種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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最終章 ヤマタノオロチ編

模倣獣 〈キメラVSレノ〉

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各部隊が模倣獣を撃破を成し遂げる頃、レノはたった一人で誰の支援もなく、最後の模倣獣であるキメラと相対したレノは冷や汗を流す。周囲一帯はキメラが生み出した黒炎が広がっており、相手は背中に繋がっている触手から力を送り込まれているように無尽蔵に魔法を放つ。


『だぁくふれいむぅっ!!』


――ドゴォオオオオンッ!!


左腕の砲口から火炎放射器のように黒炎を吐き散らし、レノはカリバーンを構える。浄化に特化した聖剣を振るいあげ、向い来る黒炎を打ち払う。


「せいっ!!」


ズバァアアンッ!!


聖剣の一振りで黒炎が消散し、キメラは気が狂ったような咆哮を喚き散らし、今度は右腕を変形させた刃のように研ぎ澄ますと、レノに向けて突進する。


「だぁくねすそぅどぉっ!!」
「ちっ……!!」


ガキィイイインッ!!


巨人の斬撃をレノは正面からカリバーンで受け止め、肉体強化で身体能力を上昇させていると言えど、その剣圧に押しつぶされそうになるが、右足を蹴り上げる。


「雷斧!!」
『うおぁっ!?』


ドォオオオンッ!!


右足から電撃を繰り出し、刃を蹴り上げて跳ね返す。キメラは体勢を崩した風に倒れ込み、レノは片膝を着いて汗を流す。予想以上に消耗が激しく、耳に取り付けたテレピアにベータの合図が来るのを待ち構える。


(まだか……もう……限界だぞ)


キメラは起き上がると右腕の形を変形させ、今度は拳の形に戻すと、地面に向けて勢いよく叩き付ける。


『あぁすくらっしゅうっ!!』


ドゴォオオオオンッ!!


拳を叩き付けた個所が陥没し、そのまま地面が隆起すると、レノに向けて不自然な形で地面が盛り上がる。恐らくは勇者の魔法(スキル)だと思われるが、こんな状態でも勇者達の能力が残っている事に驚きを隠せない。


「地雷!!」


ズドォオオオンッ!!


レノも同時に地面に電撃を送り込み、地面の隆起と激突すると土塊と化して吹き飛ぶ。それを確認したキメラは立ち上がり、興奮した顔つきで左腕の砲口を構える。


「ゔぁるかんっ!!」


ズドドドドッ……!!


左腕から闇属性の黒炎を砲弾の代わりに連射し、レノはカリバーンだけでは全てを打ち払えないと確信し、瞬脚を発動させて回避する。


ダァンッ!!


空中に回避すると、レノは周囲の光景を同時に確認し、既に他の模倣獣達は打ち倒された事を確認するが、合図が送られてこない事に歯ぎしりする。


(何してる……早くしろ!!)


このままでは不味いのは分かっているが、ベータからの合図が無ければレノは次の行動に移れず、その間にもキメラが迫ってくる。


『じぇっとぶぅつ!!』


ドォオオンッ!!


「うなっ……!?」


キメラは足の裏からジェット噴射を想像させる勢いで風属性の魔力を噴射し、そのままオーバーヘッドキックの要領で右足をレノに振り被り、叩き付ける。


ドゴォオオオンッ!!


「ぐああっ!!」


咄嗟に両腕を交差させて防いだが、そのままキメラの馬鹿力に吹き飛ばされ、レノは地面に衝突する。寸前で魔鎧を発動させて勢いを和らげたが、それでも身体中に痛みが走る。


「くそっ……こんな終わり方、死んでも御免だぞ……!!」
『うぉおおおおっ!!』


キメラがこちらに向かって落下しており、相手の戦闘力は恐らくは最終形態に変身した魔王に匹敵し、このままでは殺されてしまうが、やっと待望の連絡がレノの耳元に届いた。



『レノさ~ん。全員の避難、終わりましたよ』



ズドォオオオンッ!!



