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戦姫編
ミノタウロス 〈廃都の番人〉
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「……ミノタウロス」
ゴンゾウが自分達に近づいてくる生物の名前を告げた瞬間、レナ達は正面から歩んでくる「ミノタウロス」に視線を向ける。
――――ブフゥウウウッ……!!
牛の頭部に人間の胴体を持つ化物は鼻息を鳴らしながらレナ達に接近し、全身から湯気のような熱気を放つ。体格は2メートル前後であり、魔物の中ではオークと同程度の体長だが、その肉体は非常に引き締まっており、全身が筋肉で構成されているのではないかと思う程に無駄な肉が一切存在しない肉体美を誇る。だが、その全身には夥しい傷痕が存在し、無数の外敵と戦い続けた経験が伺える。
「…………」
『……っ!!』
魔人族であるミノタウロスは堂々とレナ達の横を素通りし、猩々の頭部にめり込んだ白銀製の「鉄槌」を持ち上げる。不思議な事に鉄槌には一滴の血も付着しておらず、彼はそれを確認すると鉄槌を腰に装着し、一度だけレナ達に振り返るが、何事もなかったように立ち去る。
「……ぷはぁっ!!こ、殺されるかと思いましたよ」
「ああ……怖かった」
「ぷるぷる……無害なスライムで良かった」
「くっ……」
ミノタウロスの姿が完全に消えたのを確認した後、レナ達はその場を座り込む。間近に迫ったミノタウロスの気迫は凄まじく、全員が恐怖で身体が硬直してしまい、何も出来なかった。特にゴンゾウの場合は自分の武器を何時の間にか地面に落としており、彼は拳を床に叩きつける。
「くそっ……俺は、何も出来なかった」
「しょうがないですよ。あれは今の私達が戦っても勝てる相手じゃありません……それより気になるのはさっきの鉄槌ですよ。実は私、さっき鑑定のスキルを発動して調べようとしたんですけど……何も情報が読み取れなかったんです」
「え?どういう事?」
「鑑定のスキルが通じない存在は隠蔽のスキルを所持している生物に限りますが、武器のような無機物に対して鑑定の能力が通じない事なんて普通は有り得ません……考えられる事はあの鉄槌は武器の範疇を超えた「兵器」……要は聖剣や魔剣の類という事になります」
「さっきの鉄槌が?」
レナは先ほど目撃した鉄槌を思い返し、彼が見た限りでは雷属性と思われる魔水晶が装着されていたが、柄の部分を観察すると土属性の魔水晶も埋め込まれており、普通の武器ではない事は理解できた。だが、聖剣や魔剣と呼ばれる武器を見るのは初めてであり、どうして野生のミノタウロスが所持しているのが気に掛かった。
「あのミノタウロス……何処であんな武器を手に入れたんだろう」
「さっきのゴンゾウさんの話だと廃都に残されていたお宝の可能性もありますね。ミノタウロスは知能が高いから人間のように武器を扱いますし、考えられるとしたら自分の武器として発掘したんじゃないでしょうか?」
「あんな物がこの廃都にあったのか……という事は他にも聖剣や魔剣が残されている可能性は……」
「ないとは言い切れませんね。まあ、既に他の人間に発見している可能性もありますけど……」
「そっか……でも今日は帰ろうか、結構疲れたし……」
「そうですね。なら、馬車の所に戻って転移石を使用しましょうか」
「そうだな……」
廃都に到着してから1時間以上経過しており、先ほどのミノタウロスのような化物と遭遇しないように気を付けてレナ達は帝都に帰還する事にした。これ以上の長居は危険と判断し、最初に馬車を隠した場所に戻る事を決める。
「ほら、行きますよゴンゾウさん。落ち込んでいる場合じゃないですよ」
「ああ……すまない」
アイリィの言葉にゴンゾウは頷き、彼はミノタウロスを前にして動けなかった自分を恥じており、子供の頃に憧れを抱いた「冒険者の英雄」を夢見る彼にとっては今回のような敵に怖じ気着いて何も反応出来なかったという事実は内心傷ついたのだろう。
しかし、レナの魔弓術でも相当に時間を掛けて打ち倒した大人の猩々を一撃で殺したミノタウロスの膂力は凄まじく、もしも戦闘に陥っていたら現在のレナ達には勝機はなかっただろう。仮にレナが相手に近づいて付与魔法を施すという手段もミノタウロスは魔法を発動する前に彼の首をへし折る可能性もある。
ミノタウロスが猩々だけを殺してレナ達に興味を抱かなかった理由は不明だが、少なくとも餌を欲して猩々を襲ったとは考えにくく、実際に猩々の死骸には目も暮れずに立ち去ってしまった。ミノタウロスの行動に不可解な点が多いが、現時点ではミノタウロスの行動を確かめる方法はない。
「ここに戻るにはまた馬車で移動しないといけないのか……アイリィはルー〇とか覚えてないの?」
「なんですかル〇ラって……転移系の魔法を扱うには古代魔法の魔法書を入手しないと無理ですよ。まあ、物凄く希少品ですから魔道具店で仕入れて貰う事も不可能でしょうけど……」
「魔法書か……」
レナは普通の魔術師は魔法書を読み解く事で新しい魔法を覚える事を思い出し、付与魔術師の彼は付与魔法の魔法書しか読み解くことは出来ないが、それでも熟練度の向上は行える。最近では訓練を繰り返しても熟練度の上昇率が低下しているため、レナは帝都に戻り次第に魔道具店に立ち寄る事を決めた。
ゴンゾウが自分達に近づいてくる生物の名前を告げた瞬間、レナ達は正面から歩んでくる「ミノタウロス」に視線を向ける。
――――ブフゥウウウッ……!!
