清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第三章

36 〜しびれを切らしたという事でしょうか

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『ようこそおいで下さいました。ミエル青泉使総代。
 何故、と申されましても、私がイ・ソルデい・を守る者でございますので、わざわざお忙しいなか、総代様に来て頂いておりますので、お出迎えをと思いまして』

『宰相でもある貴方も、お忙しいでしょうに、この度も挨拶に来ていただかなくとも、よろしかったのですよ』

 ミエルは、目の前にいる人物を忌々しく思う。
 城都は皇族領であるが、住んでいる者達が使う青水樹が無いので、成人の儀式や婚姻の儀式の時は、一番近いイ領の青水樹で行う者が多いその為、三ヶ月に一度、一回の儀式で沢山の人に儀式を施せる事が出来る総代が、イ領の青水樹で儀式を行う事は、ミエルが総代になる何代も前からのならわしだが、ミエルが儀式をする様になってから、イ公が挨拶に来たことなど一度もない。
 明らかに不自然で、別の目的があるのが丸わかりだ。

(しびれを切らしたという事でしょうか)

 ミエルはどうすべきか考える。

 きちんとした声明を出してない今、ここにいる二人は【清き乙女】ではなく、別盤者という扱いをすべきだが、それは相手の狙いであるとは分かっている。【清き乙女】には宰相家であるイ・ソルデ(ラソルデ守る者達)は青龍様より近付くことを禁止されている。
 だが、イ家は別盤者を取り込む事に執着のある家だと伝えられている。別盤者が、女であろうと男であろうと、家系に取り込む事を押し進める。
 確かに別盤者の知識は利益があがることがある。しかし、それは必ずしもすべての者の知識が有用であったわけではないだが、ミエルの知る得る限りでは、別盤者はイ家に係るものと婚姻していた。
 それに、ソルデということは青龍様の血を受けた末裔なはずなのだが、その割に泉侶を得た話を聞いたことがない家でもある。確かに、四十六あるソルデの家系(一つの家系が断絶している。)では魔力の保有率が庶民までとはいかないが、低い家系でもある。

『今日は、時間があまりありませんので、さっそく儀式の準備をさせていただきましょう』

 ミエルはあえて紹介しないことにした。
 どちらにしても、接触を図ることはわかってはいたが、それを手助けすることを自分は快く思っていないので、礼儀に反することかもしれないが、あえて無視をした。
 そのことに、宰相は動じることなく深くお辞儀をして答えた。






 騒然と人が集まる一階部分のウッドデッキのような青水樹の根本付近を階下に見ながら、智美たちは青水樹の真正面のラウンジのようなところで、観覧していた。
 青水樹を円形に囲むように建てられた建物は、三階建てで一階が門になっている真上の三階部は、外側の壁側に沿ってある、屋根のある通路のみがあるだけなのだが、青水樹の枝が屋根代わりになっていて、とても屋外にいるようには感じなかった。

「あ、テッドがいる!!おーい、テッドォー!!」

 下に儀式を受けようと、集まっている人の中から目ざとく愛子がお気に入りの騎士見習いを見つけ出す。その声につられて、智美が見ると、そこには見たことのある人物が同じぐらいの年の女性と廻廊の欄干を隔てて話していたが、愛子の声に気付いたのかこちらを見上げてきた。
 テッドは愛子と智美がいるのに気付いて、ぺこりと頭を下げるしぐさをしたが、すぐさま目の前にいる女性に向き直り話しを続けていた。
 その様子はどう見てもいたたまれないといった雰囲気だったが、愛子はお構いなしに声を張り上げて名前を呼んでいた。

(ああ、かわいそうに…彼はずっと言われ続けるだろうね)

 成人の儀なんて一生に一度の時に、貴賓席(?)からデカい声で女性に名を呼ばれるなんて、格好の噂話だろう。
 一応この建物は庶民にも開放されているが、三階は青泉使か、貴族准貴族それに従事する者しか入れないエリアになっているようで、そんなところから大声で呼ばれること事態あり得ない事なのだろうが、相手は別盤者である愛子なので、そんな常識的なことはお構いなしに自分のしたいように行動している。
 唯一救いなのは愛子の見た目が子供にしか見えないので、人によっては子供の我儘と取ってくれるかもしれない事だろうか。
 そんな事を思いながらも、智美は階下も気になるが青水樹の方も気になるので、智美は初めに見た時より近くにある葉をしげしげと眺めていたら、騒がしかったあたりがすっと静かになった。
 それに気付いた智美は階下に目を向けると、ミエルが青水樹の前に何かで釣り上げられた少し高めの台、二階の高さほどだろうかの場所に、ふわりと降り立ったのが目に入った。




──────────
後書き

人名や、地名は、私が適当に造語してるので、
特に何か参考にしてると言う訳では有りません。
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