清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第二章

31 〜可愛いけど子供だよ…

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カイとザッジの会話に戻ります。

──────────


 
 面白いものを見たと、嬉し気に思い出し笑いをしているザッジの表情に気を引かれ、カイは先を促す。

『アイコ様は先に訓練場に来ていて、休憩時間ごろに飲み物と一緒にサトミ様が来たんだ。
 アイコ様は最初怪訝そうにしてたけど、サトミ様は気にせず新しい飲み物を持ってきたと、紙で作ったコップに注いで俺に最初に味見だと渡して飲ませた。
 リモン粉で作ったって言ってたけど、甘いのにさっぱりしていて、冷たくておいしかったなあ。
 サトミ様は、アイコ様に仕切ってもらいたかったようなんだけど…アイコ様は全然、隊の規律というか、男性の縦社会を分かってないのか、自分が気になってる見目の良い奴のところに、真っ先に寄って行ってた。
 それを見たサトミ様は駄目だと思ったのか、ご自分で仕切りだしたよ。
 その場ではアイコ様もサトミ様も、双方共に相手に何も言ってなかったけど、休憩が終わって皆がまた訓練に戻った後に、遠目に何やら話してるのが見えたから、風の魔法を使って聞いてみた』

 あっけらかんというザッジに、カイは呆れたように言った。

『盗み聞きしたのか』 

『ああ、知っといた方が後々、なにかと都合がいいかと思って』

 ザッジがにっと笑うのを見て、こういうやつだったとカイはあきらめた。

『余計な事をするなと、食って掛かるアイコ様に、サトミ様は落ち着いた様子で話してたよ。
余計な事と言うのなら、相手に迷惑をかけないようにしろって、かけてないって言い張るアイコ様に、あきれたようにため息をついて、サトミ様は諭すように迷惑の内容を言ってたな。
 厨房に余計な負担をかけているとか、休憩時間に差し入れするのはいいが、配るのに手間取って時間がかかり、訓練再開の邪魔をしているとか、相手の迷惑を考えないで贔屓をするなとか、
 それに対して、アイコ様は、相手を下卑たように笑って、何それ僻みって返してた。
 その言葉に対して、サトミ様は怒るでもなく、落ち着いた声でこう言ったよ。
 そう取ってあなたが素直に聞き入れないのは、あなたの損だから構わないけれど、実際、男性の縦社会を無視すると、贔屓されたものは被害を被る。自分がとったわけでは無い行動なのに、先輩をないがしろにしてしまう状態は、まわりから非難を受ける。
 そうなったとき、その状態に持ち込んだあなたの事を、相手は良くは思わないでしょうね、って』

 そう言った後、ザッジは少し黙ってからまた話し出す。

『実際、俺があの日あそこにいたのは、アイコ様に注意するためだった。
 訓練を見ている、上官たちから苦情が来てたし、纏めてる副官からはどうやら仲間内で、軋轢が生じ始めてるって聞いてたから。
 でも、サトミ様があの日仕切ってしまわれたから、アイコ様に注意はできなかったんだけど、あの後からはうまくいってるみたいで、何度か見に行ったけど、アイコ様は相変わらずだったけど…贔屓されてたやつと、侍女がうまく立ち回ってた』

 ザッジは最後の言葉は呟くように言った。

『侍女?』

 カイは思いもよらない言葉に聞き返す。

『侍女は准貴族だけど、ル公の姪のメリルって子なんだ、年は17で儚げな美人なんだよね~』

 にやにやしながらいうザッジに、何が面白いのかと、カイは思いながらも聞く事は止めなかった。

『アイコ様はどっちかっていうと、可愛いけど子供だよ…訓練生は同じ年頃の者たちだけど、あの様子は余りにも子供っぽい。
 それに全く相手の立場を考えていない。
 その点侍女のメリルは、きちんと役職とか年の順とかを考慮して注いでる。
 おまけに美人だ、子供っぽいアイコ様より、メリルに注いでもらった方が嬉しい者は多いだろうね。
 それから贔屓されてた奴は、民間出なんだけど新人なんだよ、なのにアイコ様に贔屓にされて、先輩や同期貴族にやっかまれそうだったんだけど、瓶になってから注ぐのに、何名かに手伝わせてたんだけど、率先して注ぐ役を買って出て、アイコ様に注がれないようにしてた。注がれても、最後になるようにしてた』

