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第一章

19 ~すこぶる真面目なのかな

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殆ど会話文の
ミエルによる説明回です。


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『さて、それでは、【アイの泉】と、【言祝ぎの加護】について話ますが、その前にこの地の成り立ちを説明いたしましょう。
 昨日、白神山の女神が、この別盤を作ったとはなしましたが、この地を作りし時、女神は混沌とした力をそのままに大地を作りました。』
 ミエルの台詞に、少々疑問を覚えつつ、智美は黙って聞いていた。
『しかし、女神が幾ら大地に生命の芽を与えても、生命が根付き息吹く事はなく、困った女神は水の力を流して、劇薬にしかならない混沌とした力を整え、生命の息吹きの糧にする事にし、水力を秘めた神泉を作り、大地に行き渡らせるよう己が作り出した、神獣様達に預けました。』
 ミエルの話は、智美にはおとぎ話のように聞こえる。
『神獣様たちはそれぞれの考えで、大地に泉の力をお流しになり、大地は整い女神の恩恵による芽生えを頂き、生命が根付き生き物が育まれ、そして我々人も育まれました。
 そして、青龍様にとっては、女神の思し召しにより生き物はすべて平等に愛しくそして守るものですが、平等ゆえにすべてにおいて、厳しくもあるお方です。』
 そこまで話して、ミエルが一息ついた所で、智美は疑問を口にする、
「昨日と話しが、食い違いますが泉水は人ありきじゃなくて、後付け何ですか」
 そう問われて、ミエルが少し困った様な顔をして言葉を紡ぐ。
『ええ、確かに昨日話した話は、人の為に女神が施したと申しましたが、民間伝承ではそうなっており、もはや正しい内容は、青泉使の【言の葉】と【文様】を扱う者しか知らなくなりました。
 ただ、魔獣の話をするのに、今話した内容を知らないと、納得できないのです』
 そう言って、少し黙りどう話そうか考えているようだった。
『青神泉のお陰で、生命が活動出来る箇所ができましたが、青龍様が地下水脈で大地に行き渡らせようとしましたが、遠くへ行くほど、力が届きません。
 ゆえに整え切らぬ力が、淀み混沌の【淵源エンゲン】ができてしまいそこから、魔獣が生まれて来たと言われております。』
(ミエル様、すこぶる真面目なのかな、なにもそこにたどり着くまでの事に、事細かに説明しなくとも。)
 そう思いながら隣にいる愛子を盗み見れば、案の定全く興味がないらしく、足が地に付かない椅子に座り、つまらなそうにしているさまは、なんだか嫌いな教科の授業を受けている子供のようだなと思った。
『思うように住める土地が広がらない事を、気に病み始めた青龍様のために、白神山の女神は神泉より青龍へ唯一なる妃を別盤より引き寄せ与えられました。』
 気が散っていた智美だったが、ミエルの言葉に引き付けられる。
「そういえば、龍妃様って別盤者なんですよね」
『ええ、青龍様は青国の生命の源である水すべてに干渉できますので、この国の生きとし生けるものはすべて、気持ちが読み取れてしまうそうで、そういう面でも青国の者はいつくしみ、導くものであってそういう対象にはなれなかったのでしょう。』
「ということは、【アイの泉】の【言祝ぎ】ができる清き乙女は別盤者だからなんですか」
 智美の質問に、ミエルは静かに智美を見つめ返しながら言った。
『どうなのでしょう、そのことについて青龍様は明言されておりませんので、ずいぶん昔に清き乙女について、詳しくお伺いになった総代がおられたそうですが、それに対して、青龍様は
 ”それを聞いてどうする、どちらにしろお前が生きてる間には現れぬだろうな”
 とおっしゃられたそうで、それ以来【清き乙女】伝承は語り継がれますが、青龍様に問いただしてはならないという暗黙の了解がまかり通っております』
「でも、龍妃が全土ええと45?47箇所に泉力を使えるようにしてくれたんだよね?というっとやっぱり、別盤者て言うのが鍵なのかなあ」
 智美がそう呟くと、愛子が口を出してきた。
「はっ、おばさん自分が清き乙女にでもなろうって言うの?おっかしー」
 嘲笑うように言う愛子に、智美は言葉に詰まる。
 そんな様子を面白そうに見ながら愛子は言った。
「それより、ことはぎ?」
言祝ぎことほぎです。』
「そうそれ、40箇所もあるんじゃ、いちいち回るの?面倒」
(お前こそ、自分だって疑ってないんだな、それに、47箇所だよ、何サバ読んでんだよ)
 傍目には涼しげな顔に見えるが、心の中で智美は毒付いた。
『47箇所ですよ、今機能しているのは45箇所ですが、
 言祝ぎの加護は、アイの泉でする儀式と聞いております』
「一回でいいんだ、楽ちんじゃん」
 ミエルの言葉に喜ぶ愛子だが、ミエルは愛子の品のない考え方や、言葉遣いに、この者が清き乙女であったら、自分は敬う事が出来るだろうかと思う。
「ところで、何で二箇所機能してないのですか?」
 気を取り直した智美の問いに、ハッとしてミエルは意識を変える。
『二箇所は人の欲により、基盤である青魔晶が盗られてしまったり、青水樹が枯れてしまったりして機能しなくなりました。』
「青水樹?」
 また、聞いたことのない言葉が出てきて、問い返す。
『各地に送った青泉水を大地に広範囲に流すための樹木に似た…碑でしょうか…
 青水樹は、青水樹として認識しておりますので、今度実物を見てみますか?』
 結局ミエルは智美の方が好ましく思っているのだ、やはり年齢のせいか礼儀正しいし、自分の話を聞き、聞くだけでなく質問もしてくるので、ちゃんと聞いていることがうかがえる。
 カイ皇子の泉侶だけあって、敬うことを戸惑うこともなくできる。
「実物ですか?城の中にはないですよね。」
『ええ、少々移動に時間がかかりますが、日帰りできるところに一か所ありますので』
 暗に智美の外に出ていいのかという思いを、外しながらミエルは話す。外への外出の許可はまだ清き乙女と判明していない今なら、大丈夫だろうと思う。
 青水樹はとても綺麗な場所として有名で、ミエルは智美に見せてあげたいと思うし、興味を持つだろうと思ったからだ。
「見てみたいです。よろしくお願いします。」
 そう言って笑う智美に、ミエルは微笑みながら愛子にも問いかける。
『アイコ様はいかがなされますか?』
「うーん、城の外は見てみたいけど、移動に時間がかかるんでしょ?愛はいいや、行かない。」
 その言葉に、ミエルは複雑な思いが込み上げてきた。




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後書き

ミエルの智美への好ましさは、
お気に入りの生徒(子弟)と言う感覚です。
ここも差し込みです。
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