清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第二章

26 〜ち、近いんだけど…!!

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 彩三盤園に来て数日、いまだ青龍様はお戻りにならないようで、【言祝ぎの加護】ができる【清き乙女】がどちらなのかはっきりしないので、判明するまでの彼女たちの処遇をどうするか、少々持て余し気味になってきていた。

 今後の予定が立てられないがために、二人の行動が如実に異なってきたが、愛子は最初の勘違いから、周りには【清き乙女】と思われており、公表されないので誰も口には出さないが、智美が付けている青魔晶のピアスと、カイが片側しかピアスを付けてない事により、智美はカイ皇子の泉侶であると、城内では暗黙の了解がなされていた。


 手伝えと言われて、智美は騎士団のカイの執務室へ連れてこられていた。
 しかし、字が分からないので書類の手伝いはできず、乱雑に置いてあったものを掃除をしながら片付けていたのだが、何冊か本棚から出して机に積みあがっていたうちの、一番上に重ねてあった本を一冊手に取った。
 こちらの世界では、色んな技術が別盤から来た者によって発展したものがあった。
 その中でも製紙の技術は、もといた世界と同じような発展を遂げつつある。
 ただ、印刷に関しては版画の域を出ていないし、書物はいまだに人の手による書き写しであることも多い。需要と供給の問題もあるのだろうが、製本するのは手作業で手間がかかり、高価なもので大量には作られない。ゆえにこちらの世界の本は贅沢品でもある。
 ものによってはきれいな装飾を施され、読むためなのか飾るためなのかといった物もあるため、低価格な物は、本というより、聞いた形式だと小さい新聞の様な物のようだが、智美はまだ見た事が無かった。

 智美が手にした本は、表紙は綺麗なこげ茶色の地に金字で模様が施された皮で出来ているが、表紙を開きぺらぺらと捲ってみても、文字ばかりで何もわからない。
 聞き取れないせいか、こちらの文字を見ても判別がつかない。

 以前カイの魔法を見たときに、陽炎のように模様が連なって見えたのが、文字だったらしく、あの時の魔法は【言の葉ことのは】の魔法といい、言葉を可視化して使用する魔法で、ほかに模様のような【文様】や、呪文のように方向性を言葉にする【詠唱】などいろいろなやり方があるらしい、何せ思うだけで魔法は発動するらしいのだが、威力や方向性を整えるために先のような分類があるらしい。
 だが、別盤者は魔力を内包していないので、教わっても無駄だと言われた。

 そういえば、青泉使しか使えないはずの、【言の葉】を何故カイが使えるのかと、ミエルに聞いたことがあるが、カイだけ特別に青龍様から教えてもらったようだ。

「なんで、カイ皇子だけ…」

『それは…カイ皇子に直接お伺いください』

 呟くようにいう智美を、困ったように見てミエルは言った。
 智美は自分が覚えられないからか、改めてカイに聞いても仕方がないので聞くのを忘れていた。


「本が読めないのが辛い」

 読書が趣味だった智美にとって、本が読めないのは辛かった。
 知識を得るにしても何にしても、人に聞く以外知る方法が無く、人に気を使ってまで色々聞くのは気が引ける、何せ三歳の子供でも知っているような事を聞くので、当たり前過ぎて相手がどう説明していいのか迷うようだ。

 こちらの世界に来て、説明を受けた次の日からずっと午前中は、ミエルがこちらの世界のことを説明してくれている。ただ、やはり青泉使総代だからなのか、青神泉絡みの内容が多く、少々小難しくて、愛子は数日ざっと聞いてその後来なくなってしまった。
 なので、愛子とは食事が一緒にならない限り、顔を合わせないので、何をしているのか全くわからない。
 ミエルは一般的な事も教えてくれたが、こちらが何をわかってないのかが、分かっていないので説明も簡単だった。
 聞けば教えてくれるが、理解できなくてこまることが多かった。
 何が分かってないのか理解が早く、説明が上手なのはタンザとジーザで、ただジーザは知識の偏りがあるので、何を聞いても返事が返ってくるのはタンザだった。
 智美はタンザと話しているときは、質問ばかりしている。
 だが、タンザは第一皇子の補佐官で忙しいし、話していると何故か第二皇子のカイが邪魔をして、よくわからない用事を言いつけてくる。
 ゆえによくカイといることが多いが、カイに質問してもカイは寡黙で端的に答えるか、答えるのに悩むのか、返事が返ってこないことが多い。

『字は読めるようになる』

「うわ!びっくりした」

 ぼんやりと手にした本を、ぱらぱらとめくりながら、考え事をしていたせいか、いつの間にかカイが近付いて、智美の後ろに立っていた。カイが耳元近くで話すことに智美は驚いて本を落としていた。
 咄嗟に屈んで拾い、本棚に似た表紙の列の空いた隙間にしまう。

「読めるようになるって、文字の区別もつかないのだけど…」

『青魔晶の儀式があるんだ』

 振り向いて問いただす智美に、カイは覆いかぶさるように近付いて話す。

(ち、近いんだけど…!!)

 カイとの身長差は頭一つよりもあり、上を見上げるようにしないと目を見て話せ無い。
 おまけに覆いかぶさる様になるほど近付いているので、恥ずかしくなった智美は彼の鎖骨あたりに目を向ける。
 距離を開けようと智美は後ろに下がろうと思ったが、後ろには本をもどした書棚が有って、背に書棚がぶつかり、たいして下がることができなかった。

「青魔晶ってこのピアスの?」

『ああ、その石を使って儀式をすれば、話せるし、字も読めるようになる』

 少し開いた距離も詰めるようにして、カイはピアスを付けてある耳に唇が触れそうなくらい近付いて書棚に手をつきながら話した。

(こ、これはもしや、壁ドン状態?)

 就寝の挨拶の時よりもさらに近く、色気前面に押し出した声色で囁くカイに、パニック気味の智美は体がこわばって言うことを聞かない。
 カイは体を少し離すと、うつむき気味な智美の顎を持って上を向かせ、自分の目線と合わせさせる。

『儀式をするか?』

 瞳にとらわれて、智美の頭は真っ白になった。
 真っ直ぐ見つめる青い瞳を呆然と見つめていると、いつも無表情気味のカイが、薄っすらと微笑んだ。




──────────
後書き

なんだろう…色々渋滞している
これ考えた時、壁ドンとアゴクイが流行ってたんだと思われます。

区切りを入れて、各章を作った方がいいのでしょうか?
まだ、ぜんぜん核心にも触れていない。

上記は別サイトでの、コメントなんですが、
アルファでは、各章を作って見ました。
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