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第三章

35 ~何だろうあれ

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 街に入り、警護上の問題で窓を閉められてしまった。

 智美は目から入る真新しい情報が無くなると、つい思考の海に潜ってしまう。
 ここ最近智美の頭から離れないのは、カイの事だ。
 カイの過剰なスキンシップに、ドギマギさせられていた智美だったが、自分で書いたメモを見て思い出した。
 カイには婚約者泉侶がいると。
 ミエルは確か”泉侶もちともなれば、妾、側室など考えもしませんでしょうね”と、言っていた。
 そう言う言い方をすると言う事は、自分が考える婚約者と、泉侶は違うものなのだろう、既に夫婦であるアル皇子にも使っていた。
 ミエルに泉侶とは一体何なのかと、改めて聞くことが何故か出来ず鬱々と考えてしまい、そして行き着く考えが自分の心を苛んで行く。

(私はカイ皇子に、からかわれているのだろうか?)

 智美はそう思った途端、スッと冷静になった自分がいた。
 心の奥底で、

 ”ほらね、期待しちゃダメだよ”

 と心の声が響く、

 ”馬鹿だね、からかわれてるんだよ”

 でも、とてもそんな風には見えない。

 ”貴方にあんな釣り合わない人が、好きになってくれるわけ無いでしょ”

 でも、カイ皇子は私にとても優しい。

 ”どう見ても女慣れしてるでしょ、誰にでも同じなんだよ”

 卑屈な心が自分にだけは、正しい判断が出来ない。

『    ミ ま、サトミ様』

 名前を呼ばれてハッとする。思考の海から戻ると目の前には、心配そうな顔をしたミエルがいた。

「え、あ、何でしょう」

『もう着きますので、下りる準備をと、どうしたのです、もしかして酔ったのですか?』

 心配そうなミエルに申し訳なさそうな気分になりながら智美は返事をした。

「いえ、大丈夫です。酔ってはいませんから。
 ただ、考え事をしていただけです」

 そう返事をしているうちに馬車が止まり、後方に付いた扉が外側から開かれる。

 御者が置いたステップに足をおろし、外にでるとそこには初めて見る大きな木造建築物があった。
 城都周辺は石積の建物が多かったが、こちらの街に入ってすぐに窓を閉められてしまったので、ここに来るまでの建物の様子が分からなかったが、もしかすると木造建築で出来ていたのかもしれない。
 建物の大きさにあっけにとられ、まじまじと見上げてみると、屋根から何か出ているのが見える。
 建物に近いので、屋根は上を見上げるように見るしかなく、遠いのと光の加減でよくわからないが、何かの葉に見える。

(何だろうあれ)

『サトミ様』

 上を見上げていたら、先に行こうとしていたミエルに、声を掛けられる。
 呼ばれて慌てて、ミエルの後をついて行く。向かった先は、木造の建物の入り口らしき大きなアーチ型をした扉で、そこは今大きく開かれていた。入り口に入るまでに、数段の木板で出来た階段があり、つい上ばかり見てしまっていたが、建物の土台部分を見ると、少し高床式になっているようだ。
 ミエルが先に行き、その横に護衛二人が付き従う。実はこの護衛は馬車の横を馬に乗って並走してきた者たちだ、窓を閉めるようにと促してきたのも、この者たちであった。
 ミエルの後ろに、通路が広かったので横並びで、智美、愛子、メリルと続いて歩いていくと、前方。通路を通り抜けた先に、思いもよらない光景が見えた。
 それは大きな、一本の樹がそびえたっていた。
 一本と言っていいのかわからないほど樹の幹は幾重もの幹が絡まりあって大きな一本の幹になっているし、形は確かに木の様相を成しているが、色は全くと言っていいほど違っていて、まるで陶磁器のような藍白あいじろの幹に、葉は朝顔の葉のように先がいくつかに割れており、色は濃い藍色。この大きな建物の屋根のように枝葉が覆い隠しているようで、木々の合間から木漏れ日が差し込んでいる。
 根本は、泉に浸かっているようで、マングローブのようだ、ただ樹の幹の周りの水辺にはウッドデッキのようになっている。
 その樹木の様相の幹の中に、丸く青い球体がはめ込まれている、はめ込むというよりその球体を覆うように樹の幹が網目状に覆いかぶさっているようだ。その球体は表面にうっすらとこちらの文字らしきものが光の加減で、揺らめいて見えた。

「うわぁー」

 横から愛子の感嘆の声が聞こえるが、智美は声もなくその景色に魅入っていた。

『何故貴方がここに居るのです』

 ミエルの硬い言葉に、青水樹に魅入っていた智美は、声のが聞こえてきた方に目を向ける。

 そこには、四十代半ばの身分が高そうな服装で、モカブラウンの髪に黒い瞳の男性が立っていた。




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後書き

自問自答
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