伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

文字の大きさ
31 / 68
エルフの師弟

第31話 誇り高い種族

しおりを挟む
――合図を確認したクロウとマリアは共にナイ達の元に向かうと、気絶したミノタウロスの前に立ち尽くす二人の姿を見て驚愕した。


「こ、これはいったい……どういう状況だ!?」
「ミノタウロス?どうしてこんな辺鄙な山に……」
「辺鄙とはなんだ!?人が暮らしている山に失礼だろう!!」
「師匠、今は喧嘩している場合じゃないでしょ……」
「そうっすよ。このミノタウロスはまだ生きてるんですから、大声上げると目を覚ましちゃうかもしれませんよ」
「クゥ~ンッ」


ミノタウロスは脳震盪を起こして気絶しているだけであり、止めを刺すのならば今が好機だった。だが、ナイは始末する前にクロウとマリアを呼び寄せて報告する。


「勝負に関してなんだけど、俺達でこいつを倒したから引き分けにしてもらいたいんだ。このまま続けても山の中にミノタウロス以上の獲物なんているはずないと思うし……」
「ひ、引き分けだと!?」
「……エリナ、その子の言っている事は本当なの?」
「はい!!兄貴の言う通りっす!!あたしと兄貴とビャクちゃんが力を合わせて倒しました!!」
「ウォンッ!!」
「「あ、兄貴?」」


エリナはナイの腕に抱きつき、親し気に彼を「兄貴」と呼ぶ姿にクロウとマリアは戸惑う。経緯は不明だがお互いの弟子が魔人族のミノタウロスを倒した事に動揺を隠せない。


「ちょっと、話が違うじゃない。弟子には収納魔法しか教えていないと言ったのは何処の誰かしら?」
「い、いや……儂も何が何だか分からん」
「誤魔化さないでちょうだい。まさか貴方……こんな若い子にお得意の「究極魔法」とやらを教えたんじゃないでしょうね」
「ば、馬鹿を言うな!!」


ミノタウロスの死骸を前にクロウとマリアは内緒話を行い、弟子達が魔人族を討伐するなど夢にも思わなかった。しかもミノタウロスを倒したのはナイと聞かされ、マリアはクロウに騙されていたのかと怒る。

実際にはクロウは本当にナイに「収納魔法」しか教えていなかったが、普通の魔術師なら攻撃には利用しない魔法でミノタウロスを倒せるとは思わない。だからマリアはクロウが嘘を吐いてナイに強力な攻撃魔法を伝授していたのではないかと疑うが、それは彼女の弟子のエリナが否定する。


「マリア様、兄貴は本当に収納魔法しか使ってないっすよ。あたしがこの目で見ましたから」
「……嘘じゃないでしょうね?」
「はい!!陽光神様に誓って嘘は吐いてません!!」


陽光神とはエルフが信仰する神であり、名前の通りに太陽の神として崇められている。陽光神に誓いを立てるという行為はエルフにとっては何よりも重大な事であり、どんな人物であろうと誓いを破る事は許されない。


「そう……分かったわ。貴女の言う事を信じて勝負は引き分けにしてあげるわ」
「何が引き分けにしてやるだ!!話を聞く限りではナイがミノタウロスを倒したのではないか!!ならば実質こちらの勝利だ!!」
「あら?エリナが最初に助けなかったら貴方のお弟子さんは今頃は死んでいたのよ?その恩を忘れないでほしいわね」
「ぐぬぬっ……」
「ま、まあまあ」
「二人とも落ち着いて下さいっす!!」
「クゥ~ンッ……」


勝負の結果が引き分けである事にクロウとマリアは不服だったが、当人たちの意思を尊重して今回の勝負は引き分けとした。話し合いが終わると改めてナイ達は気絶したミノタウロスに視線を向ける。


「それでこいつはどうする?話を聞く限りではビャクの家族の仇らしいが……」
「ビャクは毛皮を取り返しただけで十分だってさ。だからこいつの始末は師匠達に相談しようと思って点tね」
「ウォンッ!!」


ミノタウロスが身に着けた白狼種の毛皮はナイが異空間に保管しており、家族の形見を取り返しただけでビャクは満足していた。しかし、このままミノタウロスを放置するわけにはいかず、クロウとマリアに相談する。


「このミノタウロスは元から山に住んでいたのかしら?」
「そんなはずはない。儂は長くここに住んで居るが、ミノタウロスなど初めて見たぞ」
「兄貴、こいつの足を見てくださいよ。よく見たら足枷みたいなの嵌めてません?」
「あれ、本当だ……ということは人間に飼育されていた魔物だったのかな?」
「ウォンッ?」


