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第二章
25 〜この状況は、どう判断すればいいのだろう
しおりを挟むカイ皇子に手を引かれ、導かれるままに部屋から出て、城内の通路を歩く、智美はなぜだかわからないが、今のこの時だけは、カイ皇子に警戒心が湧いてこなかった。
人気のない薄暗い城の通路で、男性と二人っきりということ事態に、何の怖さも緊張も感じない上に、いつものカイ皇子への動悸も起きない事を、智美は不思議に感じながらも、カイ皇子に手を引かれ素直について行く。
上の階に上がり少し歩くと、目の前に透かし彫りがされた円筒形の柱が現れた。
近付いて見ると、それは柱ではなく螺旋階段であった。
白い大理石のような大きい柱を、透かし彫りするよう彫刻が施され、中をくり貫くように螺旋階段がある。ところどころに見える常夜灯が、夜明け前の薄暗闇に幻のように灯って見えた。
手を引かれ、螺旋階段に足を掛ける。
カイ皇子はゆっくりとした足取りで、それでも確実に上へ導いていく。
透かし彫りから入る夜明け前の薄明かりと、常夜灯の光、透かし彫りの壁は不思議な陰影を映し出し、何とも言えない空気感があたりに漂っていた。
時が止まり永遠に続くかのような螺旋階段を、不思議な気持ちで智美は上がっていった。
上がりきるころには、壁の透かし模様はレリーフに代わっていたが、常夜灯だけが青くそれを照らしている。
最後の数段は直線で、進んだだところにドアがあり、カイ皇子がドアを開けて智美を連れて出ると、そこは幻想的な世界だった。
白い柱にガラスの窓が並ぶ建物の、外に面した廻廊に出たその場所は、睡蓮の咲き誇る池の中にある様に感じる。
廻廊から望む庭は自然を移してきたように、池のほとりにはいろいろな野趣あふれる草花が生えており、庭というより自然なままそこにあるようだった。
朝焼けを映す水面に、夜明け前の色合をのせた白い水連が浮かぶ、その色合いに魅せられるまま、廻廊の縁に近付くと、池と空の境の向こうに、朝霧の間に間に街並みや木々や山々が見えた。
その、絵画のような風景に智美が見惚れていると、朝日が昇ってきて目がくらむほどの陽の光が、目に差し込んできた。
強い光がさらに陰影を濃くし、朝露に光り輝く草花はキラキラと星屑を散りばめたように輝きを見せた。
池の縁の影が見せる、静かに湛える水は深い藍色の世界を、水面の下に閉じ込めているようでいて、明るくなりつつある空を映す水面は、鏡のごとく空を映し出し、それを縁取るように水連が花開いていく、その花は映し出された空に浮かぶ、花のようにも見えた。
魅入られたようにその光景に智美が見入っていると、ふわりと智美の背後から、抱き込むようにカイ皇子が立った。
しばらくそれが当たり前かのように、カイ皇子に抱き込まれながら幻想的な光景を見ていた。
日が昇り切り、あたりがすっかり明るくなったころ、智美は我に返った。
(この状況は、どう判断すればいいのだろう)
後ろからカイ皇子に抱き込まれていることを、意識しだすと智美は体に力が入る。
それを感じ取ったのか、カイ皇子は智美に回していた腕を解いて離れた。
智美は少しホッとしながら、問いかける。
「ここは、いったい…」
『龍妃の庭だ』
簡素な答えに、カイ皇子へ疑問の目を向ける。
『龍妃のために、青龍様が作った。
泉から二人で過ごして見れるように…』
そう言ったカイ皇子は、庭を見ていた視線を後ろに振り返りながら向け、建物を見ながら言った。
『この中に、【アイの泉】がある。
俺はこの中には入れないが、庭までは入れる』
その言葉に、智美はミエルの言葉を思い出す。
アイの泉は男子禁制なのだと、それは皇族も適用するのかと智美はぼんやりと思った。
『…戻るか、朝番の青泉使に、この格好を見られるのも…』
カイ皇子の言葉に促されながら螺旋階段に足を向ける。
入る扉の前で、建物の方をちらりと見た。
内側に引かれた、厚いカーテンの帳で閉ざされて、中の様子は全く見えなかった。
──────────
後書き
少し短いですが、雰囲気重視で
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