37 / 65
第三章
36 〜しびれを切らしたという事でしょうか
しおりを挟む『ようこそおいで下さいました。ミエル青泉使総代。
何故、と申されましても、私がイ・ソルデでございますので、わざわざお忙しいなか、総代様に来て頂いておりますので、お出迎えをと思いまして』
『宰相でもある貴方も、お忙しいでしょうに、この度も挨拶に来ていただかなくとも、よろしかったのですよ』
ミエルは、目の前にいる人物を忌々しく思う。
城都は皇族領であるが、住んでいる者達が使う青水樹が無いので、成人の儀式や婚姻の儀式の時は、一番近いイ領の青水樹で行う者が多いその為、三ヶ月に一度、一回の儀式で沢山の人に儀式を施せる事が出来る総代が、イ領の青水樹で儀式を行う事は、ミエルが総代になる何代も前からのならわしだが、ミエルが儀式をする様になってから、イ公が挨拶に来たことなど一度もない。
明らかに不自然で、別の目的があるのが丸わかりだ。
(しびれを切らしたという事でしょうか)
ミエルはどうすべきか考える。
きちんとした声明を出してない今、ここにいる二人は【清き乙女】ではなく、別盤者という扱いをすべきだが、それは相手の狙いであるとは分かっている。【清き乙女】には宰相家であるイ・ソルデ(ラソルデ)は青龍様より近付くことを禁止されている。
だが、イ家は別盤者を取り込む事に執着のある家だと伝えられている。別盤者が、女であろうと男であろうと、家系に取り込む事を押し進める。
確かに別盤者の知識は利益があがることがある。しかし、それは必ずしもすべての者の知識が有用であったわけではないだが、ミエルの知る得る限りでは、別盤者はイ家に係るものと婚姻していた。
それに、ソルデということは青龍様の血を受けた末裔なはずなのだが、その割に泉侶を得た話を聞いたことがない家でもある。確かに、四十六あるソルデの家系(一つの家系が断絶している。)では魔力の保有率が庶民までとはいかないが、低い家系でもある。
『今日は、時間があまりありませんので、さっそく儀式の準備をさせていただきましょう』
ミエルはあえて紹介しないことにした。
どちらにしても、接触を図ることはわかってはいたが、それを手助けすることを自分は快く思っていないので、礼儀に反することかもしれないが、あえて無視をした。
そのことに、宰相は動じることなく深くお辞儀をして答えた。
騒然と人が集まる一階部分のウッドデッキのような青水樹の根本付近を階下に見ながら、智美たちは青水樹の真正面のラウンジのようなところで、観覧していた。
青水樹を円形に囲むように建てられた建物は、三階建てで一階が門になっている真上の三階部は、外側の壁側に沿ってある、屋根のある通路のみがあるだけなのだが、青水樹の枝が屋根代わりになっていて、とても屋外にいるようには感じなかった。
「あ、テッドがいる!!おーい、テッドォー!!」
下に儀式を受けようと、集まっている人の中から目ざとく愛子がお気に入りの騎士見習いを見つけ出す。その声につられて、智美が見ると、そこには見たことのある人物が同じぐらいの年の女性と廻廊の欄干を隔てて話していたが、愛子の声に気付いたのかこちらを見上げてきた。
テッドは愛子と智美がいるのに気付いて、ぺこりと頭を下げるしぐさをしたが、すぐさま目の前にいる女性に向き直り話しを続けていた。
その様子はどう見てもいたたまれないといった雰囲気だったが、愛子はお構いなしに声を張り上げて名前を呼んでいた。
(ああ、かわいそうに…彼はずっと言われ続けるだろうね)
成人の儀なんて一生に一度の時に、貴賓席(?)からデカい声で女性に名を呼ばれるなんて、格好の噂話だろう。
一応この建物は庶民にも開放されているが、三階は青泉使か、貴族准貴族それに従事する者しか入れないエリアになっているようで、そんなところから大声で呼ばれること事態あり得ない事なのだろうが、相手は別盤者である愛子なので、そんな常識的なことはお構いなしに自分のしたいように行動している。
唯一救いなのは愛子の見た目が子供にしか見えないので、人によっては子供の我儘と取ってくれるかもしれない事だろうか。
そんな事を思いながらも、智美は階下も気になるが青水樹の方も気になるので、智美は初めに見た時より近くにある葉をしげしげと眺めていたら、騒がしかったあたりがすっと静かになった。
それに気付いた智美は階下に目を向けると、ミエルが青水樹の前に何かで釣り上げられた少し高めの台、二階の高さほどだろうかの場所に、ふわりと降り立ったのが目に入った。
──────────
後書き
人名や、地名は、私が適当に造語してるので、
特に何か参考にしてると言う訳では有りません。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる