清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第三章

34 ~確か、街中に入ってもしばらく進むはずだけど…

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 ガタゴトと揺れる馬車から始めてみる景色を眺める。
 城の敷地から全く出たことがなかった智美は、初めて見る景色が興味深い、一見してみると異世界とは思えないのどかな牧場風景が続く、そこの牧場で飼育されているのは、ディシーという見たこともない動物だ、牛と羊とタヌキを混ぜた感じで、体つきは牛で毛が長く羊のようで、顔はタヌキだった。
 実際牛乳だと思っていたのは、ディシーの乳だそうで、そのほか羊のように毛を刈って毛糸を作ったり、フェルトみたいなものを作ったり、とにかく繊維として使用するとのこと。
 何より、驚いたのがディシーの子供が直毛サラサラで親と似ても似つかない所だろうか。
 そんな全く違う生き物もいれば、似た生き物もいる。
 今もこの馬車を引いているのは馬で、言葉も馬で通じたし、見た目も農耕馬だったが、足が偶蹄目でした。
どうやら同じか少ししか変わらないものだと、日本の名目で聞こえるようで、全く当てはまらないものは、こちらの言葉に近い音で聞こえていることが、ここ最近ようやく分かったことだ。
 こちらの女神様や神獣さまなどの関係の言葉は、漢字で浮かんでくるのに、それら以外は違うのだなと教えてもらう範囲が広がると、そう思うようになった。

「あーひま、ねえまだ着かないの?」

 愛子が呆れて、愚痴り出した。

『もう少しで、街が見えてくる頃ですから、もう少しお待ち頂きたいのです』

 同じ馬車に乗っている、ミエルに窘められたが、愛子は大きなため息をついて足をぶらぶらさせた。

(確か、街中に入ってもしばらく進むはずだけど…)

 と、智美は今回の行程を思い出しながらも、口をつぐんだ。

 さて、この馬車の中には智美、愛子、お付きの侍女メリル、そして青泉使総代のミエルの四人で乗って、何処に向かっているかといえば、城都(お城周辺の居住区と商業区域をそう呼ぶそうだ)に一番近いイ領の青水樹の場所に向かっている。
 青国の四十七か所に施された理由が青神泉の力を満遍なく大地に施すためなので、青水樹は満遍なくすべて均等に離れているのだが、皇族領である城都周辺に隣接する三領だけは他よりも範囲が広いらしい。
城都から行きやすい道筋の青水樹はイ領のマリュミアスだ。後の二つの領は、間に大きな湖があったり、高い山岳があって迂回しないといけなかったりと、日帰りするとなると、イ領しかないようでミエルが言っていたのがここであった。

 しかし、行かないと言っていた愛子がいるのには訳がある。
 早々に許可が下りると思っていた、青神泉や青水樹の見学もなかなか降りず、青神泉は今だお帰りにならない青龍様への考慮と、視察中の皇帝陛下の許しもないことで頓挫していて、青神泉が許可が下りないのに【アイの泉】なんて問題外で、青水樹は、智美の外出許可をカイ皇子が出してくれなかったからだ。
なぜカイ皇子の許可がいるのかと智美はちょっと思ったが、ああ、自分の担当だからかと勝手に納得するも、なぜ許可してくれないのかがわからない。
 珍しく皆で夕飯を取っているときに、ミエルが許可が下りないことを、智美に謝ってきたので、カイ皇子にたずねるとこう答えた。

『【清き乙女】として見に行きたいのならば、何故アイコが行かないんだ』

「え、愛?やだよ移動時間長いんでしょ」

 カイ皇子の言葉に愛子が速攻で拒否の声を上げる。
 実際カイ皇子は、愛子の事などどうでもいいのだが、智美が青水樹を見に行くとなると、三か月に一度のミエルがイ領の成人の儀式をするときに、ついていくことになるのだが、ミエルは普段余裕を持って一泊してくる場所だが、智美が一緒なので日帰り予定の日程で、ミエルはカイに許可を求めた。
 移動は馬車になる、日帰りとはいえ一日中馬車の中で、ミエルと二人っきりになってしまう。
 カイはそれが許せなくて、許可を出してないのだ。
 いっそついて行ってしまえばと思うが、ミエルの公務にカイ皇子が付いていくのは、少し可笑しいので、無理をして一日仕事の予定を開けることもできない。
 今更その時だけ侍女を付けろと言うのもおかしいし、智美に侍女が付けられない本当の理由を話すと、じゃあ女子皇族区域へ部屋を変えればいいんですねとばかりに、部屋を移動してまいそうだ。
何せ、智美が毎日通っている浴場がそちらのが近い。そんな事になれば、智美と過ごす時間が減ってしまうと、それじゃなくともなんだか最近、最初の頃よりよそよそしい態度を取られているので、カイは部屋が離れてしまうことを危惧して口をつぐむ。
 それより愛子を付ける方が確実に愛子と侍女が増えて二人っきりにはならなくなる。おまけに愛子は行くことを嫌がっているようなので、許可を出さなくてよいならなおのことよい。
 だが、そこへ疑問の声を上げたものがいた。

『アイコは、青水樹を見たくないのか?』

 アル皇子は疑問をそのまま口にする。

「えーだって、移動で一日つぶれるんでしょ?それだけを見に行くのに、一日中乗り物に閉じ込められるのはやだなー」

『青水樹はとても綺麗なところで、だれしも儀式に関係なく、一度は訪れてみたいと言われている場所と言われているのだが』

「なにそれ、聞いてない!!」

 アル皇子の言葉に愛子が叫ぶ。
 それを横目にその場にいたジーサはミエルの顔を見る。

『…何か?』

『いや、別に~』

 見つめてくるジーサを怪訝に思い問いてきたミエルを、こいつもわざと言わなかったんだろうなと、ジーサは思いながらも応えの言葉を口にする。
それに、ミエルはカイがなぜ愛子の事を持ち出してきたのかわかってないようだが、ジーサは何となく察してカイの思惑に口添えをする。

『アイコ様、行くとすればミエル総代の公務と一緒になると思うのです。でしたら普通に見に行くより、いいものが見れるかもしれませんよ』

 ジーサの言葉で愛子が興味を持ち出したようで、話の先を期待するように目を輝かす。

『ミエル総代は二十一を迎えた男性たちの成人の儀を執り行うために行くのですが、もちろん儀式自体も幻想的でいいですが、それ以外にも劇的なことが起こったりするのですよ』

「うん、それで、いいことって何」

『詳しく話すとつまらなくなりますし、絶対あることでも無い事ですので、当日まで期待してお待ちください』

 ジーサのその言葉で愛子が行く気満々になり、カイのはじめの思惑通りに、馬車には四人で乗ることになったのだった。







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