清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第一章

23 ~距離感が分からなくて焦るよ

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 すると、やはりと言うべきか、女性区域を出たあたりの通路に人影が見える。
 泉水により淡く光を放つ灯りで、常時照らされている通路に立っていたのは、カイ皇子だった。
 皇子がこんなところに一人でいるのは、少々奇異の目で見られていただろうに、カイ皇子は気にする風でもなく、こちらに寄ってくる智美を見つけると、自分の着ていた上着を脱いで智美の肩にかけた。

「すみません、でも暑かったので、大丈夫です」

 有無を言わさずカイ皇子がかける上着を、智美は抵抗せずに受け入れるが、案に要らないという雰囲気の言葉を言うと、カイ皇子は上着を見たまま言った。

『そんな恰好で、城の中を歩いてはいけない』

「…すみません」

 確かに、智美も少々薄着かなあとは思った。
 でも着ているシャツは大きくて、肩が落ちて智美のぷにぷにの二の腕を中ほどまで隠している。
 夏場に着るTシャツの感覚でいた智美は、抱え持つ荷物で胸は隠しているし、大丈夫かと思っていたのだが駄目だったようだ。
 カイ皇子が智美の背に手を添えるので、促されるままに足を動かした。
 無言で歩いていた二人だったが、智美はふと万年筆をくれたのはカイ皇子で、それを聞いてからカイ皇子に会ってなく、まだお礼を言ってないことを思い出した。

「あ、あの、ペンご用意頂きましてありがとうございます。
 今日カイ皇子の私物とお伺いいたしまして、お礼を申し上げなくてすみません」

『いや、気にしなくていい』

「とてもきれいで、文字を書きながらも、つい眺めてしまいます」  

 そう嬉しそうに言う智美を、カイ皇子は複雑な顔で見ている。ミエルが喜ぶと言っていたが、そんな様子は無く智美は戸惑った。

『部屋に置いてあったから』

 一瞬何を言われてるのか智美は分からなかったが、万年筆の事を言っているのだと思い口にする。

「お風呂に行くのに、あんな高価なものもって行けません。脱衣所に置きっぱなしになるし」

 そのセリフに納得したのか、安堵したようにカイ皇子は言った。

『部屋に赴いたらこんな時間に居ない、持ち歩いてる物は置いてある…
 なぜ、浴場に…』

(やっぱり、聞かれるよね)

智美はメリルの時のように、シャワーがあるのに何故、という問いが入ってるような気がした。

「私、湯に浸からないとお風呂に入った気がしないんです。
 確かに、部屋のシャワーで体は洗えるけど、体は暖まらないし、疲れが取れた気がしないんです。
 疲れるほど何かしてるわけではないですけども」

 自分の言葉に苦笑する。こちらの事を見聞きしていろいろ、メモをとってはいるがいったい自分はどうするべきなんだろうと思う。
 考えない様にしていた領域に意識が行きそうになり、振り払うように別の話を振る。

「先ほどの、通信は私からは出来ないんですか?」

『ツウシン?泉信センシンの事か?サトミから?』

 智美の言葉にカイ皇子は、何やら考える様な仕草をした。

「こちらの文字は書けないので、書き置きできないですし、先ほどのお礼とかも直ぐ伝えられましたし」

 その言葉に納得したのか、歩きを止めてすっと智美のピアスに触れる。
 耳を囲う様に手を出してはいるが、耳自体には触れてはいない。ふわりとまとうカイ皇子の手の熱が、智美の鼓動を大きく跳ねさせる。
 ふんわりと目の端が光ったと思ったら、カイ皇子は囲っていた手を外しピアスをカツンと突いた。

『これで、触りながら俺の名を呼べば繋がる』

 智美はお礼を言おうと思ったが、カイ皇子言葉に疑問が起きる。

「もしかして、カイ皇子だけですか?」

『ああ』

 あっさりとした返答に、智美は困惑する。

「えっと、せめてミシェルさんに連絡できるとうれしいんですが…」

(と言うかむしろ、ミシェルさんしか用事は無いよ…カイ皇子にいろいろ頼むわけいかないし)

 そう智美が思っていると、そうか?と言う表情をしてちょっと不服そうにしながらも、智美のピアスをこつんとつつく。

『これで、ピアスとミシェルの水章を触りながら、ミシェルの名を呼べば、その後からはミシェルとは話せるようになる』

「それもやっぱり、ミシェルさんだけですか」

 ああと答えられて、智美はけち臭いとちょっと思ったが、もともとカイ皇子の持ち物だ、いろいろな機能を付加してくれるだけでも、ありがたいと思わねばと考えなおす。
 そうこうしているうちに、智美の部屋についた。
 ドアを開けて智美が部屋に入る前に、お休みの言葉を言おうとすると、カイ皇子が智美の頬に手を軽く触れ、ピアスの付いている耳に軽く唇を当てる。

『いい夢を』

「…おやすみなさい」

 智美は挨拶をすると、部屋の中に入ってドアを閉めた。
 毎度あの挨拶にはドギマギさせられる。
 初めて夕飯を一緒に食べた後に部屋へ送られたが、その時から夜のこの挨拶はしている。
 その時はミシェルもいて、何の驚きも無いようだったので、こういう挨拶をするものなんかと思ったが、なれない智美は夢も思い出してしまい固まってしまう。

(きっと、西洋人のハグみたいなものよね。距離感が分からなくて焦るよ)






──────────
後書き

鈍いのか、思い込みか…。
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