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閑話
閑話 龍妃の水晶
しおりを挟む青龍の昔話
いつもの2話分ほど有りますが、分けずに投稿します。
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青龍の幸せにヒビが入ったのは、妃である藍に横恋慕した男の別盤者が、藍に囁いた悪意ある言葉のせいだった。
ーーーーー
青龍様は、何年たってもあのお姿なのでしょうか?
お妃さまは、我々のようにお年をおとりにならないようですが、初めてお会いした時よりも、いささかお年を召しましたでしょうか
ーーーーー
その男は不運な事に、先の別盤者が存命のうちに、この盤園に来てしまったがために、言葉を交わせることが出来る、水入り水晶を借り受けることができなかった。
その水晶は、この盤園の言葉を聞くことも、話すことも出来なかった藍と、意志を通じあわせる為に、青龍自ら藍が持っていた水晶に魔法をかけた。
水晶はこちらに来た時に何か変化したのか、青龍の魔法で更に威力を増し、それはもはやアーティファクト的なものに変わっていた。
のちに条件が整い、藍は青龍の魔法で話せる様に、身体を作りえ変えられた。
魔力を作り出す臓器を加え、声帯と鼓膜を変える事でこちらの言葉を覚えて、水晶を必要としなくなった藍は、時たまこちらに来てしまう別盤者に水晶を貸し出していた。
何故かは分からないが、別盤者は全て日本人であり、方言が混じったりはするが、別の国の者はやって来なかった。
ただ、時代は沿って無いようで、藍から見て過去の者であったり、未来だったりと様々で、その都度藍と言葉がいささか違いはあったが、同じ日本人と言う事で、藍は日本語を忘れる事なく別盤者と意志疎通させていた。
だからなのだが、先出の男の別盤者は、言葉を通じさせる水入り水晶を借りることが出来ず、同情した藍が通訳の様にしばらく面倒を見ていた。
当時、その男はまだ成人前の十代の青年と少年の間の年頃で、言葉も聞き取れない見知らぬ盤園に来てしまった心細い所に、唯一会話が交わせる年上の綺麗な女性に親切にされ恋慕するが、相手は龍妃だ、かなう恋では無いのに、相手は全く歳を取らず、美しくそして変わらず自分に親切だ、思いきれずにその思いを拗らせて行った。
別盤者の心は青龍には読み取れないが、明らかにその男の態度は龍妃に恋慕し、憧れだけでは無い渇望が態度に現れていた。
それを青龍は不快に思った。
別盤者でなければ、そこまでは思わなかったのかも知れない。
当の思われ人本人は、青龍と連れ添い悠久に近い日を過ごすうち、周りからは青龍と同じく崇拝の対象であり男女の恋愛対象としてはまず見られず、また龍妃の周りは自分達の血を引く子孫達だ、恋愛対象にされるなど全く考えてない様だった。
悠久の時を生きる青龍と藍は、多くの子をもうけたが、自分の子を立て続けに見送る事になり、それが辛く耐え難かった藍は、子をもうける事をさけ、子々孫々を見守る事にしたようだ。
彼女は、青龍以外に恋愛感情を見せる事は無い。
奴の恋焦がれる相手は、自分を見向きもしない。
大人になるにつれ、拗らせていた想いは歪みその者をしたたかに変えていった。
想いは深まるばかりだなのに、拗らせた結果、イ公の跡取り一人娘を、言葉が通じないにもかかわらず誑し込み、まんまと婿におさまった。
その頃にはさすがに、藍は通訳はしていなかったが、奴は長年かけて作った日常会話の単語札を使っていた。
時世は奴に味方したのか、したたかに時を待っていたのか、跡取り娘は皇家の第二皇子が婿に入る予定であった。しかし、第二皇子初の遠征討伐で、運悪く、森の主とも言える凶暴な魔物と鉢合わせしてしまい、命を落としてしまった。
婚約者とは言ってなかったが、小さい時から自分の相手だと、言い聞かされて育った跡取り娘は嘆き悲しんだが、周りは予期せぬ第二皇子の逝去に混乱し、嘆き悲しむ少女の事など放っておかれた。
そこに、優しく寄り添い慰めたのが、言葉も交わせぬ別盤者の男だった。
計算だったのか、同情だったのかは分からない。元々、青水樹らを守る一族は青龍と藍の子孫たちではあるが、皇族が最も濃い血を引いている。
さらに、跡取り娘は母が皇妹だったせいかどことなく、藍に似た雰囲気があったので娘に気を惹かれたのか、藍へ近づく為の足がかりだったのか、今持ってしても分からない。
ただ、晩年になっても未練ばかりは断ち切れなかったようで、冒頭の言葉を藍に浴びせた。
藍は青龍の番になった為、青龍との閨の営みにより、身体に魔力の蓄積がされたため、その有り余る魔力を使い、聴覚、声帯はもとより魔力製造臓器などの、身体全部を盤園に対応する体に作り替えはしたが、元は別盤の身体だったが故に、青龍と永久に近い時を共に過ごすうち、身体に限界が来ていた。
それが身体の老化として現れ始め、その事を恐れ始めた時に、奴の言葉は藍に深く突き刺さり、病んでいった。
『このままではあと数十年したら、私は死んでしまう。
それに容貌が衰えて醜い姿を貴方に見せるのが耐えられない。』
そう言い募る彼女は確かに、初めて出会った時より様変わりしていた。
だが、それは幾年月我が魔力の強い精を受け止め蓄積し、それにより青龍の【言の葉】により、身体を作り変えたため、黒かった髪は、青味がかったチャコールグレーになってはいたが、艶やかな宵闇の玉の様な瞳はそのままだった。
