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主と私 ※ルド
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そのような背景があったためか、ある日メイド1人を連れて散歩をしていたシエラ様は、森で行き倒れていた私を要塞に連れ帰った。
子供と女の細腕でどうやって意識のない私を動かしたのか不思議に思っていたのだが、この時一緒にいたのがミリだと後から知って納得した。
ミリ自身に強化魔法をかけるか、私に浮遊魔法をかけたのだろう。
意識を取り戻した私を、シエラ様は側に置きたがった。
当然、コンウォール家としては得体の知れない私を要塞に招くことなど容認できなかっただろう。
しかし、結果的に私は従僕として働くことが決まった。
殺さないでと大泣きするシエラ様にシュナイツ様が折れたらしい。
私は間者として処刑されてもおかしくなかった命をシエラ様に救われた。
さらに、幼い頃から仕込まれた私の身体能力に気付き護衛として常に側にいられるように取りはからってくださった。
忠誠心の決定打となったのは、シエラ様が私のことを「家族」と言い表した時だ。
その瞬間から、灰色だった私の人生に色が付いた。
砂を噛むようだった食事に味を感じ、握られた手の暖かさに癒される…。
生まれて初めて流した涙は、幸福の涙だった。
それ以来私は、シエラ様の望みならばどんなことでも叶えると心に誓っている。
シエラ様は、貴族学院の入学と共に王都へ出た。
当然私とミリもお供をする。
兄君2人は在学中、学院の寮に入っていたのだがシエラ様は違った。
コンウォール家のタウンハウスを充てがわれたからだ。
最低限の使用人だけを連れて王都に移ったシエラ様は、大変優秀な成績で学院を卒業された。
その間、コンウォール家の誰かが尋ねて来ることは一度も無かったし、シエラ様も実家には母君の命日に日帰りするのみだった。
家族関係が良好とは言い難い中で、トッド様の存在はシエラ様を大いに救ってくださっただろう。
彼は帰国すれば、どんなに時間が無かろうとシエラ様に会いに来た。
学院での成績を褒め讃え、時に学院生活の相談に乗る。
大量に持参する各国の贈り物は、彼がいつもシエラ様の存在を忘れていない証だ。
シエラ様もそれが嬉しいようで、トッド様と居る時は実に楽しそうだった。
シエラ様が卒院後の進路について1番に相談したのがトッド様だったのも当然だろう。
シエラ様には「チョコレート」と言う食べ物を広める夢があった。
そのことは知っていたのだが、店を持ちたいとまで考えていたとは…。
トッド様は昔からシエラ様のやりたい事には協力すると決めていたらしく、伝手を紹介し、何とシュナイツ様の説得までしてくださった。
幼馴染とは言え頑固なシュナイツ様から「是」を引き出すとは、流石は国1番の大商人である。
そんなトッド様の助けも有り、シエラ様は卒業と同時にショコラトリーのオーナーとなった。
軌道に乗るまでは苦労も多かったが、夢に向かう主人はとても楽しそうで…。
武の才能が無い自分を恥じ、コンウォール家で所在なさ気にしていた子供の面影はそこに無い。
私にはそれが何より嬉しかった。
子供と女の細腕でどうやって意識のない私を動かしたのか不思議に思っていたのだが、この時一緒にいたのがミリだと後から知って納得した。
ミリ自身に強化魔法をかけるか、私に浮遊魔法をかけたのだろう。
意識を取り戻した私を、シエラ様は側に置きたがった。
当然、コンウォール家としては得体の知れない私を要塞に招くことなど容認できなかっただろう。
しかし、結果的に私は従僕として働くことが決まった。
殺さないでと大泣きするシエラ様にシュナイツ様が折れたらしい。
私は間者として処刑されてもおかしくなかった命をシエラ様に救われた。
さらに、幼い頃から仕込まれた私の身体能力に気付き護衛として常に側にいられるように取りはからってくださった。
忠誠心の決定打となったのは、シエラ様が私のことを「家族」と言い表した時だ。
その瞬間から、灰色だった私の人生に色が付いた。
砂を噛むようだった食事に味を感じ、握られた手の暖かさに癒される…。
生まれて初めて流した涙は、幸福の涙だった。
それ以来私は、シエラ様の望みならばどんなことでも叶えると心に誓っている。
シエラ様は、貴族学院の入学と共に王都へ出た。
当然私とミリもお供をする。
兄君2人は在学中、学院の寮に入っていたのだがシエラ様は違った。
コンウォール家のタウンハウスを充てがわれたからだ。
最低限の使用人だけを連れて王都に移ったシエラ様は、大変優秀な成績で学院を卒業された。
その間、コンウォール家の誰かが尋ねて来ることは一度も無かったし、シエラ様も実家には母君の命日に日帰りするのみだった。
家族関係が良好とは言い難い中で、トッド様の存在はシエラ様を大いに救ってくださっただろう。
彼は帰国すれば、どんなに時間が無かろうとシエラ様に会いに来た。
学院での成績を褒め讃え、時に学院生活の相談に乗る。
大量に持参する各国の贈り物は、彼がいつもシエラ様の存在を忘れていない証だ。
シエラ様もそれが嬉しいようで、トッド様と居る時は実に楽しそうだった。
シエラ様が卒院後の進路について1番に相談したのがトッド様だったのも当然だろう。
シエラ様には「チョコレート」と言う食べ物を広める夢があった。
そのことは知っていたのだが、店を持ちたいとまで考えていたとは…。
トッド様は昔からシエラ様のやりたい事には協力すると決めていたらしく、伝手を紹介し、何とシュナイツ様の説得までしてくださった。
幼馴染とは言え頑固なシュナイツ様から「是」を引き出すとは、流石は国1番の大商人である。
そんなトッド様の助けも有り、シエラ様は卒業と同時にショコラトリーのオーナーとなった。
軌道に乗るまでは苦労も多かったが、夢に向かう主人はとても楽しそうで…。
武の才能が無い自分を恥じ、コンウォール家で所在なさ気にしていた子供の面影はそこに無い。
私にはそれが何より嬉しかった。
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