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第四章
52 〜一体何が起きてるの?
しおりを挟む空気な人が、いっぱいいます…。
──────────────
アイの泉の建物の前で、ヤキモキしながらどうなるのかと待っていた人達は、泉の上に現れた人影を見てほとんどのものが安堵した。
泉の上に、青龍と智美が手を繋いでたたずんでいた。
戻ってきたことに安堵して、智美は手を離そうとしたが、青龍が離してくれず途惑うと、青龍は建物の前の結界で入ってこれない者達を見ながら一言いった。
『泉に落ちるぞ』
その言葉に、智美は大人しく青龍に従う。
外の者を、結界を解いてこの場に呼ぶか否かと、青龍はしばし考慮するが、【藍の泉】に男を近づけたくは無いので、智美の手を引きながら、こちらを見ている者たちの元へ足を向けた。
泉のそばで応急処置を受けていた愛子や、青龍の出現に屈んで頭を下げている青泉使にも見向きもせずに、青龍は前に進む、泉を出ても智美の手はそのままに進む、そばまでくると、その場にいた者達は平伏していた。
『ミエルリャノ、健在で何よりだ、他の者も久しいな』
『はい、青龍様にお声がけいただき光栄でございます。』
普通に挨拶を述べ合う青龍とミエルに、他のものは跪き礼をしめす、カイも右に倣うが苛立ちが募った。
ここ暫く青龍は、人間の姿で我々の前に出てきてはいなかった。姿を現す事自体が稀であったが、基本普段は宣託や泉信で意思疎通をしているので、姿を現す必要が無かった。
それが、30代半ばと思われる、人型の男性の姿で智美を伴っている姿は、何故かカイの心に衝撃を与えた。
相手は青龍であるのに、カイは智美は俺のだと叫んで引き離したい衝動に駆られる。
『ミエルリャノ、【藍の泉】の加護を維持していた核が、解放された。
これからゆるりと、龍妃の【言祝ぎ】は薄れていく』
『それでは、青水樹は…』
ミエルの不安な言葉に、青龍はとりなす様に話しを続ける。
『心配するな、本来【言祝ぎ】の加護が無くとも青水樹は枯れたりはしないのだ、加護はより良くするだけのもの、青泉水をこの盤園中に届かせる機構は我の力、青神泉の力でできているのだから』
青龍の言葉にミエルは安堵するが、では何故加護の掛け直しがいるのだろうと疑問を抱く前に、青龍が言葉を続ける。
『だが、人とは欲張りな生き物だ、より良くなった事には感謝はするが、それが続けば当たり前の事になる、加護がなくなれば今までの様にはいかない、枯れはしないが衰退が始まれば不満が溜まるものだ、ゆえに掛け直しが必要だ』
そこで一旦言葉を止めて、青龍は智美の繋いだ手を引き寄せ、前へ立たせる。
その時、やや何か思惑を感じさせる笑みを智美に見せて、再び話しだした。
『この【清き乙女】が【言祝ぎ】の加護を施してくれるだろう』
その言葉にカイは心がずきずきと痛み、先ほどリュティアに聞かされた、疑惑が重くのし掛かる。
智美は俺の泉侶だと叫び続ける心に、タンザの言葉が思い出される。
ーーーー
泉侶の想いは男性だけなのですよ、だから伝えなくては、想いは女性には分からない
ーーーー
分かっているつもりだった、だが、自分の周りの泉侶達は皆、相手の想いを受け入れていた。
その事が当たり前すぎて、ただ焦がれる気持ちが強すぎて、智美の気持ちは自分に向くものと思って疑わなかった。
そんな泉侶の絆の前に、生まれ変わりを待つほどの青龍の想いは、智美にはどう映ったのだろう。
泉侶など知ったことでは無いと言っていた事も思い出されて、カイは目の前が真っ暗になる様な気がした。
『カイゼジャール』
真っ暗な視界になりかけていたカイに、青龍が名を呼ぶ言葉が聞こえる、俯き気味だった顔を声のする方へ向けると、暗くなりかけていた視界に、智美の心配する様な表情が映った。
その視線を得て、視界がはっきりする。
智美は先ほどから様子がおかしいカイが気になって見ていた。何か、カイの周りだけが静かな光の届かない海の中にいる様に、寒々しい感じがしたのだ。
どうかしたのだろうかと見つめていると、青龍に名を呼ばれてこちらを向いた。
こちらに向けた瞳には、光が宿っていなかった。あまりの事に、智美が見つめていると、次第に光が灯りだし、しまいにはこちらに強い意志を称えた瞳で見返してきていた。
(カイ皇子の中で、一体何が起きてるの?)
『カイゼジャール、こちらに』
『はい』
二度目の青龍の声掛けに、カイは今度はっきりと答え、立ち上がり智美を見つめたままこちらにやって来る。
『お前の泉侶であろう、カイゼジャール…努力したかいはあったな』
青龍はそう言って、智美の手を置いた己の手をカイに差し出した。
差し出された智美の手を引き継いで、カイは智美を自分の方へ引き寄せた。
智美が自分の手の中に戻ってきた事で、カイは張っていた気持ちが少し緩み、青龍の言葉をやっと理解した。
青龍は本来青泉使しか覚えない【言の葉】を、別盤者の泉侶の為に覚えたカイを労った言葉だった。
別盤者と言葉を相互に理解できる様にする魔法は、【言の葉】でしかまともにかからなかった。
【詠唱】では、沢山の重ねがけが必要で、それも別盤者には魔力が無いのですぐ解かれてしまう。
【文様】も身体全体に書く様な大きな【文様】で、これも魔力が無いので暫くすると消えてしまう。
どの魔法でも、かける事自体にも、維持するにも、かなりの魔力量が必要で、施す方も相手に魔力が無い分全てかける方で魔力を賄わないといけない為、掛けられるものが限られる魔法でもあった。
だが、別にカイ本人がかけなくとも、掛けられ者は数名はいるのだから、任せても良いはずでもあった。
それでも、自分の泉侶の為にそこまでした事に、青龍はカイを認めたのだ。
『よかったな』
『青龍様?』
小声で言った青龍のお言葉は辛うじてカイの耳に届いた。
青龍は、言うや否やミエルを振り返り名を呼ぶ。
『ミエルリャノン、我は青水樹達の様子を見て来る、なにすぐ戻るから、気を揉むな』
『承りました、お気をつけ下さい』
『うむ』
そう言うと、青龍は回廊を横切り庭の泉の上に出ると、とたんに輪郭が崩れてあっという間に質量が増え、其処には智美が知る龍と少し違った形の、青銀の肢体輝く美しい龍がいた。
型は和風だが、鬣では無く大きな鱗が重なり合って頭を覆い、それに続く背中は少し小さい鱗がおおうがその鱗は体の中程までしか無い。後はほとんど鮫肌な身体で角は二本後ろに弓なりに生えている。髭は無く尾っぽはシーラカンスの様な形でたなびいている。全体的に色の濃淡はあるが、基本青銀で構成された肢体に、智美は見惚れる。
青龍はその荘厳な肢体を、優雅にくねらせながら、大空へ駆け上って行った。
青銀の鱗に光を煌めかせながら、晴天の空に登っていく青龍の美しさに、皆が目を奪われながら見送っていた。
──────────────
後書き
どうしても、青龍の実際の姿を描写したくて、文字数が増えてしまった。
なんか、無駄が多い気がします。
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