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路地裏と僕と黒い猫

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夜の町並みは昼と打って変わって闇が増している。


昼でも暗い路地裏などは、数メートル先も闇で見えないくらいだった。


車が通るたびにライトが体を照らしていく。


ボーッとしながらこの後のことを考えていた。
どこに行こうか。


公園? 路地裏? 橋の下? 
もう、何処でもいいや。あの家から出られるのなら何処でも。


そう考えていた時。


ニャアン…


足に頭を擦り付けてくる猫がいた。
色は黒で目は金色だった。


「ふふ、可愛いね。なに?猫もひとりぼっちなの?」


猫を撫でて抱き上げた。


ニャアと鳴く猫はとても暖かく、温もりを感じられる。


僕は動物が好きと言うわけでもないし、とりわけ嫌いなわけでもない。


ただ皆が言う癒されるって事だけは分かる。


耳をピクピクと動かす仕草も、尻尾が揺れるのを見るのも、なんとなく癒される。


ふふ、ふふふ、と自然に声が出る。
こんな自然に笑えたのも久しぶりな気がする。


通りがかった公園に立ち寄り、ベンチに座る。

猫は腕の中から離れ横にピタっとくっついて寝始めた。


「君は穏やかだね…よくわからない相手に警戒すらしない…」


猫を撫でると気持ちよさそうにする。


ふふ、と笑いフードを被った。


周りにはビルやマンションが立ち並ぶ。


空を見上げると、闇の中に一つだけ光り輝く三日月が見える。


すると急に、お腹からキュ~と音がなる。


そういえば朝にパン一枚食べただけで、昼も夜も食べるのを忘れていた。


少食なのは自分でも分かっていたけど、1日に二回も食事が抜けるとお腹が空くのはしょうがない。


「…お腹、空いたな…」


特に意味はないのだが、声に出していた。


ふと、育ての母が言っていたことを思い出す。


「身体で……か。まぁ、生きていくにはお金が必要だし、いざとなったらやるしかないのか。」


はぁ、と溜息をつき。猫へと視線を移す。


身体が上下して呼吸をしている。猫は警戒心が強く、時には爪で引っ掻いてきたり、すごい身体能力で高く飛んだり。


ほんと、無防備すぎる。


まぁそんなことよりも、さっきから気になっていたのだが、
徐々に公園に人が集まりつつある。


ほとんど、いや、全員男性だ。
筋肉質でいかにも悪いことをしてそうな奴らだ。


2、3人で集まり、こちらを見ながらニヤニヤと喋っていることが分かる。


嫌な気しかしない。


ふむ、逃げるか。


猫もついでに抱き上げ、猫もおとなしく抱き上げられる。


公園から出る直前。


「なぁなぁ、そこのお嬢~さん。なぁにしてんの?」


なんかよくわからないが、それは僕の肩に手を置いて、言うセリフか?

すまないが、僕は男だ。スルーさせてもらう。


肩に置かれた手を振り払い、足を進める。


「えぇー?無視とかひどくなぁい?」


しつこい。


「ねぇ、あっちで話さない?じゃないとこの手、離してあげないよ?」


こいつ、いつの間にか僕の手を握っていたらしい。
背が高くて、まぁ、イケメン。
残念なのは全然似合っていないオレンジ色の髪、といったところか。


「…分かりました。」


いざとなったら、走って逃げるか。
自分の手は汚したくないし、体力も消費したくない。ここはおとなしくついていく。


引っ張られる手首が痛い。



連れていかれた先は、路地裏。

何人か人がいて、このオレンジのは下っ端か、それか、長か。僕を連れてきた時、周りの奴らは笑っていた。


「君、オンナノコでしょ?こんなとこで何してたの?」


「…別に」


うるさい。僕は男だ。


「髪の毛ながいねぇ?前髪も…」


そう言って何も抵抗しない僕の前髪をあげる。


暗くて見えないと思うけど。


あいにく暗い路地裏にも月明かりが少し、ほんの少し入っていた。



「ふぅ~ん…これは上玉。」



オレンジなイケメンはニヤリと笑う。
恋愛マンガでよくある顎クイをされる。


無理。


「ねぇ、こんな夜遅くにこんなとこいて。何もされないとか思ってないよね…?」



ここはか弱い振りでもするか。
演技は慣れてる。



さて、
「…嫌、です。何もしないでくださいっ…!おねがぃします…」



男は僕を女だと勘違いしてるらしい。
俯いて顔を見られないようにする。



声も高くして、
わざと震えてみたりした。



「かーわい。ねぇ、俺とたのしぃこと。シない?」


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