 そこまで話してザッジは黙り込んだ。
 カイは話は終わりなのかと、気にもせずに書類をめくる。

『それを指示したのが、どちらもサトミ様なんだそうだ』

 突然話し出した内容に驚いて、カイは書類に向けていた視線をザッジに向けると、ザッジは嬉しそうな表情でいた。

『やれっていう命令では無くて、参考までにっていう感じに話されたみたいだけど、どちらの者もサトミ様の言葉をありがたく思っていたよ』

 その言葉に、カイは自分が褒められたようにうれしくなるが、ザッジがからかってくることはわかっていたので、平静を装っていたのだが、それすらもザッジは見越しているようで目を向けられなかった。

『急ぎの書類は、終わりましたか?』

 急なザッジの言葉に驚きながらも、カイが頷くとすでに処理の終わっていた書類と、急ぎの書類をまとめて持ち、

『これ、提出してきます』

 と言ってカイを一人にして、ザッジは部屋を出て行った。

 それは、ザッジなりの気の回し方なのだろう。
 急ぎではあるが、わざわざ団長が提出しに行くほどの物ではない書類だったのだから、ザッジの心遣いを苛立ちとうれしさの複雑な思いのまま、カイはありがたく思いながら、物思いにふけった。

 自分の我儘で、智美に侍女を付けることができないのだが、智美はさほど気にしているようではなかった。
 独身皇子の居住区域は、未婚の侍女は立ち入り禁止だ。
 なので本来、智美は独身皇女の居住区域の部屋に入ってもらい、侍女を付けるべきなのだが、カイの我儘でカイの隣の部屋に連れてきた。
 さすがに一緒の部屋がまずいのはわかるので、これでも考慮したのだ。
 ただ、そうすると智美の部屋の仕事をするのが、男の侍従になってしまう。智美の部屋に男が入る事がゆるせなくて、男性立ち入り禁止にしたら、部屋で世話をする事ができる者が限られてしまった。
 既婚侍女しか条件に合わない上に、間の悪いことに元々余り居ない既婚侍女は皇妃に付いてか、第一皇子の妃に付いていて、どちらも城にいなかった。
 唯一残っていたのは、新人(未婚)侍女たちを纏める為に残っていた侍女頭のミシェルだけで、お付きにするわけにはいかず、何とかミシェルに頼み込んで、部屋の中での世話だけでもとお願いしていた。

 智美は今いる世界が珍しいのか、本来高貴なものが足を運ばない場所まで、一人で出向いていきいろいろと、見聞きしているようだ。
 夕食の席でその日あったことで、疑問に思ったこととかを聞かれたりするが、詳しくは返答できずにいつも端的に答えてしまう。
 その説明で納得していることもあれば、詳しい内容をタンザやジーザに聞いていたりする。
 もちろんカイに聞かなかった事なども、話していたりするのだが、世間話も交えて 楽し気に話しているのを見ると、苛立ちが募る。

 自分を一番に頼ってほしい。

 いつもその瞳をこちらに向けて、笑いかけてほしい。

 別の男に笑顔を向けないでほしい。

 そのやわらかい体を腕に閉じ込めて、離したくない。


 なまじ彼女の甘美な唇と肌を、味わってしまったがために、カイは想い煩う。






───────────
後書き

青国の貴賓階級は大まかに分けると、
皇族(青龍と龍妃の直系家系と親族)
貴族(各青水樹を守っている直系家系)
准貴族(青水樹を守っている家系の親族で二世代まで)
とこんな感じとなっております。
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