『藍、私はそなたの容姿がどうなろうとも、少しでも長く一緒にいたいのだ。
年取らぬ我が気になるのなら、我もそなたと同じ年月を経た姿をとろう。
だからどうか考え直しておくれ』
『私だってずっと一緒にいたい、でも心が耐えられない。幾千年の歳を一緒にいたあなただけれど、あなたのようには思えない。
別盤者の私は、死ねば魂は元の別園の輪廻に戻ってしまうのは、以前貴方から聞いていたけど、だからお願い女神様に貴方からお願いして』
彼女の艶やかな黒い瞳は、強い思いを宿し、我に請い願う。
『藍、それは』
『私は直接会うことができない。
だからあなたにお願いする。
私の後わずかな命と引き換えに、この地にある【加護】に【言祝ぎ】を施し強化するから、泉の【言祝ぎ】が衰えるとき、また【言祝ぎ】をする為にも、私の魂をこの地に戻して欲しい。
そうすれば、また、ずっと青藍といられるでしょう』
『しかしその魂はお前では無い。
いく年月浄化された魂はもう〝藍〝では無いのだよ』
『では私の記憶の全てを置いていくから、その魂が来たときに青藍が記憶を戻してくれる?そうすれば絶対あなたに恋をするから』
そう涙ながらに言う彼女を、青龍は抱きしめるしかなかった。
藍の言葉に途惑ったものの、心揺さぶられたのは確かだ、確かに彼女が死ぬのは嫌だが、彼女の魂の浄化の間我慢すれば、また永久に近い年月を一緒に居られるのならば、と思ってしまった。
受け入れられなだろうと思いつつも、女神に申し入れた。
『青龍よ、そなたのー花ーは偶然こちらに来てしまった者、其方が心を癒し、また其方の青国を繁栄させしため、そのままにしておったが、魂はあちらの者、こちらからあちらに戻った魂を追うには、まず目印をつけねばならぬ。
付ければそれだけ魂の浄化はしにくくなり、浄化に時間がかかるうえ、生まれ変わってからこちらに引き寄せるに耐えうる身体にするためには、一万一千三百三十四回朝日を迎えねばならぬ。
そこまで育ったその者は、その時の人格があるはず、そしてその人格があるからこそ、こちらに引き寄せられるのだ、こちらの盤園の人と魂の絆を作り引き寄せる。
その絆は盤園の人の魂にしか繋げられぬ。』
女神の言葉に青龍は愕然とし黙り込んでいたが、女神は更に言い放つ。
『青龍、其方の魂は其方であって、其方だけの者では無い。
神獣三者は、我の魂のカケラからなり、其方たちの魂でありながら、我の魂でもあるのだ。
人の魂は神とは繋げられぬ、もしも無理やり繋げれば、我の神威により消し去られる。
お前の大事なー花ーの希望を叶えれば、お前の為に咲くー花ーにはならない』
その女神の言葉に、青龍は藍の様子を思い返す、今の状態ですら精神的に病んできているのに、真実を告げればより一層、藍は弱ってしまう気がした。
思い悩む青龍ではあったが、愛しいー花ーを想い決心する。
『それでも、我がー花ーの希望を叶えてくださりますよう、お頼み致します』
女神は、震えながらそう願う青龍をじっと見つめてから目を瞑ったまま応えを返した。
『わかった、其方の願い叶えてやろう』
頭を垂れて感謝を表現する青龍を、目を開き慈愛を込めて女神は見つめると、仕方が無いように言葉を発した。
『…其方の、その心に報いるため、ある方法を提示しよう』
『?』
女神の言葉を疑問に思いながら青龍は顔を上げる。
『其方のー花ーが戻って、こちらでの人生を終えた時、その印が付いた魂を我が管理し、浄化されたのち、其方のー花ーを再びこの盤園へ我の力で誕生させよう』
『…女神様の力でと申しますと、我と同じ身体となりましょうか』
女神の言葉に、青龍はある事に気付く、我と同じ身体という事は、別園の身体のように限界があるわけでは無いという事、ずっと永久に共にあれると言う事。
『印は別園に戻るときに付くが故に、其の方には一度耐えてもらわねばならぬ、だが一度耐えれば後は、永久に共にいられるのだ、我慢もできよう』
我も神獣達には甘いのうと、自嘲する口調で女神が約束した事を、青龍は手の中に有る青魔晶の指環を見つめながら思い出す。
其の指環を青龍は己の指にはめ薄らと微笑んだ。
『もう、盤園が様変わりするほどの、永久に近い時を待ったのだ、これから200年弱などほんのひと時に過ぎない、それにあのー花ーは私のー花ーでは無いからな』
そう呟きながら、藍の記憶が込められた指環をうっとりと眺めていると、我がー花ーに囚われて、その魂が別園に戻っても一族に妄執を残した哀れな者を思い出す。
跡取り娘と婚姻した彼奴は、娘が母から譲り受けていた青魔晶で、言葉が通じ合う事が出来る【言の葉】をかけた指輪を娘から贈られていた。
それ故に、先に来ていた別盤者が亡くなっても、彼奴は水晶を借り受ける事は出来なかった。
想いを寄せていた龍妃が亡くなった後、己が借りれなかった龍妃の水晶に奴は妄執を抱いてしまった。
その為に、指輪に取り付く妄執は一族の跡取りに、無意味なこだわりを刷り込み続ける。
水晶を己の手許に置いておきたいと言う。
後生大事に跡取りに引き継がれていく指輪、指輪を引き継がなければ、もしくは破壊すればその妄執からは解き放たれるのだが、無意味な物に囚われ続けている一族を、青龍は静観していた。
青龍は鬱そりと微笑む、青龍は奴が藍に言った切っ掛けの言葉を許すつもりはなかった。
──────────────
後書き
青龍は結構しつこい
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