらえんでしょうか)
男はその便箋を何度も読み返しながら、タバコを一本箱から取り出して火を点け、深く一口吸い込むと、「ハァ~」と大きく煙を吐いた後で、「全く保さんも、とんでもないものをオレに押し付けたもんだぜ」と呟いた。

堀川 慎治はシュウを部屋の中に通してテーブルの前に座らせると、さっそく尋ねた。
「それで、お前さんはいったい何をやらかしたってんだ?」
しかし、シュウは下を向いたまま何も答えようとしない。
「そもそも、お前と保さんはいったいどういう関係なんだ?」
なおもシュウが俯いていると、慎治は、「フンッ、だんまりかよ」と、初めて会った時の保と同じようなセリフを吐いて、またタバコをふかした。
「あのぅ、ひとつ聞いてイイですか?」
「おいおい! こっちが聞いてるのに逆に質問かよ?」思わず聞き返す慎治にシュウは構わず疑問をぶつけた。
「保さんて、いったい何者なの?」
「はぁ?」一瞬慎治は面食らったような顔をしてポカンとしていたが、しばらくして真顔になって聞いた。
「お前、保さんのこと何も知らないでここに来たのか?」
「うん」そう言ってシュウが頷くと、慎治はまたシュウの顔をしばらく見つめた後で、諦めたようにひとつため息をつくと、誰にともなく語り始めた。
「オレが初めて保さんに会ったのは、オレがまだ十八歳の頃で、新潟の少年院にいた時だった。あの頃のオレは荒れ放題で自分でもどうしようもないと思うくらいヒドかったけど、唯一保さんだけはオレの話を真剣に聞いて一緒に悩んでくれたんだ」
慎治の話によると、保はその頃ボランティアで長岡にある少年院に出入りしており、趣味の絵画を教えることを通じて少年たちの更生を手助けしていたという。実際に少年院では民間の協力のもと、芸術や文化を学んでもらうことにより少年たちの心を豊かにし、社会生活に戻った時の力添えとなる活動が行われている。
「一番覚えているのは、真っ白いキャンバスを自分の好きな色で塗らせ、廻りをこれも自分の好きな色のいくつもの円で囲ませる描き方で、オレは勝手に「ぐるぐる画法」って名付けてたけど、保さんはこの円ひとつひとつに自分の好きな人を思い重ねなさいって教えてくれた。最初はそんな人思い浮かばなかったから円の数も少なかったけど、何度も描き重ねているうちにだんだんと、「あっ、あの人も。あっ、この人も…」って思い出してきて、絵が完成した時は自分の廻りを沢山の人が暖かく見守ってくれてるような感じがして、思わず泣いちまったのを覚えてる」
その時、シュウは保の小屋で見たあの抽象画を思い出した。あれは保自身が親不知に来てひとりになった自分を見つめ、美しい海と今まで自分が出会ってきた人たちを重ねて描き上げたものだったのだ。
(昔ワシはおめぇとおんなじ眼をした子供らをいっぺごと見てきた)
保の言葉が思い出された。
「オレは少年院を出た後も、保さんとは年に何度か手紙のやり取りをして、自分の近況や悩み事なんかを保さんに聞いてもらってたんだ。そして、今は別れちまったけど、結婚して嫁さんとの間に子供ができたことを報告した時、「実は初めて告白するが」と保さんの過去について書かれた手紙が来たのを読んで驚いた」
保はもともと新潟市内で会社勤めをしながら、奥さんとひとり娘の三人で幸せな暮らしを送っていたが、娘が十二歳の時に近くに住む十七歳の少年に暴行目的で自宅に連れ去られ、そのまま殺されてしまうという信じられないできごとに遭ってしまった。少年はすぐに逮捕されたが未成年であったことから少年法の保護精神に則って処置され、殺人ではなく傷害致死が適用されたこともあり保護観察処分となっただけで再び社会に戻ることとなった。保は何度も警察や家庭裁判所に抗議に行ったが聞き入れてもらえず、やがて憔悴しきった娘の母親も後を追うように死んでしまい、保は天涯孤独の身となってしまったのだった。
(どんな親でも子供の身を案じねぇ親はいねぇ)
(世の中には一緒にいたくてもいらんねぇ親子がいっペごといるんだ)
保の言葉が次々にシュウの心に突き刺さってくる。
「それから失意の底で保さんがどんな毎日を送ったか詳しいことは書いてない。だが定年を迎えて残りの人生をどう生きようかと考えた時、ふと犯罪を犯してしまった子供たちのそばに寄り添い、その声を聞いて一緒に悩みを分かち合おうと思って少年院のボランティアに応募したそうだ。オレを初めとして、保さんのお陰で立ち直れた子供たちは沢山いるだろう。五年ほど前にさすがに体力の限界を感じて親不知なんて片田舎に引っ込んじまったが、七十歳を過ぎるまで保さんはオレたちみたいな心に傷を持ったヤツらの支えになってくれてたんだ」
(おめぇの背負ってるモンの重みは少しは分かってるつもりだ)
保が自分に投げかけた言葉が決して気休めではなく、長い年月をかけて子供たちとともに自ら心に刻み続けてきたものだったと知った時、シュウの眼に温かいものが自然と溢れてきた。
最愛の娘の命を奪われ、その命を奪った相手に十分な罪を償わせることもできず、納得のできないまま妻までも失い、保の悔しさはいかばかりだったか計り知れない。恐らく何度か死を考えたこともあっただろう。しかし散々悩み抜いたあげく、保が選んだのは相手を憎み続けることではなく許そうとすることだった。大事なモノをなくし、それを取り戻そうとしてよけいに傷付き続ける少年たちとの会話を通じて、保は殺しても殺し足りないと思った少年の心を少しでも理解し、自分の真ん中にポッカリと空いた穴を少しでも埋めようとしていたのかも知れない。
「そう言えば、さっきの手紙に、「ワシの代わりに」って書いてあったな。おい、保さんに何かあったのか?」慎治の問い掛けに、シュウは自分が取り返しのつかないことをしてしまったことに気付いた。
あの晩、保は詳しいことは何も聞かずに黙ってシュウの背負っているものを理解しようとし、シュウだけでなく亡くなった父や母のことも含めてその悲しみに寄り添おうとしてくれた。そして自分の命と引き換えにしてまで、シュウに生きることの大切さを、命の尊さを教えようとしてくれたのだ。
その時、シュウは首を絞められていたハズの保の顔に小さな笑みが浮かんでいたことを思い出した。あの時シュウは父親と同じく自分がバカにされていると思ったが、決してそうではなく、何もかもを捨ててシュウの手に全てを委ねようとした保の最後の望みが、あの笑みを作り出していたのだと悟った。あの晩、きっと父親も同じ思いだったに違いない。
「保さん…ゴメンナサイ。オヤジ、母さん…ゴメンナサイ」シュウの眼からはとめどなく涙が溢れ頬を伝っていった。自分のしでかしたことの大きさに気付いてシュウは手のひらを見つめたが、自分がこの手で奪ってしまった大切なモノはもう二度とこの手に戻ることはない。
シュウはポケットをまさぐると、そこからひとつの石を取り出した。それは保が親不知の海岸で拾い、磨き上げてシュウに渡したヒスイの石だった。その石の深い緑がかった青はあの果てしなく広がる海と、保の控え目だが思いやりに満ちた不器用な愛情を思い起こさせた。
目の前で慎治が黙って見つめる中、リビングルームにはシュウの嗚咽だけがいつまでも聞こえていた。
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