牛の頭部に人間の胴体を持つ化物は鼻息を鳴らしながらレナ達に接近し、全身から湯気のような熱気を放つ。体格は2メートル前後であり、魔物の中ではオークと同程度の体長だが、その肉体は非常に引き締まっており、全身が筋肉で構成されているのではないかと思う程に無駄な肉が一切存在しない肉体美を誇る。だが、その全身には夥しい傷痕が存在し、無数の外敵と戦い続けた経験が伺える。
「…………」
『……っ!!』
魔人族であるミノタウロスは堂々とレナ達の横を素通りし、猩々の頭部にめり込んだ白銀製の「鉄槌」を持ち上げる。不思議な事に鉄槌には一滴の血も付着しておらず、彼はそれを確認すると鉄槌を腰に装着し、一度だけレナ達に振り返るが、何事もなかったように立ち去る。
「……ぷはぁっ!!こ、殺されるかと思いましたよ」
「ああ……怖かった」
「ぷるぷる……無害なスライムで良かった」
「くっ……」
ミノタウロスの姿が完全に消えたのを確認した後、レナ達はその場を座り込む。間近に迫ったミノタウロスの気迫は凄まじく、全員が恐怖で身体が硬直してしまい、何も出来なかった。特にゴンゾウの場合は自分の武器を何時の間にか地面に落としており、彼は拳を床に叩きつける。
「くそっ……俺は、何も出来なかった」
「しょうがないですよ。あれは今の私達が戦っても勝てる相手じゃありません……それより気になるのはさっきの鉄槌ですよ。実は私、さっき鑑定のスキルを発動して調べようとしたんですけど……何も情報が読み取れなかったんです」
「え?どういう事?」
「鑑定のスキルが通じない存在は隠蔽のスキルを所持している生物に限りますが、武器のような無機物に対して鑑定の能力が通じない事なんて普通は有り得ません……考えられる事はあの鉄槌は武器の範疇を超えた「兵器」……要は聖剣や魔剣の類という事になります」
「さっきの鉄槌が?」
レナは先ほど目撃した鉄槌を思い返し、彼が見た限りでは雷属性と思われる魔水晶が装着されていたが、柄の部分を観察すると土属性の魔水晶も埋め込まれており、普通の武器ではない事は理解できた。だが、聖剣や魔剣と呼ばれる武器を見るのは初めてであり、どうして野生のミノタウロスが所持しているのが気に掛かった。
「あのミノタウロス……何処であんな武器を手に入れたんだろう」
「さっきのゴンゾウさんの話だと廃都に残されていたお宝の可能性もありますね。ミノタウロスは知能が高いから人間のように武器を扱いますし、考えられるとしたら自分の武器として発掘したんじゃないでしょうか?」
「あんな物がこの廃都にあったのか……という事は他にも聖剣や魔剣が残されている可能性は……」
「ないとは言い切れませんね。まあ、既に他の人間に発見している可能性もありますけど……」
「そっか……でも今日は帰ろうか、結構疲れたし……」
「そうですね。なら、馬車の所に戻って転移石を使用しましょうか」
「そうだな……」
廃都に到着してから1時間以上経過しており、先ほどのミノタウロスのような化物と遭遇しないように気を付けてレナ達は帝都に帰還する事にした。これ以上の長居は危険と判断し、最初に馬車を隠した場所に戻る事を決める。
「ほら、行きますよゴンゾウさん。落ち込んでいる場合じゃないですよ」
「ああ……すまない」
アイリィの言葉にゴンゾウは頷き、彼はミノタウロスを前にして動けなかった自分を恥じており、子供の頃に憧れを抱いた「冒険者の英雄」を夢見る彼にとっては今回のような敵に怖じ気着いて何も反応出来なかったという事実は内心傷ついたのだろう。
しかし、レナの魔弓術でも相当に時間を掛けて打ち倒した大人の猩々を一撃で殺したミノタウロスの膂力は凄まじく、もしも戦闘に陥っていたら現在のレナ達には勝機はなかっただろう。仮にレナが相手に近づいて付与魔法を施すという手段もミノタウロスは魔法を発動する前に彼の首をへし折る可能性もある。
ミノタウロスが猩々だけを殺してレナ達に興味を抱かなかった理由は不明だが、少なくとも餌を欲して猩々を襲ったとは考えにくく、実際に猩々の死骸には目も暮れずに立ち去ってしまった。ミノタウロスの行動に不可解な点が多いが、現時点ではミノタウロスの行動を確かめる方法はない。
「ここに戻るにはまた馬車で移動しないといけないのか……アイリィはルー〇とか覚えてないの?」
「なんですかル〇ラって……転移系の魔法を扱うには古代魔法の魔法書を入手しないと無理ですよ。まあ、物凄く希少品ですから魔道具店で仕入れて貰う事も不可能でしょうけど……」
「魔法書か……」
レナは普通の魔術師は魔法書を読み解く事で新しい魔法を覚える事を思い出し、付与魔術師の彼は付与魔法の魔法書しか読み解くことは出来ないが、それでも熟練度の向上は行える。最近では訓練を繰り返しても熟練度の上昇率が低下しているため、レナは帝都に戻り次第に魔道具店に立ち寄る事を決めた。
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