貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第524話 ゴブリン亜種

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「多分、ゴブリンの亜種だとは思うが……皮膚が変色したゴブリンなら前に見た事はあるが、こんな獣のような体毛を生やしたゴブリンなんて見た事がない」
「ぼ、僕も……依頼で何度かゴブリンを退治した事はあったけど、こんな姿をしたゴブリンなんて初めて見るよ」
「ゴブリンの亜種……」


ナイは自分が倒した赤毛のゴブリンに視線を向け、その鋭い牙や赤色の毛皮は彼にとって因縁深い赤毛熊を想像させた。間違いなく、このゴブリンは赤毛熊とゴブリンの性質を併せ持つ存在である事は間違いない。

灰色の毛皮のゴブリンもコボルトとゴブリンの性質を併せ持ち、この地に長く住んでいたナイもこんなゴブリン達を見るのは初めてだった。それならば考えられるのはこのゴブリン達は別の地方から訪れたから、あるいは何らかの理由でで生まれたかに限られる。


「くっ……イリアを連れてくるべきだったかもしれんな。彼女ならばこの死骸から何か情報を得られたかもしれなん」
「ここから街までそれほど距離はありませんし、呼び出しますか?」
「いや、こんなゴブリン達が居ると判明した以上、一刻も早く山の方を探索しなければならん。だが、念のために兵士を分けてこのゴブリン達の死骸を飛行船の方へ運ばせておこう」


アッシュの言葉にドリスとリンは頷き、異形のゴブリンの正体を探るため、飛行船の留守を任せているイリアの協力は不可欠だった。

ここで兵士を分けてナイ達が倒したゴブリンの死骸は飛行船へ向けて運び込み、その間にナイ達は山へ向かう事にした――





――今から約二か月前、この山にはリノが率いた銀狼騎士団が攻め入り、ゴブリンの要塞に突入しようとした。しかし、結果から言えばゴブリンが設置した罠に嵌まり、伏兵の存在に気付かなかった騎士団は敗れてイチノへ撤退した。

今回は銀狼騎士団だけではなく、金狼騎士団や黄金級冒険者も参加しており、戦力的には前回に突入した騎士団よりも心強く、それにこの山に何度も足を運んでいたナイが居た事が幸いした。


「ここから先は坂がきつくなりますから気を付けてください。それと背の高い木が多いですから上にも注意して下さい。前にゴブリンが木の上から襲ってきた事もあったので……」
「なるほど、気を付けよう」
「今の所は気配感知にも反応はないでござる」


忍者であるクノが率先して周囲の探索を行い、伏兵がいないかどうかを把握してくれるため、討伐隊は順調に山の中を進む。そしてリノ率いる騎士団が発見したゴブリンの軍勢が築いた要塞へ辿り着く。


「み、見えてきました!!あそこがゴブリン共の住処です!!」
「なるほど、あの場所か……」
「……信じられない、前に来た時はこんな場所にあんなのはなかったのに」
「正に砦……いや、要塞ですわね」


討伐隊の視界に遂にゴブリンの軍勢が築き上げたが映し出され、想像以上に堅固な建物にナイ達は動揺を隠せない。

まずは周辺の樹木を伐採し、堀を作り出す。更に周囲には柵を作り上げ、見張り台を設置する。柵の中には建物が幾つか存在し、出入りするには橋を下ろして堀を越えなければならない様子だった。


「こんな物をゴブリンが作り上げたというのか……?」
「確かにこれは危険そうですわね……ですけど、妙ですわね。見張りの姿が見えませんわ?」


ドリスの言葉を聞いてナイは見張り台に視線を向けると、確かにゴブリンの姿は見当たらない。それどころか要塞からは何も聞こえず、異様な静けさに覆われていた。


「おいおい、どうなってるんだ?もしかして奴等、もう逃げ出しているのか?」
「いや、それはないでござるな」


ガオウの言葉にクノは即座に否定し、彼女は要塞の様子を伺い、忍者としての直感が危険を知らせていた。


「あの要塞から異様な気配を感じるでござる。ナイ殿も気づいているのでは?」
「……うん、確かに変な感じがする」
「え?この距離でも気配感知の技能で隠れている相手を分かるんですの!?」


二人の言葉にドリスは驚き、普通の人間の場合は気配感知を発動してもせいぜい10メートル程度の範囲しか探る事はできない。しかし、ナイとクノは普段から気配感知を多用していた事で常人よりも広い範囲の気配を感知できる。


「あの要塞の中に確かに気配を感じるでござる。しかも、かなりの数の……」
「奴らめ、我々を待ち伏せているつもりか?いいだろう、ならばこちらから出向いてやろうではないか。リン!!」
「はっ!!」


アッシュの言葉を聞いてリンは即座に鞘から剣を引き抜くと、彼女は風の斬撃を放ち、端を引き上げている鎖だけを見事に切り裂く、風の斬撃は距離が離れ過ぎていると威力は落とすが、それでもただの鎖を破壊するだけなら十分な距離だった。

鎖が切れた事で橋が落ちてくると、正門へと繋がる道が出来上がった。しかし、まだ門は閉じられたままであり、今度はドリスが前に出た。
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