ベータの呑気な報告が届いた直後、キメラの巨体が地面に叩き付けられ、周囲に土煙が舞い上がる。キメラはレノを潰したと確信して起き上がるが、どういう事なのか死体が見つからなかった。


『うごぉおおっ……?』
「おい」


右方向から声が聞こえ、不審に思って首を向けると、そこには口元に血を流したレノが握り拳を構えており、


「よくも、好き勝手やってくれたな!!」
『ぶふぉっ!?』


ズドォオオオンッ!!


電撃を纏わせた一撃を叩きこみ、そのままキメラの巨体が地面に倒れこむ。それを確認したレノは瞬脚で移動を行い、テレピア越しにベータに連絡を行う。


「連絡が遅い!!」
『しょうがないじゃないですか~レノさんがキメラを打ち倒したら、ヤマタノオロチが復活するんですよ?皆さんが避難する前に倒されたら困るんですよ』
「だからって、時間稼ぎをする方の身にもなれ!!危うく何度か死にかけたわ!!」



――レノがキメラに対して反撃を繰り出さなかった理由、それは最後の模倣獣はレノが打ち倒す事が作戦で決定しており、他の部隊よりも先にキメラを打ち倒した場合は作戦が崩れてしまい、避難活動も失敗してしまう。




事前の作戦ではレノは1人でキメラの足止めを行い、その隙に他の部隊が模倣獣を打ち倒した後、ネオフライングシャーク号に搭乗し、ホノカの転移魔方陣で安全圏まで避難する手筈だった。だからこそ、レノはたた1人でキメラの注意を引き、何度も殺されそうになりながらも本当の力を隠していた。

ちなみにネオフライングシャーク号の避難方法とは全員が乗船したのを確認した後、ホノカがアイギスで飛行船全体を守護壁で覆い包み、そして転移魔方陣を展開して転移を試みる方法だった。彼女の転移魔法は自分以外の生物の転移は不可能だったが、アイギスの守護壁で覆われている場合はこれに限らず、無事に飛行船の全員が安全圏の避難を成し遂げた。


『聞こえるかレノ!!僕たちはもう大丈夫だ!!』
『皆、頑張って模倣獣を打ち倒しました!!だから!!』
『私達に遠慮する事はない!!もう、本気で戦っていいぞ!!』
『勝て!!レノ!!』
『……ぶったおせ』


テレピアに幼馴染達(+コトミ)の声が響き渡り、レノは笑みを浮かべると拳を鳴らし、目の前に唖然とした表情を浮かべるキメラに対して笑みを浮かべ、



「さ~て……今までの我慢と苦労、晴らさせてもらうぞぉっ!!」



ゴォオオオオッ!!



レノの身体から紅色の魔力が迸り、やっと全力で戦える事に肉体も歓喜しており、溢れだす魔力が止められなかった。キメラはその光景に呆気に取られ、その間にも世界最強の魔術師は駈け出す。



「乱刃・極!!」



ドォオオオオンッ!!



掌を構え、巨大な乱刃を発動させるとキメラの肉体に向けて放つ。放浪島で開発し、撃雷と同様に多用する三日月状の刃がキメラの胴体に放たれる。


ブシャアァアアアッ……!!


『うがぁあああっ!?』


頑丈な肉体を誇るキメラの腹部に血飛沫が舞い上がり、並の生物ならば一刀両断しても可笑しくはない一撃だったが、流石に模倣獣の中でもオリジナルとは体格差に差があり、鳳凰学園で現れた個体よりも耐久性が高い。


「雷斧・極!!」


ズドォオオオンッ!!


今度は右足に電撃を蓄積させ、蹴り上げる動作と同時に巨大な雷が放たれ、そのまま地面を伝ってキメラに衝突する。全身に高圧電流が流れ込み、キメラは悲鳴を上げる。


『がぁああああっ……!!』


しかし、電撃には耐性が存在するのかキメラは左腕の砲口を構え、反撃のために闇属性の魔力を掻き集めるが、レノも同時に右の掌に嵐属性の球体を造り上げる。


『だぁくれいざぁああああっ!!』
「撃嵐」



ズドォオオオッ……!!



