清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

22 ~ち、ちがっ…

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「ふー良いお湯」

 ウキウキとした声で、乳青色のお湯に浸かるのは智美だった。
 その横で複雑な顔をして一緒に入っているのは、愛子付きの侍女メリル。

 なぜこんなことになっているのかといえば、智美がタンザに城内の案内をしてもらった時に、城に従事する人達が使う公共の温泉施設があることを知ったからだ。
 ただタンザは、男性専用の公共浴場のある階に智美が興味を示していたので、行かないように注意したのだが、智美が思いのほか鬼気迫る勢いで男性だけなのかと問いただすので、神殿の女性区域の方に女性用の浴場があると答えた。
 智美は、それは是非入らねば!と思ったが、タンザが女性区域に入れるはずもなく、案内はしてもらえなかったし、詳しい場所を知るはずもない。
 智美の部屋にはシャワー室が付いていたが、智美はシャワーより風呂派だった。
 温泉じゃなくとも良い、とにかくお湯に浸かって疲れを取りたい。
 いてもたってもいられなかった智美は、お風呂に使えそうな品と、代えの下着と寝巻きにしているシャツをバスタオル(シャワー室に置いてあった、ベルベットのような毛足がある生地を二枚背中合わせで縫ってあるもの)で包みタンザに教えてもらっていた、女性区域の入り口に来た。
 しかし、旅館ではないので案内表示があるわけではない、どうすべきかと佇んでいたら愛子付きの侍女に遭遇したのだ。
 まあ、紹介はされなかったものの側にはいたので、相手も誰だかわかっているはずだ。

「すいません、手塚さんの侍女さんですよね、私、手塚さんと同じ別盤者の門井智美です」

『あ、はい。ミシェル様よりお伺いして存じ上げております。
 わたくし、本日よりアイコ様付きとなりましたメリルと申します』

 相手は少々驚いたものの、改まって自己紹介してくれた。

「メリルさん、いま忙しいですか?」

『いえ、本日はもうアイ子様より下がってよいと、お許しを得ておりますので』

「じゃ、申し訳ないんだけど、私を浴場へ連れてってもらえないかな?」

 智美が恐る恐る言うと、メリルは不思議そうにしながら返事をした。

『浴場ですか…サトミ様、入りに行かれるのですか?』

 メリルの質問は、部屋にシャワーがあるはずと思っているのがうかがえる。
 智美は相手が十代の女性と思われることもあって、気が緩みつい言い訳を口にする。

「わかってる、わかってるよ、シャワーはあるんだけど、私は…お風呂に入りたい!お湯に浸かりたいのよう」

 泣き言のように言って連れて来てもらったうえ、お湯に入るまでの手順もややこしそうで、半ば強引に入り方を教えてほしいといって、メリルに付き合ってもらっている智美だった。

(良いお湯だけど、部屋から遠いなあ…でも、毎日お湯には浸かりたい…)

 ゆったり湯に浸かって汗をかいていたら、メリルはそこまで長湯ではない様で、先に上がりますと出て行ってしまった。
 そろそろ上がろうかなあと肩まで浸かって、温めていると突然頭に響きわたる声がした。

〔サトミ!何処だ!サトミ!〕

「うわ!!、な、なに、え?カイ皇子?」

 智美はびっくりして、ザバリと水音を立ててつい立ちしてしまったが、焦った様なカイの声に我に帰る。

〔サトミ!溺れているのか?!〕

「ち、ちがっ…」

 声がするだけなので見られている訳ではないのに、何となく智美はお湯にめいいっぱいつかりこむ。

〔サトミ、何処に居るんだ?〕

 最初程でも無いにしろ、少し焦った様なカイ皇子の言い方に、智美はつぶやく様に返事をした。

「…神殿の浴場」

〔……そうか〕

 呟くように返事をしたカイ皇子の声は、安堵しているのに何か不思議に思っているような、複雑な気持ちの色を、端的な返事の中ににじませていながらも、黙り込んでしまった。

 通信(?)が切れのかと思ったが、何となく繋がっているような気がして、智美は独り言のように言ってお湯から出た。

「もう、でる」

 一緒に来ていたメリルには先に帰る様に言ってあったので、下着を新しいのにして着替える。
 新しい下着は、自室のシャワー室に用意されていたのでそれも持参していた。
 パンツはここではふんどしだった。
 ふんどしと言っても、六尺ふんどしではなくどちらかと言うと、越中ふんどしだろうか。
 智美は最初自分で履いたわけではなかったので、一見紐パンに見える下着に慄いた。
 前たてにあたる部分に、刺繍などがしてあるうえに短めだ、その下に隠される様に紐が結んである。
 帰ったら寝ようと思っていたので、こちらで目覚めた時に着ていた絹の様にサラサラした、ロングチャンチヤンコのようなシャツもどきを着る。
 寝るには十分な長さはあるのだが、外を出歩くのには丈が短すぎるので、着てきた巻きスカートみたいなスカートを履いた。ブラジャーをしない胸が心許ないが、この国にはブラジャーが無いようなので仕方がない。
 濡れないよう上げていた髪をおろす。
 この国では髪を結上げてる女性は既婚者との事で、邪魔じゃないかとミシェルに言ったら、未婚の者は、髪を縛ったとしても下に下ろしているということで、ゆるく三つ編みなどして、リボンで縛られた。
 もう部屋に帰るだけだし、と思い智美は髪を下ろしただけで手櫛で整えると、ちらほら人が入ってきた気配がした。
 脱衣所も浴場も、広いので誰かがいるぐらいにしか感じない。
 メリルが言うには、朝早くと夜遅くが混むらしい。
 朝は神殿に仕えてる人の禊ぎで、夜は城に仕えてる人で、仕事が終わると入りに来るので混む様だ。
 持ってきたタオルや脱いだ服を纏めて胸に抱えて帰りを急ぐ、何となくだが急がなければならない様な気がする。
 温泉で火照った体に上着を着るのは暑かったので、腕を晒したまま通路を急いだ。






──────────
後書き

正解はお風呂(温泉)でした~。きれい好き日本人。
ちなみに城の全部の部屋にシャワーが付いてるわけではありません。
メリルが知っているのは、智美がカイ皇子の隣の部屋と知っているからです。
さらに余談、愛子のいる部屋にもシャワーはあります。
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