清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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第四章

42 〜俺でいいか?

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カイ視点で始まります。

──────────────




 洞窟に入って、いつも呼びかけている場所にミエルと向かう。
 ここに来る途中で、普段から泉信で青龍と話しているカイに話しかけてみてほしいと、ミエルにカイは言われていたからだ。

 初めにミエルが呼びかけてみた様だが、返答がなかった様で、首を振りながらミエルは場所を代わる。
 さて、話しかけようとカイが水面に目を向けたとき、それは起きた。

『サトミ様!』

 バシャーン!!!

 ミエルの声に驚いたと同時に、振り向いたとき水音が聞こえた。
 振り向いたカイの目に飛び込んできたのは、大きな水飛沫と、水辺に立つ愛子の姿。

 何も考えずに泉に飛び込んだ。
 向かう前方には、口からごばごぼと泡を出して、もがきながら沈む、智美の姿がカイの目に映る。
 その様子では泉水を、大量に飲んでしまったことがうかがえる。
 眼前の様子に焦っているせいか、カイは上手く進まない。
 やっとのことでたどり着き、もがいて溺れていた智美を抱え込み、魔法で水面に浮上した。

『あなた一体何を!』
「ちがうよ、おばさんが勝手に落ちたんだよ」

 途端に言い争う声が聞こえてきたが、そんな事より、カイは智美の様子にしか気を配らない。
 水から出たことで、智美は飲み込んだ水を吐き出し息をしようとしたが、気管に水が入り込んだようで、咳き込みが止まらない。激しい咳とヒュウヒュウと咳の合間にどうにか呼吸する、息のか細い音にカイは焦る。

『我らから、青く強き水よ去れ、除去!!』

 身体にまとわりつく青泉水は取り除かないと、大変なことになる、この場の水は龍泉でもあるのだから。
 カイは急いで魔法で水を吹き飛ばす。
 しかし、体内に入った水までは取り除けないので、智美は抱え込まれたカイの腕の中で、咳が止まらない。
 そんな最中も、言い争いは続いている。

『私は確かに見ましたよ、貴方がサトミ様を押したのを!』
「だって、だって、ここからなら、帰れるかと思って」
『ならば、何故自分で行かないのですか!!』

 ミエルと愛子の言い合いの言葉が、洞窟にこだまする。
 カイは水面から浮いたまま岸に戻り、地に足が付いた頃やっと智美の咳が止まるが、智美はカイに抱きしめられたままぐったりしていた。

「サトミ?」

 カイが心配そうに名を呼ぶと、俯いていた顔を智美はカイに向けた。
 その様子は緩慢とした動きで、目は虚で先ほどまで咳をしていたせいか、口元は薄らと空いて少し息が上がっている。

 それを見たカイは、すぐさま智美を横抱きにして走り出した。

『!カイ皇子!!待ってください!』

 いきなり出入口に向かって走り出したカイに、驚いてミエルは叫ぶ、溺れた智美はカイに任せておけば大丈夫と、愛子を問いただしていたせいで、カイのいきなりの行動にミエルはついていけない。

 ミエルの声にも全く躊躇せず、カイはもと来た道を智美を抱えながら走る。



 カイが向かう先の洞窟と城内との境目の所に、警備の騎士が立っているのが見えた。
 走っている足音に反応して、二人のうち一人がカイの方を向いている。

『カイ皇子、如何なされましたか?』
『使える空き部屋はあるか!』

 騎士の元に近付いた時、騎士に問い掛けられるが、それを無視して自分の質問をするカイに、騎士は面食らいながらも、問われたことに返答をした。

『左手向かいの部屋は、待機兼仮眠室です。
 今の時間は、誰も使っておりません』

『借りるぞ』

 騎士の言葉を聞くなり、言われた部屋にむかいながら言葉をかけ、智美を抱えながら扉をあけてすぐさま閉めた。

 その様子を声を掛けた騎士は呆然としながら見送って、ハッと気付いた様に相方の騎士に目を向け、思った事を口にした。

『今の、カイ皇子だよな?』
『そうだな』
『見間違いじゃ無いよな』
『喋ってただろお前』
『そうだけど…』

 普段見せないカイの様子に騎士は途惑うばかりだ、そこにふたたび足音が聞こえて来る。

 遠くに見えた者の様子に、これまた騎士が途惑う事になる。
 愛子の腕を掴み、嫌がる愛子を引きずるかの様に足早でやって来る、ミエルの姿が見えたのだ。

 これまたいつにないミエルの姿に、更に騎士達は途惑いが増す。

 嫌がる愛子を連れているので、ミエルは騎士の元に来るのが思いのほか時間がかかり、騎士達はマジマジと二人の様子を観察してしまった。

『こちらに、カイ皇子が参りませんでしたか?』

 疲れた様子のミエルに、ふてくされている愛子、さっきのカイ皇子と言い、いったい何があったのか。
 騎士は疑問に思いながらも、問われたことに素直に答えた。

『あちらの部屋に、入られました』

 そう言って騎士が指し示す部屋を、ミエルは怪訝な表情で見た。





 中に入ったカイは、閉めたドアに開かない様に魔法をかける。

 魔力酔を起こし始めている智美を治療するのに、口付けで余分な魔力を吸い出さないとならない、口付けを見られるのは構わないが、魔力酔を治療すれば、副作用の催淫効果の方が表に出始める。
 自分の泉侶のそんな様子を誰にも見せたく無いし、ましてや治療を他の者に託すなど、もってのほかだ、智美の魔力酔を早く治してあげたくて、カイは近場の二人きりになれる所をと、智美を抱えて走り出したのだ。

 横抱きにしていた智美を、仮眠用のベッドに腰掛けさせる。ぐったりはしていたが、智美はベッドに腰掛けてぼんやりと視線をこちらに向けている。

 その焦点の合ってない目線に合わせて、カイは床に膝を着けながら智美に話しかける。

『サトミ、目の前にいるのは誰だ?』
「ん~?カイ皇子ぃ~?」

 智美が、誰といるのかを分からせると、カイは少し口角を上げて、更に話しかける。

『今から、魔力酔の治療を俺がするが、良いか?』
「???」

 魔力酔で判断力が落ちている智美にカイは問いかける。

『俺でいいか?』
「…??~ん~いいよ~」

 智美の間延びした返事に、カイはにっこりと微笑んで、智美の事を抱きしめた。









──────────────
後書き

テンポ早い展開は、書くのが難しい…。
次はR…いや、エロくらいかな?

ちなみに、ミエルが愛子をひきずって連れてきたのは、あの場に一人で置いておくのが不安だったから、愛子の心配では無く、泉に何かされない為への心配。
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