キメラの左腕からレーザーを想像させる黒炎が放たれるが、レノも同時に右腕を差し出し、嵐属性で二番目の威力を誇る竜巻を生み出し、二つの砲撃魔法が衝突する。



ギュオォオオオオオッ……!!



巨大な竜巻がキメラの熱線を真正面から跳ね返し、周囲に黒炎が広がるが、竜巻は勢いを落とさずに接近し、キメラの身体を飲み込む。



『あがぁあああああっ!?』



キメラの巨体が浮き上がるほどの風圧が襲い掛かり、そのまま遥か上空にまで移動すると、竜巻が消散する。空に打ち上げられたキメラは当然ながらに重力に逆らえず、勢いよく落下する。


ドゴォオオオオンッ……!!


『ぐはぁっ……!!』


背中から地面に衝突し、キメラは黒色の血液を吐血する。頑丈な肉体と言えど、耐久性にも限界が存在し、キメラは起き上がろうと上半身を浮き上がらせた瞬間、



「落、雷!!」



バチィイイイッ!!



『あががががっ!?』



雲も存在しないのに頭上に落雷が降り注ぎ、さらにキメラに向けてレノは瞬脚で接近すると、両拳に撃雷を発動させる。自分が最も得意とし、そして信頼を置いている技を発動させ、キメラの腹部に叩き付ける。


「おらぁあああっ!!」


ズドドドドッ……!!


『ごふぅううううっ……!?』



腹部に無数の拳を叩き付け、衝撃と電撃を与えるのと同時にレノは左足に電撃を集中させ、


「雷撃!!」


ドォオオオンッ!!


『ごがぁああああっ!?』


電撃を内側に送り込み、体内組織の破壊を試みる。キメラの継ぎ接ぎだらけの肉体に罅割れが生じるが、攻撃の手を緩めずにレノは両手を重ね合わせ、合成魔術を行う。


「水刃!!」


ドパァアアアンッ!!


『ギャアァアアアアアッ!?』


キメラの目元に大量の水分を含んだ風属性の刃を放ち、視界を奪われたキメラの声音が変化し、限界が近いことが分かる。



ドクンッ……!!ドクンッ……!!



しかし、同時にキメラの背中に繋がっている触手がキメラの体内に新たなエネルギーを送り込むように鼓動音が響き渡り、度重なる損傷を受けていたキメラは大量に送り込まれるエネルギーに悲鳴を上げる。


『オゴ、アガァアアアアッ……!!』
「……嵐王撃」


ギュオォオオオオッ……!!


レノは左腕の解放術式を解放し、苦しみ悶えるキメラの腹部に叩き付ける。


ズゥウウウウウンッ……!!


『ゴフゥッ……!?』


今まで一番の衝撃が走り、キメラは大きく口を開くと、そのまま体内に貯め込んでいた膨大な異物を吐き出すように嘔吐する。



『オゲェエエエエエッ……!!』



ドボォオオオッ……!!



キメラの吐瀉物は黒色の塊をしたスライムのような液体であり、レノは即座に離れて様子を伺う。以前にセンリや教皇の身体を乗っ取ったスライムと酷似しており、恐らくはキメラの体内に蓄積されていた闇属性の魔力だろう。


『ウァアアアッ……!!』
『ガァアアアッ……!!』
『オアァアアアッ……!!』
「なっ……!?」


驚くべきことにキメラが吐きだした黒色の液体が幾つもの人間の形に変化すると、悲鳴のような声を上げる。何が起きているのかは理解し難いが、恐らくはキメラの中に含まれていた勇者達の「意識」が残っていたのだろう

キメラは元々は勇者達を無理やりに組み合わされて生み出された生物であり、もしも魔の聖痕の影響を受けてキメラの勇者達の意識が蘇り、センリたちを襲った黒色のスライムのように意志のある液状生物に変化したと考えたら納得できなくもない。



――アァアアアアアアアアアッ……!!



