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第二章
27 〜…チッ、もう少し
しおりを挟むその艶のある笑みに魅了される。
智美が真っ白になった頭のまま、無意識にその笑みに見惚れていると、カイはゆっくりと顔を近付けてきて、唇が軽く触れたとき、ノックと共に人が入ってきた。
『カイ皇子、急ぎの書類が…』
書類を見ながら入ってきた相手は、目を向けた先の二人の様子に押し黙り、
『すまん』
とだけ言った。
その途端、智美はずるずると背中を擦るように、その場にしゃがみ込んだ。
上からチッと舌打ちする音がする。
『カイ皇子、今は執務時間ですよ』
そう言って苦笑いをしながら、しゃがみ込んだ智美に手を差し伸べていた、カイ皇子の腕を掴んで、邪魔をしたのは、皆にザッジ団長と呼ばれている、智美には同じ世代だと思われる、焦げ茶の髪に、グリーンの瞳の飄々とした人物だ。
『ザッジ』
『これも仕事なんで』
咎めるようにいうカイを、ザッジは気にする事無く、軽く答えて肩をすくませる。
その隙をついて、気をとりなおした智美はすくっと立ち上がり、カイから離れて近くのテーブルに置いておいた、何時もの紙ばさみを手に取り抱えなおして、何事も無かったかのように、にっこりとザッジに笑いかける。
「カイ皇子はお忙しいようなので、私は邪魔にならないよう失礼させて頂きます」
そういうと、カイの目を見ずお辞儀して、スタスタと部屋を出て行った。
その様子を、呆気にとられたように彼らは見ていたが、ザッジは気を取り直したように、急ぎの書類をカイに手渡して言った。
『急ぎなのは本当なので、お願いします』
『…チッ、もう少し────』
書類を受け取りながら、カイにしては珍しく愚痴をこぼす。
『カイ皇子、口が悪いぞ。
泉侶だから抗い難いのは分かるが、一応彼女も【清き乙女】候補だから』
そうザッジは言いながら、補佐として置いてある机の席に座る。
『しかし、確かに歳はいってるけどアイコ様よりサトミ様のが【清き乙女】らしいよなあ』
書類を読みながら、自分の席に戻り座ったカイは、ザッジの言葉に目を向ける。
その瞳が言わんとしてる事を読み取って、ザッジは言葉を続けた。
『アル皇子やジーサ医局長は無理だと気付いたのか、アイコ様は最近騎士団訓練を見学して、団員候補生をねぎらっている』
ザッジの物言いに、カイは片眉を上げて見せた。
『団員候補生は、アイコ様と同年代の者も多い。
秘宝を持つ【清き乙女】には崇拝させるのは容易いんじゃないか、身近にいるお偉方は、敬うより小言が多いようだし。
しかし、俺からするとアイコ様は、乙女っていうより少年だよな、それにあんなに足出してたら、下手すりゃ娼婦だ』
この国の女性は基本髪を伸ばしているゆえに、ショートカットの愛子は少年のような髪型で、おまけにこの国の女性と比べて彼女は小柄すぎて、子供服を着ている。
そこにJKの意地なのか、裾丈をたくし上げて、太股の中ほどになるようにしている。この国の女性は足は見せても、せいぜいくるぶしほどだ。
ザッジは、こちらに来た時よく間違われなかったものだと思うが、青神泉から来たのでびちょぬれで、ぴったり張り付いた服からは胸の膨らみがわかり、着ていているものも丈が短いがスカートの様だし、ということで判断されたようだが、その判断基準の胸のふくらみも、何故かさっぱりのようだがとザッジは思っている。
実は愛子は、ブラにかなりの詰め物をしていたのだが、こちらにはブラジャーというものが無いので…盛れないらしい。
『ねぎらう?』
カイは基本的に愛子のことには、無関心を通している。
智美に濡れ衣を着せようとしたり、泉侶のいる兄に言い寄っているようだったので、良い感情を持っていなかったのだが、そんな彼女が自分の管轄している騎士候補に、何をしているのだろうと思う。
『んー、ねぎらうていうのは建前で、暇つぶしじゃないか?
午後早いうちから訓練を見に来て、少しの休憩時間に、一緒に冷たい飲み物を飲んで話して帰るみたいだし、あ、一応侍女に、全員分の冷たい飲み物を用意させてるみたいだから、ねぎらってる事にはなるのか?』
ザッジがあごに手を当て、考えるそぶりをしながらそう答えると、
『どれくらいの頻度で来てるんだ?ちゃんと、訓練になっているのか?』
と、カイは聞いてきた。
『この前カイ皇子が、乙女候補二人連れてきた時から毎日来てるよ。
あの事件の次の日から、アイコ様とお付きの侍女と来られて、あの格好だし、成人前の奴らは浮足立って訓練にならなかったみたいだけど、毎日来てるから最近はそうでもないかな、休憩中の飲み物の差し入れで、気を引こうとして邪魔だったらしいけど、サトミ様に諭されてたし』
そう言ってザッジは面白そうに、思い出し笑いをした。
──────────
後書き
我慢できなくなったようです。
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