清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

18 〜これを使えってことだよね

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 紫紺の色をした、布で出来ている紙ばさみの上に、青と銀の色彩のガラスで作られた万年筆が置かれていた。

 それが万年筆と分かったのは、借りたものと作りが似ていたからだ。

 ただ少し違かったのは、房の部分に房ではなくトンボ玉のようなガラス玉が付いていた。

 万年筆ごと手に取ってみると、万年筆は見た目より軽かった。
ガラスと言うより七宝焼きみたいなものだろうか、そこから下がるガラスの球は、青と黒に近い紺色のガラスと、銀粉、銀箔をふんだんに練り込んで作られており表面に透明なガラスで覆われたその球はまるで宇宙の中に見えた。

(すごいキレイだけど…ものすごく高そう。)

 ここに置いてあったということは、智美用に用意されたということだろうか、借りた物より更に高価そうな代物に少々怖気づいたけれど、その色合いと様式は智美好みで、とても気に入ったのでありがたく使わせてもらおうと思った。

 それをひとまず胸にしまうと、置いてあった紙ばさみを開いてみる。
糊のきかせてある紙ばさみはしっかりとしていて持ち歩いても丈夫そうだ、中には青みががかった便箋のような紙が沢山入っていた。

 智美は、今日書き綴っていたメモ紙を紙ばさみのあいていた方のポケットに差し入れる。

(清書用の紙かノートをくださいと言おうと思ってたけど、これを使えってことだよね。)

 そう思いながら紙ばさみを閉じて、表紙をそっと撫でた。







 次の日、ミエルに会ってすぐに、借りていた万年筆を渡しながらお礼を言った。

「ミエル様おはようございます。

 素敵な万年筆用意していただいてありがとうございます。お借りしてたこれお返ししますね」

『おはようございます。え、あ、はい…』

 挨拶を返して来たものの、なんだか変な顔をしているミエルを気にせずに、万年筆を返して智美はなおも言い続ける。

「こんな高そうなもの、これは頂いていいんでしょうか」

 智美は、帯に刺していたガラス玉の付いた万年筆を出して眺める。

 今日はこれをちゃんと帯に刺せるような服装にしていた。

 ガラス玉を見たミエルはつぶやいていた。

『なぜ、それを…』

「え、部屋に置いてあったので、用意してもらったものかと…あ!もしかしてこれも貸し出しでしたか、あんまりきれいだから、ついうれしくて」

『いえ、…もらって大丈夫だと思いますよ、たぶんカイ皇子の物ですから』

 ミエルの言葉にビックリして、智美の言葉が止まる。

『すいません、私は忘れてたのですが、カイ皇子が用意してくださったようですね。』

「カイ皇子の?でもそんなこと何も」

 智美は昨日も、カイ皇子と夕食を二人で共にしていたが、昼間の事とカイ皇子の体の事ばかり質問していて、そんな話は少しも出なかった。
その時この万年筆を胸に刺していたが特に何も言わなかった。

 カイ皇子は気づいてはいたが口にはせず、智美の胸に有るガラス玉を見て少し嬉しそうにしていたのだが、ささやか過ぎて、智美は気付いていなかった。

『カイ皇子は普段実用的なものを使われてますが、それは式典とか正装したときに身に着けてらっしゃったのを見たことがあります。
装飾の方がメインの物なので、ほかにもお持ちのようですので、あなたの部屋にあったのなら下賜されたんでしょう』

 智美はカイ皇子がくれたとはちっとも思ってなかったので、カイ皇子にはお礼も何も言ってなかった。

 お礼もせづにくれた本人の目の前で付けていたことに、智美はいたたまれなくなる。

 その様子にミエルはふっと口がゆがむ。

『そんなに気にしなくとも大丈夫ですよ。
 あれはただ、他人の物を胸元に入れさせたくなかっただけでしょうから』

「は?」

『気に入りましたと笑ってお礼を言えば、カイ皇子も喜びますよ』

 ミエルが笑いながら言うので、わからないながらも、お愛想の様に笑いかえした。

「ふぁあっつ、おはよ~」

 そこに、あくびをしながら愛子がやってきた。

『おはようございます、愛子様』

「おはよう、眠そうね」

 ミエルは丁寧に返し、智美は敬語を使うのも何だか変な気がして普通に返す。

「う~ん、二度寝したから、なんだか眠い。」

 愛子の目をこする様子に、苦笑いするしかない智美だった。





『昨日は、未熟な青泉使の手違いで怖い思いをさせてしまいまして、申し訳ございませんでした』

 ミエルの、謝罪の言葉にカイ皇子から聞き出した事を思い出す。

 ミエルの言う未熟な青泉使は、来る予定のなかったミエル総代が、ねぎらいの言葉を掛けにやってきた事で、テンパってしまったのだ。

 感激と驚愕と緊張、成功させなければと言うストレスで、予定していた【言の葉】ではなく、高度な強い言の葉を使用してしまい、また魔力を込め過ぎてしまった様だ。

 そのため、予定していた魔獣より高位の魔獣を呼び出してしまったらしい。

 その事を知っているのか、いないのか、ミエルは状況結果を話し出す。

『青泉使は大変後悔し、死を願い出そうな様子でしたが、幸い亡くなった者はおりません。

 打撲、骨折が数名、欠損者も出ませんでした。高位の魔獣を呼び出してしまった割には損害が少なかったので、青泉使は降格の上で奉仕活動を行う事になりました。

 カイ皇子に感謝せねばなりませんね』

 ミエルは少し疲れたように息を吐くと、気持ちを切り替えたのか、別の話を始めた。





──────────
後書き

医局へ行ったカイ皇子は、施術後に一応身体を気遣われて、後処理をザッジ団長におしつ…任せて一先ず部屋へ帰されていました。


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