レノは目の前に広がる光景に口元を抑え、もしも地獄という物が存在したら目の前のような光景を差しているのだろうかと考えながらも、カリバーンを抜き取る。この状態の彼等を救う方法は存在せず、聖剣の浄化の力でこの世から解放するしか手段はない。


「リリース……!!」


右腕の解放術式を発動させ、続いて左足、右足の術式も解放される。全ての魔力を聖剣に送り込み、最大の一撃で彼等に苦しみを与えずに消滅させる事を近い、レノは聖剣を掲げる。




――カッ!!




刃から光の柱が誕生し、聖剣は主の意志に従うように今までにない浄化の力を発動させ、レノは勢いよく振り下ろす。



「カリバァァアアアアアンッ!!」





――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ……!!





聖剣から凄まじい光の奔流が放たれ、その規模は地面を覆う黒色の液体を飲み込み、キメラの巨体さえも覆い尽くし、数キロ先まで放たれると、そのまま上空に浮き上がる。まるで死者の魂を天井の世界に送り込むように空に討ち上がった光を確認すると、レノはカリバーンを鞘に納める。



「……終わった、のか?」



最後の模倣獣が消え去り、その場に残されたレノはカリバーンを収めると、アイリィから渡された最後の一枚の「転紙」を取り出す。



「戻らないと……みんなの所に……」



間もなく、ベータが肩る「衛星兵器」の砲撃が迫っており、地中深くに眠っているヤマタノオロチを消滅させるためにレーザーが発射される。その前に転移魔法を発動させ、レノはその場を去ろうとした瞬間、



――ズドォオオンッ!!



「がはぁっ……!?」



胸元に衝撃が走り、視線を向けると地面から触手が生えており、先端部が槍のように研ぎ澄まされた触手が自分の心臓を貫いたことに気付く。レノは目を見開きがら、何が起きているのか理解できないが、触手の正体に気付く。



『レノさん?聞こえてますかレノさん!?何してるんですか!!早くその場を離れないと巻き添えを喰らいますよ!!』
『……レノ?』


テレピアにベータとコトミの声が響き渡り、咄嗟に返事を返そうとしたが体が上手く動かず、レノは血反吐を吐く。


『レノ?どうした?何の音だ?』
『レノ、何をしてるんだ!!早く戻ってこい!!皆が待ってるんだぞ!!』
『レノさん!!早く帰ってきてください!!』
『レノ!!』
『レノ様!!』
『ご主人様!!』


次々とテレピアから仲間達の声が聞こえるが、既に感覚も薄くなり、レノは自分の突き刺す触手を握りしめる。


(そういう、事か……)



――全ての模倣獣を打ち倒され、自分の手足となる存在を失ったヤマタノオロチは地上で最も強い魔力を誇る存在に目を付け、自分の身体に取り込もうとしているのだ。



ギュルルルッ……!!



レノの胸元を突き刺した触手が引き寄せ、そのまま地中に引き込もうとするが、レノは自分の右手で触手を掴み取り、



「が、ああっ!!」


ブチィイイッ!!


最後の悪あがきとばかりに力尽くで引き裂き、そのまま地面に倒れこむ。徐々に視界も薄らぎ、間もなく自分が「死」を迎える事を悟る。


『レノたん!?いやだよレノたん!!戻って来てよ!!』
『レノ様!!貴方がここで死んでどうするのですか!?私に自分よりも年齢が下な友人を失う悲しみを与えるというのですか!!』
『レノ君!!君はこんな所で終わる命じゃないぞ!!』
『おいレノ!!貴様は俺から勝ち逃げする気なのか!!ふざけるな、認めんぞぉっ!!』
『ブモォオオオッ!!』
『キュロロロロッ!!』
『起きな坊主!!ヨウカ様を独り身にする気かい!!』
『……これが、お前の終わりなのか』


テレピアから次々と声が聞こえ、最後の声はホムラの声であり、彼女にしては弱弱しい声音にレノは笑みを浮かべ、




「み、んな……だい、すきだよ……」





自分を慕ってくれる仲間達に最後の言葉を継げ、レノはゆっくりと瞼を閉じる。意識を失う瞬間、獣のような咆哮と地響きが耳に流れてきたように思えたが、彼の命はここで終わりを迎えようとしていた――
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