エリナがミノタウロスの足元を指差すと、戦闘中は気付かなかったが鉄製の足枷が嵌められていた。足枷には鎖が引きちぎられた跡があり、元々は人間に飼われていた魔物が逃げ出して野生化したのかもしれない。

この山には多数の魔物が生息しており、ミノタウロスにとっては餌が不足しない環境なので何時の間にか住み着いていたらしい。


「こんな化物が山に住んでたなんて全然気づかなかったな……」
「無理もないわ。こんな魔物だらけの山の中じゃ魔力感知も当てにならないもの」
「この山、至る所に魔物がいるせいで感覚が鈍りますからね。こんな山じゃエルフも住みませんよ」
「ふん、そのお陰で人も近寄らないから平穏に暮らせたがな」


クロウとナイが暮らす山は一般的には「危険地帯」であり、普通の人間ならば絶対に足を踏み入れない地域である。だからこそクロウのように人と会う事を避ける人間にとっては都合がいい環境なのだが、ナイのように「魔除け」の効果を持つ道具を所持していれば山に入る事もできる。


「ミノタウロスは魔人族の中でも執念深い性格をしているわ。一度獲物と定めた存在は死ぬまで追いかけ続ける……恐らくはそこのワンちゃんを追ってこの山に迷い込んでいたようね」
「そ、そうなんですか!?じゃあ、こいつはやっぱり始末しないとビャクが危ないのか……」
「ウォンッ……」


マリアによればミノタウロスは獲物を死ぬまで追い続ける習性があるらしく、恐らくはナイ達と出会う前にビャクの家族はミノタウロスと交戦し、命を落とした。子供のビャクだけは山に逃げ延びたが、それを追ってミノタウロスも山に入り込んできた可能性が高い。ビャクの安全のためにナイはミノタウロスをを始末しようと右手を向けるが、何故かビャクが間に割り込む。


「ウォンッ!!」
「うわっ!?ビャク、急にどうしたんだ!?」
「ガアアッ!!」
「ちょ、何してるんですか!?」


ナイが止めを刺す前にビャクはミノタウロスに飛び乗ると、気絶していたミノタウロスが目を見開く。そして自分の上に乗っているビャクを見て戸惑う。


「ブモォッ!?」
「グルルルッ!!」
「ビャク、離れろ!!」
「待て!!様子がおかしい!!」


お互いに至近距離から睨み合うビャクとミノタウロスにナイは慌てて助けようとしたが、それをクロウが引き留めた。ビャクに睨まれたミノタウロスは冷や汗を流し、それを見てビャクは離れた。


「ウォオオンッ!!」
「……ブモォッ」
「あ、逃げた!?」
「放っておけ、あの様子だとここへ戻ってくることもないだろう」


敗北を悟ったミノタウロスはナイ達に背中を見せると、傷口を抑えながら立ち去っていく。その様子をビャクは堂々と見送り、改めてナイの元に戻る。


「ウォンッ!!」
「ビャク……これで良かったんだな」
「本当に見逃していいんですか?怪我が治ったらまた襲いに来るんじゃ……」
「それはないわ、ミノタウロスは魔人族の中でも誇り高い種族よ。自分が敗北した相手には敬意を抱く。例え、それが獲物と定めていた魔物であろうとね」
「ウォオオンッ!!」


山からミノタウロスが去るとビャクは勝利の雄叫びを上げ、これでもうミノタウロスが戻ってくることはないと思われた。勝負は引き分けに終わったが、ナイは今回の戦闘で色々と得る物があった。

ミノタウロスとの戦闘でナイは初めて実戦で「石砲」を扱い、一撃で倒す事はできなかったミノタウロスを気絶寸前にまで追い込んだ。これならば他の魔物との戦闘でも十分に役立つと思われるが、もう一つだけ気になる事があった。


(ミノタウロスが殴りかかってきた時、どうして拳が《《反れた》んだ?)


石砲を放つ前にナイはミノタウロスの拳を右手で受けた。その瞬間に何故かミノタウロスの拳が見当違いの方向に逸れてしまい、そのお陰で隙をつく事ができた。ナイは右手に黒渦を作り出して考え込む。


(もしかして……これのお陰か?)


掌の中で黒く渦巻く魔力を見つめ、とある結論に至ったナイはエリナに声をかける。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...